Secret lover
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あんな話を聞いてしまった以上、とても自分で答案用紙を返す勇気はなかった。
担任の教師にHRの時にでも渡してくれるように頼み込んでみる。我ながら、若輩者のくせになんという図々しさだろう。
放課後急にバスケ部を覗いてみようと思ったのは校門の辺りをウロウロしている例の生徒達の姿を見たから。
いつまでも逃げられるわけはないと分かっていても逃げられるうちは逃げておきたい。
バスケ部が使用している体育館はそれはそれは立派な建物だった。
公立高校出身の人間から見れば非常に贅沢に映る。
「恵まれてるわ~。」
こっそり体育館に足を踏み入れてその迫力に驚いた。
館内に響く地鳴りのような音は少々の声なら掻き消してしまうのではないかと思うほど。
そしてとにかく速い。
何をしているのかサッパリ分からない。
度々激しくぶつかる生徒達を見ていたらこちらの身体が痛くなってしまう。
しばらしてこちらに気づいた金平監督に軽く会釈をすると、彼は厳しい表情を少し緩めた。
「珍しいですね。」
「ええ、ま。たまには。」
選手達と軋轢があると聞くが悪い人ではない。一体何がそんなに気に入らないのか彼らに聞いてみたいくらいだ。
「流石、すごい迫力ですね。圧倒されてしまいますよ。」
「いや…」と彼は苦笑いする。
「派手なプレーは見ていて楽しいですけれどね、所詮それだけでは結果が見えているんです。」
よく意味は分からないがウンウンと頷いた。話を聞くことも勉強。実はルールさえもあやふやだが。
監督の話を理解しようと熱心に耳を傾けていたので、館内の音が静かになったのに気づくのが遅れた。
「なんや来てたんかいな。」
そこにはタオルで汗を拭う岸本の姿が。
彼はグイと無遠慮に腕を捕むと、まるで監督から引き離すかのようにグイグイ引っ張る。
「ま、待って。今、金平監督と話ししてんのに。」
「せんでええ。」
生徒と監督が上手く言っていないと聞いてはいたが、その邪険にしようはどうだろう。
そんなことを考えているうちに、岸本がわざわざ一年にパイプ椅子を用意さてしまったので帰るに帰れなくなってしまった。意味も分からずただコートを見詰める。
その間一度だけ南と目が合った。すぐにそらされてしまったが。
まあいい。見に来いと言われたから見に来たのだ。これでなんとなく責務を果たした気になっていた。
ところが、だ。
「パピ子っちゃ~ん!」
結局練習を最後まで見学して体育館を出た時だった。まるで待ち伏せていたかのように例の生徒達に捕まってしまった。
「何で今日に限ってバスケ部見にいってんねや。」
待ち伏せていたかのように、ではなく明らかに待ち伏せていたのだ。何と言う律儀さ。これを別のところで遺憾なく発揮してみては如何なものだろうか。
「これ見てや、俺、頑張ったやろ?」
ニヤニヤ笑いながら掲げられた答案用紙を見る気には到底なれなかったが、一応見るそぶりをしておく。
「ホンマやなぁ。次もこの調子で頑張ってー。」
じゃ。
チャキッと笑顔を貼り付けて颯爽と去る…ハズの腕が強い力で引きとめられた。
「なにスカシとんねん。約束やん。」
制服に染み付いた煙草の臭いが鼻をつく。
「約束?なんの?」
「なんのやあれへんがな~!」
その場に居た生徒達が声を上げた。
「ヤらせてくれる言うたやないか。せやから俺ら頑張ってんで?」
カンニングのくせに、とは言えない。その時間監督をしていた先生は一体何をやっていたのだと心から恨んでやりたい。
「いつの話?そんな事言ってないで?」
「90点取ったらって言ったやん。パピ子ちゃん『ハイハイ』って返事してんで。ハイを二回も言ってんで。」
そんなのこじ付けだ。
「それはな、『ハイその話はお終い』のハイや。イエスのハイと違う。」
「あっかんわ~。ハイはイエスのハイしかあれへん。」
心なしが生徒の顔つきが変わってきたような気がする。ドコまでが本気でドコからが冗談なのか分からないから怖い。
「…ま、待って。」
