明日晴れたら
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どこのクラスにも一人は居るであろうお調子者、それが清田信長だった。
「お前、球技大会何に出る?バスケ?」
「カカカ、このスーパールーキーが出たら簡単に優勝しちまうからな。それじゃ面白くねーだろ」
机に座って爪を磨いていたミキは、聞きたくなくても聞こえてしまうその声を何の気なしに聞いていた。
どうやら清田は、自分のバスケスキルに相当の自信があるらしい。
ミキはチラリと彼を一瞥した。
特に背が高いわけでもない。
彼女が知る限り、自分たちの学年の男子で有名だったのは流川というプレーヤーだった。
そういえば、と、先日体育館であった二年の男子を思い出す。あの人の口からも、清田のキの字も出てこなかった。
自意識過剰過ぎて呆れてしまう。
能ある鷹は爪を隠すという。
清田の自信は根拠のないものに聞こえて、何故か彼女は苛々した。
明日晴れたら
体育の授業は球技だった。クラス対抗の球技大会に備えて、自分が参加する予定の種目を練習するというものだ。
―――お遊び程度なら構わないよ
何度でも思い出しては、腹立たしく思うその言葉に唇を噛みながら、久しぶりに触るバスケットボールの固くてザラザラした感触を手のひらで確かめる。
もっと速く走れる、もっと高く飛べると思っていたのに。
ダム、とボールを床についたその次の瞬間だった。
背後からボールをかっさらった人影が、もう一度床にボールを跳ねさせた後にリングに向かってシュートを放った。
ガゴンとバックボードに当たったボールが、辛うじてといった感じでリングに吸い込まれてゆく。
「何すんのよ!」
おそらくは「凄い」といった類いの言葉を期待していたのだろう。
ボールを奪った主…清田は一瞬驚いた後に直ぐに不機嫌な顔になった。
「お前…バスケ部のスーパールー…」
「取ってきてよ!アタシのボール!」
清田の声を遮って、向こうに転がっていくボールを指さしながら喚いた。彼は小さく舌打ちする。
「シロウトには俺のプレーの凄さがわからねーんだな」
ブツブツと文句を言いながら、それでも清田はボールを拾いにいく。
彼が腰を折ってボールを拾った刹那、ミキは先程の清田と同じように、背後からスティールでボールを奪い、少し離れた所でボールを床につきながら清田を一瞥した。
そしてポカンとしている清田を確認するとボールを両手に持ち直し、前屈みの姿勢からゴールに向かってシュートを放つ。
「なっ」
ボールは、リングに当たったあとにクルリとその縁をなぞりながら網をくぐり抜けた。
「お前、バスケ部かよ!ずりーぞ、バスケ部員はバスケ以外の種目を選択しなきゃなんねーはずだろ!」
「バスケ部員じゃなくったって、これくらい出来るわよ」
「ングっ」
清田が言葉に詰まる。
確かに今のはそれほど難しいものではなかった。
それでも、訓練されたシュートフォームは傍目から見てもド素人のそれとは違う。
「俺の目は誤魔化せねーぞ。お前、経験者だろ」
「だったら何?バスケ部じゃないんだからバスケに出たっていいでしょ。ってか何でアンタが此所にいるのよ」
「チッ」と舌打ちをひとつ、清田はスゴスゴと戻っていった。
それから10日後の球技大会に彼女が参加することはなかった(サボった)
「お前、球技大会サボっただろ」
「は?」
口を尖らせながらそう言ってきた清田に、ミキは迷惑そうな視線を向けた。
「せっかくお前がどれ程の腕前か見に行ってやったというのに」
なんでコイツはこんなに偉そうなんだろうと、ミキは溜め息をついた。
「自分だって大したことないくせに」
「そんな台詞はこのスーパールーキー清田信長様のプレーを見てから言え」
「見なくても分かる。アンタ流川より下だもんね」
「ぐっ」
下手に知識があってムカつく女だと、清田は眉間に皺を寄せた。
「流川の時代は終わった」
クイッと親指を立てて清田が向こうを指差す。
「は?何?」
「昼休み、体育館で練習してるから見に来いよ。どうせ暇だろ?」
「アンタ見に行く程暇じゃない」
「暇な時でいいぜ。俺が流川より上だってこと見せてやるよ」
自分勝手な事を言いたいだけ言って清田は教室を出て行った。廊下に面した窓越しに走り抜けてゆく姿が見える。
「何なのアイツ」
消えた後ろ姿にそう呟いてから一週間ほど経った昼休みのことだった。
いつものように屯って時間つぶしをしていたミキがふと顔を上げると、向こうからこちらを凝視している清田と目があった。
思わず眉間にしわを寄せると、清田が親指で自分のほうを指し示しながらこちらに来るように促す。
別に無視してもよかったのだが、取り立てて興味深い話をしているわけでもなかったし、あんなふうに凝視されては気持ち悪くて堪らない。
