ごちゃまぜ
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「え…だって上手くいきそうだったじゃん」
目の前のイスに反対に座って背凭れに頬杖をつく高野の目はどこか遠くを見ていた。
「好きなやつがいるんだってさー…」
そう呟いた声は体育館から聞こえる大きな声に混じって俺の耳を掠め、俺の頭には高野への慰めの言葉よりも彼女への不満で埋め尽くされる。
「だってお前に近づいてきたのは彼女のほうで…」
気性は荒いけど晩熟な高野が恋をした。
同じクラスのカワイイ女の子。
「練習だって見に来てくれてたし、この前は試合だって…」
時々相談を持ちかけてきた高野をいい加減な気持ちで後押ししたわけじゃない。
どう考えたって気を持たせるようなことをしていたのは彼女だ。
「意味わかんねぇ」
くしゃりと頭を手で押さえ込めばそんな俺の顔を高野が見上げた。
「藤真」
名前を呼ばれて視線を返すと、高野の目が俺の頭に送り込む嫌な予感。
「お前のことが好きなんだってさ」
あぁ…
俺は大きく吸い込んだ息を胸の中に溜め込んで、そして一気に吐き出した。
俺の心に湧き上がるこれは高野への罪悪感か、それとも彼女への嫌悪感なのか。
「なんかオカシイと思ったんだよな~。」
そう言って笑った高野が痛々しくて俺は目を逸らした。
汚い女
俺に近づく為に高野を利用して。
例えばそれはバスケの試合の後なんかにクタクタで汗だくの俺に差し入れと称して無理やりモノを押し付けてくるような自分勝手な女達以下だ。
彼女は俺だけでなく高野をも傷つけた。
他人のことなんてこれっぽっちも考えずに自分の気持ちをゴリ押しして人を振り回して、そしてそれを押し通しさなきゃ気が済まないんだから呆れるを通り越して軽蔑するね。
それは素直とは違うって事に気付け。
「俺、お前とは好みが被らないみたいだけどさ、いい子だったよな」と言ったのは高野への気遣い。
コイツが好きだった女を悪く言うことなんて出来なくて、けれど俺が謝るのも何か違う。
「高野」
その背中を叩いたら思ったよりもいい音がした。
「シケたツラすんなよ」
「………」
静かな教室にズズっと鼻をすする音が響く。
「藤真が叩いたから…」
「お?」
グイと目元を掌で押し上げた高野の口許から漏れた息は震えていて、だから俺も少しだけ泣きそうになった。
ごめんな高野
口には出せないけれど、ごめん
「叩かれたくらいで泣くなんてお前小学生か」
「お前の痛えんだよ」
今日は少し大人しい高野の胸の痛みが俺の掌に吸い込まれてしまえばいいと、そんな願いを込めて「ヨシヨシ」と背中をさすった。
「今日の練習もこれくらいお手柔らかに」と言う言葉は、いくら泣きながら言われても聞こえない事にする。
fin.
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