Chocolate Lily
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日飲み会で知り合った男性と2人で出かけて帰ってきたナビス子は、慣れた手つきで鍵を差し込み玄関ドアを開けたところで、三和土に男物の靴を認めて大きく息を吐いた。
今日の人は五条と違って場慣れしていない感じがナビス子を安心させてくれたし楽しかった。しかし、これは友人と遊びに行く楽しさと同じものなのかもしれないと物足りなさを感じたのも確かだ。が、だからと言ってこの来訪者を歓迎する気はない。
靴を脱ぎ捨てて部屋に入りベットに仰向けで身体を投げ出している五条を睨みつけると、人の気配に気づいた五条が「ん…」と掠れた声を出した。どうやら仮眠を取っていたようだ。
「何でそこに居んの?」
「…バーさんに合鍵もらった」
「いつ?!」
「この部屋を契約した時なんじゃない?」
───知らなかった
ナビス子がヘナヘナとその場に座り込む。
「聞いてなかった?おばーちゃん、そろそろ物忘れが始まったかな」
よいしょ、と五条が上半身を起こして、そこで漸く「あれ?今日は何か違うね」と、ナビス子がいつもより念入りにメイクをして、いつもより可愛らしい服を着ている事に気づいたようだった。
「デート?」
五条に言い当てられてナビス子は少し驚いた。初めて会った時もそうだったが、彼は人をよく観察しているうえに察しがいいのだ。
「妬けちゃうな」
「……」
サラリと甘い言葉を吐きながら、それに実がない事を知っている。
苛立ちを落ち着かせようと、ナビス子はゆっくり瞬きをしながら深呼吸した。
「いくら五条さんでも、勝手に中に入られるのは困ります」
「連絡入れたよ?」
「えっ?」
言われてカバンを漁ると、そこで漸くスマホにメッセージが届いている事に気づいた。
「よっぽど楽しかったんだね」
あまりにもあっけらかんとしている彼の態度がナビス子の苛立ちを増幅させる。
「さて、まだ時間はあるけど、彼氏との余韻を噛み締めたいだろうから退散してあげよう」
そう言いながら五条が立ち上がった。
「彼氏じゃないです、まだ」
もしそこに、異性と2人きりで出かけた事を咎めるような素振りがあれば、この苛立ちを少しは落ち着かせる事ができるのだろうか。
「そうなの?じゃ、頑張んないと」
しかし、それが叶うことはなくて、少し期待した自分が馬鹿だったとナビス子は思った。
「五条さんはいるんですか?」
「彼女」と付け加えると彼は僅かに顎をあげて考える素振りを見せた。即答できないその理由が気になる。
「その定義に当てはまるのは、いないかもね」
ややあって返された酷く曖昧なそれの指し示す意味は、ナビス子にもなんとなく推し量る事ができた。
「僕、こう見えても結構忙しいんだよ?」と、彼は自分を指差しておどけるような仕草をしてみせる。ナビス子は少し押し黙ってから、意を決したように問った。
「五条さんって、忘れられないような恋愛した事ありますか?」
これには五条も少し面食らったようだ。
「…えーと。もしかしてそういうのに憧れてんの?」
それには答えず、視線で返事を促す。
「若いねぇ」と彼は頭を掻くと、開き直ったように小さく両手を広げた。
「ぶっちゃけ、ない。そういうのにエネルギーは使わないようにしてんの」
「どうして?」
五条ほど恵まれた容姿なら、ドラマのような恋愛だって難しくないのに、とナビス子は思う。
「愛は呪いだからね。縛るつもりも縛られるつもりもない」
ナビス子は驚いた。
それが彼の価値観なのか。
「なに?結婚と恋愛は別物って言ってなかったっけ?」
それは牽制のつもりなのか、と思うのは考えすぎだろうか。思い描いていた理想の夫婦像が遠ざかってゆく。
「五条さん、めっちゃモテるでしょ?」
「改めて言われると恥ずかしいな」
否定しないんかい、と突っ込むのも面倒くさくてナビス子はため息を吐いた。
「五条さんは、恋愛に負の感情を持っているんですね。一方的な好意を押し付けられる事が多すぎて、そうなっちゃったのかな」
五条は肯定とも否定ともつかぬ笑みを浮かべる。
「本当の愛は、縛ったり縛られたりするものではないと思う」
「………」
彼は長い腕を組んでナビス子を見下ろした。
「まだ子どもの君には分からないかもね」
「私は子どもじゃありません…!」
「違うの?」
一瞬言葉に詰まってからナビス子は「違います」と五条を見上げて言い放った。
「五条さんの言う大人って何か分からないけど、成人してるし、少しだけど社会経験もあるし、それなりに思慮や分別はあります」
「分別?」
五条に鼻で笑われてナビス子は思わず苛立った。
「何がおかしいんですか!」
「分別のある愛って、割り切った愛の事?」
「…ち、違います」
「縛らない愛と割り切った関係の何が違うんだろうね?」
「…それは、心があるかないか…」
「相手を自分のエゴで縛らずにいられる?」
「本当に相手のことを想うなら」
