Secret lover
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「あたしバスケの事は詳しないけど、君らのバスケ好きやわ。見てて楽しいし、ドキドキするもん。いちファンとして応援してるから、頑張ってよ。」
そう言って彼らを見送った次の日、自らも新幹線のホームに居た。しかも一人ではなく、ガラの悪い高校生達を引き連れて、である。
「頼むから行儀よくしててや?」
「わーっとるって、シツコイなぁ。俺らホンマは紳士やねんで?」
「へー気付かへんかったわ、紳士諸君。」
是非バスケ部の応援をしたいという在学生を引き連れて広島まで行くのは仕事ではない。
「パピ子ちゃんも行くんやろ?」と言われて頷いたのが運の尽き…一緒に行くと言った覚えはないけれど、何故かこうなってしまっている。有志応援団を引率しているのだと思って諦める事にした。
トラブルもなく無事広島駅に到着し、降り立った場所から在来線の方へと抜ける。駅前には広島市内らしい独特の風景が広がっていた。
「わー路面電車…じゃない地図地図」
鞄から引っ張り出した地図を頼りに会場にたどり着き、ようやく一息着こうと席を陣取る。
途端に持参の応援グッズを取り出して騒ぎ出した生徒たちに、もはや何を言うのも無駄な気がした。
IHはお祭りなのだ。選手にとっても、応援団にとっても。
多少は大目に…と思っていた矢先、他校の生徒を追い掛けまわし始めた生徒たちに金切り声をあげる。試合開始前の緊張感にドキドキする余裕もない。
「来たで!」
「ほんまや」
コートに出てきた選手達がやけに輝いて見えたのはIHの魔力。
「…俺さっきな、北野んジーサン…あかん岸本が聞いたらキレられるわ、北野先生によう似た人見たで。」
「…え?誰?」
そして番狂わせもまた、IHの魔力だったのか。
隣り合わせた生徒が発した言葉には初めて聞く名が含まれていて、そしてそこで初めて全国大会に賭けた彼らの思いを知ったのだった。
「センセー、そない泣いても負けてもーたんはしゃーないやん。」
「なんっっでそない切り替え早いねん!」
まさか初戦で敗退するなんて思ってもみなかった。相手は無名校だったというのに。
「なぁ、これからどないすんねん。まだ昼やで、大阪帰るのは早いんと違うか。」
「………ちょ、あの子らに会いにバスケ部が泊まってる旅館に…」
「やめとけ。」
「せや、でりかしーなさすぎやで。」
それもそうだ。
会いに言ったところでかける言葉など見つけられそうにない。
「…ほなせっかくやから他の競技を…」
「俺パス」
「俺も。」
そこでここは円満に現地解散となった。
お土産は駅で買うことにして、特に行きたいところも思いつかないし…となれば同じ地区の誼みとして同じく今日行われる大栄戦を見に行こうと考えた。別会場だから移動は面倒だが。
ところが会場にたどり着くと試合はとっくに終わっていて、客席も既に入れ替わっている。
貼り出されていた試合結果から大栄は難なく勝ち進んだことを知った。
嬉しくないことはないがこれがどうして豊玉ではなかったのだろうと考えてしまう。
次の試合は全く知らない高校同士のもので、しかしせっかく来てしまったのだし、客席もガラガラだし、とりあえずこの試合だけ見て大阪に帰ることにした。
ハーフタイムの合間にトイレに立ち、再び客席に戻ろうと観客席の扉に手をかけた時だった。
「おった!」
自分の事などとは思いもしなかったが、その声に反射的に振り返り驚く。
試合を終えてとっくに会場から引き上げていると思っていた大栄のジャージが目に飛び込んできたからだ。
「…あれ?なんで?」
「それはこっちの台詞や。試合見てたら向こうによく似た人がおるからびっくりしたわ。」
走ってきたのだろう、そう言った土屋の髪は少し乱れていた。
「広島には来てるやろ思てたけど、まさかこの会場に来てるやなんて。僕らの試合見に来てくれはったん?」
そう言われると結局は試合を見ていないので申し訳ない気分になる。
「あーせっかく広島に来たんやからついでにと思たんやけど…着いたら終わっ…」
説明していると不意に土屋の手が背中に添えられ優しく促される。
