Secret lover
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疑わしきは罰せず
可能性だけでそうと決め付けてしまう訳にはいかないと思う。
けれどあれが何であったのか、答えの出ないモヤモヤがずっと頭の片隅に残っていた。
自分の唇に指を押し当ててみて首を傾げる。次に手の甲。違う、と思う。
そして最終的にはやはり、あれはキスだったのではないだろうかという結論に達してしまう。むろん決め付ける気はないが。
「わっからんわぁ」
テーブルに広げたテキストの上に突っ伏した。顔を横に向けるとちょうど時計が見える。
「げー。ちっとも進んでへんやん。嫌がらせやな、さては。」
しつこく説教した仕返しのつもりなのだろうか。
試験前のこの大切な時に、動揺させて勉強に集中できないようにしてやろうという腹なのだろうか。
「根性悪っ」
そしてまんまとそれにひっかかっている自分が情けない。相手は高校生。一体いくつ年下だと思っているのだ。
あれはパンツ何色?と同レベルの嫌がらせでしかないというのに。
「最近の高校生のチューの価値って低いねんなぁ。」
虚ろな目で呟くとやがて勢いよく立ち上がった。
「勉強が手につかんのやったら、しゃーないわ。」
こうしている時間が勿体ない。
どうせ勉強が手につかないのならバスケの試合を見に行こうと思い立ち、バタバタと身支度を始めた。
勢いで家を飛び出したはいいが、もともと観戦に行く気などなかったので、豊玉が本日の第一試合なのかその後の試合なのかすら知らない。
もし第2試合ならちょっと早すぎる気もしたが、第1試合だったらギリギリだ。
「ヨユーやん。」
会場に着いてから、豊玉の試合までまだまだ時間があることを知り胸を撫で下ろす。そのせいかチラホラと豊玉バスケ部のジャージをみかけたが、ほとんどが1年と2年生だった。
もし南に会ったら、何事もなかったような顔で頑張れと言ってやろう。それが自分の大人としてのせめてものプライドだと思う。
館内のだだっ広い廊下でそんなことを考えてふと顔を上げたときだった。
いかにもバスケの選手らしくジャージに身をつつんだ長身の青年が視界に映る。つい一週間ほど前、スタバで声をかけてきた子だ。
すると向こうもこちらに気づいたように動きを止めた。
さて、知らん顔をするべきか否か。
学生の時分であれば前者を選択したであろう。しかしこういう職業を選んだ以上はそういうわけにもいかない。
そう思い直して軽く会釈をすると相手も表情を緩めた。
こちらが挨拶しなければ、知らん顔で通すつもりだったようだが。
「奇遇やなぁ。バスケ、見に来はったん?」
近づいてきた青年に少しドキドキした。別れた人に似ている、と、どうしても思ってしまう。
「ええ、ま。ホント凄い偶然…。」
マジっと見つめられたら顔が熱くなるような気さえする。
「…やっぱ、どっかで…。」
そう呟いた青年が続ける。
「なんて名前?」
これは世に言うナンパなのではないだろうか。高校生にナンパされるなんて自分もまだまだ捨てたもんじゃない、と思う。
「え…、[#dn=2#]…」
「下は?」
そんじょそこらの男なんかに、そう易々と名前を教えたりはしないはずなのに。
「パピ子…」
「あ」
ポンと青年が手を打った。
そして「分かった。」と得意そうに目を細める。
「僕の顔見て何か気づきません?」
素直にカッコイイと思いますよ、なんて言えるタイプの人間ではない。
「よく似てるとは言われるんやけど。」
「え…?」
まさか。
頭の隅にちらついていた元カレの顔がはっきりと形になる。
彼は一人暮らしをしていたけれど、実家は同じ大阪にあって、そこには両親と…
「土屋ー!」
不意に聞こえたその名にドキリとした。
「おお」
そう言って返事をしたのは目の前の青年。
「ツチヤ…?」
驚いてその顔を見上げると彼はニコリと笑う。
「気づかはった?」
じゃあね、と手を挙げて去っていく青年の後姿をぼんやりと眺めた。
自分は面識はないつもりでいたが、相手は明らかにこちらの事を知っているようだった。おそらく元カレ経由で。
兄弟か、そうでないにしても血縁者なのだろう。似ている訳だ。
「フン」
胸の中に、如何ともし難いモヤモヤが広がる。
似ていた。ちょっとカッコよかった。それだけのことだというのに。
「目の保養になったわー。」
そう言って背筋を伸ばしたとき、ズシリと頭に重みを感じた。続いて頭上から降って来たのは岸本の声。
「せやけどこうやってパピ子ちゃんが来てくれとるから、あの神奈川のドチビの事はもーええねん。」
「関係あれへんがな。探し出してシバイたれ。」
視界の横に映った南が何かの雑誌をバサリと振り降ろした。
「あたしの頭は肘置きやないねんけど。」
岸本の腕から逃れて何となく南の陰に隠れるように立つ。
「なんだかんだ言いながら来てくれたんやん。」
「そぉや。忙しいのに来たったんやから頑張りー。」
何事もなかったかのように接する。
そう思いながら雑談の間中岸本ばかりを見て、なかなか南に視線を移せずにいた。
そうこうしているうちに下級生が二人を呼びに来た。そこでようやく南に視線をやる。一瞬目が合った。
それだけなのに岸本と視線を合わせた時とは違う何かが胸の奥で騒ぐ。
「はい、はよ行かな。」
そう言いながら二人の背後に回り込み背中を押し出そうとした。
しかし、どうしたことか南のそれには触れることができず岸本の背中だけをポンと叩く。
振り返り笑顔を見せる岸本。
