Secret lover
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どこかで期待していたからこそ、そんな事言ってほしくなかった。
続けて何かを言おうと南の唇が動く。
それを聞くのか怖くて逃げるように走り出していた。
手に持っていた荷物のせいなのか、南は追いかけて来なかった。
ほんの少しの距離なのにアパートの下に着く頃には息が上がっていて、それを落ち着かせるように階段の上り口の壁に背を預けて深呼吸する。
息を切らせたまま南と別々に部屋に戻るわけにはいかないような気がした。
「大丈夫」
走ったせいでアルコールが余計にまわった頭で、自分は土屋のことが好きなんだと言い聞かせる。
落ち込んでいた自分のそばにいてくれたのは、側で待っていてくれたのは、南ではなかった。
わかっているのに。それなのに。
目を閉じて上唇と下唇をきつく結ぶ。
土屋と仲直りするために来たはずなのに、神様は意地悪だ。
ゆっくりと目を開けると向こうから歩いてくる南の姿が視界に映った。
一方的に終わらされる辛さを知っているのに、自分勝手を押し通すことなど出来ない。
南が追いつくのを待って、それでも彼が隣に並ぶより先に階段を登ろうとしたが、その行手を遮るように目の前に腕が伸ばされて再び壁に背をつけた。
反射的に目の前の南を見上げる。
「今度は逃げる理由、あれへん」
「理由って…」
あなたにも彼女がいるでしょうと言ったら、彼は何と返すのだろう。
核心に触れてしまいそうで、すると他に言葉が見つからなくて俯く。
「おもっ」
不意に南が手に持っていた荷物を乱暴に置いた。そんな置き方をしてビールは大丈夫なんだろうかと思ったそれが思わず口をついてでた。
「ビールが…」
その袋を取るために体を捻ると、その動きを封じるように腕を取られた。そしてそのまま広い胸に引き寄せられる。土屋のそれとは違う匂い。逆らわずに身体を預けて目を閉じると、このままどうなってもいいように思えてしまうのは多分アルコールのせいだ。
短いようで長い時間が経ったのか、長いようで短い時間だったのか。
目を開いて「酔ってるわ」と呟く。
そして「急がんと、皆んな待ってんで」と南の胸を両手で押しやると、重い扉のようにゆっくりとそれが離れた。
1度目偶然、2度奇跡、3度目必然、と言う言葉が頭を過ぎる。
もう一度会ったらそれは運命なのだと言うのなら。
「もう、こんなことせんといて」
これ以上は自分の気持ちが分からなくなってしまうから、やっぱり逃げるしかなくて階段を駆け上がった。
「…なぁ、遅ない?」
部屋の壁にかかった時計を見上げながら土屋が言った。
「そうかー?」
「もう帰ってくるんちゃう」
土屋が「ちょっと見てくるわ」と立ち上がると、「何焦ってんねーん」と茶化す声が上がったが、彼はそれに取り合おうとはせず玄関に向かった。
靴をつっかけて扉を開け、目の前にある外廊下の手すりからコンビニ方面に視線をやる。
人工的な灯りを頼りにまばらな人影に目を凝らしたが、その中に探す人影はなさそうだ。
遠くを見遣っていたそれを戻そうとして視線が階下を捉える。
切り揃えられた長い前髪の下から覗く目が瞬きする事を忘れて釘付けになった。
「……」
無表情でしばらくそこを見ていた土屋だったが、やがて踵を返し部屋の中へ入った。
すかさず声がかかる。
「南おったかー」
「…もうすぐ戻ってくるんとちゃうか」
部屋に入るとガチャガチャした空気が襲いかかってきて、さっきまでのことが嘘のように思えた。
「おー来た来た」
手を差し出してきたのは一番入り口に近いところに座っていた人で、素直に買い物袋を渡して自分が座っていたところに視線をやると、きちんとスペースは確保されていた。
遅れて南が入ってくる。
逃げるように、人の背中を避けながら土屋の隣に座った。
「お疲れさん」
「ん」
ふとした事で、何かに気づかれてしまうのではないかと酷く緊張して、いつもならこんな時どうしていただろう、顔を見た方がよかっただろうかと変な居心地の悪さを感じてしまう。
「どしたん?」
「え?」
驚いて反射的に土屋を見上げた。
涼しげな目が鋭く感じたのは気のせいだろうか。
「目、赤ない?」
「……」
頭の中が大急ぎで言い訳を弾き出そうとしていると「南に襲われたんか?」と茶化す声が聞こえた。
「せやから2人で行かせたらアカン言うたやんけ」
「そんなこと…」
否定しようとした声を遮る南のそれ。
「アホなセンコーが階段でコケよった」
一瞬見開かれた土屋の目が、心配そうに顔を覗き込んだ。
「ケガせーへんかった?」
「大丈夫」
顔が近い。
それから逃れるように顎を引くと、土屋の指が顎に添えられて顔を上げるよう促される。
「ホンマ?俺には何も隠さんといてな?」
身体中から汗が吹き出たように思う。
「そこ、いちゃつくなや」
「彼女、おっちょこちょいやねんなー」
その時、リングプルを開ける軽快な音とともに悲鳴が上がった。
「何やこれ!」
「南!お前ビール落としたな!」
そちらに顔を向けた反動で顎から指が離れた。缶から噴き出るビールを見た土屋が慌ててタオルを取りに立つ。
「アホかお前!」
「わざとや」
