Secret lover
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「ごっそーさん」
「おおきに」
彼等の行きつけであるというお好み焼き屋でまんまと奢らされる羽目になった。
「他の子らには内緒にしといてよ?」
ああ今月の生活費が…と思いながら財布を仕舞いこむ。
「わかっとるって。[#da=1#]ちゃんと俺らの秘密、な。」
耳元で囁いた岸本に肩を竦めつつ「気をつけて帰り」と二人を促した。
「センセ家はどこや。」
「あ?あぁ、えーと。駅はどっち?」
実はまだ豊玉高校周辺の地理を完全に把握出来ていなかった。大学進学のために大阪に来たのだ。もともとあまり詳しくない。
「あかんなぁ。送ったるわ。」
「いい、いい。帰れる。」
岸本の有り難い申し出を断る。
「ここらあんまり治安が良くないねんで。センセ可愛いから心配やわ。」
「生徒に心配されなくても大丈夫。」
「そういやこないだの通り魔…」
フと南が遠くを見遣る。
「この先やったわ。まだ捕まってなかったな。」
岸本もチラリと時計を見るそぶりをした。
「………。」
「随分遅くなってもーたし。センセに何かあったら俺らの中にずーっとトラウマとして残んねんで。」
「センセにも俺らもにも一生消えへん傷が残んねんで。」
…生徒にだけは知られたくなかったのに。
結局彼等はアパートの前までついてきてしまった。
「ここで大丈夫やから。」
「部屋の前まで送るわ。」
「大丈夫です!」
このうえ部屋まで知られては堪らない。
「ほら、もうこんな時間。君らもはよ帰り。家の人が心配すんで。」
二人を追い返そうと手を振った時だった。
「あ、アカン。腹痛なってきた。トイレ貸してや。」
岸本が腹部を押さえながら身体を折り曲げた。
「豚玉の豚が当たったんと違うか。トイレ貸したり。」
南がそう言うが絶対に嘘だ。
「コンビニ行って。」
「うわっ冷た!ヤバッ!急がな漏れてまうやん!」
岸本が青筋をたてる。
「トイレくらい貸したり。岸本に恥かかす気ぃか?」
高校生ともなると一筋縄ではいかず、結局自分はこの二人に上手いように扱われていると思う。
「おー。ええなぁ。女の一人暮らし。」
ズカズカと上がり込んで来た岸本が部屋を物色し始める。
「トイレはそっち。」
「あ、そうか。」
所詮忘れるくらいの便意なのだ。そもそも上がり込む為の口実だったに違いないのだが。
トイレへ向かう岸本を見送って振り返れば南がドッカリとソファーに腰を下ろしている。
汗くさいジャージで座るなと喚きたい気持ちを必死で抑えた。
「喉渇いたな。」
図々しすぎる。
目眩がしそうだ。
「岸本君すぐ来んで。お茶飲んでる暇なんかないやん。」
その言葉通り岸本はすぐに出てきた。
「トイレもお洒落にしとんで南。お前も見に行ってみ。」
「そんな事より茶もでて来んねん、この家。」
「なんや、気が利かんのー。俺ら客人やで。」
恐らく限界を超えたのだ。
「早く帰れーッ!!」
思わず怒鳴っていた。
キョトンとした二人組は顔を見合わせ、やがて声をあげて笑い出す。
「わ、パピ子ちゃんが怒った。」
「怒れんねや。」
そこがツボなのか?笑い事ではないと思うが。
「怒るわ!どんだけ図々しいんや!一応女の一人暮らしやねんで!?」
肩を震わせながら南が視線を寄越す。
「なんや。一応生徒も男やて意識してんねや。」
顔が熱くなった。
意識しているわけではない。でも男だ。それも高校生ともなれば立派な。
「なに馬鹿な事言って…!」
「今日な、」
笑う南を見たのは恐らく初めてではないだろうか。
「ちょっと見直してんアンタ。」
「は?」
「あんなふうに突っかかって行くやなんて思えへんかってん。アンタも他の奴らみたいに事勿れ主義な教師や思てたわ。」
南の言葉にドキリとした。
そんなつもりはなかったが、生徒と上手くやっていこうという気持ちがそんな風に見られていたとは。
「いくらからかわれても怒れへんし。バスケの顧問かてホンマはやりたなかったんやろ。体育館だって一回も覗きに来いひんもんな。流しとこってのが見え見えやってん。」
返す言葉を探せずにいると、岸本がその後を継ぐ。
「好き嫌いがはっきりしとるからな南は。今日は珍しく助け舟出しよるから俺もびっくりしてん。」
生徒は思ったより人を見ていて、そして正直だ。
「ほな帰んで。」
ただ立ち尽くしているその隣を擦り抜けて二人は玄関に向かった。
「部屋番覚えとこ。」
不吉な言葉に慌てて振り返った。
「ちょ…!」
「わかっとるって。」
岸本が嫌な笑みを見せる。
「今日の事は俺らの秘密な。ここに来た事は誰にも言わへんから。」
頷くしかない。
「たまには練習見に来いや。俺に惚れんで。」
「阿呆」と岸本の肩を軽く押しながら南も振り返る。
「ほな、な。今度は茶くらい出したってや。」
「今度って…。」
また来るつもりなのだろうか。
二人が姿を消した扉をしばし呆然と眺めた。
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