Secret lover
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絶句した。
そんな台詞、彼氏にだって言われたことがない。
そう思った瞬間一気に顔が熱くなるのを感じた。
しかし視線の先にいる南は涼しげな顔でこちらの様子を見ている。照れるふうでもなければ、勿論からかっている様子でもない。この生徒が何を考えているのかサッパリ分からない。
随分質の悪い冗談を言うコだ、と片付けようとした頭の片隅を、先日の記憶が掠めた。
ドキリとした胸の奥を宥めるように、あれは自分の思い違いだったのだと思い直す。こんなに礼儀正しく(?)断りを入れてくるくらいなのだから。
そんな事を目まぐるしく考えていたから、ほんの少し気付くのが遅れた。
我に返った時にはもう焦点を合わせられないくらい近くに。
口許に感じた熱に触発されて、押し返そうと延ばした両手が南の肩を突く。
けれどしっかりと鍛えられた筋肉には大した効果も得られなかったようで、代わりにそれは彼の大きな手に搦め捕られた。そして唇も。
真っ白になった頭のどこかに酷く冷静な自分が居て、先日のあれもキスだったのだと考える余裕があった。やがて奪われてゆく理性がゆっくり目を閉じさせようとしたところでハッとした。
逃げるように無理矢理顔を逸らせて手を振りほどく。
「…ア」
顔を上げれば当たり前のように南と視線が絡まった。ハッキリ言って、どうしていいのか分からない。自分という人間は、どうしてこんなにも未熟なのだろう。
「…ホかーっ!!」
怒りにも似たそれは南にというより自分に対してのものだった。
高校生にされたキスだって、やはりドキドキするのだから。
「何でアホやねん。返事がないならOKって事やんけ。」
驚きのあまり反応が遅れただけなのに、彼はもっともらしい理屈をシレッとした顔で言う。
「ちゃうねん!君は難しい数学の公式は知っとるのに掛け算を知らんコやねん!」
喚きながら腰をずらして南との距離をとる。いつでも逃げ出せる体勢をとるのは彼を意識しているようで何故か嚼だった。
「何、ワケわからん事を。掛け算くらいできるっちゅーねん。それは照れ隠しのつもりなんか?」
「何であたしが照れなあかんの!な、何で…」
思わず吃ると南が唇の端を僅かに吊り上げる。
「顔、赤いで。」
「ウソッ?」
慌てて両手で頬を押さえた。気付かない振りをしていたけれど、手を添えてみればどれだけ頬が熱くなっているかよく分かる。
「…っ…じゃなくて君!なんて事すんのよ!悪戯いうたかて随分悪質な…」
「悪戯やなくて」
抗議の声は南のそれに遮られた。
「反応を見たかってん。センセの。」
目も口もめいっぱい開いて南の顔を凝視する。
彼は折りたたんだ膝の上に頬杖をついて、そして少しだけ楽しそうに口元を緩めた。
「全然相手にされへんかったら止めようと思ってんけど。」
「……な、なにを…?」
すっかり暗くなった川面を見つめながら、どこか他人事のように彼は続けた。
「俺、センセの事好きになると思うわ。」
ドキン、と、胸の奥に走る衝撃にも似た何か。
突き出した首を引っ込めて、思わず背筋を伸ばす。
加速する心臓は、自分の招いた失態に対する焦りからであって、決して恋愛云々という感情からではないと思いたい。
自分は教師で、相手は高校生なのだ。
「…な、なんやあたし、もしかして嫌われとったん?」
ナハハハという渇いた笑いは、あっという間に夕闇に吸い込まれていく。
確信犯的なその台詞を南はどのように受け取るのだろうか。
しかし先程の彼の言葉の意味を掘り下げることなんて出来ない。生徒にそんな台詞を言わせた自分が許せなかった。
相手にすると、思わせた。
隙を見せた、自分が。
「よかったわ。先生かて嫌われたまんまは辛いもんな。」
顔を上げる勇気はない。顔を見たらそれだけでどうしようもないくらいドキドキするに違いないのだ。
何か言いたげな南の視線に気付くはずもなく、少し唇を噛んで呟いた。
「…せやけど、こんなことしたらあかん。」
「なんで?」
意外にも、その声は穏やかだ。
「なんでて…」
顔を上げた瞬間に視線が重なった。
「せやかて南くん、君は高校生であたしは教師やん。」
困惑する視線の先で南は薄く笑う。
「けどその前に、俺は男でセンセは女やん。」
初夏の風が頬を掠めた。肌が、手の平がじっとりと湿っているのはこの気候のせい。
「だから君は…」
立ち上がりスカートを払う。
「まだ子供やねん。」
形よく整えられた南の眉がピクリと動いたが、それに気付かぬ振りで大きく伸びをした。
「さーさ、すっかり暗くなってもーたで。はよ帰らな。」
殊更明るい声を出し、南の返事を待たずに土手を上り始める。「あぁもうオバサンやねんな、しんどいわコレ」なんて独り言を漏らしながら。
「送ったるわ。」
背後から南の声が追いかけてきたが、振り返る事はしなかった。
「いい。高校生やないねんあたし。立派な大人やねん。」
自分の高校時代は随分前に終わったのだ。高校生と恋すべき時代は。
南のそれは所詮一過性のものだと思う。高校男子が少し年上に憧れたりするのはけして珍しい事ではない。
