短編なのだ

 アライさんは目が覚めました。
 薄暗い部屋。壁は灰色で、床は殺風景。窓が一つと、アライさんの寝ているベッドしかありません。
「ここはどこなのだ……?」
 思い出そうと頭を捻ってみても、ざらりとした感覚があるだけで灰色です。
「おかしいのだ……」
 アライさんは起き上がり、ベッドから降りました。
「フェ、……っつ」
 誰かを呼ぼうとして、アライさんの頭がずきりと痛みます。誰を呼ぼうとしたのか、誰を思い浮かべようとしたのか、思い出そうとすると痛みます。
「フレンズだったような気がするのだが……」
 フレンズ。
「フレンズ?」
 アライさんは下を向きます。
「アライさんはフレンズ。フレンズはアライさんだけ。アライさんにフレンズなんていないのだ」
 床が少し歪んで見えます。だけどそれはそう見えるだけだということを、アライさんは知っています。
「うう……フレンズいないのだ。でもいいのだ」
 頭を横に振るアライさん。その様子はまるで何かを振り払うかのようでした。
「ここはいったいどこなのだ?」
 考えようとしても、灰色。
 アライさんは一生懸命思い出そうとしました。これまでのこと、この場所のこと、昨日のこと、自分のこと。でもだめでした。全てが灰色。アライさんはアライさんにフレンズがいないということしか思い出せません。
「うー……」
 アライさんは手がかりを探そうと窓のところまで行きました。
 窓の外は夕方でした。灰色の地面と倒れたびるたち。びるにはたくさんの植物が絡まって空に伸びています。
「わからないのだ」
 アライさんはそこでドアに気付きました。
 ドアは茶色く錆びていて、ぼろぼろでした。アライさんがドアを押すとドアは簡単に開きました。
「あれれなのだ」
 部屋の外は灰色の建物でした。砂だらけの床に、荒れ果てた内装。壁は部屋と同じ、灰色でした。
 アライさんは外に出て、がらくたを避けながら出口を探しました。
「出口あったのだ」
 出口は半開きのしゃったーでした。沈みかけの夕陽が建物の内壁を照らしています。
「おっと」
 アライさんは床に落ちていたがらくたにつまづき、壁に手をつけました。
 灰色の壁。よく見てみると、壁の本当の色は白で、灰色なのは、
『ふぇねっくいないのだふぇねっくいないのだふぇねっくいないのだふぇねっくいないのだ』
「……? なんて書いてあるのだ?」
 アライさんには字が読めませんでした。
「まあいいのだ。外出ればわかるかもなのだ」
 アライさんはよーしなのだと気合いを入れて歩き出しました。
 その地面は灰色でした。
『ふぇねっくふぇねっくふぇねっくふぇねっくいないのだいないのだいないのだいないのだフレンズいないのだいないのだ』
 アライさんに文字に気付く様子はありませんでしたし、気付けたとしてもアライさんには字が読めませんでした。
 暗い夕陽が廃墟を照らしていました。
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    拍手なのだ