Secret lover
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
盆休みが明けると、相変わらず賑やかなバスケ部の体育館で南や岸本の姿を見かけなくなった。
国体の近畿ブロック予選を目前にして、盆明けからは本格的にそちらの練習に参加しているからだ。
今年の国体は代表校ではなく選抜メンバーで臨む。IHでは惨敗だった豊玉だが、国体の選抜メンバーに学校の生徒が3人も選出されていることでなんとかバスケ強豪校のメンツを保っていた。
「試合、夏休み最後の週の土曜日らしいで。」
「へぇ。」
そんな事は知っている。
先日電話をしてきた土屋に見に来ないかと誘われたのは記憶に新しかった。勿論バッサリ断ったが。
豊玉のバスケ部員たちは監督に交渉して、その日の部活を午後からにしてもらい試合を見に行くと言う。確かに大阪ではトップクラスの選手が集まったチームの試合だ、見る価値はあるのだろう。
「あたしは行かへん。遠いし。」
「冷たいなぁ。ウチのエースらが出るっちゅーのに。」
「色々仕事残ってんねん。」
「せやかてもしかしたら、南さんはこれが最後かもしれへんねんで。」
「あ、そっか。」
その言葉に見事に引っ掛かってしまった。
南は希望する学部への進学の為に夏を最後に部を引退する事になっていた。正確には国体が終わるまでだが。
これが卒業してしまえば会うこともなくなる彼のプレーを見る最後の機会になるかもしれないと思うと、急にこの目に焼き付けておきたくなる。嫌になるくらい女である自分が出て来てどうすることも出来なかった。
「パピ子ちゃん!来てくれたんか!」
ロビーをウロウロしていると突然名前を呼ばれて振り向く。
「ブフッ」
その瞬間に飛び込んできた岸本の長い腕に避ける間もなくギュウウと力任せにハグされた。顔がちょうど岸本の胸に埋まって声も出せない状態になってしまう。
「なんだかんだ言いながら試合見に来るあたり、やっぱ俺に惚れとるなー、さては。」
「…く、くるし」
その身体を両腕で押しやろうともがくと、岸本も腕の力を緩めた。かと思えば不意に後ろからケツを蹴られた彼が再度前のめりに倒れこんでくる。
「すぐにウロチョロすな言うてるやろうがお前は。小学生か。」
「うおっ」
真正面から岸本に押し倒されそうになった恐怖と言ったらない。この体格差だ、病院行きになる可能性だってある。
「ヒッ!」
「…ととっ」
そこを自慢の脚力でなんとか踏ん張った岸本が青筋を立てながら後ろを振り返る。
「何すんじゃダアホ!パピ子ちゃんを押し倒すとこやったやないか!俺は構わんけど!」
「構うでそこは!」と叫んだ声と「あ?」と不機嫌そうに聞き返してきた声が重なった。
次に声の主と目が合う。
「………。」
思わず絶句したのはそれが南だったから。
あれからそんなに日は経っていないけれど、随分久しぶりに視線を合わせた気がする。
「………。」
少し驚いた顔をした南に「応援しに来てん。他の部員も来てるで。」と伝えると彼は小さく「…ああ」と答えた。
そしてロビーに部員がいないか探す素振りで視線を逸らせる。
「おい、行くで。」
「…小姑め。」
「なんやと?」
「ま、まぁまぁ…」
二人をなだめようと小さく手を挙げると、それが目に入らない様子で南が背を向けた。岸本が舌打ちしながらその後を追う。
「が、頑張りやー」
「楽勝やで」
激励の言葉に振り返って応えたのは岸本だけで、それが殊更胸を締め付けた。
元々南はそんなに愛想のいいタイプでないけれど、それでもその態度のひとつひとつが今までと違うように思えしまう。
振り向きもせず遠ざかる後ろ姿を見送りながら、矛盾と葛藤が渦巻く心中を自分ではどうにもできない。
「おい、土屋」
同じく大阪選抜チームのチームメイトであり今回共に大栄学園から選ばれた長身の眼鏡が、足を止めて動かない土屋の様子に気付いて声をかけた。
その視線の先を辿って理由に気付く。少し寂しげな面持ちで何かを見遣る若い女性に見覚えがあったからだ。
「あれ、こないだ合宿で会うた人やな。行かんでええんか。」
「あぁ、別に。」
素っ気なく答えて土屋が控え室へと歩き出す。
決して少なくはない恋愛経験で培った勘は、時として武器になり、そして足枷にもなる。
