Short
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
大学に隣接する貯水池は大正時代に造られたらしく、構内からでもその水源を見る事ができた。好奇心から少し足を伸ばし、違う角度からの貯水池を見てみると石張コンクリート造の堰堤が何ともいい味を出していた。貯水池の周囲を囲む緑も相まってマイナスイオンをふんだんに浴びることができそうなそこは散歩コースとして悪くないと思った。大学に入学して間もない私が貯水池の周辺を散策しているときに会ったのが傑だった。
出会った当時から傑は酷く大人びていた。学生服を着ていなければ高校生と分からなかったほどだ。
「こんな所に来たら危ないよ」
両手をポケットに突っ込んだまま彼はそう言った。結んだ長髪、大きなピアス、ボンタンのズボンという彼の出立ちを見て、ヤンチャな人たちの溜まり場なのかと周囲を見渡したが、そこには私と彼しかいない。
「君には見えないのかい?」
「何が?」
「呪いさ。そこに7つ」
「え?!」
水面を指差しながら少し冗談めかして言ったそれがどこまで本気だったのか分からないが、その時は変な人だと思った。
その貯水池が何かと曰く付きだと知ったのは少し後になってからだった。数年前、夜にドライブをしていたカップルがこの貯水池に突っ込む事故があったのだそうだ。地元の新聞記事になったというそれの、女の方はウチの大学の生徒だったらしい。
オカルトは信じないが、もしかしたら世の中には見える人がいるのかも知れないと少し思った。
それから時折、その貯水池で彼と顔を合わせるようになったが、彼がオカルト的な事を言ったのは初めて会った際のあの一度だけだった。何度も言うが私はオカルトは信じない。それ以降彼がその話題に触れることはなかったから、やはりあれは冗談だったのだと思う。
彼は高校生と言うには酷く穏やかな口調で話をした。どうも私のイメージする高校生とは違うタイプのようで、歳下は恋愛対象に入らないと豪語していた頃の自分の存在を抹消したくなった。つまりかなり早い段階で、私は彼に好意を持つようになったのだ。面食いと言ってくれて構わないが少し付け加えさせてもらうのならば、私は傑が穏やかな仮面の裏に何か激しいものを隠し持っているような気がしていて、そのアンバランスな雰囲気に惹かれのだと思う。
まだ夏の暑さが残る季節。
涼もうよ、と傑を部屋に誘った。多分彼は私の好意に気づいていて、そのうえで私の誘いに乗った。何もなければそれまでだけれど、少し期待した。
「そこら辺、適当に座って」
学生用の、けして新しいとは言えない部屋は少し天井が低めだったようで、傑の背の高さを際立たせ少し窮屈に見えた。ムワッとした空気に化粧品の甘い匂いが混じるそこは、エアコンが効きだすまで少し時間がかかる。冷蔵庫から取り出した麦茶ポットはあっという間に汗をかいた。麦茶を注いだばかりのグラスも然り。
エアコンから漸く冷たい空気が出始めたところで、ベッドを背もたれに片膝を立てて座る傑の隣に腰を下ろした。せっかく部屋に連れ込んだのに行儀よくテーブルを挟んで座るのは違うと思う。
「へぇ、寮なんだ?門限あるの?」
「そういうのは特にないよ」
「そうなの?宗教系の学校って色々厳しいイメージだけど」
「信用されてるのかな」
「えー?そんな格好してるのに?」
揶揄うように言った私を見て、傑が口端を吊り上げ目を細める。
「いいのかい?」
傑が身を乗り出して顔を近づけた。挑発的な色を含んだ目に吸い込まれそうだ。
「な、にが…?」
「信用できない男を部屋にあげたりして」
息が止まるかと思った。ダメ元でグイグイ押してきたつもりだけど、いざとなったら全然上手く立ち回れないものなんだと思う。戸惑い硬直する私が面白かったようで、彼は小さく吹き出すと耳元まで近づけていた顔を離した。
