Secret lover
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ぎらぎらとした太陽。
校門前に立っていると、朝だというのに既にムッとし始めた空気が今日も暑くなるのだろうと容易に想像させた。
せっかくの夏休みなのだから、どうせお金を使うのならば、温泉かなんかで豪遊したほうがよっぽどいいと未だに不満タラタラなのはどうしようもない。
数持ち合わせていないジャージを新たに買い込んだりと要らぬ出費続きなのだし。
それでも八方美人な性格は変えられなくて、朝一番に来ていた監督にはめいいっぱいの愛想を振りまく。
どうせすぐにこの笑顔にも限界が来るのだ。バスケ部員がチラホラと集まりだしたのを見ればそう思う。
「なんや!センセも来るんか!?」
来なくていいのなら帰りますよ、ソッコーで、と喉まで出かかった言葉を飲み込み「仕事やから」と本当は参加したくなかったオーラをこれでもかと醸し出す。
夏と冬は大きな大会がある為に近場での合宿になるバスケ部は、春休みには海外遠征などもやるらしい。私立ってスゴイと思う。
今年の夏合宿は別の高校と大学3校が合同で行う。実践的な試合を交えながら練習することで、お互いの課題を浮き彫りにしながら技術を高めるのが目的なのだとか。
「大栄の奴らもな、」
バスの中で誰かが発した言葉に耳がダンボになった。
「俺らの近くで合宿するらしいで。」
「他に合宿する場所ないんかい。」
「とりあえず奴らと合同やないんやからええわ。」
その意見に賛成、と心の中で呟く。
「最終日とかに大栄とも試合するんと違うか?」
「ないでそれ。俺らが合同合宿する意味ないやん。」
「な、センセ」と同意を求められたので、もしかしたら無意識に頷いていたのかもしれない。
「そんな予定はないけど」と答えたが、もし、万が一そんな事になったら、迷わず腹痛になってやろうと心に決めた。
合宿も二日目に入ると、疲労からか体調不良を訴える一年生が出てくる。
顧問と言うよりは救護係りのようになっている自分を振り返り、今年はマネージャーが居ないからちょうどよかったと言われたことを思い出した。
合宿参加が決まってから、何度かバスケ部に通って練習の流れやなどは把握したつもりでいたが(我ながら勤勉だと思う)、介護や怪我の処置に対しては不慣れなせいもあり手際は良くない。
それでも人様の大切なご子息を預かっているのだからと、今までにないような神経を使った。
「あー死ぬわー」
激しい練習を終えた岸本が滴り落ちる汗はそのままに、Tシャツを指先でつまみあげてバタバタさせながら喚く。
「いや、お前は死なんやろ」という声は心の中に仕舞い込んで自らも汗を拭う。化粧は完全に落ちているとみた。
完全にへばって座り込む一年を他所に三年生ともなると流石に免疫があるのか多少の余裕が感じられる。
高校男子の汗の匂いを極力嗅ぎたくないので、練習が終わると早々に体育館を出た。
「あの一年、調子はどうなん?」
夕食後に南に声をかけられた。
昼間、気分が悪くなって練習を抜けた一年の事を言っているのだろう。
「ん、ああ、大したことないと思う。さっき部屋にご飯持って行ったときは随分元気やったで。」
「ふーん」と気のない返事をした南の背後からヒョコっと岸本が顔を覗かせた。
「センセー。昨日も思てんけど風呂入ったのに化粧してんのは何でや。そんなに酷いんかスッピン。」
そんなに酷いスッピンではないつもりだけれど、こんな大勢の前で晒す勇気はない。自分が10代であったならば頑張っただろうけれど。
「これは礼儀やねん。」
「何が礼儀や。練習終わりにはほぼスッピンやないか」と言う南の言葉を受けて、岸本も「せやせや、汗で眉毛消えかかってたし」と笑う。
「君らホンマに憎らしいほど元気やな。」
「鍛え方が違う。」
「この合宿に来たからには、あんたらがヘバって口も利けんなったところ見たるわ。」
「そんときは優しく看病したってな~。ないと思うけど。」
ハハハと笑いながら去ってゆく岸本の背中を見送りながら地団太を踏んでいると、何か物言いた気な表情で自分を眺めている南に気づいて顔をあげた。
その目に思わずドキリとしたのを隠し、何気ない素振りで「なに?」と問う。
「……今年卒業した俺らのひとつ上のマネはな、合宿の後半になるにつれて化粧が濃くなってくんねん。目の下の隈が酷くなったとか、ニキビができたとか言って必死こいて隠してたわ。センセも頑張り。」
「…………。」
少し拍子抜けもしたが、男っていうのは変なところを良く見ているものだと感心する。
「ご忠告感謝」と言って作り笑いを浮かべると「いーえ、どういたしまして」とわざとらしい言葉を残して彼も岸本の後を追うように部屋に戻っていった。
なんだか物凄く悔しいという気持ちに、少しの安堵感が入り混じる。彼だってそれなりにTPOは弁えているのだ。
安ずるよりなんとやら。
あれほど嫌だと思っていた合宿だったが、来てしまえばそうでもない。
気を重くしていた原因のひとつである南は、滅多なことでは話しかけてこなければ近づいても来ないし、体調管理には気を使っているようで、夜はミーティングを終えると早々に部屋に帰ってしまう。
最大の懸念材料がなくなってしまえば、女性用の風呂は広いのに貸しきり状態だし、暑い館内に長時間居るのだからダイエット効果が期待できないこともないし、と持ち前の性格が今の状況を楽観的に考えさせた。
