短編なのだ

 ぐるぐる。ぐるぐる。ぐるぐる。
 記憶が加速し、すらいどが回り、アライさんの頭はいっぱいになって、あらゆることを考えてるのに何も考えられなくて、ぐるぐる、ぐるぐる、呪いのようで。
 フェネックはいつからかいなくて、いつからいないのかわからなくて、たぶんそれは最初からで、フェネックなんてずっといなかったのにアライさんは夢を見ていたのだ。
 気がついたのはいつだったのか、昨日だったかもしれないし、とっくに気付いてたのかもしれないけど、一匹の部屋はしんと静かで、心臓の音と息をする音だけがごうごうとうるさいのだ。
 ぐるぐるぐるぐる視界が回って、昔誰かにもらった本も絵も何も見られなくなって、巣の床で仰向けに倒れて壁の溝を目でなぞって、それでも何も紛れやしないのだ。
 自分がどうなりたいのか、どうしたいのか、ずっと昔は草原でジャパリまんを食べてるだけで幸せだったのに、いつからかわけのわからない不安とか憂鬱とかにとらわれて、視界がぐるぐる回るようになったのだ。
 憂鬱。本当はフェネック同様、最初からそれらはあって、気付かないふりしてただけなのかもしれないけど、昔は確かに楽しいことを楽しいと思えていたような、このちほーで一匹きりでも、仲間が誰もいなくても、花はきれいだし空もきれいだし生きていけるってそう思えていたのだ。
 それが。
 ぐるぐる。
 終わらないのだ。何も。アライさんは一匹で、どうしようもなく一匹で、一匹なのは他のフレンズがこわいからなのだ。他のフレンズは優しいのに、アライさんが思ってるようなことなんて全然ないのに、アライさんはどうしても信じられなくて、怖くて、アライさんは自分が嫌いで、あたまもわるいしばかで無計画な無能なアライさんは嫌われて当然のフレンズで、でも本当に嫌われるのは怖くて、だから何もできなくなって、一匹で壁を見るしかなくなって、ぐるぐると回るのだ。
 でんわ。めえる。あぷりけーしょん。フレンズ社会に突然入ってきたそれらが怖くて、昔みたいに何もない草原で暮らせたらよかったのに、社会はうしろに戻れないのだ。
 怯えは日に日にひどくなり、牙の生えた暗がりがじわじわ迫ってくるのがわかるのだ。
 怖いのだ。どうしようもなく怖いのだ。誰も何も悪くないのに、悪いのはアライさんだけなのに、苦しくてつらくて消えることもできなくて。
 ぐるぐる回って、壁の溝がじわじわと拡大していって、耐えられなくて目を閉じたらたぶん朝日が目を焼くのだ。
 そうしてぐるぐる戻ってきたら、じっと己を呪うのだ。
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    拍手なのだ