Chocolate Lily
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「お…っ」
ただならぬ雰囲気を醸し出すその建物を前にして、ナビス子は思わず変な声を漏らした。
「今回の本丸は此処っぽいんだよね」
五条はそう言いながら僅かに上げた顎に手を当てた。どうやら昨日今日ウロウロして回ったのは、単なる下調べだったようだ。
彼は建物を見上げて表情を強張らせているナビス子の背中をトンと押すと「頑張って」と、それがごく当たり前の事のように言った。
「は!?」
思わず目を剥いて五条を振り返ると、彼は笑顔でヒラヒラと手を振っている。
「呪いを祓う。呪術高専 の生徒 らでもやってる単なる実習だよ」
「いや、無理でしょ!五条さんが派遣されるような呪霊とか!ってか、これ五条さんの仕事でしょ!?」
「自分の仕事をこなしながら君の鍛錬も兼ねることができる。我ながらナイスアイデアだね!」
「計画的殺人!」
笑顔を貼り付けている五条には、ナビス子の抗議に耳を貸す気など更々ない。
ただ、この町に呪霊が急増した理由と、特急クラスの呪いが突然発生した訳が、呪術高専が血眼になって探している呪物のせいである事を期待しているだけだ。
彼が人差し指と中指を絡めるような印を組んで帳を降ろし始める。
「ちょっと!え!本気!?」
「じゃ、死なないでね。僕がバーさんに怒られるから」
帳が降りきるか否かのその刹那、ズン、と地面が揺れて、ナビス子は反射的に気配の方に向き直った。
そう、多分自分はいつも祖母に守られていて、それを自分の力と勘違いしていたのかもしれない。
____空振りだったか。まったく、ダメダメじゃん
遠くで聞こえたそれは誰の声だろうか。
「いつまでも寝てるから、もう起きないのかと思ったよ」
「こんなんじゃ、明後日から仕事行けないじゃないですか!」
旅館の部屋に備え付けられた姿鏡の前に立ち、全身の傷を確認しながらナビス子は声をあげた。
後ろでは長い足を投げ出した五条が温泉饅頭を齧っている。
「素直に喧嘩しましたって言えばいいじゃん」
「そんなヤンチャじゃないです!」
「同じでしょ。呪霊とタイマン張ってボコられたんだから」
あーん、と温泉饅頭を頬張っている男がどうしようもなく憎たらしい。
「………。階段から落ちた事にする」
「それって、だいぶ鈍臭い子だよね」
心の中で悪態をつきながら、インテリアの一部になっている文机の前で腰を屈め、置かれた館内の案内を確認した。
「この温泉の効能、打身擦り傷だって」
言いながらナビス子は顎をあげて時計を見た。
「大浴場に行くの?」
「そうですよ。ご飯までまだ時間ありそうだから」
「その打ち身擦り傷だらけの身体で?」
ナビス子はゆっくりと視線を五条に移した。
「やっぱり、目立ちますよね…」
「注目されたくないなら内湯にしなよ」
五条の言う通り、同性とはいえ素っ裸の時にジロジロ見られるのは嫌だなと思う。
それでも露天で変な事をされるのも耐えがたい、と、ナビス子は恋人同士が風呂で盛り上がってしまうシュチュエーションを思い描いて思わず赤面した。
「何期待してるのか知らないけどさ、そんなアザだらけの身体に欲情しないよ」
「は!?」
頭の中を覗かれたのではないかと焦る内心を隠してナビス子が五条を睨むと、彼は「やれやれ」といった様子でため息を吐いた。
ここの食事はやはり最高だ、とナビス子は思った。身体が痛むことを除けば…だったが、それでも宿の雰囲気もいいし最後の夜はゆっくり過ごしたい。
室内から内湯の露天につながるところに腰掛けて、宵闇の中で落とした照明の灯りにユラユラと揺れる水面と上りたつ湯気を眺めた。
不意にギシリと音がして近くに五条が着た事に気づく。誰かと話していた電話は終わったようだ。
「何してるの?」
「月が綺麗だな、と」
「変わらないでしょ」
風情の分かんない男だなと思いながら「何かこのお宿の雰囲気とマッチしてて素敵じゃないですか」と口を尖らせた。
内湯を囲う壁に沿って植えられた木々の隙間にあるライトが、薄暗がりの中にそれらをぼんやりと浮かび上がらせている。
「気に入ってくれたならよかった」
そう言って五条がナビス子の隣に腰を下ろす。
「次はどんなところがいい?」
「次があるんですか?!」
驚いて五条を見ると、唇の端を吊り上げた五条の指がナビス子の首のチェーンを引っ掛けた。
「勾玉が悪用されないように守らなければならないのは僕じゃなくて君自身。呪力の底上げは必須でしょ。強い呪霊を使えるレベルにならない術式の意味がないしね」
「それは…その通りなんですけど」
「ま、僕が一人で出張の時しか連れて来れないんだけどねー」
「同行しないで済むよう、心を入れ替えて日頃から精進します」
「素直じゃないな」
ナビス子の首元を離れた五条の指が今度は顎に添えられて、五条が上半身を乗り出した。
「ダメ」
ナビス子の手が二人の顔を間仕切る。
「また?」
「口の中が切れてて痛いんです」
「さっき普通にご飯食べてたよね」
「ご飯は我慢できます」
「僕とのキスは我慢できない?」
コクンと頷くと、ニヤリと笑った五条が二人の顔を隔てるその手を掴んだ。