表情を変えない南。
笑いながらガッツポーズを作る自分。そして少しの罪悪感。
可能性だけでそうと決め付けてしまう訳にはいかないと思う。
けれどあれが何であったのか、答えの出ないモヤモヤがずっと頭の片隅に残っていた。
自分の唇に指を押し当ててみて首を傾げる。次に手の甲。違う、と思う。
そして最終的にはやはり、あれはキスだったのではないだろうかという結論に達してしまう。むろん決め付ける気はないが。
「わっからんわぁ」
テーブルに広げたテキストの上に突っ伏した。顔を横に向けるとちょうど時計が見える。
「げー。ちっとも進んでへんやん。嫌がらせやな、さては。」
しつこく説教した仕返しのつもりなのだろうか。
試験前のこの大切な時に、動揺させて勉強に集中できないようにしてやろうという腹なのだろうか。
「根性悪っ」
そしてまんまとそれにひっかかっている自分が情けない。相手は高校生。一体いくつ年下だと思っているのだ。
あれはパンツ何色?と同レベルの嫌がらせでしかないというのに。
「最近の高校生のチューの価値って低いねんなぁ。」
虚ろな目で呟くとやがて勢いよく立ち上がった。
「勉強が手につかんのやったら、しゃーないわ。」
こうしている時間が勿体ない。
どうせ勉強が手につかないのならバスケの試合を見に行こうと思い立ち、バタバタと身支度を始めた。
勢いで家を飛び出したはいいが、もともと観戦に行く気などなかったので、豊玉が本日の第一試合なのかその後の試合なのかすら知らない。
もし第2試合ならちょっと早すぎる気もしたが、第1試合だったらギリギリだ。
「ヨユーやん。」
会場に着いてから、豊玉の試合までまだまだ時間があることを知り胸を撫で下ろす。そのせいかチラホラと豊玉バスケ部のジャージをみかけたが、ほとんどが1年と2年生だった。
もし南に会ったら、何事もなかったような顔で頑張れと言ってやろう。それが自分の大人としてのせめてものプライドだと思う。
館内のだだっ広い廊下でそんなことを考えてふと顔を上げたときだった。
いかにもバスケの選手らしくジャージに身をつつんだ長身の青年が視界に映る。つい一週間ほど前、スタバで声をかけてきた子だ。
すると向こうもこちらに気づいたように動きを止めた。
さて、知らん顔をするべきか否か。
学生の時分であれば前者を選択したであろう。しかしこういう職業を選んだ以上はそういうわけにもいかない。
そう思い直して軽く会釈をすると相手も表情を緩めた。
こちらが挨拶しなければ、知らん顔で通すつもりだったようだが。
「奇遇やなぁ。バスケ、見に来はったん?」
近づいてきた青年に少しドキドキした。別れた人に似ている、と、どうしても思ってしまう。
「ええ、ま。ホント凄い偶然…。」
マジっと見つめられたら顔が熱くなるような気さえする。
「…やっぱ、どっかで…。」
そう呟いた青年が続ける。
「なんて名前?」
これは世に言うナンパなのではないだろうか。高校生にナンパされるなんて自分もまだまだ捨てたもんじゃない、と思う。
「え…、[#dn=2#]…」
「下は?」
そんじょそこらの男なんかに、そう易々と名前を教えたりはしないはずなのに。
「パピ子…」
「あ」
ポンと青年が手を打った。
そして「分かった。」と得意そうに目を細める。
「僕の顔見て何か気づきません?」
素直にカッコイイと思いますよ、なんて言えるタイプの人間ではない。
「よく似てるとは言われるんやけど。」
「え…?」
まさか。
頭の隅にちらついていた元カレの顔がはっきりと形になる。
彼は一人暮らしをしていたけれど、実家は同じ大阪にあって、そこには両親と…
「土屋ー!」
不意に聞こえたその名にドキリとした。
「おお」
そう言って返事をしたのは目の前の青年。
「ツチヤ…?」
驚いてその顔を見上げると彼はニコリと笑う。
「気づかはった?」
じゃあね、と手を挙げて去っていく青年の後姿をぼんやりと眺めた。
自分は面識はないつもりでいたが、相手は明らかにこちらの事を知っているようだった。おそらく元カレ経由で。
兄弟か、そうでないにしても血縁者なのだろう。似ている訳だ。
「フン」
胸の中に、如何ともし難いモヤモヤが広がる。
似ていた。ちょっとカッコよかった。それだけのことだというのに。
「目の保養になったわー。」
そう言って背筋を伸ばしたとき、ズシリと頭に重みを感じた。続いて頭上から降って来たのは岸本の声。
「せやけどこうやってパピ子ちゃんが来てくれとるから、あの神奈川のドチビの事はもーええねん。」
「関係あれへんがな。探し出してシバイたれ。」
視界の横に映った南が何かの雑誌をバサリと振り降ろした。
「あたしの頭は肘置きやないねんけど。」
岸本の腕から逃れて何となく南の陰に隠れるように立つ。
「なんだかんだ言いながら来てくれたんやん。」
「そぉや。忙しいのに来たったんやから頑張りー。」
何事もなかったかのように接する。
そう思いながら雑談の間中岸本ばかりを見て、なかなか南に視線を移せずにいた。
そうこうしているうちに下級生が二人を呼びに来た。そこでようやく南に視線をやる。一瞬目が合った。
それだけなのに岸本と視線を合わせた時とは違う何かが胸の奥で騒ぐ。
「はい、はよ行かな。」
そう言いながら二人の背後に回り込み背中を押し出そうとした。
しかし、どうしたことか南のそれには触れることができず岸本の背中だけをポンと叩く。
振り返り笑顔を見せる岸本。
表情を変えない南。
笑いながらガッツポーズを作る自分。そして少しの罪悪感。