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「ごめんね、誕生日なのに何も出来なくて」
そう言って彼は申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「ううん、今日はこうして一緒に帰れるから、それで十分満足な誕生日だよ」
その台詞の半分くらいは本当。
誕生日がテスト期間と重なることをラッキーだなんて思ったことは今までなかったもの。
「あー、なんかそれチクリとくるな。いつも俺が放ったらかしてるみたいじゃん。」
実際そうだけど、と彼はまた苦笑いした。
毎日遅くまで部活をしている神くんと帰宅部のあたしは、例え付き合っていても他のカップルみたいにいつも一緒に帰れるってわけじゃない。
「いやいや、ホントだって」
そう言って笑うあたしの頭を彼は大きな手で撫でてくれた。
生まれて初めて出来た彼氏と、初めて迎える記念日が今回のあたしの誕生日で、そりゃあ期待していなかったといえば嘘になる。
彼氏が出来たら…って思い描いていたことは、海南のバスケ部員を彼氏に選んだことですべてがただの理想になってしまった。
例えば誕生日前の週末とかに「ちょっと早いけど」と言ってショッピングに連れ出してくれて、そして一緒にプレゼントを選んだりして…って、ほんのちょっと、そういうのを夢見ていたんだけれど。
けれど朝も夜も、平日でも休みの日でも、熱心に部活に汗を流している神くんを知っているし、バスケをやっている神くんがカッコイイなぁと素直に思うから、そんなことは言えない。言わない。
ただちょっと、やっぱりちょっと残念なんだ。普通の恋人らしいことをしてみたいって気持ちは心のどこかにあるから。
「どうかした?」
「ううん」
慌てて首をふったけれど、ああ、神くん気づいてくれないかな、あたし結構我慢してるんだけど、なんて今日は思ってしまう。
例えば今日はちょっとどこかに寄ってから帰ろうか、とか、ほんのちょっとしたことで構わない。
テスト期間って事は分かってる。勉強しなくちゃなんないって知ってる。だからほんの10分でもいい。なにか特別な時間が欲しい。だって今日はあたしにとって特別な日なんだもの。
「なに?」
「べっつにー」
こうやって笑ってるけど、気づいてくれないかな、気づいて欲しいな。そんな願いも虚しくどんどん家が近くなれば、なんとなく落ち込む気持ちが言葉数を減らしていった。
あたしの家が見え始めたところでスルリと繋いでいた手が離れて、ああ、やっぱり今日もこれで終わりなんだと知る。
あと数時間であたしの誕生日は終わってしまうけれど、今日は神くんと一緒に帰れたからって、それだけで満足しなきゃいけないんだろうか。
「じゃあね、また明日」
少し期待していただけにしっくりこないあたしを他所に彼はいつものようにそう言った。
「うん、また明日ね」
だからあたしも同じように返すしかない。
小さく手を挙げて踵を返す背の高い後姿を見送りながら、どうしてあたしは神くんと付き合ってるんだろうって、なんだかとても寂しくなった。
もう神くんには見えていないだろうけれど、小さく口を尖らせて、目を伏せる。一年に一度の特別な日なのに、今日だって全然特別じゃない。
恨めしいような気持ちで顔をあげたら、彼の背中は小さくなっていて、だからやっぱり恨めしい。
電信柱が立っている小さな十字路を曲がろうとした神くんが、あたしの視線に気付いたのか首を傾けるようにしてこちらを見た。
けれどそれはそれだけで、彼は少し笑って小さく手を振っただけだった。
失望を隠せないあたしは肩を落として家の門に手をかける。
「文!」
その時不意に名前を呼ばれて振り向いた。
するともうとっくに居なくなっていたはずの神くんが視界の向こうにいて、ポカンとするあたしの腕を走ってきた勢いのままグイと引っ張った。
引き寄せられた身体。次の瞬間あたしの唇にふわりとやわらかいものが触れる。
ああ、初心なあたしがそれをキスだと気づくには…。
両腕を掴まれてきょとんとするあたしの直ぐ目の前には、前かがみになってあたしを覗き込むに神くんがいた。
「いつも我慢ばかりさせてるけど俺、文の事が好きだからね」
そんな事言われたらあたしは、神くんを大好きな気持ちが体中からドバーっと溢れちゃって、何も言えなくなっちゃって、ただ何度も頷くことしか出来なくて。
「……うん、うん」
人って、本当に嬉しい時も涙がでてくるもんなんだ。
少し照れ臭そうに笑った神くんを凄く凄く好きって思ったから、あたしも照れ臭くなって笑った。
誕生日プレゼントはファーストキス
