Cinderellaになれなくて
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好きという感情にまでたどり着いていなかったとしても、あたしは仙道に憧れていたんだと思う。
本当に好きになる前でよかったじゃない。
そう自分に言い聞かせてはみたけれど、馬鹿にされたというショックも手伝ってか、その日は夕食も喉を通らなければ、勉強もせずにベットに潜り込んでしまった。
[03]
次の日の朝の事だった。
「おはよう」
下駄箱でかけられた声が自分に対してのものだとは思いもせずに通り過ぎようとすると、今度は名前を呼ばれて「おはよう」と繰り返された。
驚いて相手を見る。
するとそこには昨日あたしをしこたま傷つける発言をした高木さんが居て、やけに慣れ慣れしい笑顔を向けてくるではないか。
「お、おはよう…」
だいたい彼女と喋った事があるかも怪しいのに、いきなり挨拶なんてされたらあまりいい感じはしない。早い話、嫌な予感がする。
「ちょっと話があるんだけどいいかな」
ノーと言わせない空気に負けて彼女の後についていくと、彼女はあまり人気のない別館の踊場で足を止めた。
「昨日、あたしと仙道の会話、聞いた?」
聞いたよバッチリ、なんて事は言えなくて「ううん」と嘘をつくと、彼女は安堵したような笑顔を作った。
「ね、江崎さんは今好きな人いるの?」
「ハ?」
唐突に何を言い出すんだろう。
「いや別に…」と言いながら頭の隅に仙道の顔が浮かんだ。昨日の今日で彼の顔を思い浮かべる自分が有り得ない。
「いないのー?ホントにー?」
「う、うん」
「別に隠さなくていいじゃん。」
「隠してないよ。」
やけに馴れ馴れしい笑顔と甘えるような声であたしに絡んできた高木さんから思わず身を引くと、彼女は急に声のトーンを落とした。
「実はアタシ、昨日フられちゃったんだ。」
驚いて彼女をガン見していたアタシと、俯き加減の高木さんがが寄越した上目使いの視線が合って思わずそれを泳がせる。
「アタシの彼氏、誰か知ってるでしょ?」
その言い方だと随分有名なカップルだったんだろうか。
まさか昨日まで知りませんでしたとはいえずに「うん」と頷く。
「だから昨日はね、そーゆー話してたんだ。」
そんなことあたしに言われても…とも思ったけれど、もしかしたらこんなことってなかなか人には話せないのかもしれない。
「仙道、好きな子が出来たんだって。」
「へ、へぇ…それは…」
だから現場を目撃してしまったあたしに聞いてもらいたいのかな。
でもこんな時にさえ、気の利いた言葉のひとつも言えない人間で申し訳ない。
「喧嘩もしたけどアイツには色々感謝してる…。だからアイツの新しい恋をアタシは応援しようと思うんだ。」
仙道に新たに意中の人がいると知ったのは少なからずショックで、あたしはそれを隠すように「そうなんだー」と無駄な相槌をした。
「ごめんね変な話。あたし見えっ張りだから他の人にはフられたなんて言いにくくて。江崎さんには見られちゃったから少し聞いて欲しかったんだ。」
俯いた彼女の顔が寂しそうで、あんまりいいイメージの子ではなかったけど、それはアタシの苦手意識からくるもので、本当は意外と素直で良い子なのかもしれないと可哀相になった。
「仙道って意外とヌケてるのにさ、モテるよねー。なんでだろ。」
そう言って彼女は答えを求めるような視線を寄越すから、あたしは当たり障りのない返事をする。
「カッコイイ…もんね。それにえーっと、人当たりも良さそうだし。」
「ホントにそう思う?」
「え?あ、うん。変な意味じゃ…」
「仙道の事、好きか嫌いかって言ったらどっち?」
いきなりそんな極論、面食らってしまう。
「いや普通…」
「好きか、嫌いか、っつってんだけど。」
え…?と思ったけれど気の弱いあたしには彼女のその気迫に抵抗する勇気はなかった。
「いや…好きか嫌いか…って…そう言われると困るんだけど…特に嫌う理由なんてないし…そしたら好きって事になるのかな?この場合。」
嫌う理由なんてなさそうで実はあるんだけど、あたしの心の奥に秘めたささやかな想いまでここで告白する義理はない。
「じゃ、告白しちゃえばいいじゃん」
「ハ?」
あたしの顔中の穴は多分全開だったと思う。
「だから好きなんでしょ?仙道のこと。応援するから、告白しちゃいなよ。」
「ええええ…」
壊れたように首を振るあたしの頭はそれでなくても訳がわからなくて真っ白。
「大丈夫、絶対上手くいくから。ってか上手くいかない訳ないし。」
「え?」
その自信の根拠は?と聞きたい。
「だってね、仙道昨日言ってたよ。江崎さんって目立たないけどカワイイねって。あたし思うんだけどさ、仙道の言ってた新しい好きな子って江崎さんじゃないかと思うんだよね。うん、絶対そう。」
