Secret lover
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試合が始まる前のコートを見て驚いたのは相手があのスタバ軍団だったこと。
そして意外だったのは相手エースの負けん気の強さ。
ゴール前に突っ込みながら自らは滅多にシュートに行かなかったくせに、口が達者な岸本に挑発されると直ぐにその上からシュートを決めたりするのだから結構イイ性格だ。(しかもその時の岸本の顔と言ったらない)
話した時の印象とは随分違う。
試合は豊玉の完敗。いつもの彼らの勢いを出せずに終わったように思えた。
しかしエースキラーと言う南のあだ名の由来が知れるような事もなく、やはりあれは根も葉もない中傷だったのだと胸を撫で下ろした。
バスケの名門と言われる豊玉のレギュラーであるせいか、彼らはバスケに関してのプライドが少々高いと思う。
例えIHに行ける事に変わりがないとは言え、一位で予選通過出来なかった事が悔しくて堪らないはずだ。
残念だったという思いと共に先ずそれが頭に浮かび、試合の余韻もそこそこに無難な励ましの言葉をしきりに考えながら会場を後にした。
次の日は快晴。
バスケ部員に会ったら何と声をかけようなどと考えていたが、幸い彼らと授業以外で顔を合わせることはなかった。
帰り際にこっそり覗いた体育館で、特に変わりなく練習に励んでいるのを見た途端に頭の中は次の検案に移行する。
今日は王将の餃子が安いが買って帰るべきか否かというしょうもないようで重要な事だ。
フラれて以来すっかり色気を気にする必要がなくなってしまった。残るは食い気のみ。
夕飯の事を考えながら一人学校近くの川沿いを歩いていた。
その道は車通りが少なく、学校が終わったばかりの時間であれば部活生が外周によく使っている。しかし日も落ちたこの時間は時折部活帰りの生徒が通る程度だった。
人の気配に気付いて道の端まで歩み寄り土手を覗き込んでみると、周囲が薄暗くなってきたのをいいことに堂々とイチャつくカップルが目に留まる。しかも本校の制服を着ているとあれば見過ごすわけにはいかない。
「こらー!何してんの!」
やべと言う声の後にクスクスと笑いながら二人は立ち上がった。
「はよ帰って勉強し。」
「勉強勉強ってセンセ、勉強ばっかりが大切やないやん。愛を育む時間も俺らにくれや。」
くだらない、と思う。
「学生の本分は勉強やで。そんなんは社会人になってからでもできるやろ。」
「あー、センセ彼氏おらへんやろ?」
恋してない人に分かれへんのはしゃーないな、と笑いながら去って行く二人の後ろ姿を思いきり睨む程度の反撃しか出来ない自分が悔しい。
「あんたらだって、そのうち別れるんやで」と負け惜しみとも言える発言をしながら自らも土手へと足を踏み入れた。
中腹辺りに腰を降ろして鞄を放り出す。
夏が終わる頃には、安くなった花火を買って彼とこんな川縁で遊んだものだった。
色んな花火大会にも行った。大学の友達と集まって肝試しとかバーベキューとか。
戻らない夏の日の思い出がポロポロと零れ出す。きっと昨日、彼と同じ苗字の妙な学生に会ったせいだ。
「あー、今年もPLの花火行きたかったなぁ。」
体育座りした膝に顎を預けぼんやりと川面を眺めた。
どれくらい経っただろう。
ようやく重い腰をあげて服を叩いていると、頭上から最近よく聞く声が降ってきた。
「何しとん。」
後ろを見上げれば暗い道からこちらを見下ろす人の影。顔ははっきり見えないが、背格好や声から南だと分かる。
どうしてこんな時に、よりによって南に見つかってしまうのだろう。現れたのが大栄のエースだったらもっと嫌だが流石にそれは有り得ない。
彼は慣れた足取りで土手を下りてくるとその傍らで腰を下ろした。そしてこちらにも座るように促す。
「…昨日は、惜しかったなぁ。」
なるべくさり気ない素振りで、バスケ部に会ったら言うべき言葉その①を口にしてみたが、南からは何の返事も得られなかった。
沈黙という雰囲気がどうにも嫌だったので、続いてバスケ部に会ったら言うべき言葉その②にチャレンジ。
「まぁ、IHでリベンジやな。」
そこで南はようやく口を開いた。
「…大栄に負けてるようじゃアカンわ。」
