Secret lover
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危うい心の隙間に、その言葉が染み込んで沈む。
「なにそれ。…私は、信用されてないねんな?」
言いながら心の中にある矛盾に気づいていた。
「そんな事言ってない。話の流れやんか」
けれど、だからと言って土屋の手を離すつもりはないのに。
「思ってるからやろ?せやなかったらそんな言葉出て来ぃひん!」
「なんでそうなんねん」
「だってそういう事やんか!」
過剰な反応は、やましい心の裏返しだ。
見透かされてしまいそうで怖いからだ。
「##NAME1##さん」と土屋が深く息を吐く。
「気ぃ悪くしたんなら謝るわ。ごめんな」
土屋に頭を下げられて##NAME1##は自身の言動にハッとした。
整理出来ない気持ちが行き場をなくして悲鳴をあげている。
今ここに立っている自分が嫌で嫌でたまらない。
溢れそうになる涙を唇を噛んでこらえた。
「…違うねん」
声が震えるのを抑えようと体に力をいれて、
「ホンマは土屋くんに怒ってるんやない。小さな事を気にして、イライラしてる自分自身に腹が立ってんねん」
泣いている事がバレてしまわないようにと両手で額を覆い俯いた。
「せやからごめん。また八つ当たりしてしまいそうやから帰って。お願い」
「これ以上嫌なコになりたない」と呟いたそれは本音だった。
嫌われたいわけじゃない。簡単に手放してしまえるならとっくにそうしている。
「…わかった」
土屋のその返事にホッとした反面、言いようのない寂しさが襲ってくる。
一人残された部屋で自分が泣いている理由など、##NAME1##自身にも分からなかった。
そんな事があった次の週末は部屋にこもりっぱなしだった。
もしかしたら土屋が来てくれるのではないかという自分勝手な期待は見事に裏切られた。
それはそうだ。
あの日我が儘放題言って彼を追い出したのは自分なのだから、こちらから会いに行くべきなのだ。
頭では理解していたが、いざとなると漠然とした不安が出てきて、次の週も、さらにその次の週も、##NAME1##は独りの週末を過ごしてしまった。
時間の経過が2人の関係を悪化させる事くらい分かっていた。
##NAME1##が漸く重い腰をあげたのはその週末の事だった。
仕事帰りに直行するのではなく、身仕度を整えるために一旦アパートに帰った。
ついネガティブなことが頭を過ぎるなか、それでも念入りにシャワーを浴びて丁寧に化粧をした。
あまり余所行きな格好はやり過ぎかもしれないと、わりとラフな服を選んで出かけた。
週末の夜は、平日のそれとは違う香りがする。
そんな事を思いながら歩いてきた##NAME1##は、土屋の住むアパートの前で違和感に気づいた。
「あら…?電気ついてない?」
不安は的中した。
土屋の部屋の呼び鈴を鳴らしても部屋から人が出てくる気配はない。
##NAME1##は時計を見て時間を確認した。
自主練に夢中になっていたと言うには遅すぎるだろう。
それでも待っていようと思った。それが贖罪の一部にでもなるのなら、何時間でも待っていようと。
時折下の道路を見下ろして、人影を確認しながら随時時間が経ったように思う。
もしかしたら今日は帰って来ないのかもしれないと、そう思い始めた頃、一際騒がしい集団が階段を上ってくるのに気づいた。
「ホンマ勘弁してや。部屋汚されるのマジで嫌やねんて」
「せやから大丈夫やて。なぁ?」
「おぅ。散らかさんし、エロ本探したりもせぇへんし、ご近所迷惑にならんように大人しするし。」
「せやせや。」
「嘘やん!絶っっ対汚ななるやん!」
若い男の子の集団のようだ。
このアパートは学生や独身者向けのものだったから、特に珍しくはない。
それにしたって、もう既にご近所迷惑な集団だよね##NAME1##は心の中で呟いた。