「…あ、スイマセン」
そこで入り口前を封鎖していたことに気づき、席に戻ろうとしていた観客らしき人に頭を下げた。
「そうやと思うわ、豊玉の試合見てから来はったんでしょ?」
その手はやんわりと遠慮がちに添えられたままで、それに導かれて客席の入り口から少し奥まったところで再び足を止めるとようやく離れた。
「どうでした?初戦は問題なさそうやったけど。」
その表情からはよもや一回戦で豊玉が負けるなどとは露ほども思っていないことが伺えて切なくなる。
「……え?」
思わず曇った表情を彼は見逃さなかった。
「なに?」
「…あかん、思い出したら…」
再び熱くなる目頭に慌てて顔を逸らし瞬きを繰り返す。
「……うそ」
「ホンマやねん。いい試合してんやけど…」
彼らが夢を賭けた最後の夏は、あまりにも呆気なく終わってしまったのだ。
彼らにあんな真剣な表情をさせることが出来るのはバスケを於いて他にない。
「土屋くん、試合始まるし、はよ席に戻らな。」
「泣いてる女性を置いてくような教育は受けてません。」
思わず吹き出すとそれに合わせてポロリと涙が零れ落ちた。
「あ、笑かすから…」
一度決壊してしまうと直ぐに止めるのは難しく、マスカラが取れないように指先でそれを拭いながら精一杯誤魔化そうと努力する。
「アカン。パピ子さん泣かせてもーた。」
「はははは!」
笑い声は自分のおでこと彼の広い胸板とが触れた事により途切れた。後頭部には土屋の大きな手が添えられていて、そこで彼に引き寄せられた事に気づく。
「こんな顔人に見せたらあかん。隠しとかな。」
「じ、ジャージ汚れんで。」
「もう汗くさくなってるからええよ。はよ泣いてしまい。」
残念やったね、と小さな声が聞こえて頷く。
「…めっちゃ、頑張ってたんやで…」
土屋の心遣いに初めて見た南たちの涙が脳裏を掠め視界を歪める。
その胸を借りてしまったのは『俺は男でアンタは女やん』とあの時南が言った言葉を思い出せなかったから。
もしこんな風に、有り得ない事だけど南が弱い所を自分の前にさらけ出してくれたならば、そう、今の土屋がそうであるように仮に恋愛感情がなかったとしても、彼を抱き締めていいのではないかと、それほど彼の胸は温かかった。
そう言って彼らを見送った次の日、自らも新幹線のホームに居た。しかも一人ではなく、ガラの悪い高校生達を引き連れて、である。
「頼むから行儀よくしててや?」
「わーっとるって、シツコイなぁ。俺らホンマは紳士やねんで?」
「へー気付かへんかったわ、紳士諸君。」
是非バスケ部の応援をしたいという在学生を引き連れて広島まで行くのは仕事ではない。
「パピ子ちゃんも行くんやろ?」と言われて頷いたのが運の尽き…一緒に行くと言った覚えはないけれど、何故かこうなってしまっている。有志応援団を引率しているのだと思って諦める事にした。
トラブルもなく無事広島駅に到着し、降り立った場所から在来線の方へと抜ける。駅前には広島市内らしい独特の風景が広がっていた。
「わー路面電車…じゃない地図地図」
鞄から引っ張り出した地図を頼りに会場にたどり着き、ようやく一息着こうと席を陣取る。
途端に持参の応援グッズを取り出して騒ぎ出した生徒たちに、もはや何を言うのも無駄な気がした。
IHはお祭りなのだ。選手にとっても、応援団にとっても。
多少は大目に…と思っていた矢先、他校の生徒を追い掛けまわし始めた生徒たちに金切り声をあげる。試合開始前の緊張感にドキドキする余裕もない。
「来たで!」
「ほんまや」
コートに出てきた選手達がやけに輝いて見えたのはIHの魔力。
「…俺さっきな、北野んジーサン…あかん岸本が聞いたらキレられるわ、北野先生によう似た人見たで。」
「…え?誰?」
そして番狂わせもまた、IHの魔力だったのか。
隣り合わせた生徒が発した言葉には初めて聞く名が含まれていて、そしてそこで初めて全国大会に賭けた彼らの思いを知ったのだった。
「センセー、そない泣いても負けてもーたんはしゃーないやん。」
「なんっっでそない切り替え早いねん!」
まさか初戦で敗退するなんて思ってもみなかった。相手は無名校だったというのに。