「次はわからんて。頑張ってる君ら、めっちゃカッコええで。」
「………。」
押し黙った南の横顔を盗み見ると、彼は何かに思いを馳せるように遠くを見つめている。
「…勝たな、あかんねん。」
そう呟いた南の顔は、どこか思い詰めているようにさえ感じた。それほど昨日の敗戦がショックだったのだろうか。
「勝つことも大切やけど、頑張ってるって事が一番大切やん。」
ありきたりな言葉に、南は小馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「おんなじ事、理事長に言ってみ。」
思いがけない言葉に驚きを通り越してキョトンとする。
「なに?その大人な発言。」
目を丸くしながら南を見ると、至近距離で視線が絡まった。
ドキリ、とした胸の鼓動が早くなる。
「センセが子供なんと違うか。ちっこいし。」
「身長はかんけいあれへんがな。話逸らさんといて。」
拗ねたフリで上手く視線を逸らした、と思う。
確かに以前から南の目が苦手だった。けれどその苦手と今の苦手は少し内容が違うような気がする。
「かわいいと思うで。」
ギョっとして再び南を見る。思わず背筋が伸びた。
「…なにが?」
「センセが。」
そんな台詞を吐きながらも彼は、立てた膝の上に腕を預けてどこか遠くを見据えたまま。いかにもその言葉に深い意味はなく、適当に言ってみましたという様子が見て伺えた。
そこで思い直す。
そんな事を言われたからといって何も驚くことはない。カワイイと一言で言っても、それには広い意味があるわけで。
顔が、性格が、仕種が、揚句にはバカ臭さだってカワイイと形容出来なくもない。南が何を意図してそんな台詞を言ったのかは不明だが、どっちにしろ何か馬鹿にされたに違いない。
「そら、おおきにー。」
おどけて大袈裟に頭を下げると、南がこちらに視線を戻す。
「ホンマやで。」
そんな台詞、真面目な顔で言われても。
「南君は、なかなか女を見る目があるなぁ。」
こちらは冗談として返すしかないのだから、悪戯にドキドキさせないで欲しい。
すると南は、まるで試合観戦にでも誘うかのように言ったのだ。
「キスしようや。」
つづく.
ヤンキー役がお似合いの某俳優さんの口説き文句(らしい)を使用(笑)
そして意外だったのは相手エースの負けん気の強さ。
ゴール前に突っ込みながら自らは滅多にシュートに行かなかったくせに、口が達者な岸本に挑発されると直ぐにその上からシュートを決めたりするのだから結構イイ性格だ。(しかもその時の岸本の顔と言ったらない)
話した時の印象とは随分違う。
試合は豊玉の完敗。いつもの彼らの勢いを出せずに終わったように思えた。
しかしエースキラーと言う南のあだ名の由来が知れるような事もなく、やはりあれは根も葉もない中傷だったのだと胸を撫で下ろした。
バスケの名門と言われる豊玉のレギュラーであるせいか、彼らはバスケに関してのプライドが少々高いと思う。
例えIHに行ける事に変わりがないとは言え、一位で予選通過出来なかった事が悔しくて堪らないはずだ。
残念だったという思いと共に先ずそれが頭に浮かび、試合の余韻もそこそこに無難な励ましの言葉をしきりに考えながら会場を後にした。
次の日は快晴。
バスケ部員に会ったら何と声をかけようなどと考えていたが、幸い彼らと授業以外で顔を合わせることはなかった。
帰り際にこっそり覗いた体育館で、特に変わりなく練習に励んでいるのを見た途端に頭の中は次の検案に移行する。
今日は王将の餃子が安いが買って帰るべきか否かというしょうもないようで重要な事だ。
フラれて以来すっかり色気を気にする必要がなくなってしまった。残るは食い気のみ。
夕飯の事を考えながら一人学校近くの川沿いを歩いていた。
その道は車通りが少なく、学校が終わったばかりの時間であれば部活生が外周によく使っている。しかし日も落ちたこの時間は時折部活帰りの生徒が通る程度だった。
人の気配に気付いて道の端まで歩み寄り土手を覗き込んでみると、周囲が薄暗くなってきたのをいいことに堂々とイチャつくカップルが目に留まる。しかも本校の制服を着ているとあれば見過ごすわけにはいかない。
「こらー!何してんの!」
やべと言う声の後にクスクスと笑いながら二人は立ち上がった。
