Secret lover
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早く終わってほしい、否、少しでも長く傍に居たい。
アルコールと一緒に、矛盾する感情がグルグルと回った。
土屋を好きな気持ちに偽りはない。
そう頭では思いながら、南をみたらドキドキしてしまう胸の中を抑えられない。
届きそうで届かないもどかしさが、あの日の後悔がそうさせるのだとして、それでも後悔しない方法なんて、実際それが過ぎさった今、過去のこととして客観的に考えてみたって分からない。
南は自分が意識するのも馬鹿らしいほど普通の南だった。
帰りたいと思っていたはずなのに、此処に居座って、自分は一体何を期待しているのだろうか。
苦い泡が喉を通り抜けて落ちていったその先から、知りたいという欲求が沸々と沸いてくる。
―――アンタの部屋に行ったら、知らんオバハン出てきよったわ
期待させるような言動の真意はどこにあるのだろうか。
しかし、そう思った側から、よもや自分が、彼に恋愛感情云々といったものを期待などするはずがないし、してはならないのだと思い直す。
それでいて、自身の感情を消化するための決定的なものの存在を期待している。
否、本当は、その場所が空席であってほしいと、思っている。
そこに自分が座るつもりなどないのに。
「前のインカレでな…」
「それ聞いたわー。実業団の…」
畑違いな自分には到底割り込む余地のない話が頭上を掠めてゆく。
「飲みものはどこや?」
「出てるだけや」
「足らんやんけ」
それでも気を張っていたせいか、彼らの会話の中に混じったそれには敏感に反応することができた。
「あ、私、買いに行ってくるよ」と口を挟むと、すかさず土屋に「えーよ、男に行かしたら」と返された。
「でも…」
「ほなオレが一緒に行ってくるわ」
ごく自然に発せられたそれ。
立ち上がろうと腕をついて片膝を立てた南を土屋の細い目が上目遣いに捉えた。
「なんでやねん。行くならオマエ一人で行けや」
「何でオレ一人やねん。テゴになったる言うてんねや」
途中で動きを止めた南が土屋に視線を返す。
二人が何やらグズグス言い始めたのに便乗して、今度は努めて静かに立ち上がった。
しかし狭い部屋の中で、それに気づかない者はいない。
土屋が座ったまま振り返り仰ぎ見る。
「行くん?」
「…うん。近いし…サッと行ってくるわ」
「ほなボクが…」
言いながら立ち上がろうと片膝を立てた土屋のそれに、隣に座っていたチームメイトが手をかけて制しながら「過保護やのー」と呆れたような声を出した。
「えーやんけ、南と行かせたら。教え子やねんから、思っくそコキ使うたったらええねん。なぁセンセ?」
同意を求められても曖昧に笑って返すことしかできない。
「オレをコキ使ったら高つくで」
「こんなヤツと行かせられるかアホウ」
そして口を開けば土屋と南はずっとこの調子だ。
仲がいいのか悪いのか…と半ば呆れながら、それでも、いつも斜に構えたような南と、やけに大人びている土屋の違う一面が見れるのは、面白いと思わなくもない。
なんだかんだで世間一般の男の子なんだな、と的外れな事を思った。
「一人で行けますぅお構い無く~」
二人のやり取りを邪魔しないように小声で呟きながら、座っている人たちの背後を縫うようにして玄関に向かう。
「仲ええの、お前ら。付き合ったらどうや」
「スマン南。オレ、そっちの方はアカンねん」
「オレもや。安心したわ」
下らない冗談にもキッチリ返すのはお国柄。
しかしそうしながらも土屋は、視界の隅ではしっかりと彼女の姿を追っていた。
そして部屋を抜けたところで、後を追おうと立ちあがる。
「お前、座わっとれや。家主おれへんなったらこの部屋悲惨やぞ」
しかし南の発したその台詞にギョッとして動きを止めた。
彼は比較的潔癖の部類だった。
それでなくても、勝手に家捜しされるのはたまったものではない。
「まぁ南の言う通り…保証はできひんな」
「ぶざけんなお前、二度と部屋入れへんぞ」
ほかのチームメイトと土屋のやり取りを尻目に、今度は南がゆっくりとした動きで立ちあがった。
そんな事とは知らぬ##NAME1##は、背後で何やら揉めているのを気に留めないことにして、サッサと出掛けてしまうつもりだった。
買い物を届けたらそのまま家に帰ろうかとも考える。
内輪の飲み会に部外者は不要だ。
ドアに片手をついてパンプスを履き、踵を軽く床に叩きつけると、目の前に散乱している大きなバッシュのひとつに誰かが足を突っ込んだ。
無意識に顔をあげてそれか誰であるか確認した途端、思わずドアから手を離し壁に身体を寄せた。
「行くで」
南は促すように一度こちらを見てから、ドアを押し開けると目の前をすり抜けて外へ出てゆく。
「……え」
戸惑いつつ部屋を振り替えると土屋と目があった。
「「パピ子さ…」
何か言いかけた土屋のそれに気づかない振りをして笑顔を返したのは咄嗟の事。
「ほな行ってくるわ」
そう言いながら、振り返らすドアの向こうへと踏み出した。
ドアチェックの付いたスチール製の扉は、放っておいてもキッチリ閉まるはずだからと、逃げるように扉から離れる。
外は初夏の夜の香り。
