Secret lover
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汗が流れ落ちる熱帯夜。
目の前には返事を待つ南。
「な、何それ。そんな無茶苦茶言われても…」
押さえた自らの腕がドクドクと脈打っているように感じた。こんな催促の仕方は有り得ないと思う。
「あ?」と南が眉間に皺を寄せる。
たった今の台詞は何だったのだと思わせるようなそのふてぶてしい態度はどうだ。
「だ、だからあたしは…」
「教師やからとか生徒やからとか、そんな言葉は要らんねんで。」
用意していた言い訳は発する前に遮られた。
「好きな人には近くで見ていてほしいと思う、別に恋愛に限ったことやないと思うわ。」
よく意味の分からない所はあったが、それならばと口を開きかけると何かに気付いた南が顔をあげた。
そちらを見遣る間もなく南の手に引かれて施設と小さな建物のフェンスの間へと導かれる。
「何?」
壁を背にして南に挟まれるように立つと顔面に迫った南の胸にドキドキして慌てて顔を背けた。
「なんや、あの二人デキてたんか…。」
その言葉に壁際から向こうを覗き込む。
外灯の明かりに照らし出された影は、一緒に合宿した学校の選手とそのマネージャー。
微妙な距離を保ちつつもしっかりと繋がれた手に初々しさを感じる。
「わ、青ッ春~」
「お互い手近でところで済ませたって感じやん。」
「何やの、その言い方。ええやん、あたし部活してへんかったから憧れんねん、こーゆーの。」
声をひそめながらの会話は南の馬鹿にしたような鼻笑いで途切れる。
「あ、馬鹿にしたな今。馬鹿にしたやろ今。」
「尊敬は出来んわな。」
「ああそうですか、どうせ終わった青春やもんね、あたしはね、あ、痒っ」
「蚊がおるわ」と剥き出しの腕を摩った。
腕に落としていた視線を戻すと南がこんなに近くに居たことを再確認して動揺する。
「せやけどあんなとこに居られたら出て行かれへんやんな。せや、とりあえず君が一人で出て行き。二人でバラバラに帰ればええねん。」
それを悟られまいとするとやたら饒舌になった。
しかし南はそれには答えず建物の陰から彼等の様子を伺っている。
通った鼻筋、尖った顎、剥き出しになった首筋、そして広い肩。目が勝手に捕らえた彼の横顔にドキリとして心臓の音が加速した。
それを払拭するように、尚も向こうを覗く南の腕を突き「コラ」と咎める。
するとようやく振り返った南は「あの様子やと、まだまだこれからやな」と言いながら足元に腰を下ろした。
「何が?」
南が呆れたように目を細める。
「阿保。男が下心なしで女をこんな所に連れてくるかい。」
あ、成る程、と手を打ってから「あかんやん、それ」と眉間に皺を寄せて南を見下ろす。「黙って座っとれ」と言って南が手を掴んだ。
自分のそれをすっぽりと包み込んでしまうような大きな手に引かれて半ば無理矢理その隣に座らされる。
「ちょ…」
「邪魔したるなや、セーシュンや青春。」
「高校生の不純異性交遊を教師が見過ごすわけには…」
「あー融通の利かん女は面倒臭いわ。あいつらかてこんな所で無茶するわけないやろが。」
無茶とは何の事だと思わず絶句してしまった自分が恥ずかしくなって俯く。
隣で南がため息をついた。
話が途切れてしまうと当たり前のように訪れる沈黙が気まずい。
「そや、南くんバスケはいつから?」
「あ?」
「中学生か」
「小学校。何や急に。」
「んーなんとなく。バスケ上手いから聞いてみてん。」
「馬鹿にしてんのか。」
「何でよ、褒めてるんやん。」
話が変な方向に行く前にと、必死で繋げたバスケの話題から南と岸本がかなり古い付き合いである事を知った。
通っていた小学校にミニバスのクラブがあって、岸本とはその頃からずっと一緒にバスケをしているらしい。
「めっちゃ仲ええねんな、君ら。」
「こっちは迷惑してんねん。」
岸本の話になると南は直ぐに悪態をつくけれど、それが本心でないことは分かる。これが彼の性格なのだろう。
「なー、前から気になってたんやけど、」
「あ?」
「君らバスケ部…って言うか、何やろ、主に上級生かな?バスケ部の。」
今なら何でも聞けるような気がした。そして彼もそれに答えてくれるような、漠然とそんな気がしたのだ。
「金平監督に対する態度が妙に冷たない?」
少し間を置いて南は、「さぁ…」と気のない返事を寄越す。
「こんなもんなんと違うか。」
「え、いや、なんか違うやろ。うん違う。」
「なんも違わへん。」
そう言って、南はこの話題から逃げるように腰を浮かした。
「監督と上手くいってないて話はな、聞いたことあんねん。」
「なら、そーなんやろ。アンタには関係あれへんやん。」