「はよ帰って勉強し。」
「勉強勉強ってセンセ、勉強ばっかりが大切やないやん。愛を育む時間も俺らにくれや。」
くだらない、と思う。
「学生の本分は勉強やで。そんなんは社会人になってからでもできるやろ。」
「あー、センセ彼氏おらへんやろ?」
恋してない人に分かれへんのはしゃーないな、と笑いながら去って行く二人の後ろ姿を思いきり睨む程度の反撃しか出来ない自分が悔しい。
「あんたらだって、そのうち別れるんやで」と負け惜しみとも言える発言をしながら自らも土手へと足を踏み入れた。
中腹辺りに腰を降ろして鞄を放り出す。
夏が終わる頃には、安くなった花火を買って彼とこんな川縁で遊んだものだった。
色んな花火大会にも行った。大学の友達と集まって肝試しとかバーベキューとか。
戻らない夏の日の思い出がポロポロと零れ出す。きっと昨日、彼と同じ苗字の妙な学生に会ったせいだ。
「あー、今年もPLの花火行きたかったなぁ。」
体育座りした膝に顎を預けぼんやりと川面を眺めた。
どれくらい経っただろう。
ようやく重い腰をあげて服を叩いていると、頭上から最近よく聞く声が降ってきた。
「何しとん。」
後ろを見上げれば暗い道からこちらを見下ろす人の影。顔ははっきり見えないが、背格好や声から南だと分かる。
どうしてこんな時に、よりによって南に見つかってしまうのだろう。現れたのが大栄のエースだったらもっと嫌だが流石にそれは有り得ない。
彼は慣れた足取りで土手を下りてくるとその傍らで腰を下ろした。そしてこちらにも座るように促す。
「…昨日は、惜しかったなぁ。」
なるべくさり気ない素振りで、バスケ部に会ったら言うべき言葉その①を口にしてみたが、南からは何の返事も得られなかった。
沈黙という雰囲気がどうにも嫌だったので、続いてバスケ部に会ったら言うべき言葉その②にチャレンジ。
「まぁ、IHでリベンジやな。」
そこで南はようやく口を開いた。
「…大栄に負けてるようじゃアカンわ。」
「次はわからんて。頑張ってる君ら、めっちゃカッコええで。」
「………。」
押し黙った南の横顔を盗み見ると、彼は何かに思いを馳せるように遠くを見つめている。
「…勝たな、あかんねん。」
そう呟いた南の顔は、どこか思い詰めているようにさえ感じた。それほど昨日の敗戦がショックだったのだろうか。
「勝つことも大切やけど、頑張ってるって事が一番大切やん。」
ありきたりな言葉に、南は小馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「おんなじ事、理事長に言ってみ。」
思いがけない言葉に驚きを通り越してキョトンとする。
「なに?その大人な発言。」
目を丸くしながら南を見ると、至近距離で視線が絡まった。
ドキリ、とした胸の鼓動が早くなる。
「センセが子供なんと違うか。ちっこいし。」
「身長はかんけいあれへんがな。話逸らさんといて。」
拗ねたフリで上手く視線を逸らした、と思う。
確かに以前から南の目が苦手だった。けれどその苦手と今の苦手は少し内容が違うような気がする。
「かわいいと思うで。」
ギョっとして再び南を見る。思わず背筋が伸びた。
「…なにが?」
「センセが。」
そんな台詞を吐きながらも彼は、立てた膝の上に腕を預けてどこか遠くを見据えたまま。いかにもその言葉に深い意味はなく、適当に言ってみましたという様子が見て伺えた。
そこで思い直す。
そんな事を言われたからといって何も驚くことはない。カワイイと一言で言っても、それには広い意味があるわけで。
顔が、性格が、仕種が、揚句にはバカ臭さだってカワイイと形容出来なくもない。南が何を意図してそんな台詞を言ったのかは不明だが、どっちにしろ何か馬鹿にされたに違いない。
「そら、おおきにー。」
おどけて大袈裟に頭を下げると、南がこちらに視線を戻す。
「ホンマやで。」
そんな台詞、真面目な顔で言われても。
「南君は、なかなか女を見る目があるなぁ。」
こちらは冗談として返すしかないのだから、悪戯にドキドキさせないで欲しい。
すると南は、まるで試合観戦にでも誘うかのように言ったのだ。
「キスしようや。」
つづく.
ヤンキー役がお似合いの某俳優さんの口説き文句(らしい)を使用(笑)