一生懸命気持ちを落ち着かせて逃げ口を探した。
「よーく考えて?犯罪になんでそれ。あたしが警察に捕まんねんで。あたしの人生台無しやねんで。」
「せやから黙っとくって言ってるやないか。」
「そういう問題やないって。」
「センセー」
急に生徒の声のトーンが下がった。
ビビる。正直恐ろしくて堪らない。
「せやったらコレをどうやって収めてくれんの?俺ら騙したん?」
騙すも何も言いがかりではないか。全く相手にしていられない。
…とは、口が裂けても言えずに黙り込む。
そんな時に背後から「そら、センセがあかんなぁ。」と新たな加担者の声が聞こえてきた。いっそ泣きたい。
こんな時に限って何故教師が通らないのか。
ゆっくりと声の主を振り返れば、一段と憎たらしい生徒の姿が目に映る。
「な、南もそう思うやろ。」
「せやけどな。」
彼はそう言って彼らの前に立った。
「点数クリアしたヤツ何人おるん?全員とヤったらなあかんの?そらしんどいで。」
イチニイ…とそこに集まった生徒達が自分達の数を数え始める。
「皆仲良くかいな。俺やったらごめんや。」
ナルホド…と頷く生徒達。そんなくだらない言葉に説得力があるとは。
それでも少し胸を撫で下ろした。
前言撤回させていただこう。無愛想なくせにイイヤツだ。南という生徒は。
「せやったらこん中で一番いい点数取った奴がその権利を貰えるっちゅーことでどうや?」
「え!?」
安心するのはまだ早かった。誰かが言い出したその提案に賛同の声があがる。
これじゃまるで景品だ。冗談じゃない。
縋るような視線を南に送ってみたが一瞥された。やっぱり憎たらしい事に変わりないと再確認。
「それやったら俺の勝ちや。98。」
「ええ!?」
その場に居た全員が南の言葉に驚いて首を突き出した。もちろん自分も。
なぜなら誰にも98点なんて点数をつけた記憶がないのだから。
しかし彼の手に掲げられた答案用紙には燦然と輝く98の赤い文字。
「誰か俺より上おるんか?」
手は挙がらない。
「せやったら…」
グイと強引に肩を引き寄せられドキリとした。背の高い、長い腕に。
「俺が貰って文句ないな?」
南はしゃあしゃあと、そう言ってのけたのだった。
担任の教師にHRの時にでも渡してくれるように頼み込んでみる。我ながら、若輩者のくせになんという図々しさだろう。
放課後急にバスケ部を覗いてみようと思ったのは校門の辺りをウロウロしている例の生徒達の姿を見たから。
いつまでも逃げられるわけはないと分かっていても逃げられるうちは逃げておきたい。
バスケ部が使用している体育館はそれはそれは立派な建物だった。
公立高校出身の人間から見れば非常に贅沢に映る。
「恵まれてるわ~。」
こっそり体育館に足を踏み入れてその迫力に驚いた。
館内に響く地鳴りのような音は少々の声なら掻き消してしまうのではないかと思うほど。
そしてとにかく速い。
何をしているのかサッパリ分からない。
度々激しくぶつかる生徒達を見ていたらこちらの身体が痛くなってしまう。
しばらしてこちらに気づいた金平監督に軽く会釈をすると、彼は厳しい表情を少し緩めた。
「珍しいですね。」
「ええ、ま。たまには。」
選手達と軋轢があると聞くが悪い人ではない。一体何がそんなに気に入らないのか彼らに聞いてみたいくらいだ。
「流石、すごい迫力ですね。圧倒されてしまいますよ。」
「いや…」と彼は苦笑いする。
「派手なプレーは見ていて楽しいですけれどね、所詮それだけでは結果が見えているんです。」
よく意味は分からないがウンウンと頷いた。話を聞くことも勉強。実はルールさえもあやふやだが。
監督の話を理解しようと熱心に耳を傾けていたので、館内の音が静かになったのに気づくのが遅れた。
「なんや来てたんかいな。」
そこにはタオルで汗を拭う岸本の姿が。
彼はグイと無遠慮に腕を捕むと、まるで監督から引き離すかのようにグイグイ引っ張る。
「ま、待って。今、金平監督と話ししてんのに。」
「せんでええ。」
生徒と監督が上手く言っていないと聞いてはいたが、その邪険にしようはどうだろう。