そして待ちぼうけを食らっている自分が少し格好悪く思えて髪の毛を弄ぶフリをしながら、どうかこの階の住人ではありませんようにと祈った。
「アイツらに場所連絡した?」
「なんや結局合流するんかいな」
しかし運の悪いことに五月蝿い集団の声が上階へ向かう様子はなかった。
壁に背を預けて顔を隠すように俯き、パンプスのつま先を見つめる。
そして集団が早く通り過ぎてくれることを祈った。
しかし不意に耳に届いた「あれ…?」と言う声が、待ちわびていた人のものとよく似ていて、声の方に顔を向ける。
人よりも背の高い、いかにもスポーツをしている学生たちの集団といったその中に彼は居た。
「…あ」
##NAME1##は驚いた土屋の顔を認めてから、彼の周りに居る人たちを一通り見た。
そして酷くタイミングが悪かった事を知る。
ここはとりあえず退散しようと口を開きかけた時だ。
「あ~あ」
集団から抜け出した土屋が##NAME1##の隣に並んで友人と思われる人たちに向き直った。
「残念。彼女来てるから今日は無理やわ」
ニッコリと目を細めて「ごめんな」と手を振った。
##NAME1##は慌ててそれを否定する。
「あ、私、たまたま近くを通ったついでに寄っただけで約束してたわけと違うし、お友達と居るなんて知れへんかったから…」
「帰るわ」と、足を踏み出すより先に学生たちが思い思いに口を開き始めた。
「どうも始めまして~。俺らコイツのチームメイトで…」
「うわ、ジブン土屋の彼女なん?」
「なんで無理やねん、一緒に飲んだらええやん。ここまで来てもーたんやし」
彼らはどうあってもここから帰る気はないらしく、一気にその場が騒がしくなった。
「お前ら煩いわ、近所迷惑や!」
たまらずたしなめる土屋の声も大きいもので、##NAME1##は思わず「とりあえず入ってもらったら?」と耳打ちした。
「…そうやな」
彼は酷く不本意そうな顔で、ポケットから取り出した鍵をドアに差し込む。
ドアが開くや否や彼らは一斉になだれ込んだ。
「ほら、ジブンも」
中の一人が##NAME1##の手を引く。
「え…、あ…ちょっと靴…」
玄関を覆い尽くすように脱ぎ散らかされた靴を踏んではまずいだろうと、踏み込むことを躊躇していると、土屋の手が##NAME1##の腕を掴むそれを払った。
「気安く触んな阿呆」
「土屋くんこわ~い」
「煩いわ、さっさ入れ」
「はいはい、彼女、帰ったらアカンよ~」
カラカラ笑いながら部屋に入って行く友人の背中を見送ってから、土屋は首を傾けるようにしてすまなそうな視線を寄こした。
「酒入ってるし、アホばっかりやし、もう何言っても聞かへんわ…」
##NAME1##は何でもないというふうに笑顔を作った。
「ええやん、楽しそうで」
「まぁ…そうやけど…」
そう言って何か言いよどむような土屋の様子に、漠然と嫌な予感を覚えた。
「あの…」
「今日、時間ある?」
当にギクリとして##NAME1##は土屋を見上げた。
「気のいい奴らやから、ちょっとつきあったってくれる?」
「あ、うん、いいよ全然」
ことさら明るい声を出して笑顔を作った。
すると彼もニコリと目を細める。
「ごめんな、せっかくきてくれたのに」
その表情を見ただけで、その言葉を聞いただけで、胸の中につかえていたものがス…と消えてゆく。今度こそ自然に笑顔になっていた。
「…ううん、こっちこそ…」
「土屋ー!何してんねや!早よ来いや!」
二人の空間を引き裂くように向こうから声があがった。
「来られへんわなぁ!エロい事してんねやろ?」
土屋がぱっと顔を上げる。
「するかボケ!お前と一緒にすんなや」
土屋は奥に向かってそう言うと、振り向き様に身をかがめた。
そして風が掠めていくようなキスをして、部員たちの待つ部屋に飛び込んで行った。
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