ムッとした、なんてもんじゃない。
人が何も知らないと思ってよく言うね、どんだけ馬鹿にしてんの、本物の馬鹿のくせに、と心の中で罵倒する。
「好きって、言ったよねぇ?」
無言のあたしに高木さんの声色が幾分強いものに変わる。
「いや、好きなんて…」
「ねぇ、あたしを馬鹿にしてんの?」
「ハ?」
「あたしが仙道にフラれた事知ってて仙道が好きとか相談してきてさぁ。だから上手くいくから告白しなって言ってんじゃん。あたしは自分の恋の代わりに仙道の恋もアンタの恋も応援してんの。見せつけたいの?性格悪くない?」
…ヤクザだ言い掛かりだ。
馬鹿も休み休み言えと言ってやりたいけれど内気なあたしにその勇気はなかったし、何となく彼女が何をやりたいのかも分かってしまったのだ。
すると彼女は再び笑顔に戻り先程とはうって変わった優しい声を出す。
「キツい言い方しちゃったけど、あたしの気持ちも分かってよ。ね?頑張って。」
高木さんに叩かれた腕が力無く揺れた。
多分彼女は、昨日仙道にプライドを傷つけられた、その仕返しをしてやりたいんだと思う。しかもあたしを使って。
仙道が、高木さんもあたしも大差ないような言い方をしたのは本気ではないと思う。
けれど高木さんにしてみれば、あたしみたいなのと同じ土俵に立たされた時点でプライドはズタズタ、勘弁ならないくらい怒り心頭だったに違いない。
実際は告白されたからといって、あたしみたいな子と付き合えないと言う事実をつきつけて、仙道の鼻を明かしてやりたいんだ。
仮に、万が一、負けず嫌いな仙道が頑張ってあたしと付き合ったとしても、それはそれで馬鹿にして面白がる事も出来るだろうし。
「仙道っていいヤツだし、きっと後悔しない。それどころか今やらないと逆に後悔するって。」
昨日はサイテー男って言ってたくせに女って恐い。
仙道が彼女を好きになれなかった理由はよく理解できたけれど、かと言って仙道に対する怒りが消えたわけでもなかった。
出来る事ならあたしだって仙道に口だけ男って言ってやりたい気持ちはある。
そうやって彼を軽蔑して、そんな最低なヤツ好きになる価値なんてないと思いたい。
「どーなの?まだグズグズ悩んでるの?」
再び苛立ちが見えてきた彼女にあたしは言った。
「いいよ、告白する」
あたしは自分を貶めている。
「マジで?」
「うん」
それでも構わないと思ったのは彼女が面倒臭かったがひとつ。
そうまでして仙道を目茶苦茶嫌いになりたかったのがもうひとつの理由だった。
本当に好きになる前でよかったじゃない。
そう自分に言い聞かせてはみたけれど、馬鹿にされたというショックも手伝ってか、その日は夕食も喉を通らなければ、勉強もせずにベットに潜り込んでしまった。
[03]
次の日の朝の事だった。
「おはよう」
下駄箱でかけられた声が自分に対してのものだとは思いもせずに通り過ぎようとすると、今度は名前を呼ばれて「おはよう」と繰り返された。
驚いて相手を見る。
するとそこには昨日あたしをしこたま傷つける発言をした高木さんが居て、やけに慣れ慣れしい笑顔を向けてくるではないか。
「お、おはよう…」
だいたい彼女と喋った事があるかも怪しいのに、いきなり挨拶なんてされたらあまりいい感じはしない。早い話、嫌な予感がする。
「ちょっと話があるんだけどいいかな」
ノーと言わせない空気に負けて彼女の後についていくと、彼女はあまり人気のない別館の踊場で足を止めた。
「昨日、あたしと仙道の会話、聞いた?」
聞いたよバッチリ、なんて事は言えなくて「ううん」と嘘をつくと、彼女は安堵したような笑顔を作った。
「ね、江崎さんは今好きな人いるの?」
「ハ?」
唐突に何を言い出すんだろう。
「いや別に…」と言いながら頭の隅に仙道の顔が浮かんだ。昨日の今日で彼の顔を思い浮かべる自分が有り得ない。
「いないのー?ホントにー?」
「う、うん」
「別に隠さなくていいじゃん。」
「隠してないよ。」
やけに馴れ馴れしい笑顔と甘えるような声であたしに絡んできた高木さんから思わず身を引くと、彼女は急に声のトーンを落とした。
「実はアタシ、昨日フられちゃったんだ。」
驚いて彼女をガン見していたアタシと、俯き加減の高木さんがが寄越した上目使いの視線が合って思わずそれを泳がせる。
「アタシの彼氏、誰か知ってるでしょ?」
その言い方だと随分有名なカップルだったんだろうか。
まさか昨日まで知りませんでしたとはいえずに「うん」と頷く。
「だから昨日はね、そーゆー話してたんだ。」
そんなことあたしに言われても…とも思ったけれど、もしかしたらこんなことってなかなか人には話せないのかもしれない。
「仙道、好きな子が出来たんだって。」
「へ、へぇ…それは…」
だから現場を目撃してしまったあたしに聞いてもらいたいのかな。
