Chocolate Lily
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その足で山﨑家を訪れた五条を出迎えたのは中年に差し掛かった女性で、当主と思しき老婦を「お母さん」と呼んだことから、その娘と思われた。
山﨑家は大凡女が強い呪力を持って生まれる家系だったが、現当主の娘にはその力が全くなかった。
当主は自身が呪術師であることにそれなりの矜持を持っていたが家族にそれを強要することはなく、呪力を持たない彼女の娘は普通のサラリーマンと結婚して一人娘をもうけていた。
2人はそれこそどこにでもいる母娘で、寧ろそこら辺の親子よりも良好な関係を築いているように五条には見えた。
五条が通された客間は、余計な置物など一切置かれていないシンプルな部屋だったが、それでも欄間を見ればそれがとても丁寧に作られたものである事が分かった。
そこで少し話をした山﨑家の当主の印象は、思っていたよりマトモ、だ。
「申し訳ないが、あの子を其方に関わらせる気はない」
「ですよねー」
座卓を挟んで座るこの老婦との間にものすごい距離を感じる、と五条は思った。
一定の敬意は示すものの、ピシャリと線を引かれている。
その時、廊下の軋む音と共に人の気配が近づいてきた。
「ばーちゃーん」
「お客さん?」という声と共に障子から制服を着たボブヘア…先程五条から逃げるように去っていった女子生徒…が顔を覗かせた。
そして五条の姿を認めて目を瞠り「何で?」と呟く。
「よ、また会ったね。ここの家の子だったんだ」
五条が片手を挙げると、彼女は戸惑ったように視線を逸らせた。
「こちらは例の御三家の、五条悟さんだ。わざわざ東京からお越しくださった」
「五条…」
関わりを持たないようにしていてもそこら辺の知識は植え付けられているようで、女子生徒は五条の名に反応して目を見開くとその男を見据えた。
そして我に返り、その場に正座をして両手をつく。
「孫のナビス子です」
「……」
短く名だけを告げて顔をあげたナビス子を覗き込むように五条が首を捻った。
しかし彼女はそれを避けてサッと立ち上がり「失礼します」と踵を返す。
「…第一印象って大事だね」
五条は廊下に上半身を乗り出してその後ろ姿見送ると、当主と向き直り唇の端を吊り上げた。
「今の話、呪術界の腐敗を憂いている貴女になら、賛同いただけると思ったんですけどね」
「それとこれとは話が別だ。孫娘の事だしね」
「じゃ、お孫さんと直接話をさせてもらえます?」
「とにかくアレを呪術高専にやる気はない。とても使い物になるとは思えないし、高3でもうすぐ大学受験を控えている」
過去の経緯を考えればそう簡単に了承が得られるとは思っていなかったが、それにしてはガードが固い。
「使い物になるように何とかするのが私らの仕事なんで。この業界人手不足で有給取るのも大変なんですよ。労働者の権利なのに。何ならお孫さんと一緒に来て加勢してくれてもいいんですけど」
「面白い冗談を言うね。私の知る五条とは随分違うようだ」
「仲良くなれそうですかね」
「他に用件がないなら話は終わりだ」
「頑なに拒否する理由が気になるな」
当主が動きを止める。
「何か知られてはいけないことがあるとか?」
「五条家に隠し事なんてとてもとても。そもそも其方と争う気は更々ないんでね」
薄っすらとバカにされた気がする…と思いながら五条はため息を吐いた。
そして話を終えるために彼女が立ちあがろうとすると、やおら腹を抱えて「急に差し込みが…」と身体を折り曲げた。
「いやー、泊めてもらうだけじゃなく夕飯までご馳走になっちゃってすみませんねー」
「いーのよお!こんなイケメンさんならいつでも大歓迎!」
意外にも山﨑家のダイニングは近代的で、北欧風なインテリアで統一されている。
どう考えても当主の趣味ではなさそうなので、そのような事に拘りがないのだろうことは五条にも想像出来た。
話をしていても変な拘りや意地といったものは感じないのに、頑なに関わりを拒まれるのが釈然としない。
「お母さん、この唐揚げ絶品ですね!お店出せますよ」
「ほんとー?久しぶりのお客さんだから張り切っちゃった」
キラキラが止まらない、と五条と母親の様子を見ながらナビス子は味噌汁をすすった。
「もうすっかり腹は良くなったようだね」
「あの時だけ何だったんでしょうねー」
当主の嫌味もサラリと躱す絵に描いたような軽薄。
整いすぎた容姿がそれに拍車をかけて、絶対に関わりたくない人種だ、とナビス子は思う。
共に食卓を囲む父親は完全に空気だった。
「ご馳走様でした」と五条が箸を置いた。
それでも彼の所作が美しいのは、名家の出である所以なのだろう。
「お風呂の準備が出来るまでゆっくりしてらして。まだ時間があるし、ナビス子、せっかくだからお相手して差し上げたら」
「え、なんで」
「だって、なんか凄い方なんでしょ。お母さんそっちの方は疎いからよくわかんないんだけど。色々聞いたら勉強になるわよ」
乗り気でないナビス子が何やらゴニョゴニョと言い訳をしている。
当主が一瞬釘を刺すような視線を向けたのを受けて五条は笑みを浮かべた。
「じゃ、せっかくなんでちょっとだけ。敷地内に祠があったよね。あれを案内してもらおうかな」