短編なのだ

「フェネック~! おかしいのだ。アクリル板がなくならないのだ。全部囲まれているのだ。それなのにそのとうめいから針が生えてアライさんを刺すのだ!」
『……』
「フェネック~! おかしいのだ。針が止まらないのだ。アライさんは不安で、苦しくて、ぐるぐるして、どうしたらいいのかわからないのだ」
『……』
「フェネック、アライさんはどうしたらいいのかもうわからないのだ。何をしても何にもならず、暗い気持ちが増すだけなのだ。パークにいれば楽なのに、出ようとして、とうめいにぶつかって苦しむのだ……」
『ずっとパークにいればいいよ、アライさん』
「え?」
『ずっとここにいようね』
「フェネック~、もっとはっきり喋ってくれなのだ。聞き取れないのだ」
『……』
「アライさんは野生でも生きてけるようにならなきゃいけないのだ。パークの外にも世界はあるのだ。でも外はつらいのだ……外は楽しいけど、でもつらいのだ……」
『……』
「フェネック、こんなことを言ってすまないのだ……言ったってどうしようもないのに、なのだ。これはアライさん自身の問題で、アライさんが変わらないとどうにもならないことだってわかってるのだ……」
『……』
「フェネック、最初からいなかったならいなくてもよかったのだ。本当にいたのかどうかさえもうわからないのだ。このお花が何を表してるのか、ただの飾りなのか、フェネックなのか、アライさんなのか、アライさんにはわからないのだ。フェネック、フェネック、アライさんはもうだめなのだ」
『……』
「もうだめだけど、アライさんはまだ生きてるのだ……」
『……』
「フェネック……ごめんなのだ……」
『……、』
 そうしてアライさんは静かに俯きました。
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    拍手なのだ