番外編
久しぶりだった。
女の子にフラれたのは。
部活を理由にした彼女の気持ちは解らなくもなかった。
自分だってそれを理由に投げだした恋が無かったわけでない。
興味のない子を断るのにも取っておきの台詞だったが、これからは『部活』を理由にするのは止めようと思う位にはショックだった。
しかし人には落ち込んでいるようになど見えなかったらしい。
そんなに冷めた人間ではないつもりでいるけれど、自分にはバスケがあるから立ち直るのは早い方かもしれない。ただそれだけの事。
だからこの恋にも、既に心の整理は着けたつもりでいた。今までの子と同じように。それ以上でも以下でもない。
「…神さん…。」
モジッとシナを作る信長に嫌な予感がした。言いにくい事がある時、いつもこれから始まるのを知っているから。
「好きな人がいるんス」
へー、としか言いようがない。
「何?俺に橋渡しして欲しいの?って事は2年なんだ?」
面倒臭いなぁ、とは口に出さずにおく。
「いや、そんなんじゃなくて。」
言い澱む信長を前に、神は大きく息を吸ってチラリと天井を仰いだ。
恋愛相談というなら尚更面倒だ。とても自分が適任だとは思えない。
「神さんは今その…好きな人とか、いないんスか?」
「はァ?」
思いっきり迷惑そうな顔をして信長の顔を見た。
「お前に関係あるの、それ。」
口を尖らせた信長が視線を左右に散らしながら小さな声で続ける。
「…だから、その…、別れたバレー部の人とか。」
「………。」
何言ってんだよ、と殴ってやろうかとも思ったけれど、それを思い止まったのは小さなプライド。
彼女の事はもう忘れたのだからムキになる必要もない。
「…あぁ、そうゆうこと。」
信長が誰を好きになったって、どうでもいい事だ。例えそれがあの子であっても、自分にとやかく言う資格はないしそのつもりもない。
「いつの話してんだよ。とっくに終わってるよ。」
「え、そんなもんなんすか?」
信長が拍子抜けしたような顔をした。
「そんなもんだよ。」
別に嘘じゃない。
ただ…
「じゃ…、実は俺、告白しようと思うんス。」
そう来られるのが嫌だった。嫌な所をピンポイントで突いてくるのだ。この後輩は。
「ふーん、そうなんだ。」
平静を装えているか。否、動揺することでもないじゃないか。
「でも神さんが嫌かなぁと思って…」
世の中には、馬鹿だから可愛いいと言う言葉がある。
それでも可愛いばかりではないと思う。何せ相手は馬鹿だから。
目の前の馬鹿は自分に未だ傷は癒えていなかったのだと知らしめただけでなく、それをエグるような真似をしてくれる。
しかしチラリと様子を伺う彼には笑顔を返した。
「どうして俺が?」
いつも笑っているから何を考えているのかわからないと言われた事がある。
そうか、こういう事か。
負けず嫌いでプライドが高い。悔しがったり、ショックを受けているのを悟られるのが嫌なのだ。それが強ければ強い程、呆れるくらい平然と出来る。
「頑張りな。応援してるから。」
安堵の表情を見せた信長のそれが、やがてやる気へと変わるのが見てとれた。
「ウス」
少しはにかんだように彼は笑う。
こんな時まで先輩を立てようとする後輩が無性にムカついた。こんな時に限って素直でない自分にも。
信長と自分ではあまりにもタイプが違うけれど、もしかしたら彼女には信長の方が合っているのかもしれないと思う。
彼女だって、信長になら自分に見せなかった顔を見せる事が出来るかもしれない。それはそれで面白くないのだが。
「けどやっぱり嫌だな。お前と兄弟になるのは。」
「俺は全然平気っす!」
冗談に混ぜた本音はいとも簡単に蹴散らされる。
今度こそ頭を小突いてやった。
「その台詞、OKもらってから言いなよね。」
冗談が冗談で終わらなくなっても自分は笑っているのだろうか。
そしてよかったねと言うのだろうか。
「神さんが頑張れって言ってくれたから、上手くいきそうな気がするっす。」
胸に広がるモヤモヤを持ってきた本人は腹が立つ程無邪気だった。
「気のせいだよ、それ。」
上手くいってたまるもんか。
これじゃ俺が横恋慕してるみたいだけど、治りかけた傷口を開くような事をしたお前が悪いんだからな。
title by gleam