土屋を手伝うために立ち上がると、南と目が合った。
続けて何かを言おうと南の唇が動く。
それを聞くのか怖くて逃げるように走り出していた。
手に持っていた荷物のせいなのか、南は追いかけて来なかった。
ほんの少しの距離なのにアパートの下に着く頃には息が上がっていて、それを落ち着かせるように階段の上り口の壁に背を預けて深呼吸する。
息を切らせたまま南と別々に部屋に戻るわけにはいかないような気がした。
「大丈夫」
走ったせいでアルコールが余計にまわった頭で、自分は土屋のことが好きなんだと言い聞かせる。
落ち込んでいた自分のそばにいてくれたのは、側で待っていてくれたのは、南ではなかった。
わかっているのに。それなのに。
目を閉じて上唇と下唇をきつく結ぶ。
土屋と仲直りするために来たはずなのに、神様は意地悪だ。
ゆっくりと目を開けると向こうから歩いてくる南の姿が視界に映った。
一方的に終わらされる辛さを知っているのに、自分勝手を押し通すことなど出来ない。
南が追いつくのを待って、それでも彼が隣に並ぶより先に階段を登ろうとしたが、その行手を遮るように目の前に腕が伸ばされて再び壁に背をつけた。
反射的に目の前の南を見上げる。
「今度は逃げる理由、あれへん」
「理由って…」
あなたにも彼女がいるでしょうと言ったら、彼は何と返すのだろう。
核心に触れてしまいそうで、すると他に言葉が見つからなくて俯く。
「おもっ」
不意に南が手に持っていた荷物を乱暴に置いた。そんな置き方をしてビールは大丈夫なんだろうかと思ったそれが思わず口をついてでた。
「ビールが…」
その袋を取るために体を捻ると、その動きを封じるように腕を取られた。そしてそのまま広い胸に引き寄せられる。土屋のそれとは違う匂い。逆らわずに身体を預けて目を閉じると、このままどうなってもいいように思えてしまうのは多分アルコールのせいだ。
短いようで長い時間が経ったのか、長いようで短い時間だったのか。
目を開いて「酔ってるわ」と呟く。
そして「急がんと、皆んな待ってんで」と南の胸を両手で押しやると、重い扉のようにゆっくりとそれが離れた。
1度目偶然、2度奇跡、3度目必然、と言う言葉が頭を過ぎる。
もう一度会ったらそれは運命なのだと言うのなら。
「もう、こんなことせんといて」
これ以上は自分の気持ちが分からなくなってしまうから、やっぱり逃げるしかなくて階段を駆け上がった。
「…なぁ、遅ない?」
部屋の壁にかかった時計を見上げながら土屋が言った。
「そうかー?」
「もう帰ってくるんちゃう」
土屋が「ちょっと見てくるわ」と立ち上がると、「何焦ってんねーん」と茶化す声が上がったが、彼はそれに取り合おうとはせず玄関に向かった。
靴をつっかけて扉を開け、目の前にある外廊下の手すりからコンビニ方面に視線をやる。
人工的な灯りを頼りにまばらな人影に目を凝らしたが、その中に探す人影はなさそうだ。
遠くを見遣っていたそれを戻そうとして視線が階下を捉える。
切り揃えられた長い前髪の下から覗く目が瞬きする事を忘れて釘付けになった。
「……」
無表情でしばらくそこを見ていた土屋だったが、やがて踵を返し部屋の中へ入った。
すかさず声がかかる。
「南おったかー」
「…もうすぐ戻ってくるんとちゃうか」
部屋に入るとガチャガチャした空気が襲いかかってきて、さっきまでのことが嘘のように思えた。
「おー来た来た」
手を差し出してきたのは一番入り口に近いところに座っていた人で、素直に買い物袋を渡して自分が座っていたところに視線をやると、きちんとスペースは確保されていた。
遅れて南が入ってくる。
逃げるように、人の背中を避けながら土屋の隣に座った。
「お疲れさん」
「ん」
ふとした事で、何かに気づかれてしまうのではないかと酷く緊張して、いつもならこんな時どうしていただろう、顔を見た方がよかっただろうかと変な居心地の悪さを感じてしまう。
「どしたん?」
「え?」
驚いて反射的に土屋を見上げた。
涼しげな目が鋭く感じたのは気のせいだろうか。
「目、赤ない?」
「……」
頭の中が大急ぎで言い訳を弾き出そうとしていると「南に襲われたんか?」と茶化す声が聞こえた。
「せやから2人で行かせたらアカン言うたやんけ」
「そんなこと…」
否定しようとした声を遮る南のそれ。
「アホなセンコーが階段でコケよった」
一瞬見開かれた土屋の目が、心配そうに顔を覗き込んだ。
「ケガせーへんかった?」
「大丈夫」
顔が近い。
それから逃れるように顎を引くと、土屋の指が顎に添えられて顔を上げるよう促される。
「ホンマ?俺には何も隠さんといてな?」
身体中から汗が吹き出たように思う。
「そこ、いちゃつくなや」
「彼女、おっちょこちょいやねんなー」
その時、リングプルを開ける軽快な音とともに悲鳴が上がった。
「何やこれ!」
「南!お前ビール落としたな!」
そちらに顔を向けた反動で顎から指が離れた。缶から噴き出るビールを見た土屋が慌ててタオルを取りに立つ。
「アホかお前!」
「わざとや」
土屋を手伝うために立ち上がると、南と目が合った。
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