気の迷いだったと、直ぐに本人も気付く。彼は聡い子だから。
きっとそうに違いない。
そんな台詞、彼氏にだって言われたことがない。
そう思った瞬間一気に顔が熱くなるのを感じた。
しかし視線の先にいる南は涼しげな顔でこちらの様子を見ている。照れるふうでもなければ、勿論からかっている様子でもない。この生徒が何を考えているのかサッパリ分からない。
随分質の悪い冗談を言うコだ、と片付けようとした頭の片隅を、先日の記憶が掠めた。
ドキリとした胸の奥を宥めるように、あれは自分の思い違いだったのだと思い直す。こんなに礼儀正しく(?)断りを入れてくるくらいなのだから。
そんな事を目まぐるしく考えていたから、ほんの少し気付くのが遅れた。
我に返った時にはもう焦点を合わせられないくらい近くに。
口許に感じた熱に触発されて、押し返そうと延ばした両手が南の肩を突く。
けれどしっかりと鍛えられた筋肉には大した効果も得られなかったようで、代わりにそれは彼の大きな手に搦め捕られた。そして唇も。
真っ白になった頭のどこかに酷く冷静な自分が居て、先日のあれもキスだったのだと考える余裕があった。やがて奪われてゆく理性がゆっくり目を閉じさせようとしたところでハッとした。
逃げるように無理矢理顔を逸らせて手を振りほどく。
「…ア」
顔を上げれば当たり前のように南と視線が絡まった。ハッキリ言って、どうしていいのか分からない。自分という人間は、どうしてこんなにも未熟なのだろう。
「…ホかーっ!!」
怒りにも似たそれは南にというより自分に対してのものだった。
高校生にされたキスだって、やはりドキドキするのだから。
「何でアホやねん。返事がないならOKって事やんけ。」
驚きのあまり反応が遅れただけなのに、彼はもっともらしい理屈をシレッとした顔で言う。
「ちゃうねん!君は難しい数学の公式は知っとるのに掛け算を知らんコやねん!」
喚きながら腰をずらして南との距離をとる。いつでも逃げ出せる体勢をとるのは彼を意識しているようで何故か嚼だった。
「何、ワケわからん事を。掛け算くらいできるっちゅーねん。それは照れ隠しのつもりなんか?」
「何であたしが照れなあかんの!な、何で…」
思わず吃ると南が唇の端を僅かに吊り上げる。
「顔、赤いで。」
「ウソッ?」
慌てて両手で頬を押さえた。気付かない振りをしていたけれど、手を添えてみればどれだけ頬が熱くなっているかよく分かる。
「…っ…じゃなくて君!なんて事すんのよ!悪戯いうたかて随分悪質な…」
「悪戯やなくて」
抗議の声は南のそれに遮られた。
「反応を見たかってん。センセの。」
目も口もめいっぱい開いて南の顔を凝視する。
彼は折りたたんだ膝の上に頬杖をついて、そして少しだけ楽しそうに口元を緩めた。
「全然相手にされへんかったら止めようと思ってんけど。」
「……な、なにを…?」
すっかり暗くなった川面を見つめながら、どこか他人事のように彼は続けた。
「俺、センセの事好きになると思うわ。」
ドキン、と、胸の奥に走る衝撃にも似た何か。
突き出した首を引っ込めて、思わず背筋を伸ばす。
加速する心臓は、自分の招いた失態に対する焦りからであって、決して恋愛云々という感情からではないと思いたい。
自分は教師で、相手は高校生なのだ。
「…な、なんやあたし、もしかして嫌われとったん?」
ナハハハという渇いた笑いは、あっという間に夕闇に吸い込まれていく。
確信犯的なその台詞を南はどのように受け取るのだろうか。
しかし先程の彼の言葉の意味を掘り下げることなんて出来ない。生徒にそんな台詞を言わせた自分が許せなかった。
相手にすると、思わせた。
隙を見せた、自分が。
「よかったわ。先生かて嫌われたまんまは辛いもんな。」
顔を上げる勇気はない。顔を見たらそれだけでどうしようもないくらいドキドキするに違いないのだ。
何か言いたげな南の視線に気付くはずもなく、少し唇を噛んで呟いた。
「…せやけど、こんなことしたらあかん。」
「なんで?」
意外にも、その声は穏やかだ。
「なんでて…」
顔を上げた瞬間に視線が重なった。
「せやかて南くん、君は高校生であたしは教師やん。」
困惑する視線の先で南は薄く笑う。
「けどその前に、俺は男でセンセは女やん。」
初夏の風が頬を掠めた。肌が、手の平がじっとりと湿っているのはこの気候のせい。
「だから君は…」
立ち上がりスカートを払う。
「まだ子供やねん。」
形よく整えられた南の眉がピクリと動いたが、それに気付かぬ振りで大きく伸びをした。
「さーさ、すっかり暗くなってもーたで。はよ帰らな。」
殊更明るい声を出し、南の返事を待たずに土手を上り始める。「あぁもうオバサンやねんな、しんどいわコレ」なんて独り言を漏らしながら。
「送ったるわ。」
背後から南の声が追いかけてきたが、振り返る事はしなかった。
「いい。高校生やないねんあたし。立派な大人やねん。」
自分の高校時代は随分前に終わったのだ。高校生と恋すべき時代は。
南のそれは所詮一過性のものだと思う。高校男子が少し年上に憧れたりするのはけして珍しい事ではない。
気の迷いだったと、直ぐに本人も気付く。彼は聡い子だから。
きっとそうに違いない。