2008/08/30
そう言って彼は申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「ううん、今日はこうして一緒に帰れるから、それで十分満足な誕生日だよ」
その台詞の半分くらいは本当。
誕生日がテスト期間と重なることをラッキーだなんて思ったことは今までなかったもの。
「あー、なんかそれチクリとくるな。いつも俺が放ったらかしてるみたいじゃん。」
実際そうだけど、と彼はまた苦笑いした。
毎日遅くまで部活をしている神くんと帰宅部のあたしは、例え付き合っていても他のカップルみたいにいつも一緒に帰れるってわけじゃない。
「いやいや、ホントだって」
そう言って笑うあたしの頭を彼は大きな手で撫でてくれた。
生まれて初めて出来た彼氏と、初めて迎える記念日が今回のあたしの誕生日で、そりゃあ期待していなかったといえば嘘になる。
彼氏が出来たら…って思い描いていたことは、海南のバスケ部員を彼氏に選んだことですべてがただの理想になってしまった。
例えば誕生日前の週末とかに「ちょっと早いけど」と言ってショッピングに連れ出してくれて、そして一緒にプレゼントを選んだりして…って、ほんのちょっと、そういうのを夢見ていたんだけれど。
けれど朝も夜も、平日でも休みの日でも、熱心に部活に汗を流している神くんを知っているし、バスケをやっている神くんがカッコイイなぁと素直に思うから、そんなことは言えない。言わない。
ただちょっと、やっぱりちょっと残念なんだ。普通の恋人らしいことをしてみたいって気持ちは心のどこかにあるから。
「どうかした?」
「ううん」
慌てて首をふったけれど、ああ、神くん気づいてくれないかな、あたし結構我慢してるんだけど、なんて今日は思ってしまう。
例えば今日はちょっとどこかに寄ってから帰ろうか、とか、ほんのちょっとしたことで構わない。
テスト期間って事は分かってる。勉強しなくちゃなんないって知ってる。だからほんの10分でもいい。なにか特別な時間が欲しい。だって今日はあたしにとって特別な日なんだもの。
「なに?」
「べっつにー」
こうやって笑ってるけど、気づいてくれないかな、気づいて欲しいな。そんな願いも虚しくどんどん家が近くなれば、なんとなく落ち込む気持ちが言葉数を減らしていった。
あたしの家が見え始めたところでスルリと繋いでいた手が離れて、ああ、やっぱり今日もこれで終わりなんだと知る。
あと数時間であたしの誕生日は終わってしまうけれど、今日は神くんと一緒に帰れたからって、それだけで満足しなきゃいけないんだろうか。
「じゃあね、また明日」
少し期待していただけにしっくりこないあたしを他所に彼はいつものようにそう言った。
「うん、また明日ね」
だからあたしも同じように返すしかない。
小さく手を挙げて踵を返す背の高い後姿を見送りながら、どうしてあたしは神くんと付き合ってるんだろうって、なんだかとても寂しくなった。
もう神くんには見えていないだろうけれど、小さく口を尖らせて、目を伏せる。一年に一度の特別な日なのに、今日だって全然特別じゃない。
恨めしいような気持ちで顔をあげたら、彼の背中は小さくなっていて、だからやっぱり恨めしい。
電信柱が立っている小さな十字路を曲がろうとした神くんが、あたしの視線に気付いたのか首を傾けるようにしてこちらを見た。
けれどそれはそれだけで、彼は少し笑って小さく手を振っただけだった。
失望を隠せないあたしは肩を落として家の門に手をかける。
「文!」
その時不意に名前を呼ばれて振り向いた。
するともうとっくに居なくなっていたはずの神くんが視界の向こうにいて、ポカンとするあたしの腕を走ってきた勢いのままグイと引っ張った。
引き寄せられた身体。次の瞬間あたしの唇にふわりとやわらかいものが触れる。
ああ、初心なあたしがそれをキスだと気づくには…。
両腕を掴まれてきょとんとするあたしの直ぐ目の前には、前かがみになってあたしを覗き込むに神くんがいた。
「いつも我慢ばかりさせてるけど俺、文の事が好きだからね」
そんな事言われたらあたしは、神くんを大好きな気持ちが体中からドバーっと溢れちゃって、何も言えなくなっちゃって、ただ何度も頷くことしか出来なくて。
「……うん、うん」
人って、本当に嬉しい時も涙がでてくるもんなんだ。
少し照れ臭そうに笑った神くんを凄く凄く好きって思ったから、あたしも照れ臭くなって笑った。
誕生日プレゼントはファーストキス
2008/08/30
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