「なぁ、これからどないすんねん。まだ昼やで、大阪帰るのは早いんと違うか。」
「………ちょ、あの子らに会いにバスケ部が泊まってる旅館に…」
「やめとけ。」
「せや、でりかしーなさすぎやで。」
それもそうだ。
会いに言ったところでかける言葉など見つけられそうにない。
「…ほなせっかくやから他の競技を…」
「俺パス」
「俺も。」
そこでここは円満に現地解散となった。
お土産は駅で買うことにして、特に行きたいところも思いつかないし…となれば同じ地区の誼みとして同じく今日行われる大栄戦を見に行こうと考えた。別会場だから移動は面倒だが。
ところが会場にたどり着くと試合はとっくに終わっていて、客席も既に入れ替わっている。
貼り出されていた試合結果から大栄は難なく勝ち進んだことを知った。
嬉しくないことはないがこれがどうして豊玉ではなかったのだろうと考えてしまう。
次の試合は全く知らない高校同士のもので、しかしせっかく来てしまったのだし、客席もガラガラだし、とりあえずこの試合だけ見て大阪に帰ることにした。
ハーフタイムの合間にトイレに立ち、再び客席に戻ろうと観客席の扉に手をかけた時だった。
「おった!」
自分の事などとは思いもしなかったが、その声に反射的に振り返り驚く。
試合を終えてとっくに会場から引き上げていると思っていた大栄のジャージが目に飛び込んできたからだ。
「…あれ?なんで?」
「それはこっちの台詞や。試合見てたら向こうによく似た人がおるからびっくりしたわ。」
走ってきたのだろう、そう言った土屋の髪は少し乱れていた。
「広島には来てるやろ思てたけど、まさかこの会場に来てるやなんて。僕らの試合見に来てくれはったん?」
そう言われると結局は試合を見ていないので申し訳ない気分になる。
「あーせっかく広島に来たんやからついでにと思たんやけど…着いたら終わっ…」
説明していると不意に土屋の手が背中に添えられ優しく促される。
「…あ、スイマセン」
そこで入り口前を封鎖していたことに気づき、席に戻ろうとしていた観客らしき人に頭を下げた。
「そうやと思うわ、豊玉の試合見てから来はったんでしょ?」
その手はやんわりと遠慮がちに添えられたままで、それに導かれて客席の入り口から少し奥まったところで再び足を止めるとようやく離れた。
「どうでした?初戦は問題なさそうやったけど。」
その表情からはよもや一回戦で豊玉が負けるなどとは露ほども思っていないことが伺えて切なくなる。
「……え?」
思わず曇った表情を彼は見逃さなかった。
「なに?」
「…あかん、思い出したら…」
再び熱くなる目頭に慌てて顔を逸らし瞬きを繰り返す。
「……うそ」
「ホンマやねん。いい試合してんやけど…」
彼らが夢を賭けた最後の夏は、あまりにも呆気なく終わってしまったのだ。
彼らにあんな真剣な表情をさせることが出来るのはバスケを於いて他にない。
「土屋くん、試合始まるし、はよ席に戻らな。」
「泣いてる女性を置いてくような教育は受けてません。」
思わず吹き出すとそれに合わせてポロリと涙が零れ落ちた。
「あ、笑かすから…」
一度決壊してしまうと直ぐに止めるのは難しく、マスカラが取れないように指先でそれを拭いながら精一杯誤魔化そうと努力する。
「アカン。パピ子さん泣かせてもーた。」
「はははは!」
笑い声は自分のおでこと彼の広い胸板とが触れた事により途切れた。後頭部には土屋の大きな手が添えられていて、そこで彼に引き寄せられた事に気づく。
「こんな顔人に見せたらあかん。隠しとかな。」
「じ、ジャージ汚れんで。」
「もう汗くさくなってるからええよ。はよ泣いてしまい。」
残念やったね、と小さな声が聞こえて頷く。
「…めっちゃ、頑張ってたんやで…」
土屋の心遣いに初めて見た南たちの涙が脳裏を掠め視界を歪める。
その胸を借りてしまったのは『俺は男でアンタは女やん』とあの時南が言った言葉を思い出せなかったから。
もしこんな風に、有り得ない事だけど南が弱い所を自分の前にさらけ出してくれたならば、そう、今の土屋がそうであるように仮に恋愛感情がなかったとしても、彼を抱き締めていいのではないかと、それほど彼の胸は温かかった。