Secret lover
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ひとつだけ心に決めていることがある。
来年はこの学校には来ない。
たとえありがたい契約更新のお話があったとしてもお断りします。
もともと最初からあまり乗り気ではなかった。
けれど今年も教員採用試験に落ちて、臨時講師の話もなかなか来なくて、こっちも生活がかかっているから物凄く不安になっていた時にこの話をもらったのだから仕方がない。
それがちょっとガラの悪い高校だという話は聞いていた。
というのも大学の友人が高校生だった時分には男子校だったらしく
、その名残で未だに男子の数が圧倒的に多いからなのだそうだ。
夢を叶えるというのは結構大変な事で、教員採用試験という狭き門を突破するまでは臨時の仕事にしがみつかなくてはならなかった。
スポーツに力を入れている学校らしいし…私立はたいていそんなものだが、この学校は実績もある。進学率も半々。
実はそんなに悪くないかもしれない。
…と言う考えは甘かったのだということを今更ながら痛感している。
もう後悔に近い。
とにかく若いからとか、女だからとか言ってナメられてはいけないと言うことは分かっていたつもりだ。
けれどこういう輩が相手だとそういう次元の話でもなくなってくる。特に3年生の質が悪い。
昼休みも終わりに近づき、次の授業の準備の為に職員室への道程を急いでいた。
フと少人数でたむろっている3年生が視界に映る。
バッチリ目が合った。嫌な予感。
「パピ子ちゃ~ん、今日パンツ何色~?」
ほらきた。
話題の内容のほかにも引っかかる部分が多々あるけれど、ここでムキになってはいけない。
「今度のテストで90点以上取れたら教えたげよ。」
「ムリやんそれ。」
「一発ヤらしてくれるなら俺、90点取ったるで~。」
「それええなぁ!皆やる気になんで、センセ。」
「せや、いろんなとこがヤる気になんで。」
弾かれたように笑いが起きた。
こんな時こそ忍耐。お蔭さまで我慢強くなれたと自負している。
「あたしだって仕事を失くしてまで、いい点を取ってくれとは言われへんわ。」
「バレへんって。俺、口堅いねん。せやから頑張ったら、な?エエやろ?」
.
男ばかりの高校で若い女教師がからかわれるのは仕方のないことだが、これをいかに上手くかわすかというのが最近の頭痛の種になっていた。学習指導要領を作るより面倒くさい。
頭ごなしにアホのクソの言えたらどんなにか楽だろうと思う。
「ハイハイ。もう昼休み終わるよ。はよ教室に帰って。」
「せやけど次、パピ子ちゃんの授業やんけ。一緒に行ったらええやん。」
はっきり言ってもうナメられているのかもしれない。
それでも生徒達と上手くやっていく事は円滑に授業を進める為に必要不可欠なのだから、多少の事は仕方ないと思う。
生徒に媚びるつもりはないが。
「そこ、今は授業中やで。ゲームは昼休みにしい。次やったら没収。」
ガラの悪い生徒が多い割には、思いの外授業は粛粛と進む。
やる気のない生徒は寝ているか、最初から授業に出ないからだ。
私語がなければ少々の事は見逃すが、堂々と漫画やゲームを出されると流石に注意しなければならない。
午後からの授業のせいか、若干出席率も悪いような気がする。
再び黒板に向かっていると、無遠慮にドアの開く音がした。
現れたのは長身の二人組。大幅に授業に遅れてきたというのに全く悪びれる様子がない。
「君ら何してたん?今何分やと思ってんの?」
髪の短い方が…確か南といった…無言でチラリと視線を寄越す。
何か裏がありそうな、それでいて冷たいその目が実は苦手だったりする。
ああ見えて彼は全国大会の常連であるバスケ部のキャプテンをしている。
特に素行が悪いわけでもないし、何か嫌な事をされた訳でもない。
それどころか話した記憶など殆どないに等しい。
でもなんとなく苦手なのだ。
だからと言って邪険にするつもりは勿論ないが、ただ教師だって人間だから仕方がない事もある。
「昼寝しとったら寝過ごしてん。」
南と一緒に遅れて来たもう一人の生徒が面倒臭そうに口を開いた。
彼の名前は岸本とか言った。
見るからにガラの悪そうな生徒なのだが、後で問題になるような事には加担しないらしい。
実は彼もバスケ部。バスケ部員としての自覚があるからだったらそれはそれで立派だと思う。
「はよ座り。授業続けんで。」
二人してチャイムの音も気付かないくらい熟睡してたの?とかツッコみたい所はたくさんあったが堪えた。
とりあえず出席する気があってやってきた生徒を頭ごなしに叱ってやる気を削ぐのもいかがなものか。そんな事より授業を進める方が有意義なのではないか。
早い話が面倒なのだ。
何事もそこそこに、それなりに。
一年間腰を据えるだけの学校だし、彼等だって来年は卒業するのだから。
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