「さっきまでの勢いはどこに行ったんだい?」
熱くなっていた顔が更に熱くなった。それは彼の顔が近づいたせいか、はたまた揶揄われたせいなのか分からない。けれど彼のそれは私の衝動を突き動かすには十分だったのだ。
「傑になら、何をされてもいいと思ってる」
「本気にしてしまうよ」
「いいよ」
傑の肩に手を置いて今度は私が顔を近づけた。唇を重ねたのはどちらからだったかなんて、そんな事は分からない。
付き合うだとか付き合わないだとか、そう言った話をする前に関係を持ってしまう話は聞く。そう言った場合、大抵いい結果にはならないのも知っている。満たされたような気持ちの半面少しの後悔が残ったのは、きちんと手順を踏むべきだったという気持ちがどこかにあったからだ。
そういえば私は彼の事を名前以外何も知らない。それに気づいたのは、コトを済ませた彼が部屋を出て行った後だった。彼はもう貯水池に来ないかもしれないと思った。男子高校生なんて、ただエロスに興味があるだけだと知っている。
だから彼が再び部屋にやってきた時は驚いた。
背の高い傑をマジマジと見上げると彼は「迷惑だったかな?」と眉尻を下げた。「連絡先を知らないんだ」と言った彼が、どんな理由であれ私の元に来てくれた事が嬉しくて私は彼に抱きついた。彼はそれに応えるように抱きしめ返してくれた。思えばあの頃が一番幸せだったと思う。
彼は私が思うよりずっと誠実だった。バイト帰りに待ち合わせてご飯を食べに行くこともあった。
何かが変わり始めたのは、私たちが出会って1年が経とうとした頃だった。傑からの連絡が少なくなって、やがて途絶えた。夏は忙しいんだと言っていたけれど、それが本当の理由なのかただの言い訳なのか私には分からない。けれど私は彼の誠実さを信じたかった。
まだ夏の暑さが残る季節。
久しぶりに傑がやってきた。自然消滅するのかもしれないと思い始めていた私は驚いて、嬉しくて、そして少し怖いと思った。少し痩せて少し疲れたような彼の様子も気になった。玄関を開けるためにちょっと引っ掛けただけのサンダルから足を抜こうとすると彼は言った。
「久しぶりに貯水池に行かないか」
大学の構内にあるオレンジのライトに照らし出された貯水池は夜のデート場所としては確かに悪くない。傑が隣にいるのならそれがどこであっても良かった。
「やっぱり夜の貯水池は雰囲気あるよね。出そう」
季節柄、少し前にテレビでオカルト系の番組が放送されていて、怖いけれどつい見てしまう私は何となくそれを思い出して背中をムズムズさせた。
「いるよ、そこに」
「え?」
振り向き傑の指した場所を目を凝らして見たが、当たり前だけど何も居ない。
「もー!脅かさないで、そういうのナシ。本当はちょっとビビってるんだから」
いつもなら笑ってくれるはずの彼は笑わなかった。そして「本当に君は、何も見えないんだね」と憐れむような、どこか蔑むような目で私を見つめたのだ。
私はオカルトは信じない。けれど。
傑はいつものように両手をズボンのポケットに突っ込んで、所々オレンジの光を反射させている水面に視線を移した。不思議と幻想的なライトの光だ。
「君を好きだった私も、本当の私だよ」
「……え?」
唐突なそれを聞いて真っ先に浮かんだ言葉は、薄々気づいていたけれど私が最も恐れていたもので、それを口にして仕舞えば現実になってしまいそうだと思った。
傑の袖を掴もうと伸ばした手を彼がさりげなく避けたように見えた。私は確かに傷つき、そのせいだろうか俄かに身体が重くなった、刹那。
突然強く髪を引かれた。ガクンと顎があがって引っ張られた身体が後ろへ傾く。貯水池に落ちると理解して咄嗟に傑に向かって伸ばした手を彼が取ることはなくて、酷く冷めた表情で私を見つめるその後ろに複数の……私はなぜかその時それが7つあるような気がした…人の頭のようなものを見た。