でもこんな時にさえ、気の利いた言葉のひとつも言えない人間で申し訳ない。
「喧嘩もしたけどアイツには色々感謝してる…。だからアイツの新しい恋をアタシは応援しようと思うんだ。」
仙道に新たに意中の人がいると知ったのは少なからずショックで、あたしはそれを隠すように「そうなんだー」と無駄な相槌をした。
「ごめんね変な話。あたし見えっ張りだから他の人にはフられたなんて言いにくくて。江崎さんには見られちゃったから少し聞いて欲しかったんだ。」
俯いた彼女の顔が寂しそうで、あんまりいいイメージの子ではなかったけど、それはアタシの苦手意識からくるもので、本当は意外と素直で良い子なのかもしれないと可哀相になった。
「仙道って意外とヌケてるのにさ、モテるよねー。なんでだろ。」
そう言って彼女は答えを求めるような視線を寄越すから、あたしは当たり障りのない返事をする。
「カッコイイ…もんね。それにえーっと、人当たりも良さそうだし。」
「ホントにそう思う?」
「え?あ、うん。変な意味じゃ…」
「仙道の事、好きか嫌いかって言ったらどっち?」
いきなりそんな極論、面食らってしまう。
「いや普通…」
「好きか、嫌いか、っつってんだけど。」
え…?と思ったけれど気の弱いあたしには彼女のその気迫に抵抗する勇気はなかった。
「いや…好きか嫌いか…って…そう言われると困るんだけど…特に嫌う理由なんてないし…そしたら好きって事になるのかな?この場合。」
嫌う理由なんてなさそうで実はあるんだけど、あたしの心の奥に秘めたささやかな想いまでここで告白する義理はない。
「じゃ、告白しちゃえばいいじゃん」
「ハ?」
あたしの顔中の穴は多分全開だったと思う。
「だから好きなんでしょ?仙道のこと。応援するから、告白しちゃいなよ。」
「ええええ…」
壊れたように首を振るあたしの頭はそれでなくても訳がわからなくて真っ白。
「大丈夫、絶対上手くいくから。ってか上手くいかない訳ないし。」
「え?」
その自信の根拠は?と聞きたい。
「だってね、仙道昨日言ってたよ。江崎さんって目立たないけどカワイイねって。あたし思うんだけどさ、仙道の言ってた新しい好きな子って江崎さんじゃないかと思うんだよね。うん、絶対そう。」
ムッとした、なんてもんじゃない。
人が何も知らないと思ってよく言うね、どんだけ馬鹿にしてんの、本物の馬鹿のくせに、と心の中で罵倒する。
「好きって、言ったよねぇ?」
無言のあたしに高木さんの声色が幾分強いものに変わる。
「いや、好きなんて…」
「ねぇ、あたしを馬鹿にしてんの?」
「ハ?」
「あたしが仙道にフラれた事知ってて仙道が好きとか相談してきてさぁ。だから上手くいくから告白しなって言ってんじゃん。あたしは自分の恋の代わりに仙道の恋もアンタの恋も応援してんの。見せつけたいの?性格悪くない?」
…ヤクザだ言い掛かりだ。
馬鹿も休み休み言えと言ってやりたいけれど内気なあたしにその勇気はなかったし、何となく彼女が何をやりたいのかも分かってしまったのだ。
すると彼女は再び笑顔に戻り先程とはうって変わった優しい声を出す。
「キツい言い方しちゃったけど、あたしの気持ちも分かってよ。ね?頑張って。」
高木さんに叩かれた腕が力無く揺れた。
多分彼女は、昨日仙道にプライドを傷つけられた、その仕返しをしてやりたいんだと思う。しかもあたしを使って。
仙道が、高木さんもあたしも大差ないような言い方をしたのは本気ではないと思う。
けれど高木さんにしてみれば、あたしみたいなのと同じ土俵に立たされた時点でプライドはズタズタ、勘弁ならないくらい怒り心頭だったに違いない。
実際は告白されたからといって、あたしみたいな子と付き合えないと言う事実をつきつけて、仙道の鼻を明かしてやりたいんだ。
仮に、万が一、負けず嫌いな仙道が頑張ってあたしと付き合ったとしても、それはそれで馬鹿にして面白がる事も出来るだろうし。
「仙道っていいヤツだし、きっと後悔しない。それどころか今やらないと逆に後悔するって。」
昨日はサイテー男って言ってたくせに女って恐い。
仙道が彼女を好きになれなかった理由はよく理解できたけれど、かと言って仙道に対する怒りが消えたわけでもなかった。
出来る事ならあたしだって仙道に口だけ男って言ってやりたい気持ちはある。
そうやって彼を軽蔑して、そんな最低なヤツ好きになる価値なんてないと思いたい。
「どーなの?まだグズグズ悩んでるの?」
再び苛立ちが見えてきた彼女にあたしは言った。
「いいよ、告白する」
あたしは自分を貶めている。
「マジで?」
「うん」
それでも構わないと思ったのは彼女が面倒臭かったがひとつ。
そうまでして仙道を目茶苦茶嫌いになりたかったのがもうひとつの理由だった。