「ちょっとゴメン」
ひとこと断りを入れてから輪を離れて清田の元へ向かう。
清田はミキが自分のほうへやってきたことに少し安堵の表情を浮かべた。
「何よ」
それを待っていたかのように清田が口を開く。
「いつになったら見に来るんだよ」
「何のこと?」
「昼休みに!俺のバスケ見に来るって言っただろ?」
「言ってないわよ、アンタが一方的に誘ったんでしょ」
馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに、ミキは清田から視線を外して溜め息をついた。
「毎日毎日そんなにお喋りが忙しいかよ」
「そう、忙しいの。だいたい何でそんなに私に見に来て欲しいのよ」
そこでミキは意味深な笑顔になると「あー」と上目遣いで清田を見上げた。
「あんた、私に気があるんだ?」
「なっ…!」
清田の顔が見る見るうちに赤くなってゆく。
「わかりやっす」
「んな訳ねーだろ!馬鹿か!」
「あーはいはい、そーゆーことねー。でも無理だわごめーん。私に告白してきていいのは流川レベルだから。
ってか流川って高校どこ行ったの?海南にはいないよね?」
流川という名に清田が過剰反応することを知っていて、ミキはわざと煽った。
「流川流川ってお前アイツと同中か!?あんな顔だけ男のどこがいいってんだ!」
「顔だけって、あの人バスケ超上手いんだよ?アンタ見たことないの?」
「知ってるわ!馬鹿にすんな!」
「あとねー、私、背の低い男、ダメ」
「低い!?俺はひゃくななじゅう…」
「あーダメダメ。バスケしてるのに180ないとかあり得ないから」
一瞬黙り込んだ清田が、顎を擦りながらニヤリと唇の端を吊り上げる。
「……身長というハンデをも凌ぐジャンプ力…これこそスーパールー…」
「あーうるさい」
清田のそれを遮ってやると、彼は不満そうに唇を尖らせた。
「とにかく行くぞ」
痺れを切らせた清田がミキの腕を掴む。
「は?」
「グダグダ言ってても始まらねー」
「ちょっと…!」
清田に容赦なく腕を引っ張られる。
先ほどまでいたグループの方を見てみたが、こちらを気にしている様子はない。
中学のときとは違う友人たちとの関係と、自分の意志ではなく引きずられていく体に、頭の中身だけ取り残されたような錯覚を覚えた。
教室を踏み出したところで扉に手をひっかけると、前に進めなくなった清田が振り向く。
「離してよ」
そう言って清田の腕を振り払う。
「む」
「行けばいいんでしょ、体育館に」
「お前、球技大会何に出る?バスケ?」
「カカカ、このスーパールーキーが出たら簡単に優勝しちまうからな。それじゃ面白くねーだろ」
机に座って爪を磨いていたミキは、聞きたくなくても聞こえてしまうその声を何の気なしに聞いていた。
どうやら清田は、自分のバスケスキルに相当の自信があるらしい。
ミキはチラリと彼を一瞥した。
特に背が高いわけでもない。
彼女が知る限り、自分たちの学年の男子で有名だったのは流川というプレーヤーだった。
そういえば、と、先日体育館であった二年の男子を思い出す。あの人の口からも、清田のキの字も出てこなかった。
自意識過剰過ぎて呆れてしまう。
能ある鷹は爪を隠すという。
清田の自信は根拠のないものに聞こえて、何故か彼女は苛々した。
明日晴れたら
体育の授業は球技だった。クラス対抗の球技大会に備えて、自分が参加する予定の種目を練習するというものだ。
―――お遊び程度なら構わないよ
何度でも思い出しては、腹立たしく思うその言葉に唇を噛みながら、久しぶりに触るバスケットボールの固くてザラザラした感触を手のひらで確かめる。
もっと速く走れる、もっと高く飛べると思っていたのに。
ダム、とボールを床についたその次の瞬間だった。
背後からボールをかっさらった人影が、もう一度床にボールを跳ねさせた後にリングに向かってシュートを放った。
ガゴンとバックボードに当たったボールが、辛うじてといった感じでリングに吸い込まれてゆく。
「何すんのよ!」
おそらくは「凄い」といった類いの言葉を期待していたのだろう。
ボールを奪った主…清田は一瞬驚いた後に直ぐに不機嫌な顔になった。
「お前…バスケ部のスーパールー…」
「取ってきてよ!アタシのボール!」
清田の声を遮って、向こうに転がっていくボールを指さしながら喚いた。彼は小さく舌打ちする。
「シロウトには俺のプレーの凄さがわからねーんだな」
ブツブツと文句を言いながら、それでも清田はボールを拾いにいく。
彼が腰を折ってボールを拾った刹那、ミキは先程の清田と同じように、背後からスティールでボールを奪い、少し離れた所でボールを床につきながら清田を一瞥した。
そしてポカンとしている清田を確認するとボールを両手に持ち直し、前屈みの姿勢からゴールに向かってシュートを放つ。