そんなことを考えているうちに、岸本がわざわざ一年にパイプ椅子を用意さてしまったので帰るに帰れなくなってしまった。意味も分からずただコートを見詰める。
その間一度だけ南と目が合った。すぐにそらされてしまったが。
まあいい。見に来いと言われたから見に来たのだ。これでなんとなく責務を果たした気になっていた。
ところが、だ。
「パピ子っちゃ~ん!」
結局練習を最後まで見学して体育館を出た時だった。まるで待ち伏せていたかのように例の生徒達に捕まってしまった。
「何で今日に限ってバスケ部見にいってんねや。」
待ち伏せていたかのように、ではなく明らかに待ち伏せていたのだ。何と言う律儀さ。これを別のところで遺憾なく発揮してみては如何なものだろうか。
「これ見てや、俺、頑張ったやろ?」
ニヤニヤ笑いながら掲げられた答案用紙を見る気には到底なれなかったが、一応見るそぶりをしておく。
「ホンマやなぁ。次もこの調子で頑張ってー。」
じゃ。
チャキッと笑顔を貼り付けて颯爽と去る…ハズの腕が強い力で引きとめられた。
「なにスカシとんねん。約束やん。」
制服に染み付いた煙草の臭いが鼻をつく。
「約束?なんの?」
「なんのやあれへんがな~!」
その場に居た生徒達が声を上げた。
「ヤらせてくれる言うたやないか。せやから俺ら頑張ってんで?」
カンニングのくせに、とは言えない。その時間監督をしていた先生は一体何をやっていたのだと心から恨んでやりたい。
「いつの話?そんな事言ってないで?」
「90点取ったらって言ったやん。パピ子ちゃん『ハイハイ』って返事してんで。ハイを二回も言ってんで。」
そんなのこじ付けだ。
「それはな、『ハイその話はお終い』のハイや。イエスのハイと違う。」
「あっかんわ~。ハイはイエスのハイしかあれへん。」
心なしが生徒の顔つきが変わってきたような気がする。ドコまでが本気でドコからが冗談なのか分からないから怖い。
「…ま、待って。」
一生懸命気持ちを落ち着かせて逃げ口を探した。
「よーく考えて?犯罪になんでそれ。あたしが警察に捕まんねんで。あたしの人生台無しやねんで。」
「せやから黙っとくって言ってるやないか。」
「そういう問題やないって。」
「センセー」
急に生徒の声のトーンが下がった。
ビビる。正直恐ろしくて堪らない。
「せやったらコレをどうやって収めてくれんの?俺ら騙したん?」
騙すも何も言いがかりではないか。全く相手にしていられない。
…とは、口が裂けても言えずに黙り込む。
そんな時に背後から「そら、センセがあかんなぁ。」と新たな加担者の声が聞こえてきた。いっそ泣きたい。
こんな時に限って何故教師が通らないのか。
ゆっくりと声の主を振り返れば、一段と憎たらしい生徒の姿が目に映る。
「な、南もそう思うやろ。」
「せやけどな。」
彼はそう言って彼らの前に立った。
「点数クリアしたヤツ何人おるん?全員とヤったらなあかんの?そらしんどいで。」
イチニイ…とそこに集まった生徒達が自分達の数を数え始める。
「皆仲良くかいな。俺やったらごめんや。」
ナルホド…と頷く生徒達。そんなくだらない言葉に説得力があるとは。
それでも少し胸を撫で下ろした。
前言撤回させていただこう。無愛想なくせにイイヤツだ。南という生徒は。
「せやったらこん中で一番いい点数取った奴がその権利を貰えるっちゅーことでどうや?」
「え!?」
安心するのはまだ早かった。誰かが言い出したその提案に賛同の声があがる。
これじゃまるで景品だ。冗談じゃない。
縋るような視線を南に送ってみたが一瞥された。やっぱり憎たらしい事に変わりないと再確認。
「それやったら俺の勝ちや。98。」
「ええ!?」
その場に居た全員が南の言葉に驚いて首を突き出した。もちろん自分も。
なぜなら誰にも98点なんて点数をつけた記憶がないのだから。
しかし彼の手に掲げられた答案用紙には燦然と輝く98の赤い文字。
「誰か俺より上おるんか?」
手は挙がらない。
「せやったら…」
グイと強引に肩を引き寄せられドキリとした。背の高い、長い腕に。
「俺が貰って文句ないな?」
南はしゃあしゃあと、そう言ってのけたのだった。