●●市▲▲▲町▲▲▲ダムで見つかった女性の遺体は同市に住む大学生(19)のものと判明した。女性は⚪︎月×日頃から行方が分からなくなっており、今後_ _ _ _
20251001
出会った当時から傑は酷く大人びていた。学生服を着ていなければ高校生と分からなかったほどだ。
「こんな所に来たら危ないよ」
両手をポケットに突っ込んだまま彼はそう言った。結んだ長髪、大きなピアス、ボンタンのズボンという彼の出立ちを見て、ヤンチャな人たちの溜まり場なのかと周囲を見渡したが、そこには私と彼しかいない。
「君には見えないのかい?」
「何が?」
「呪いさ。そこに7つ」
「え?!」
水面を指差しながら少し冗談めかして言ったそれがどこまで本気だったのか分からないが、その時は変な人だと思った。
その貯水池が何かと曰く付きだと知ったのは少し後になってからだった。数年前、夜にドライブをしていたカップルがこの貯水池に突っ込む事故があったのだそうだ。地元の新聞記事になったというそれの、女の方はウチの大学の生徒だったらしい。
オカルトは信じないが、もしかしたら世の中には見える人がいるのかも知れないと少し思った。
それから時折、その貯水池で彼と顔を合わせるようになったが、彼がオカルト的な事を言ったのは初めて会った際のあの一度だけだった。何度も言うが私はオカルトは信じない。それ以降彼がその話題に触れることはなかったから、やはりあれは冗談だったのだと思う。
彼は高校生と言うには酷く穏やかな口調で話をした。どうも私のイメージする高校生とは違うタイプのようで、歳下は恋愛対象に入らないと豪語していた頃の自分の存在を抹消したくなった。つまりかなり早い段階で、私は彼に好意を持つようになったのだ。面食いと言ってくれて構わないが少し付け加えさせてもらうのならば、私は傑が穏やかな仮面の裏に何か激しいものを隠し持っているような気がしていて、そのアンバランスな雰囲気に惹かれのだと思う。
まだ夏の暑さが残る季節。
涼もうよ、と傑を部屋に誘った。多分彼は私の好意に気づいていて、そのうえで私の誘いに乗った。何もなければそれまでだけれど、少し期待した。
「そこら辺、適当に座って」
学生用の、けして新しいとは言えない部屋は少し天井が低めだったようで、傑の背の高さを際立たせ少し窮屈に見えた。ムワッとした空気に化粧品の甘い匂いが混じるそこは、エアコンが効きだすまで少し時間がかかる。冷蔵庫から取り出した麦茶ポットはあっという間に汗をかいた。麦茶を注いだばかりのグラスも然り。
エアコンから漸く冷たい空気が出始めたところで、ベッドを背もたれに片膝を立てて座る傑の隣に腰を下ろした。せっかく部屋に連れ込んだのに行儀よくテーブルを挟んで座るのは違うと思う。
「へぇ、寮なんだ?門限あるの?」
「そういうのは特にないよ」
「そうなの?宗教系の学校って色々厳しいイメージだけど」
「信用されてるのかな」
「えー?そんな格好してるのに?」
揶揄うように言った私を見て、傑が口端を吊り上げ目を細める。
「いいのかい?」
傑が身を乗り出して顔を近づけた。挑発的な色を含んだ目に吸い込まれそうだ。
「な、にが…?」
「信用できない男を部屋にあげたりして」
息が止まるかと思った。ダメ元でグイグイ押してきたつもりだけど、いざとなったら全然上手く立ち回れないものなんだと思う。戸惑い硬直する私が面白かったようで、彼は小さく吹き出すと耳元まで近づけていた顔を離した。
「さっきまでの勢いはどこに行ったんだい?」
熱くなっていた顔が更に熱くなった。それは彼の顔が近づいたせいか、はたまた揶揄われたせいなのか分からない。けれど彼のそれは私の衝動を突き動かすには十分だったのだ。