女の子にフラれたのは。
部活を理由にした彼女の気持ちは解らなくもなかった。
自分だってそれを理由に投げだした恋が無かったわけでない。
興味のない子を断るのにも取っておきの台詞だったが、これからは『部活』を理由にするのは止めようと思う位にはショックだった。
しかし人には落ち込んでいるようになど見えなかったらしい。
そんなに冷めた人間ではないつもりでいるけれど、自分にはバスケがあるから立ち直るのは早い方かもしれない。ただそれだけの事。
だからこの恋にも、既に心の整理は着けたつもりでいた。今までの子と同じように。それ以上でも以下でもない。
「…神さん…。」
モジッとシナを作る信長に嫌な予感がした。言いにくい事がある時、いつもこれから始まるのを知っているから。
「好きな人がいるんス」
へー、としか言いようがない。
「何?俺に橋渡しして欲しいの?って事は2年なんだ?」
面倒臭いなぁ、とは口に出さずにおく。
「いや、そんなんじゃなくて。」
言い澱む信長を前に、神は大きく息を吸ってチラリと天井を仰いだ。
恋愛相談というなら尚更面倒だ。とても自分が適任だとは思えない。
「神さんは今その…好きな人とか、いないんスか?」
「はァ?」
思いっきり迷惑そうな顔をして信長の顔を見た。
「お前に関係あるの、それ。」
口を尖らせた信長が視線を左右に散らしながら小さな声で続ける。
「…だから、その…、別れたバレー部の人とか。」
「………。」
何言ってんだよ、と殴ってやろうかとも思ったけれど、それを思い止まったのは小さなプライド。
彼女の事はもう忘れたのだからムキになる必要もない。
「…あぁ、そうゆうこと。」
信長が誰を好きになったって、どうでもいい事だ。例えそれがあの子であっても、自分にとやかく言う資格はないしそのつもりもない。
「いつの話してんだよ。とっくに終わってるよ。」
「え、そんなもんなんすか?」
信長が拍子抜けしたような顔をした。
「そんなもんだよ。」
別に嘘じゃない。
ただ…
「じゃ…、実は俺、告白しようと思うんス。」
そう来られるのが嫌だった。嫌な所をピンポイントで突いてくるのだ。この後輩は。
「ふーん、そうなんだ。」
平静を装えているか。否、動揺することでもないじゃないか。
「でも神さんが嫌かなぁと思って…」
世の中には、馬鹿だから可愛いいと言う言葉がある。
それでも可愛いばかりではないと思う。何せ相手は馬鹿だから。
目の前の馬鹿は自分に未だ傷は癒えていなかったのだと知らしめただけでなく、それをエグるような真似をしてくれる。
しかしチラリと様子を伺う彼には笑顔を返した。
「どうして俺が?」
いつも笑っているから何を考えているのかわからないと言われた事がある。
そうか、こういう事か。
負けず嫌いでプライドが高い。悔しがったり、ショックを受けているのを悟られるのが嫌なのだ。それが強ければ強い程、呆れるくらい平然と出来る。
「頑張りな。応援してるから。」
安堵の表情を見せた信長のそれが、やがてやる気へと変わるのが見てとれた。
「ウス」
少しはにかんだように彼は笑う。
こんな時まで先輩を立てようとする後輩が無性にムカついた。こんな時に限って素直でない自分にも。
信長と自分ではあまりにもタイプが違うけれど、もしかしたら彼女には信長の方が合っているのかもしれないと思う。
彼女だって、信長になら自分に見せなかった顔を見せる事が出来るかもしれない。それはそれで面白くないのだが。
「けどやっぱり嫌だな。お前と兄弟になるのは。」
「俺は全然平気っす!」
冗談に混ぜた本音はいとも簡単に蹴散らされる。
今度こそ頭を小突いてやった。
「その台詞、OKもらってから言いなよね。」
冗談が冗談で終わらなくなっても自分は笑っているのだろうか。
そしてよかったねと言うのだろうか。
「神さんが頑張れって言ってくれたから、上手くいきそうな気がするっす。」
胸に広がるモヤモヤを持ってきた本人は腹が立つ程無邪気だった。
「気のせいだよ、それ。」
上手くいってたまるもんか。
これじゃ俺が横恋慕してるみたいだけど、治りかけた傷口を開くような事をしたお前が悪いんだからな。
title by gleam