短編なのだ

「ううう……うるさいのだ……」
 てれびが煌々と点いている巣で一人のアライさんAが頭を抱えています。
「うるさいなんて言わないで欲しいのだ。過剰反応なのだ」
 てれびを見ていたもう一人のアライさんBは顔をしかめながら反論します。
「でも、うるさいものはうるさいのだ……」
 アライさんAは耳を塞ぎますが、何の効果もなく音はすり抜けてアライさんAの耳に届きます。
 てれびの中のヒトたち、騒いでるのだ。怒ってるのだ。泣いてるのだ。だめなのだ、アライさんのせいなのだ? 機嫌をなおしてほしいのだ、何か悪かったならアライさんが謝るのだ、謝るから、不機嫌な声出さないでほしーのだ、お願いなのだ、お願いなのだ、
「たのむのだ……てれびを消してほしーのだ……」
「今はアライさんのお楽しみ時間なのだ。アライさんAはいつもアライさんに迷惑ばかりかけてるんだから、少しぐらい我慢するのだ」
「我慢……我慢」
 むりなのだ……アライさんAはそう言いたかったのですが、言えませんでした。言うとアライさんBがヒステリックに怒鳴り出すのは目に見えていたからです。
 アライさんAはのろのろと隣のへやに向かい、机の下に潜りました。
「変なことをするのはやめるのだ! 嫌がらせなのだ? 気持ち悪いのだ! まるで赤ちゃんなのだ!」
「ううう……」
 アライさんAは目に渦巻きを映して机に突っ伏しました。
 笑い声。
 怒る声。
 泣く声。
 アライさんBの怒鳴り声。
 それらが全てまぜこぜになってアライさんAの心をぐらぐらと揺すります。
 もうだめなのだ、もうだめなのだ。
 アライさんAはぎゅうと目を瞑ります。
 けれど何も変わりはしません。
 いつもの夜が今日も更けていきました。
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    拍手なのだ