短編なのだ

 春は膨張なのだ。
 皮膚も肉も頭も膨張していくような錯覚、ぼんやりとして、何もかもがだるくて眠いのだ。
 始まり始まりと皆が言うのを横目で見ながら、何一つ始まりはしない終わったアライさんのことを思うのだ。

 夏は熱中症なのだ。
 水筒を持って定期的にみずを飲んでもお腹がいたくなって気持ちが悪くなって頭がいたくてふらふらになるのだ。
 自己管理がなってないって言われて必死で頑張るけど何にもならなくてふさぎ込むのだ。
 そうしているうちにじめじめした汗で皮膚がかゆくなってアライさんは血だらけになるのだ。

 秋は曇天なのだ。
 毎日雨や曇り空が続いて湿った寒さが浸食するのだ。
 薄い毛皮じゃ過ごせなくなって、しまいこんでた段ボールをあさって埃が舞ってくしゃみが出るのだ。鼻が詰まって眠れなくなって、吹きすさぶ風の音を怯えながら聞くのだ。

 冬は凍結なのだ。
 何もかも凍り付いて、巣の中でアライさんは一匹なのだ。
 食べるものがなくなって、冷蔵庫が空になって、でもさむくて外には出られなくて、仕方ないから眠り続けるのだ。
 冬はいつまでも終わらなくて、ずっと続いて、アライさんもずっとずっと永遠に一匹で巣の中なのだ。

 桜は咲かず、生物は眠り、終わりまで冬が続くのだ。
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