「君の言ってる事は所詮綺麗事だよ」
「そ、そもそも縛られたくないと思うのは、愛してないからです」
「ま、そうかもね」と言った五条が、やはりやたらと憎らしく思えた。
今日の人は五条と違って場慣れしていない感じがナビス子を安心させてくれたし楽しかった。しかし、これは友人と遊びに行く楽しさと同じものなのかもしれないと物足りなさを感じたのも確かだ。が、だからと言ってこの来訪者を歓迎する気はない。
靴を脱ぎ捨てて部屋に入りベットに仰向けで身体を投げ出している五条を睨みつけると、人の気配に気づいた五条が「ん…」と掠れた声を出した。どうやら仮眠を取っていたようだ。
「何でそこに居んの?」
「…バーさんに合鍵もらった」
「いつ?!」
「この部屋を契約した時なんじゃない?」
───知らなかった
ナビス子がヘナヘナとその場に座り込む。
「聞いてなかった?おばーちゃん、そろそろ物忘れが始まったかな」
よいしょ、と五条が上半身を起こして、そこで漸く「あれ?今日は何か違うね」と、ナビス子がいつもより念入りにメイクをして、いつもより可愛らしい服を着ている事に気づいたようだった。
「デート?」
五条に言い当てられてナビス子は少し驚いた。初めて会った時もそうだったが、彼は人をよく観察しているうえに察しがいいのだ。
「妬けちゃうな」
「……」
サラリと甘い言葉を吐きながら、それに実がない事を知っている。
苛立ちを落ち着かせようと、ナビス子はゆっくり瞬きをしながら深呼吸した。
「いくら五条さんでも、勝手に中に入られるのは困ります」
「連絡入れたよ?」
「えっ?」
言われてカバンを漁ると、そこで漸くスマホにメッセージが届いている事に気づいた。
「よっぽど楽しかったんだね」
あまりにもあっけらかんとしている彼の態度がナビス子の苛立ちを増幅させる。
「さて、まだ時間はあるけど、彼氏との余韻を噛み締めたいだろうから退散してあげよう」
そう言いながら五条が立ち上がった。
「彼氏じゃないです、まだ」
もしそこに、異性と2人きりで出かけた事を咎めるような素振りがあれば、この苛立ちを少しは落ち着かせる事ができるのだろうか。
「そうなの?じゃ、頑張んないと」
しかし、それが叶うことはなくて、少し期待した自分が馬鹿だったとナビス子は思った。
「五条さんはいるんですか?」
「彼女」と付け加えると彼は僅かに顎をあげて考える素振りを見せた。即答できないその理由が気になる。
「その定義に当てはまるのは、いないかもね」
ややあって返された酷く曖昧なそれの指し示す意味は、ナビス子にもなんとなく推し量る事ができた。
「僕、こう見えても結構忙しいんだよ?」と、彼は自分を指差しておどけるような仕草をしてみせる。ナビス子は少し押し黙ってから、意を決したように問った。
「五条さんって、忘れられないような恋愛した事ありますか?」
これには五条も少し面食らったようだ。
「…えーと。もしかしてそういうのに憧れてんの?」
それには答えず、視線で返事を促す。
「若いねぇ」と彼は頭を掻くと、開き直ったように小さく両手を広げた。
「ぶっちゃけ、ない。そういうのにエネルギーは使わないようにしてんの」
「どうして?」
五条ほど恵まれた容姿なら、ドラマのような恋愛だって難しくないのに、とナビス子は思う。
「愛は呪いだからね。縛るつもりも縛られるつもりもない」
ナビス子は驚いた。
それが彼の価値観なのか。
「なに?結婚と恋愛は別物って言ってなかったっけ?」
それは牽制のつもりなのか、と思うのは考えすぎだろうか。思い描いていた理想の夫婦像が遠ざかってゆく。
「五条さん、めっちゃモテるでしょ?」
「改めて言われると恥ずかしいな」
否定しないんかい、と突っ込むのも面倒くさくてナビス子はため息を吐いた。
「五条さんは、恋愛に負の感情を持っているんですね。一方的な好意を押し付けられる事が多すぎて、そうなっちゃったのかな」
五条は肯定とも否定ともつかぬ笑みを浮かべる。
「本当の愛は、縛ったり縛られたりするものではないと思う」
「………」
彼は長い腕を組んでナビス子を見下ろした。
「まだ子どもの君には分からないかもね」
「私は子どもじゃありません…!」
「違うの?」
一瞬言葉に詰まってからナビス子は「違います」と五条を見上げて言い放った。
「五条さんの言う大人って何か分からないけど、成人してるし、少しだけど社会経験もあるし、それなりに思慮や分別はあります」
「分別?」
五条に鼻で笑われてナビス子は思わず苛立った。
「何がおかしいんですか!」
「分別のある愛って、割り切った愛の事?」
「…ち、違います」
「縛らない愛と割り切った関係の何が違うんだろうね?」
「…それは、心があるかないか…」
「相手を自分のエゴで縛らずにいられる?」
「本当に相手のことを想うなら」
「君の言ってる事は所詮綺麗事だよ」
「そ、そもそも縛られたくないと思うのは、愛してないからです」
「ま、そうかもね」と言った五条が、やはりやたらと憎らしく思えた。