番外編
好きなコの姿っていうのは、探しているつもりがなくても勝手に視界に飛び込んでくるものだ。
今だって、なんとなく窓の外に目をやって、ああどこかのクラスが体育の授業なんだな、体操服の色からすると2年だな、なんてぼんやりと考えていただけなのに、早速そこに彼女の姿があることに気付いてしまった。
背が高いから少し目立つのは確かだけれど、それだけの理由じゃないのは自分が1番よく知っている。
あれからも、俺達のつかず離れずの関係は相変わらずだった。
彼女は、友人という関係に満足しているのかもしれないと思う。確かに付き合うとなると面倒な事もあるし。
もしかしたらとっくに俺は恋愛対象から外れてしまったのかもしれない。
だったら俺は、とても無駄な事をしている事になる。恋なんてそんなものかもしれないけれど。
部活の後の自主練を終えて部室に戻るとドアを開けた瞬間に溜め息が出た。
誰だ、電気を消さずに帰ったヤツは。しかもこの季節に窓も開けたまま。
換気のつもりなんだろうけど、開けたなら閉めるくらいすればいいのにと三分の一くらい開いている窓に手をかけた。
真っ暗になった空を見上げてから、扉を閉めようと視線を落とした時だった。
体育館の外壁に身を寄せて隠れるようにしながらその正面玄関の様子を伺っている人影に気付いた。
それは見間違うはずもない後ろ姿。
噴出しそうになった口元を手で押さえて、音をたてないようにゆっくり窓を閉める。膝を抱えるように座り込みながら声を殺して笑った。
最近、帰り際に体育館を出たところでバッタリとなま恵に会うことがある。
そんな時はなんとなく一緒に帰るのだけれど、てっきり偶然だと思っていた。
いや多分最初は偶然だったんだろう。
仕組まれていたなんて気付かなかった。
そんな風に待ち伏せているのを目の当たりにすると自惚れてしまうんだけど。
待ち伏せされてることを知りながら正面口から出るのも何だか癪で。
こっそり裏口から出て彼女の背後に回り込んだ。足音をたてないようにゆっくりと。
「…何してるの?」
耳をつんざくような悲鳴と慌てて振り返った瞬間に足が縺れて尻餅をつく音。思わず声をあげて笑った
「神く~ん。ひどいよ~。」
半ベソかきながら恨めしげに見上げてくる。その表情がかわいいと思う。
「ごめんね」と手を差し出すと、少し驚いた顔をした彼女が俺の顔と手とを交互に見つめ、やがて遠慮がちにそれに触れる。
この手に触れるのは何ヶ月ぶりになるだろう。
握りしめた手に力を込めて引き上げた。
「…ありがと。」
どちらからともなく離れた指。
こんなところで何をしていたの、と、意地悪な事を聞いてみたい。
伺うような視線に気付いて「なに?」と問えば彼女は恐る恐る口を開く。
「…いつから見てた?」
「え?」
「だから…あたしがここにいるの…」
「ああ」と言いながら視線を逸らせた。
さて何と答えよう。
随分ネバってたね、なんて言ったら、君はどんな顔をするだろうか。
「んー、」
随分前から
「…え?」
「いつも見てるよ」
なんて臭い台詞。冗談めかさなければとても言えないけれど、それに賭けてみたいことがある。
「さ、帰ろ」
彼女の前に立ち歩き出した俺の背中から、少し緊張したような声が聞こえた。
「神くん…!神くん、あのね、」
足を止めて振り返る。
君はどんな言い訳をするのだろう。それとも…?
俺が聞きたい言葉を言ってくれるのかな。
title by gleam
今だって、なんとなく窓の外に目をやって、ああどこかのクラスが体育の授業なんだな、体操服の色からすると2年だな、なんてぼんやりと考えていただけなのに、早速そこに彼女の姿があることに気付いてしまった。
背が高いから少し目立つのは確かだけれど、それだけの理由じゃないのは自分が1番よく知っている。
あれからも、俺達のつかず離れずの関係は相変わらずだった。
彼女は、友人という関係に満足しているのかもしれないと思う。確かに付き合うとなると面倒な事もあるし。
もしかしたらとっくに俺は恋愛対象から外れてしまったのかもしれない。
だったら俺は、とても無駄な事をしている事になる。恋なんてそんなものかもしれないけれど。
部活の後の自主練を終えて部室に戻るとドアを開けた瞬間に溜め息が出た。
誰だ、電気を消さずに帰ったヤツは。しかもこの季節に窓も開けたまま。
換気のつもりなんだろうけど、開けたなら閉めるくらいすればいいのにと三分の一くらい開いている窓に手をかけた。
真っ暗になった空を見上げてから、扉を閉めようと視線を落とした時だった。
体育館の外壁に身を寄せて隠れるようにしながらその正面玄関の様子を伺っている人影に気付いた。
それは見間違うはずもない後ろ姿。
噴出しそうになった口元を手で押さえて、音をたてないようにゆっくり窓を閉める。膝を抱えるように座り込みながら声を殺して笑った。
最近、帰り際に体育館を出たところでバッタリとなま恵に会うことがある。
そんな時はなんとなく一緒に帰るのだけれど、てっきり偶然だと思っていた。
いや多分最初は偶然だったんだろう。
仕組まれていたなんて気付かなかった。
そんな風に待ち伏せているのを目の当たりにすると自惚れてしまうんだけど。
待ち伏せされてることを知りながら正面口から出るのも何だか癪で。
こっそり裏口から出て彼女の背後に回り込んだ。足音をたてないようにゆっくりと。
「…何してるの?」
耳をつんざくような悲鳴と慌てて振り返った瞬間に足が縺れて尻餅をつく音。思わず声をあげて笑った
「神く~ん。ひどいよ~。」
半ベソかきながら恨めしげに見上げてくる。その表情がかわいいと思う。
「ごめんね」と手を差し出すと、少し驚いた顔をした彼女が俺の顔と手とを交互に見つめ、やがて遠慮がちにそれに触れる。
この手に触れるのは何ヶ月ぶりになるだろう。
握りしめた手に力を込めて引き上げた。
「…ありがと。」
どちらからともなく離れた指。
こんなところで何をしていたの、と、意地悪な事を聞いてみたい。
伺うような視線に気付いて「なに?」と問えば彼女は恐る恐る口を開く。
「…いつから見てた?」
「え?」
「だから…あたしがここにいるの…」
「ああ」と言いながら視線を逸らせた。
さて何と答えよう。
随分ネバってたね、なんて言ったら、君はどんな顔をするだろうか。
「んー、」
随分前から
「…え?」
「いつも見てるよ」
なんて臭い台詞。冗談めかさなければとても言えないけれど、それに賭けてみたいことがある。
「さ、帰ろ」
彼女の前に立ち歩き出した俺の背中から、少し緊張したような声が聞こえた。
「神くん…!神くん、あのね、」
足を止めて振り返る。
君はどんな言い訳をするのだろう。それとも…?
俺が聞きたい言葉を言ってくれるのかな。
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