毎夜行われるミーティングが終わったら、今日は念入りにスキンケアをしておこうと思う。
校門前に立っていると、朝だというのに既にムッとし始めた空気が今日も暑くなるのだろうと容易に想像させた。
せっかくの夏休みなのだから、どうせお金を使うのならば、温泉かなんかで豪遊したほうがよっぽどいいと未だに不満タラタラなのはどうしようもない。
数持ち合わせていないジャージを新たに買い込んだりと要らぬ出費続きなのだし。
それでも八方美人な性格は変えられなくて、朝一番に来ていた監督にはめいいっぱいの愛想を振りまく。
どうせすぐにこの笑顔にも限界が来るのだ。バスケ部員がチラホラと集まりだしたのを見ればそう思う。
「なんや!センセも来るんか!?」
来なくていいのなら帰りますよ、ソッコーで、と喉まで出かかった言葉を飲み込み「仕事やから」と本当は参加したくなかったオーラをこれでもかと醸し出す。
夏と冬は大きな大会がある為に近場での合宿になるバスケ部は、春休みには海外遠征などもやるらしい。私立ってスゴイと思う。
今年の夏合宿は別の高校と大学3校が合同で行う。実践的な試合を交えながら練習することで、お互いの課題を浮き彫りにしながら技術を高めるのが目的なのだとか。
「大栄の奴らもな、」
バスの中で誰かが発した言葉に耳がダンボになった。
「俺らの近くで合宿するらしいで。」
「他に合宿する場所ないんかい。」
「とりあえず奴らと合同やないんやからええわ。」
その意見に賛成、と心の中で呟く。
「最終日とかに大栄とも試合するんと違うか?」
「ないでそれ。俺らが合同合宿する意味ないやん。」
「な、センセ」と同意を求められたので、もしかしたら無意識に頷いていたのかもしれない。
「そんな予定はないけど」と答えたが、もし、万が一そんな事になったら、迷わず腹痛になってやろうと心に決めた。
合宿も二日目に入ると、疲労からか体調不良を訴える一年生が出てくる。
顧問と言うよりは救護係りのようになっている自分を振り返り、今年はマネージャーが居ないからちょうどよかったと言われたことを思い出した。
合宿参加が決まってから、何度かバスケ部に通って練習の流れやなどは把握したつもりでいたが(我ながら勤勉だと思う)、介護や怪我の処置に対しては不慣れなせいもあり手際は良くない。
それでも人様の大切なご子息を預かっているのだからと、今までにないような神経を使った。
「あー死ぬわー」
激しい練習を終えた岸本が滴り落ちる汗はそのままに、Tシャツを指先でつまみあげてバタバタさせながら喚く。
「いや、お前は死なんやろ」という声は心の中に仕舞い込んで自らも汗を拭う。化粧は完全に落ちているとみた。
完全にへばって座り込む一年を他所に三年生ともなると流石に免疫があるのか多少の余裕が感じられる。
高校男子の汗の匂いを極力嗅ぎたくないので、練習が終わると早々に体育館を出た。
「あの一年、調子はどうなん?」
夕食後に南に声をかけられた。
昼間、気分が悪くなって練習を抜けた一年の事を言っているのだろう。
「ん、ああ、大したことないと思う。さっき部屋にご飯持って行ったときは随分元気やったで。」
「ふーん」と気のない返事をした南の背後からヒョコっと岸本が顔を覗かせた。
「センセー。昨日も思てんけど風呂入ったのに化粧してんのは何でや。そんなに酷いんかスッピン。」
そんなに酷いスッピンではないつもりだけれど、こんな大勢の前で晒す勇気はない。自分が10代であったならば頑張っただろうけれど。
「これは礼儀やねん。」
「何が礼儀や。練習終わりにはほぼスッピンやないか」と言う南の言葉を受けて、岸本も「せやせや、汗で眉毛消えかかってたし」と笑う。
「君らホンマに憎らしいほど元気やな。」
「鍛え方が違う。」
「この合宿に来たからには、あんたらがヘバって口も利けんなったところ見たるわ。」
「そんときは優しく看病したってな~。ないと思うけど。」
ハハハと笑いながら去ってゆく岸本の背中を見送りながら地団太を踏んでいると、何か物言いた気な表情で自分を眺めている南に気づいて顔をあげた。
その目に思わずドキリとしたのを隠し、何気ない素振りで「なに?」と問う。
「……今年卒業した俺らのひとつ上のマネはな、合宿の後半になるにつれて化粧が濃くなってくんねん。目の下の隈が酷くなったとか、ニキビができたとか言って必死こいて隠してたわ。センセも頑張り。」
「…………。」
少し拍子抜けもしたが、男っていうのは変なところを良く見ているものだと感心する。
「ご忠告感謝」と言って作り笑いを浮かべると「いーえ、どういたしまして」とわざとらしい言葉を残して彼も岸本の後を追うように部屋に戻っていった。
なんだか物凄く悔しいという気持ちに、少しの安堵感が入り混じる。彼だってそれなりにTPOは弁えているのだ。
安ずるよりなんとやら。
あれほど嫌だと思っていた合宿だったが、来てしまえばそうでもない。
気を重くしていた原因のひとつである南は、滅多なことでは話しかけてこなければ近づいても来ないし、体調管理には気を使っているようで、夜はミーティングを終えると早々に部屋に帰ってしまう。
最大の懸念材料がなくなってしまえば、女性用の風呂は広いのに貸しきり状態だし、暑い館内に長時間居るのだからダイエット効果が期待できないこともないし、と持ち前の性格が今の状況を楽観的に考えさせた。
毎夜行われるミーティングが終わったら、今日は念入りにスキンケアをしておこうと思う。