「…岸本…ではないよな、流石に」
「なん?」
「いや…」
アイツ俺にパス出さん気や思うで、と冗談で流して土屋は笑った。
国体の近畿ブロック予選を目前にして、盆明けからは本格的にそちらの練習に参加しているからだ。
今年の国体は代表校ではなく選抜メンバーで臨む。IHでは惨敗だった豊玉だが、国体の選抜メンバーに学校の生徒が3人も選出されていることでなんとかバスケ強豪校のメンツを保っていた。
「試合、夏休み最後の週の土曜日らしいで。」
「へぇ。」
そんな事は知っている。
先日電話をしてきた土屋に見に来ないかと誘われたのは記憶に新しかった。勿論バッサリ断ったが。
豊玉のバスケ部員たちは監督に交渉して、その日の部活を午後からにしてもらい試合を見に行くと言う。確かに大阪ではトップクラスの選手が集まったチームの試合だ、見る価値はあるのだろう。
「あたしは行かへん。遠いし。」
「冷たいなぁ。ウチのエースらが出るっちゅーのに。」
「色々仕事残ってんねん。」
「せやかてもしかしたら、南さんはこれが最後かもしれへんねんで。」
「あ、そっか。」
その言葉に見事に引っ掛かってしまった。
南は希望する学部への進学の為に夏を最後に部を引退する事になっていた。正確には国体が終わるまでだが。
これが卒業してしまえば会うこともなくなる彼のプレーを見る最後の機会になるかもしれないと思うと、急にこの目に焼き付けておきたくなる。嫌になるくらい女である自分が出て来てどうすることも出来なかった。
「パピ子ちゃん!来てくれたんか!」
ロビーをウロウロしていると突然名前を呼ばれて振り向く。
「ブフッ」
その瞬間に飛び込んできた岸本の長い腕に避ける間もなくギュウウと力任せにハグされた。顔がちょうど岸本の胸に埋まって声も出せない状態になってしまう。
「なんだかんだ言いながら試合見に来るあたり、やっぱ俺に惚れとるなー、さては。」
「…く、くるし」
その身体を両腕で押しやろうともがくと、岸本も腕の力を緩めた。かと思えば不意に後ろからケツを蹴られた彼が再度前のめりに倒れこんでくる。
「すぐにウロチョロすな言うてるやろうがお前は。小学生か。」
「うおっ」
真正面から岸本に押し倒されそうになった恐怖と言ったらない。この体格差だ、病院行きになる可能性だってある。
「ヒッ!」
「…ととっ」
そこを自慢の脚力でなんとか踏ん張った岸本が青筋を立てながら後ろを振り返る。
「何すんじゃダアホ!パピ子ちゃんを押し倒すとこやったやないか!俺は構わんけど!」
「構うでそこは!」と叫んだ声と「あ?」と不機嫌そうに聞き返してきた声が重なった。
次に声の主と目が合う。
「………。」
思わず絶句したのはそれが南だったから。
あれからそんなに日は経っていないけれど、随分久しぶりに視線を合わせた気がする。
「………。」
少し驚いた顔をした南に「応援しに来てん。他の部員も来てるで。」と伝えると彼は小さく「…ああ」と答えた。
そしてロビーに部員がいないか探す素振りで視線を逸らせる。
「おい、行くで。」
「…小姑め。」
「なんやと?」
「ま、まぁまぁ…」
二人をなだめようと小さく手を挙げると、それが目に入らない様子で南が背を向けた。岸本が舌打ちしながらその後を追う。
「が、頑張りやー」
「楽勝やで」
激励の言葉に振り返って応えたのは岸本だけで、それが殊更胸を締め付けた。
元々南はそんなに愛想のいいタイプでないけれど、それでもその態度のひとつひとつが今までと違うように思えしまう。
振り向きもせず遠ざかる後ろ姿を見送りながら、矛盾と葛藤が渦巻く心中を自分ではどうにもできない。
「おい、土屋」
同じく大阪選抜チームのチームメイトであり今回共に大栄学園から選ばれた長身の眼鏡が、足を止めて動かない土屋の様子に気付いて声をかけた。
その視線の先を辿って理由に気付く。少し寂しげな面持ちで何かを見遣る若い女性に見覚えがあったからだ。
「あれ、こないだ合宿で会うた人やな。行かんでええんか。」
「あぁ、別に。」
素っ気なく答えて土屋が控え室へと歩き出す。
決して少なくはない恋愛経験で培った勘は、時として武器になり、そして足枷にもなる。
「…岸本…ではないよな、流石に」
「なん?」
「いや…」
アイツ俺にパス出さん気や思うで、と冗談で流して土屋は笑った。