Secret lover
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人生には何度かのモテ期があるらしい。
もしかしたら今がそれなのかもしれない。自身に於ける第二次モテ期は何故か年下オンリー。
ひとつやふたつくらいの差であれば、そりゃあ喜んで手を延ばすだろうけれど、今回ばかりはそんな次元の問題ではない。
それなのに南の顔を見た途端、浮気現場を発見されてしまったかのようなこの動揺っぷりときたらどうだ。そして何故だ。
隣の土屋が立ち上がるのを目で追うと、彼はジャージに両手を突っ込み南に顔を向ける。
「ここで合宿してるて、ホンマやってんや?」
「せやったら何やねん。その前にお前らなんで二人でこんなトコに居んねん。あ、」
そして南は思い出したように土屋に視線を戻す。
「お前か、例の大栄の彼氏っちゅー…」
「ダーアアアッ!」
「…のは。」
慌てて南の口を塞ごうと延ばした腕はヒョイとかわされた。
「なん?」
キョトンとする土屋に向き直り、南を隠すように立つ。
勿論女の陰に隠れてしまうようなカワイイ体格の南ではない。しかも土屋も長身ときたものだから二人の男子は頭上で顔を合わせたまま。
「なんて?」
もう一度土屋が問い直す。
南がこれ以上余計な事を言う前にと彼の腕を強引に引いた。
「何で君がウロウロしてんねん!キャプテンやろ、はよ帰んで。」
「俺は悪くて土屋はええんか。コイツもキャプテンやぞ。」
この減らず口めと思いながら、チラリと土屋を振り返った。謝罪の意も込めて眉尻を下げると彼は笑顔を見せる。
「ハイハイ、じゃ、僕、帰りますわ。キャプテンですから。」
そう言って手をあげた土屋が背を向けようとしたところで「それから」と南。
「どんな関係かは知らんけど、ウチのガッコのセンセに手ぇ出さんといてや。」
やられた、と思った。
「え?…豊玉のセンセなん?」
土屋が驚くのも無理はない。
しかし先日のあの情況下では、とてもそうと言えなかった事も分かって欲しい。
悪気はなかったのだと、言いそびれただけなのだと伝えなければ。そう思い、口を開きかけたところで、掴まれていた腕を振りほどいた南が逆にそれを掴み直す。
「行くぞ」
「わ、ま、…」
有無を言わさぬ視線で睨まれたら、文字どうり何も言えなくなった。
「あ、つ、土屋くん、土屋くんも気をつけて帰って、ね。」
最後にそれを言うのが精一杯で、躾のなっていない犬の如く南にズルズルと引きずられながら再び敷地内に足を踏み入れる。
「ちょ…ま、痛っ、痛いて。痛いから、南くん。」
ここの変電所なのだろうか、施設の裏隣にあるフェンスに囲まれた小さなそこまで来たところで南がようやく手を離した。
「…いったー。」
掴まれていた方の手首を大袈裟に振りながら抗議するような視線を向けたが、目力では負けそうなので早いとこ切り上げる事にする。
「さ、部屋に…」
「引率者が合宿中に逢い引きか。どないなっとんねん。」
ムッとして再び南に視線を移した。
「そんなんやないて。偶然や、偶然。あたしはコンビニに…あ、コンビニ…。」
しまった、と暢気な事を思ったのも一瞬。
「高校生は対象外やと?どの面さげて言ってんねや。」と言う南の台詞に更にムッとした。
この面じゃ、と言ってやりたいところを我慢してひと呼吸置く。こんな時こそ平常心。
「あんな、ホンマにそんなんちゃうで。あのコとはたまたま共通の知人がおってやな、それで…」
「ほな、土屋と見つめ合うとった時の己の顔見てみい。」
「み、見つめ合うてなんかないわ!」
とは言ったものの一体どんな顔をしていたのか気になった。確かにあの時、青春時代に戻ったようなドキドキを感じた。夢を見ているような、そんな心地だった。
「…別に見つめ合うてなんかないけどやな…ど、どんな顔してた?」
その問いには無言の圧力が返ってくる。一体何様だお前、と喚きたいのをグッと抑えた。所詮相手は高校生ではないか。
「ま、ええわ。帰るで。」という精一杯の大人な対応に「お前なぁ」と少し顎をあげて人を見下ろすような南の横柄さが鼻につく。
「教師に向かってお前ってなんやねん。」
「は、こんな時には先生面すんねんな。」
ビンビンに張っていた糸がプツリと切れた。
