ごちゃまぜ
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工業高校ってのは野郎ばかりの巣窟で、だからたいして恵まれた容姿をしているわけでもないあたしだけれどそれなりにお声がかかる。
調子こいてフラフラと付き合った男は何人かいたが、あたしに“この人をもっと知りたい”と思わせるような出会いはなく、すぐに興味が失せてしまうもんだから長く続いた試しがなかった。
皆個性がないのかなぁ…
そんなあたしの能内に刺激を与えた男がいた。
変わってるんだ彼。
本当に変わっている。
いい歳こいた高校男子が『ピョン』て。
一回語尾につける程度なら寒いギャグ。
だけど毎回ときたら相当な変わり者かイタイやつだ。
それなのに彼は全国でも有名なバスケ部のキャプテンで他校にはいっちょまえにファンなんかがいるらしいんだから世の中わかんない。
どんな形であれ異性にこれほど興味を持ったのは初めてで、面白半分近づいてみたら意外とクールな男だった。
クールなのにピョンて。
あぁだけど女の子ってギャップに弱いのよね。
それはあたしにも言えるのかも知れない。
昼休みの騒がしい教室で、窓際の机に突っ伏している深津を発見したあたしはその前の席に座って彼のつむじを眺めた。
「深津…」
「……」
「寝てんの?」
無言でむくりと体を起こした深津が半開きの目で…いつも半開きだが…頭をかいた。
「何か用かピョン」
でた、
「…それさぁ、親の前でも言ってんの?」
深津は首を傾げる。
「ピョンってやつだよ」と言ったら彼は遠くに目をやった。
「どうだったか…親とはあまりしゃべらないピョン」
だろーね。
あたしが親だったら絶対矯正させる。
「彼女の前でもピョンなの?」
「忙しくて彼女が出来た試しがないピョン」
へぇと言いいながら、もっと深津の恋愛事情を知りたくなったのは彼に興味がある証拠。
「なんか深津ってさ、女の子に興味なさそうな顔してるよね」
深津がチロリとあたしを一瞥する。
「告白したりとかしたことないの?実はソコソコモテるんじゃない?」
「選抜が…」
まくし立てるあたしにポツリと深津が零した。
「選抜が終わってバスケ部を引退したらするつもりだピョン」
あ、好きな人が居るんだと知った瞬間、胸の奥に鈍い衝撃が走る。
「あー、そうなんだ!」
そう言った声はやたら威勢がよくて、こちらをチラリと見る人の姿が視界の隅に映ったけれど今のあたしには気にならない。
「そりゃ凄い!張れ頑張れ応援するよ!」
「だからリザーブ」
淡々とした口調の深津があたしを指差す。
「は?」
「しといて欲しいピョン」
マジマジと深津の顔を覗き込むと彼はフイと視線を窓の外に移した。
「もう埋まってるならいい、ピョン」
それって…
あたしの自惚れなのかな
「告白は選抜の後って…」
「告白じゃなくて予約だピョン」
拗ねたような深津が面白くて、その頬が心なしか紅くなっているのが嬉しくて、あたしは窓に向けられた深津の顔を追い掛けるようにして覗きこんだ。
「予約されたら取り消しは出来ませんがお客様」
あたしに視線を移した深津が滅多に変えない表情を緩めてひとつ頷いた。
指定席
title by dix
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