投げやりとも思えるような返事を返しながら、彼は壁際から向こうを伺うそぶりを見せる。
その言動に胸の奥がチクリと痛んだのは、散々思わせぶりな台詞を吐きながら擦り寄ってきたくせに、自分には踏み込ませないテリトリーが彼の中にあることを知ったからだ。
「……狡いなぁ南くんは」
「あ?」
自分でも知らずに零れた言葉に俯く。
この気持ちが何なのか分からない。
「あたし、顧問やねんで。知る権利があるんと違う?」
立ち上がった自分を振り返って、南が壁にもたれるように肘をついた。
「知ったらどうにかしてくれんの?」
「どうにかなるように最大限の努力はします。」
「…は、」
顔を背けて彼は笑う。
「無理やん。」
「そんなん分かれへんやん。」
「分かるわ。」
それは彼が時折見せる冷めた目。それ以上何も言わせない、そんな空気を纏わせたそれに勝てるわけもなく目を逸らす。
「アンタかて、高校生の戯れ事まともに聞かへんクチやしな。」
その言葉にムッとして再び南を睨みあげたが、しかし反論の言葉は探しあぐねていた。
「…ほら、な。せやから俺は…」
前に立ち塞がった南が壁に手をついて顔を覗き込むように身を屈める。
「自分のやり方でやったるねん。」
背後の壁に動きを封じ込まれ、近すぎる南の顔に自らのそれを逸らした。
「…ちょ、南くん近っ」
「…返事聞いてへんかったな、さっきの。」
そう逃げたかと下唇を噛んだ。加速する心臓が歯痒い。
「…話、ごまかさんといて。」
「アンタがいつも使うテなんと違うか。」
ムカつく。
何も考える事等ないはずだ、決定的な拒絶の言葉を吐けば終われるのだから。
それを知りながら出来ない自分に、それを知りながら追い詰める彼に腹がたつ。
そう思うのに逃げ口上しか探せない自分が悪いに違いないのだが。
生徒との関係を悪化させたくない、ただそれだけの理由だったはずだ。
しかしそれが今も変わらないと本当に言えるのか。
「…IH前やで。バスケの事だけ考えとったほうがいいんと違う?」
ほらな、と言いたげに彼は鼻で笑った。
「そうですね、先生」
チクリと胸が痛んだ。
その瞳が本当に冷めきってしまう前に、教師なら、教師として。
「南くん」
体を起こし、離れようとした彼を呼び止める。
「IH終わったら…」
初めから答えは出ていた。
ただ少し夢を見たかっただけ。
「真面目に話そ。」
決意した途端、もう一度触れられたかったなどと思うのは、大人ぶった子供のエゴだ。
目の前には返事を待つ南。
「な、何それ。そんな無茶苦茶言われても…」
押さえた自らの腕がドクドクと脈打っているように感じた。こんな催促の仕方は有り得ないと思う。
「あ?」と南が眉間に皺を寄せる。
たった今の台詞は何だったのだと思わせるようなそのふてぶてしい態度はどうだ。
「だ、だからあたしは…」
「教師やからとか生徒やからとか、そんな言葉は要らんねんで。」
用意していた言い訳は発する前に遮られた。
「好きな人には近くで見ていてほしいと思う、別に恋愛に限ったことやないと思うわ。」
よく意味の分からない所はあったが、それならばと口を開きかけると何かに気付いた南が顔をあげた。
そちらを見遣る間もなく南の手に引かれて施設と小さな建物のフェンスの間へと導かれる。
「何?」
壁を背にして南に挟まれるように立つと顔面に迫った南の胸にドキドキして慌てて顔を背けた。
「なんや、あの二人デキてたんか…。」
その言葉に壁際から向こうを覗き込む。
外灯の明かりに照らし出された影は、一緒に合宿した学校の選手とそのマネージャー。
微妙な距離を保ちつつもしっかりと繋がれた手に初々しさを感じる。
「わ、青ッ春~」
「お互い手近でところで済ませたって感じやん。」
「何やの、その言い方。ええやん、あたし部活してへんかったから憧れんねん、こーゆーの。」
声をひそめながらの会話は南の馬鹿にしたような鼻笑いで途切れる。
「あ、馬鹿にしたな今。馬鹿にしたやろ今。」
「尊敬は出来んわな。」
「ああそうですか、どうせ終わった青春やもんね、あたしはね、あ、痒っ」
「蚊がおるわ」と剥き出しの腕を摩った。
腕に落としていた視線を戻すと南がこんなに近くに居たことを再確認して動揺する。
「せやけどあんなとこに居られたら出て行かれへんやんな。せや、とりあえず君が一人で出て行き。二人でバラバラに帰ればええねん。」
それを悟られまいとするとやたら饒舌になった。
しかし南はそれには答えず建物の陰から彼等の様子を伺っている。
通った鼻筋、尖った顎、剥き出しになった首筋、そして広い肩。目が勝手に捕らえた彼の横顔にドキリとして心臓の音が加速した。
それを払拭するように、尚も向こうを覗く南の腕を突き「コラ」と咎める。