「そらぁあたしは先生やからな!君は生徒やからな!一体なんやねん君は!あたしのなんやっちゅーねん!彼氏でもないくせに…」
「ほー」
「ホーてなんや鳩か!大体…」
「俺が言うたらアカンの?」
「何で言われなアカンの!」
「また言わすんか」
「何をや!なんも言われてないで!」
「ほーお」と再び感心したようなそれでいて挑発するような声を出した南は、片足に重心を乗せるように立ち、そして腕を組む。
南のその態度に、売り言葉に買い言葉で勢いに任せて喋っていた己の台詞を振り返り、そしてハッとした。
「…あ、ちが…なんや言葉間違えてるわあたし…」
窮鼠猫を噛んだところで、果たしてその鼠は見事逃げおおせたのだろうか。
「嘘、嘘嘘。忘れてや。全部綺麗サッパリ。」
ブンブンと両手を振ったが進行方向を塞ぐように立ちはだかる南に気圧される。
「えー、帰ろ。とりあえず部屋に帰ろ、な。」
「自分で振っといてなんやねん。」
一歩踏み出してきた南に思わず一歩退く。
「あの、玄関ロビーあっちやねんけど。」
また一歩。
「えーと」
壁際まで追い詰められる。ここは瞬発力を駆使して横から逃げるしか…とチラリと横を見るとその視界を南の腕が遮った。
壁に片手をついて自分を見下ろしてくるその瞳に、見事に動きを封じ込まれる。正に蛇に睨まれた蛙。
蛙の心臓もこんな風にドキドキしていたのだろうか。していたのだろう、今から食べられてしまうのだから。
そしてそうと分かっていても動けない。
それほど彼の目は。
ずっと苦手だと思っていたそれは、自己防衛本能だったに違いない。
見つめ合った時間が長かったのか短かったのかは分からない。全ての感覚が麻痺していたように思う。
ゆっくりと口を開いたのは南。
「好きや。俺と付き合うてや。」
心臓はもうパンク寸前のところまできていたからか、その台詞は頭を芯から痺れさせた。
「返事は?」
その言葉で、ようやく現実に引き戻される。
「………は?」
「返事」
「あ?」
壁についていた腕を下ろして姿勢を戻した彼は、両手をポケットに突っ込むと唇の端を僅かに吊り上げた。
「そっちが催促して俺に言わせたくらいなんやから、そらぁイイ返事が聞けると思うけどな。」
2008/07/20
もしかしたら今がそれなのかもしれない。自身に於ける第二次モテ期は何故か年下オンリー。
ひとつやふたつくらいの差であれば、そりゃあ喜んで手を延ばすだろうけれど、今回ばかりはそんな次元の問題ではない。
それなのに南の顔を見た途端、浮気現場を発見されてしまったかのようなこの動揺っぷりときたらどうだ。そして何故だ。
隣の土屋が立ち上がるのを目で追うと、彼はジャージに両手を突っ込み南に顔を向ける。
「ここで合宿してるて、ホンマやってんや?」
「せやったら何やねん。その前にお前らなんで二人でこんなトコに居んねん。あ、」
そして南は思い出したように土屋に視線を戻す。
「お前か、例の大栄の彼氏っちゅー…」
「ダーアアアッ!」
「…のは。」
慌てて南の口を塞ごうと延ばした腕はヒョイとかわされた。
「なん?」
キョトンとする土屋に向き直り、南を隠すように立つ。
勿論女の陰に隠れてしまうようなカワイイ体格の南ではない。しかも土屋も長身ときたものだから二人の男子は頭上で顔を合わせたまま。
「なんて?」
もう一度土屋が問い直す。
南がこれ以上余計な事を言う前にと彼の腕を強引に引いた。
「何で君がウロウロしてんねん!キャプテンやろ、はよ帰んで。」
「俺は悪くて土屋はええんか。コイツもキャプテンやぞ。」
この減らず口めと思いながら、チラリと土屋を振り返った。謝罪の意も込めて眉尻を下げると彼は笑顔を見せる。
「ハイハイ、じゃ、僕、帰りますわ。キャプテンですから。」
そう言って手をあげた土屋が背を向けようとしたところで「それから」と南。
「どんな関係かは知らんけど、ウチのガッコのセンセに手ぇ出さんといてや。」
やられた、と思った。
「え?…豊玉のセンセなん?」
土屋が驚くのも無理はない。
しかし先日のあの情況下では、とてもそうと言えなかった事も分かって欲しい。
悪気はなかったのだと、言いそびれただけなのだと伝えなければ。そう思い、口を開きかけたところで、掴まれていた腕を振りほどいた南が逆にそれを掴み直す。