「傑になら、何をされてもいいと思ってる」
「本気にしてしまうよ」
「いいよ」
傑の肩に手を置いて今度は私が顔を近づけた。唇を重ねたのはどちらからだったかなんて、そんな事は分からない。
付き合うだとか付き合わないだとか、そう言った話をする前に関係を持ってしまう話は聞く。そう言った場合、大抵いい結果にはならないのも知っている。満たされたような気持ちの半面少しの後悔が残ったのは、きちんと手順を踏むべきだったという気持ちがどこかにあったからだ。
そういえば私は彼の事を名前以外何も知らない。それに気づいたのは、コトを済ませた彼が部屋を出て行った後だった。彼はもう貯水池に来ないかもしれないと思った。男子高校生なんて、ただエロスに興味があるだけだと知っている。
だから彼が再び部屋にやってきた時は驚いた。
背の高い傑をマジマジと見上げると彼は「迷惑だったかな?」と眉尻を下げた。「連絡先を知らないんだ」と言った彼が、どんな理由であれ私の元に来てくれた事が嬉しくて私は彼に抱きついた。彼はそれに応えるように抱きしめ返してくれた。思えばあの頃が一番幸せだったと思う。
彼は私が思うよりずっと誠実だった。バイト帰りに待ち合わせてご飯を食べに行くこともあった。
何かが変わり始めたのは、私たちが出会って1年が経とうとした頃だった。傑からの連絡が少なくなって、やがて途絶えた。夏は忙しいんだと言っていたけれど、それが本当の理由なのかただの言い訳なのか私には分からない。けれど私は彼の誠実さを信じたかった。
まだ夏の暑さが残る季節。
久しぶりに傑がやってきた。自然消滅するのかもしれないと思い始めていた私は驚いて、嬉しくて、そして少し怖いと思った。少し痩せて少し疲れたような彼の様子も気になった。玄関を開けるためにちょっと引っ掛けただけのサンダルから足を抜こうとすると彼は言った。
「久しぶりに貯水池に行かないか」
大学の構内にあるオレンジのライトに照らし出された貯水池は夜のデート場所としては確かに悪くない。傑が隣にいるのならそれがどこであっても良かった。
「やっぱり夜の貯水池は雰囲気あるよね。出そう」
季節柄、少し前にテレビでオカルト系の番組が放送されていて、怖いけれどつい見てしまう私は何となくそれを思い出して背中をムズムズさせた。
「いるよ、そこに」
「え?」
振り向き傑の指した場所を目を凝らして見たが、当たり前だけど何も居ない。
「もー!脅かさないで、そういうのナシ。本当はちょっとビビってるんだから」
いつもなら笑ってくれるはずの彼は笑わなかった。そして「本当に君は、何も見えないんだね」と憐れむような、どこか蔑むような目で私を見つめたのだ。
私はオカルトは信じない。けれど。
傑はいつものように両手をズボンのポケットに突っ込んで、所々オレンジの光を反射させている水面に視線を移した。不思議と幻想的なライトの光だ。
「君を好きだった私も、本当の私だよ」
「……え?」
唐突なそれを聞いて真っ先に浮かんだ言葉は、薄々気づいていたけれど私が最も恐れていたもので、それを口にして仕舞えば現実になってしまいそうだと思った。
傑の袖を掴もうと伸ばした手を彼がさりげなく避けたように見えた。私は確かに傷つき、そのせいだろうか俄かに身体が重くなった、刹那。
突然強く髪を引かれた。ガクンと顎があがって引っ張られた身体が後ろへ傾く。貯水池に落ちると理解して咄嗟に傑に向かって伸ばした手を彼が取ることはなくて、酷く冷めた表情で私を見つめるその後ろに複数の……私はなぜかその時それが7つあるような気がした…人の頭のようなものを見た。
●●市▲▲▲町▲▲▲ダムで見つかった女性の遺体は同市に住む大学生(19)のものと判明した。女性は⚪︎月×日頃から行方が分からなくなっており、今後_ _ _ _
20251001
7/10ページ