するとようやく振り返った南は「あの様子やと、まだまだこれからやな」と言いながら足元に腰を下ろした。
「何が?」
南が呆れたように目を細める。
「阿保。男が下心なしで女をこんな所に連れてくるかい。」
あ、成る程、と手を打ってから「あかんやん、それ」と眉間に皺を寄せて南を見下ろす。「黙って座っとれ」と言って南が手を掴んだ。
自分のそれをすっぽりと包み込んでしまうような大きな手に引かれて半ば無理矢理その隣に座らされる。
「ちょ…」
「邪魔したるなや、セーシュンや青春。」
「高校生の不純異性交遊を教師が見過ごすわけには…」
「あー融通の利かん女は面倒臭いわ。あいつらかてこんな所で無茶するわけないやろが。」
無茶とは何の事だと思わず絶句してしまった自分が恥ずかしくなって俯く。
隣で南がため息をついた。
話が途切れてしまうと当たり前のように訪れる沈黙が気まずい。
「そや、南くんバスケはいつから?」
「あ?」
「中学生か」
「小学校。何や急に。」
「んーなんとなく。バスケ上手いから聞いてみてん。」
「馬鹿にしてんのか。」
「何でよ、褒めてるんやん。」
話が変な方向に行く前にと、必死で繋げたバスケの話題から南と岸本がかなり古い付き合いである事を知った。
通っていた小学校にミニバスのクラブがあって、岸本とはその頃からずっと一緒にバスケをしているらしい。
「めっちゃ仲ええねんな、君ら。」
「こっちは迷惑してんねん。」
岸本の話になると南は直ぐに悪態をつくけれど、それが本心でないことは分かる。これが彼の性格なのだろう。
「なー、前から気になってたんやけど、」
「あ?」
「君らバスケ部…って言うか、何やろ、主に上級生かな?バスケ部の。」
今なら何でも聞けるような気がした。そして彼もそれに答えてくれるような、漠然とそんな気がしたのだ。
「金平監督に対する態度が妙に冷たない?」
少し間を置いて南は、「さぁ…」と気のない返事を寄越す。
「こんなもんなんと違うか。」
「え、いや、なんか違うやろ。うん違う。」
「なんも違わへん。」
そう言って、南はこの話題から逃げるように腰を浮かした。
「監督と上手くいってないて話はな、聞いたことあんねん。」
「なら、そーなんやろ。アンタには関係あれへんやん。」
投げやりとも思えるような返事を返しながら、彼は壁際から向こうを伺うそぶりを見せる。
その言動に胸の奥がチクリと痛んだのは、散々思わせぶりな台詞を吐きながら擦り寄ってきたくせに、自分には踏み込ませないテリトリーが彼の中にあることを知ったからだ。
「……狡いなぁ南くんは」
「あ?」
自分でも知らずに零れた言葉に俯く。
この気持ちが何なのか分からない。
「あたし、顧問やねんで。知る権利があるんと違う?」
立ち上がった自分を振り返って、南が壁にもたれるように肘をついた。
「知ったらどうにかしてくれんの?」
「どうにかなるように最大限の努力はします。」
「…は、」
顔を背けて彼は笑う。
「無理やん。」
「そんなん分かれへんやん。」
「分かるわ。」
それは彼が時折見せる冷めた目。それ以上何も言わせない、そんな空気を纏わせたそれに勝てるわけもなく目を逸らす。
「アンタかて、高校生の戯れ事まともに聞かへんクチやしな。」
その言葉にムッとして再び南を睨みあげたが、しかし反論の言葉は探しあぐねていた。
「…ほら、な。せやから俺は…」
前に立ち塞がった南が壁に手をついて顔を覗き込むように身を屈める。
「自分のやり方でやったるねん。」
背後の壁に動きを封じ込まれ、近すぎる南の顔に自らのそれを逸らした。
「…ちょ、南くん近っ」
「…返事聞いてへんかったな、さっきの。」
そう逃げたかと下唇を噛んだ。加速する心臓が歯痒い。
「…話、ごまかさんといて。」
「アンタがいつも使うテなんと違うか。」
ムカつく。
何も考える事等ないはずだ、決定的な拒絶の言葉を吐けば終われるのだから。
それを知りながら出来ない自分に、それを知りながら追い詰める彼に腹がたつ。
そう思うのに逃げ口上しか探せない自分が悪いに違いないのだが。
生徒との関係を悪化させたくない、ただそれだけの理由だったはずだ。
しかしそれが今も変わらないと本当に言えるのか。
「…IH前やで。バスケの事だけ考えとったほうがいいんと違う?」
ほらな、と言いたげに彼は鼻で笑った。
「そうですね、先生」
チクリと胸が痛んだ。
その瞳が本当に冷めきってしまう前に、教師なら、教師として。
「南くん」
体を起こし、離れようとした彼を呼び止める。
「IH終わったら…」
初めから答えは出ていた。
ただ少し夢を見たかっただけ。
「真面目に話そ。」
決意した途端、もう一度触れられたかったなどと思うのは、大人ぶった子供のエゴだ。