「なっ」
ボールは、リングに当たったあとにクルリとその縁をなぞりながら網をくぐり抜けた。
「お前、バスケ部かよ!ずりーぞ、バスケ部員はバスケ以外の種目を選択しなきゃなんねーはずだろ!」
「バスケ部員じゃなくったって、これくらい出来るわよ」
「ングっ」
清田が言葉に詰まる。
確かに今のはそれほど難しいものではなかった。
それでも、訓練されたシュートフォームは傍目から見てもド素人のそれとは違う。
「俺の目は誤魔化せねーぞ。お前、経験者だろ」
「だったら何?バスケ部じゃないんだからバスケに出たっていいでしょ。ってか何でアンタが此所にいるのよ」
「チッ」と舌打ちをひとつ、清田はスゴスゴと戻っていった。
それから10日後の球技大会に彼女が参加することはなかった(サボった)
「お前、球技大会サボっただろ」
「は?」
口を尖らせながらそう言ってきた清田に、ミキは迷惑そうな視線を向けた。
「せっかくお前がどれ程の腕前か見に行ってやったというのに」
なんでコイツはこんなに偉そうなんだろうと、ミキは溜め息をついた。
「自分だって大したことないくせに」
「そんな台詞はこのスーパールーキー清田信長様のプレーを見てから言え」
「見なくても分かる。アンタ流川より下だもんね」
「ぐっ」
下手に知識があってムカつく女だと、清田は眉間に皺を寄せた。
「流川の時代は終わった」
クイッと親指を立てて清田が向こうを指差す。
「は?何?」
「昼休み、体育館で練習してるから見に来いよ。どうせ暇だろ?」
「アンタ見に行く程暇じゃない」
「暇な時でいいぜ。俺が流川より上だってこと見せてやるよ」
自分勝手な事を言いたいだけ言って清田は教室を出て行った。廊下に面した窓越しに走り抜けてゆく姿が見える。
「何なのアイツ」
消えた後ろ姿にそう呟いてから一週間ほど経った昼休みのことだった。
いつものように屯って時間つぶしをしていたミキがふと顔を上げると、向こうからこちらを凝視している清田と目があった。
思わず眉間にしわを寄せると、清田が親指で自分のほうを指し示しながらこちらに来るように促す。
別に無視してもよかったのだが、取り立てて興味深い話をしているわけでもなかったし、あんなふうに凝視されては気持ち悪くて堪らない。
「ちょっとゴメン」
ひとこと断りを入れてから輪を離れて清田の元へ向かう。
清田はミキが自分のほうへやってきたことに少し安堵の表情を浮かべた。
「何よ」
それを待っていたかのように清田が口を開く。
「いつになったら見に来るんだよ」
「何のこと?」
「昼休みに!俺のバスケ見に来るって言っただろ?」
「言ってないわよ、アンタが一方的に誘ったんでしょ」
馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに、ミキは清田から視線を外して溜め息をついた。
「毎日毎日そんなにお喋りが忙しいかよ」
「そう、忙しいの。だいたい何でそんなに私に見に来て欲しいのよ」
そこでミキは意味深な笑顔になると「あー」と上目遣いで清田を見上げた。
「あんた、私に気があるんだ?」
「なっ…!」
清田の顔が見る見るうちに赤くなってゆく。
「わかりやっす」
「んな訳ねーだろ!馬鹿か!」
「あーはいはい、そーゆーことねー。でも無理だわごめーん。私に告白してきていいのは流川レベルだから。
ってか流川って高校どこ行ったの?海南にはいないよね?」
流川という名に清田が過剰反応することを知っていて、ミキはわざと煽った。
「流川流川ってお前アイツと同中か!?あんな顔だけ男のどこがいいってんだ!」
「顔だけって、あの人バスケ超上手いんだよ?アンタ見たことないの?」
「知ってるわ!馬鹿にすんな!」
「あとねー、私、背の低い男、ダメ」
「低い!?俺はひゃくななじゅう…」
「あーダメダメ。バスケしてるのに180ないとかあり得ないから」
一瞬黙り込んだ清田が、顎を擦りながらニヤリと唇の端を吊り上げる。
「……身長というハンデをも凌ぐジャンプ力…これこそスーパールー…」
「あーうるさい」
清田のそれを遮ってやると、彼は不満そうに唇を尖らせた。
「とにかく行くぞ」
痺れを切らせた清田がミキの腕を掴む。
「は?」
「グダグダ言ってても始まらねー」
「ちょっと…!」
清田に容赦なく腕を引っ張られる。
先ほどまでいたグループの方を見てみたが、こちらを気にしている様子はない。
中学のときとは違う友人たちとの関係と、自分の意志ではなく引きずられていく体に、頭の中身だけ取り残されたような錯覚を覚えた。
教室を踏み出したところで扉に手をひっかけると、前に進めなくなった清田が振り向く。
「離してよ」
そう言って清田の腕を振り払う。
「む」
「行けばいいんでしょ、体育館に」