アルコールが気を大きくさせたのだ。
土屋に後ろめたく思うことも、南にドギマギすることも馬鹿らしく思えた。
アルコールと一緒に、矛盾する感情がグルグルと回った。
土屋を好きな気持ちに偽りはない。
そう頭では思いながら、南をみたらドキドキしてしまう胸の中を抑えられない。
届きそうで届かないもどかしさが、あの日の後悔がそうさせるのだとして、それでも後悔しない方法なんて、実際それが過ぎさった今、過去のこととして客観的に考えてみたって分からない。
南は自分が意識するのも馬鹿らしいほど普通の南だった。
帰りたいと思っていたはずなのに、此処に居座って、自分は一体何を期待しているのだろうか。
苦い泡が喉を通り抜けて落ちていったその先から、知りたいという欲求が沸々と沸いてくる。
―――アンタの部屋に行ったら、知らんオバハン出てきよったわ
期待させるような言動の真意はどこにあるのだろうか。
しかし、そう思った側から、よもや自分が、彼に恋愛感情云々といったものを期待などするはずがないし、してはならないのだと思い直す。
それでいて、自身の感情を消化するための決定的なものの存在を期待している。
否、本当は、その場所が空席であってほしいと、思っている。
そこに自分が座るつもりなどないのに。
「前のインカレでな…」
「それ聞いたわー。実業団の…」
畑違いな自分には到底割り込む余地のない話が頭上を掠めてゆく。
「飲みものはどこや?」
「出てるだけや」
「足らんやんけ」
それでも気を張っていたせいか、彼らの会話の中に混じったそれには敏感に反応することができた。
「あ、私、買いに行ってくるよ」と口を挟むと、すかさず土屋に「えーよ、男に行かしたら」と返された。
「でも…」
「ほなオレが一緒に行ってくるわ」
ごく自然に発せられたそれ。
立ち上がろうと腕をついて片膝を立てた南を土屋の細い目が上目遣いに捉えた。
「なんでやねん。行くならオマエ一人で行けや」
「何でオレ一人やねん。テゴになったる言うてんねや」
途中で動きを止めた南が土屋に視線を返す。
二人が何やらグズグス言い始めたのに便乗して、今度は努めて静かに立ち上がった。
しかし狭い部屋の中で、それに気づかない者はいない。
土屋が座ったまま振り返り仰ぎ見る。
「行くん?」
「…うん。近いし…サッと行ってくるわ」
「ほなボクが…」
言いながら立ち上がろうと片膝を立てた土屋のそれに、隣に座っていたチームメイトが手をかけて制しながら「過保護やのー」と呆れたような声を出した。
「えーやんけ、南と行かせたら。教え子やねんから、思っくそコキ使うたったらええねん。なぁセンセ?」
同意を求められても曖昧に笑って返すことしかできない。
「オレをコキ使ったら高つくで」
「こんなヤツと行かせられるかアホウ」
そして口を開けば土屋と南はずっとこの調子だ。
仲がいいのか悪いのか…と半ば呆れながら、それでも、いつも斜に構えたような南と、やけに大人びている土屋の違う一面が見れるのは、面白いと思わなくもない。
なんだかんだで世間一般の男の子なんだな、と的外れな事を思った。
「一人で行けますぅお構い無く~」
二人のやり取りを邪魔しないように小声で呟きながら、座っている人たちの背後を縫うようにして玄関に向かう。
「仲ええの、お前ら。付き合ったらどうや」
「スマン南。オレ、そっちの方はアカンねん」
「オレもや。安心したわ」
下らない冗談にもキッチリ返すのはお国柄。
しかしそうしながらも土屋は、視界の隅ではしっかりと彼女の姿を追っていた。
そして部屋を抜けたところで、後を追おうと立ちあがる。
「お前、座わっとれや。家主おれへんなったらこの部屋悲惨やぞ」
しかし南の発したその台詞にギョッとして動きを止めた。
彼は比較的潔癖の部類だった。
それでなくても、勝手に家捜しされるのはたまったものではない。
「まぁ南の言う通り…保証はできひんな」
「ぶざけんなお前、二度と部屋入れへんぞ」
ほかのチームメイトと土屋のやり取りを尻目に、今度は南がゆっくりとした動きで立ちあがった。
そんな事とは知らぬ##NAME1##は、背後で何やら揉めているのを気に留めないことにして、サッサと出掛けてしまうつもりだった。
買い物を届けたらそのまま家に帰ろうかとも考える。
内輪の飲み会に部外者は不要だ。
ドアに片手をついてパンプスを履き、踵を軽く床に叩きつけると、目の前に散乱している大きなバッシュのひとつに誰かが足を突っ込んだ。
無意識に顔をあげてそれか誰であるか確認した途端、思わずドアから手を離し壁に身体を寄せた。
「行くで」
南は促すように一度こちらを見てから、ドアを押し開けると目の前をすり抜けて外へ出てゆく。
「……え」
戸惑いつつ部屋を振り替えると土屋と目があった。
「「パピ子さ…」
何か言いかけた土屋のそれに気づかない振りをして笑顔を返したのは咄嗟の事。
「ほな行ってくるわ」
そう言いながら、振り返らすドアの向こうへと踏み出した。
ドアチェックの付いたスチール製の扉は、放っておいてもキッチリ閉まるはずだからと、逃げるように扉から離れる。
外は初夏の夜の香り。
アルコールが気を大きくさせたのだ。
土屋に後ろめたく思うことも、南にドギマギすることも馬鹿らしく思えた。