「行くぞ」
「わ、ま、…」
有無を言わさぬ視線で睨まれたら、文字どうり何も言えなくなった。
「あ、つ、土屋くん、土屋くんも気をつけて帰って、ね。」
最後にそれを言うのが精一杯で、躾のなっていない犬の如く南にズルズルと引きずられながら再び敷地内に足を踏み入れる。
「ちょ…ま、痛っ、痛いて。痛いから、南くん。」
ここの変電所なのだろうか、施設の裏隣にあるフェンスに囲まれた小さなそこまで来たところで南がようやく手を離した。
「…いったー。」
掴まれていた方の手首を大袈裟に振りながら抗議するような視線を向けたが、目力では負けそうなので早いとこ切り上げる事にする。
「さ、部屋に…」
「引率者が合宿中に逢い引きか。どないなっとんねん。」
ムッとして再び南に視線を移した。
「そんなんやないて。偶然や、偶然。あたしはコンビニに…あ、コンビニ…。」
しまった、と暢気な事を思ったのも一瞬。
「高校生は対象外やと?どの面さげて言ってんねや。」と言う南の台詞に更にムッとした。
この面じゃ、と言ってやりたいところを我慢してひと呼吸置く。こんな時こそ平常心。
「あんな、ホンマにそんなんちゃうで。あのコとはたまたま共通の知人がおってやな、それで…」
「ほな、土屋と見つめ合うとった時の己の顔見てみい。」
「み、見つめ合うてなんかないわ!」
とは言ったものの一体どんな顔をしていたのか気になった。確かにあの時、青春時代に戻ったようなドキドキを感じた。夢を見ているような、そんな心地だった。
「…別に見つめ合うてなんかないけどやな…ど、どんな顔してた?」
その問いには無言の圧力が返ってくる。一体何様だお前、と喚きたいのをグッと抑えた。所詮相手は高校生ではないか。
「ま、ええわ。帰るで。」という精一杯の大人な対応に「お前なぁ」と少し顎をあげて人を見下ろすような南の横柄さが鼻につく。
「教師に向かってお前ってなんやねん。」
「は、こんな時には先生面すんねんな。」
ビンビンに張っていた糸がプツリと切れた。
「そらぁあたしは先生やからな!君は生徒やからな!一体なんやねん君は!あたしのなんやっちゅーねん!彼氏でもないくせに…」
「ほー」
「ホーてなんや鳩か!大体…」
「俺が言うたらアカンの?」
「何で言われなアカンの!」
「また言わすんか」
「何をや!なんも言われてないで!」
「ほーお」と再び感心したようなそれでいて挑発するような声を出した南は、片足に重心を乗せるように立ち、そして腕を組む。
南のその態度に、売り言葉に買い言葉で勢いに任せて喋っていた己の台詞を振り返り、そしてハッとした。
「…あ、ちが…なんや言葉間違えてるわあたし…」
窮鼠猫を噛んだところで、果たしてその鼠は見事逃げおおせたのだろうか。
「嘘、嘘嘘。忘れてや。全部綺麗サッパリ。」
ブンブンと両手を振ったが進行方向を塞ぐように立ちはだかる南に気圧される。
「えー、帰ろ。とりあえず部屋に帰ろ、な。」
「自分で振っといてなんやねん。」
一歩踏み出してきた南に思わず一歩退く。
「あの、玄関ロビーあっちやねんけど。」
また一歩。
「えーと」
壁際まで追い詰められる。ここは瞬発力を駆使して横から逃げるしか…とチラリと横を見るとその視界を南の腕が遮った。
壁に片手をついて自分を見下ろしてくるその瞳に、見事に動きを封じ込まれる。正に蛇に睨まれた蛙。
蛙の心臓もこんな風にドキドキしていたのだろうか。していたのだろう、今から食べられてしまうのだから。
そしてそうと分かっていても動けない。
それほど彼の目は。
ずっと苦手だと思っていたそれは、自己防衛本能だったに違いない。
見つめ合った時間が長かったのか短かったのかは分からない。全ての感覚が麻痺していたように思う。
ゆっくりと口を開いたのは南。
「好きや。俺と付き合うてや。」
心臓はもうパンク寸前のところまできていたからか、その台詞は頭を芯から痺れさせた。
「返事は?」
その言葉で、ようやく現実に引き戻される。
「………は?」
「返事」
「あ?」
壁についていた腕を下ろして姿勢を戻した彼は、両手をポケットに突っ込むと唇の端を僅かに吊り上げた。
「そっちが催促して俺に言わせたくらいなんやから、そらぁイイ返事が聞けると思うけどな。」
2008/07/20