Secret lover
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「これは君の仕業デスカ?」
両手で持ったクマのぬいぐるみを左右に傾けながら問うと土屋はしばし口をつぐんだ。
「え?違う?」
「いや、正解」
それは大晦日の前日。
選抜帰りの東京土産を届けに来たと言って部屋を訪れた土屋はあっさりとそれを認めた。
「よーわかったなぁ。サプライズのつもりやったのになってないわ。」
「他におらんし。」
「わ、サミシー。ほな何であの時間に部屋におらんかったん?」
「買い物しててん。」
「一人で?」
「せや」
「めっちゃサミシー…」
土屋は哀れな者を見るような視線を寄越した。
「ほなあたしにコレくれた土屋くんはどうなの?自分かて他にあげる人おらへんかったんやろ、さみしー。」
負けじと言い返すと土屋はフンと自信ありげな笑みを浮かべた。
「何を言うてますの。イブに僕からプレゼント待ってた女の子は山ほどおるっちゅーねん。」
「あっらー、泣きたくなるような強がり言うてるわこの子」
「没収」
咄嗟にぬいぐるみを抱きかかえて、伸びてきた土屋の手をかわした。
「あかん、今年唯一の戦利品やねんで!」
「そこは土屋くんから貰ったことを喜んでくれる?」
「せやな、ありがとう」と改めて礼を言うと土屋は嬉しそうに目を細めた。
「どういたしまして。彼女やったら奮発するんやけどなー。」
「いや、十分やん。寂しい乙女心に染みたで。気障な高校生やわーって、ちょっとイラっとしたけど。」
「イラって何ー?そこはキュンとして欲しいわ。」
思わず笑うと土屋も笑顔で続ける。
「ホンマやで。男が女にプレゼントなんて下心なかったらせぇへんし。」
「へー、何の下心?悪いけど物理教えるんはちょっと苦手やで。」
「ほな やっぱ返して」と伸ばされた土屋の両手を軽く叩いた。
「返さへんって」
土屋が目を細める。
「せやったら代わりに僕のポイント上げといてや。」
「ええよ。何のポイントかわからんけど上がったと思うで、多分。」
「そら 使い道のないポイントやなぁ。」
ソファーに腰を下ろして眉尻を下げる土屋を横目に背を向ける。
「何かお礼せなあかんなぁ。」
ぬいぐるみを丁寧に棚に戻しながらそう言うと「ええよ、たいしたもんやないし」と土屋が返事を返した。
「いつもお世話になってるお礼の気持ちや思っといて。」
「でも気になるわー。ええっと…ネクタイとか無難に…」
そう言ってハタと気づき土屋を振り返った。
「あれ?土屋くんは進学するん?就職するん?」
「春から大学生やで」
サラリと土屋が答えた。そんな話題が今まで出なかったのもどうかと思う。
「あら?推薦もらったって事?」
「そ。スポーツ推薦やけど。」
「ええやん。あら、知らんかったわ。よかったね、オメデトウ。」
「ありがとうございます。」
話の流れからごく自然に「ドコの大学?」と問ってみた。すると土屋は「んー」と背もたれに身体を預けて言いよどむ。
「南はどこの大学受けるん?」
「はァ?」
何でそこで南の名前が出てくるのだ、と口を尖らせたいところを堪えた。何も知らない土屋に悪気はないのだろう。
けれどバスケのライバルだからって進学先も気になるのだろうか。
「知らーん」
「え?マジで?」
土屋が目を丸くしながら身体を起こす。
「マジでマジで。」
「…またー。」
「せやかてあたしは臨時やし、他の先生ほど進学率とか就職率とか気にしてへんもん。」
そのうち嫌でも耳に入るかもしれないが、聞かずにすむのならそれに越したことはない。
すると土屋は「ふーん」と言いながら視線を落とした。
「ほな岸本は?」
「知らんって。自分で聞きや。」
「いやや、鬱陶しい。」
「…君、結構難しい子やねんな。」
「せやで。」
どうやら進学先を教えたくなのだろうと察して、話題を元に戻すことにした。
「ほな、合格のお祝いとプレゼントのお礼を兼ねて何か考えとくわ。…ネクタイでええな?」
「少しも考えてないやん。」
「ええやん、他に思いつかへんのやもん」と笑うと、土屋は少し顎をあげて何か考える素振りを見せた。
「ほな、僕がリクエストしてもいい?」
「あ、ええよ。何が欲しいん?高いものは無理やでー。」
すると彼は、そんじょそこらの高校生が簡単に作れないような究極に爽やかな笑みを浮かべた。
「キスしてくれる?」
まさかそんな台詞が出てくるとは夢にも思っていなかったので、土屋を見据えたまま絶句してしまった。
「何、その顔。自分どんだけ高いねん。」
「…あのねぇ…」
フーと深いため息をつき、飛び上がった心臓を鎮めようと努めながら再び顔を上げる。
ニッコリ笑った土屋がチョンチョンと自分の頬を指で指した。
「ここ。外国の映画とかでよくやってるやろ?」
「ええ?」
今度は違う意味で驚いてしまった。
「…そんなんでええの?」
「ええよ。」
「君、変わった子やなぁ。」
「せやろ。オバちゃんのチュー経験してみたいと思っててん。唇は遠慮しとくわ。」
「……①グー、②パー、どっちでいきましょ?」
「ほな③の熱い抱擁もらえます?」
自惚れかもしれないが、なんとなく、もしかしたらと、土屋の言動にそう思う時がある。
仮にそうだとしても応えるつもりはないから、知らない振りを続けるつもりだ。
けれどいつだってこんなふうに逃げ道を作ってくれる彼だから、一人で居るには寂しすぎて、しかし新しい恋が出来るほど振り切れたわけでもない心には、その微妙な距離感が心地よく感じた。
「了解。ネクタイね。」
「本人の意見は無視やねんな。」
「そう。アタシのチューは高いねん。」
例え求められたそれが冗談半分のままごとみたいなキスだったとしても、まだ今は、この唇に最後に触れた人が南のままであって欲しかった。
2008/09/25(Thu)