Secret lover
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南と岸本が大人しく席に座り落ち着いたのを見計らって再び授業を進めようとした時だった。
耳に聞こえる微かな電子音にイラっとすると同時に再びやる気を削がれた事にガックリと肩を落とす。
振り返れば先程と同じ生徒がまたゲームをやっていた。これみよがしに机の上で堂々と。
腹の中に溜まっていたものが沸点を超えた。
ツカツカと生徒の前まで歩み寄り、ゲーム機を取り上げる。
「何すんねや」
生徒の長く茶色い前髪の下から威嚇するような目が覗く。
「次やったら没収って言ったやろ。」
「知らんわ。はよ返せ。」
「やる気がないなら出てって。他の人の迷惑や。」
突然大きな椅子の音が響いた。
「何やとコラ!」
勢いよく立ち上がったその生徒に驚いたってもんじゃない。殴られるという恐怖心が一瞬にして体中を駆け抜けた。
「俺が授業受けたらいかんっちゅーんか!?」
震える足をしっかり踏ん張って、恐怖心を必死で隠す。
「誰もそんな事言ってない。」
「パピ子ちゃ~ん。俺ら平等に授業受ける権利があるんと違う?」
面白がってなのだろう。他の生徒達が横槍を入れ始めた。
「ほんまやで。教師が俺らの権利を奪ってまうんか~」
次々にあがる生徒達の非難の声に真っ白になった頭の中がグルグルと回る。
落ち着いて対処しようにももうそんな余裕は何処にもなかった。
どうしてここに立っているのかさえ分からない。
「その辺にしとったり。」
その声で身体にかかっていた金縛りが解けた。
「センセが登校拒否になってまうで。」
有り難い声の主を確認すべく視線で辿ればそこには頬杖をついた南。くだらない、そう言いた気な覇気のない顔をして。
「なんや南、お前どっちの肩持つ気やねん。」
「別にどっちでもええねんけどな。ウチの顧問やから助けたんねん。な、南。」
ニヤニヤと笑いながら言った岸本の一言に、そこらへんで野次っていた生徒達は皆一様に驚いた顔をした。
そうなのだ。
実はバスケ部の顧問をしている。というか無理やり押し付けられたのだが。
顧問と言っても名ばかりで、もちろん経験などない。ズブの素人。
ウチのように立派な監督がいる部の顧問なんて、実際何かの公式試合のときの書類にサインするくらいの仕事しかない。
それでも他の先生方がやりたがらなかったのは、もちろんたまに休みを潰されるなどの理由もあるが、それよりも選手と監督との間に拭いきれない確執があることにを知っているからだ。
面倒なことからは極力逃れたい先生方にまんまとその責務を押し付けられてしまったというわけだ。
「監督だけでも十分ウザいのに顧問までウザいのに代わられたらかなんで。」
バスケ部のせいで迷惑を被るかもしれないと危惧した事はあったが、バスケ部に救われる事があるとは思ってもみなかった。
元々大して本気でもなく、からかいたかっただけの生徒達は二人の手前すんなりと退く。発起人の生徒だけは教室を出てしまったが、この場が収まったことに安堵した。
「南君!岸本君!」
放課後、体育館に向かう二人を見掛けてその後を追った。昼間のお礼を言っておきたい。
「さ、さっきは、ありがとう。」
ちょっと急いだだけですぐにあがる息を整えながら何とか用件を伝えた。
岸本が大きな目をぐりぐりさせながら見下ろしてくる。
デカイ。迫力。
「なあ、センセ。ホンマに感謝しとるん?」
「ほんまほんま。君達にはめっちゃ感謝してる。助かったわ。ありがと。」
その言葉に岸本はニヤリと笑った。
「ほなお礼してくれるんやろ?」
「え」
「今度デートしたってや。」
またか…と溜息をつく。
「残念、特定の生徒を特別扱いすることはできません。」
「お堅いのぉ。飯くらい奢りや。部活の後めっちゃ腹減んねん。」
彼はケラケラと笑った。
先ほどの件といい見た目ほど悪い生徒ではないのかもしれない。
「それくらいならかまへんのと違うか?バスケ部のミーティングって事で。」
「それやったら俺も参加せなあかんな。」
それまで黙って聞いていた南が口を開いた。
「何や、お前もくるんかいな。」
「部のミーティングやて言うたやないか。」
「俺、[#da=1#]ちゃんと二人で行きたかってん。」
まぁまぁと二人を宥め、「そのミーティングはまた今度」とその場をきりあげようとすると、岸本から視線を外した南がそれをこちらに向ける。まるで蛇に睨まれた蛙のように身体が硬直するのが分かった。
「今度やなくて今日がええな。部活終るまで待っといてや。」
「え、ちょ…」
「せや、大人の『また今度』はあてになれへんねん。気が変わらんうちに行こか。」
畳み掛けるように隣の岸本も相槌を打つ。
「ほな決まりな。」
「ええ?」
曖昧にして逃げるといういつもの手法はいとも簡単に阻止された。
「そんな顔せんでも焼肉食いたいやなんて言わへんって。」
ニヤリと歯を見せた岸本の隣で、やはりどことなく冷めた目をした南が「行くで」と彼を促す。
「ほなな、セーンセ。また後で。」
とても無視する勇気はない。職員室に帰ったら、とりあえず財布の中身をチェックしようと思った。