「素直じゃないところもカワイイね」
「は?」
ゆっくりと、優しく触れられるキスの破壊力。
そこに愛があると錯覚してしまいそうだ。
「トキメいちゃった?」
顔を離した五条が、鼻のぶつかりそうな距離でニヤリと笑う。
「ときめいてません!」
「顔赤くなってんじゃん」
「なってません!」
こうやってペースに巻き込まれてしまうのが悔しくてならない。
五条の肩を押しやって身体を離そうとすると、彼は大袈裟に身体を逸らした後に、「よいしょ」と長い足を広げて、その間にナビス子を挟み込んだ。
「ちょっ…」
そこから抜け出そうとして身体を捩ると、今日痛めていた二の腕をぶつけて思わず「いたっ」と声をあげた。
「暴れるから。あちこち痛いんなら大人しくしてなさい」
そう言った五条の腕が、傷に触れないようにやんわりとナビス子の身体を包み込んだ。
いつも無遠慮でデリカシーがないくせに、こんな気遣いができるんだ、と思いながら、優しい体温に癒されるような不思議な感覚を覚えた。
「離れて」
「少しだけ。ナビス子と二人でゆっくりできるの、なかなかないじゃん」
そんな科白、彼にとってはただの軽口と変わらないのだろうけれど。
「耳赤いよ」
「……っ、…っ」
何か言い返そうとしたけど言葉が見つけられない。そんなナビス子の様子を見て五条がククッと喉を鳴らした。
本気で誰かを愛する気など更々ない男に振り回されている事が悔しいとナビス子は思う。
____所謂遊ばれてるってやつ?
ナビス子は意を決して、自身の膝に引っ掛かけるように乗せられた五条の手に自分のそれを合わせた。ゴツゴツした男の手だ。
五条が少し驚いたような表情を浮かべる。
ナビス子はそのまま自分の指と五条のそれを絡める。
何故こんなにドキドキするのか分からない。
抱き合うよりずっと、このザラリとした手のひらを合わせる感触の方が生々しい。
確かめるように、親指の腹で五条のそれをなぞった。
「なんか、エロいね」
「……」
なるほどそういう事なのか、とナビス子が内心で納得すると、五条がするりとその手を解いた。
「やば」
「え?」とナビス子が振り返るより先に、五条が立ち上がる。彼の白髪が宵闇色に映えて綺麗だと思った。
ただならぬ雰囲気を醸し出すその建物を前にして、ナビス子は思わず変な声を漏らした。
「今回の本丸は此処っぽいんだよね」
五条はそう言いながら僅かに上げた顎に手を当てた。どうやら昨日今日ウロウロして回ったのは、単なる下調べだったようだ。
彼は建物を見上げて表情を強張らせているナビス子の背中をトンと押すと「頑張って」と、それがごく当たり前の事のように言った。
「は!?」
思わず目を剥いて五条を振り返ると、彼は笑顔でヒラヒラと手を振っている。
「呪いを祓う。
「いや、無理でしょ!五条さんが派遣されるような呪霊とか!ってか、これ五条さんの仕事でしょ!?」
「自分の仕事をこなしながら君の鍛錬も兼ねることができる。我ながらナイスアイデアだね!」
「計画的殺人!」
笑顔を貼り付けている五条には、ナビス子の抗議に耳を貸す気など更々ない。
ただ、この町に呪霊が急増した理由と、特急クラスの呪いが突然発生した訳が、呪術高専が血眼になって探している呪物のせいである事を期待しているだけだ。
彼が人差し指と中指を絡めるような印を組んで帳を降ろし始める。
「ちょっと!え!本気!?」
「じゃ、死なないでね。僕がバーさんに怒られるから」
帳が降りきるか否かのその刹那、ズン、と地面が揺れて、ナビス子は反射的に気配の方に向き直った。
そう、多分自分はいつも祖母に守られていて、それを自分の力と勘違いしていたのかもしれない。
____空振りだったか。まったく、ダメダメじゃん
遠くで聞こえたそれは誰の声だろうか。
「いつまでも寝てるから、もう起きないのかと思ったよ」
「こんなんじゃ、明後日から仕事行けないじゃないですか!」
旅館の部屋に備え付けられた姿鏡の前に立ち、全身の傷を確認しながらナビス子は声をあげた。
後ろでは長い足を投げ出した五条が温泉饅頭を齧っている。
「素直に喧嘩しましたって言えばいいじゃん」
「そんなヤンチャじゃないです!」
「同じでしょ。呪霊とタイマン張ってボコられたんだから」
あーん、と温泉饅頭を頬張っている男がどうしようもなく憎たらしい。
「………。階段から落ちた事にする」
「それって、だいぶ鈍臭い子だよね」
心の中で悪態をつきながら、インテリアの一部になっている文机の前で腰を屈め、置かれた館内の案内を確認した。
「この温泉の効能、打身擦り傷だって」
言いながらナビス子は顎をあげて時計を見た。
「大浴場に行くの?」
「そうですよ。ご飯までまだ時間ありそうだから」
「その打ち身擦り傷だらけの身体で?」
ナビス子はゆっくりと視線を五条に移した。
「やっぱり、目立ちますよね…」
「注目されたくないなら内湯にしなよ」
五条の言う通り、同性とはいえ素っ裸の時にジロジロ見られるのは嫌だなと思う。
それでも露天で変な事をされるのも耐えがたい、と、ナビス子は恋人同士が風呂で盛り上がってしまうシュチュエーションを思い描いて思わず赤面した。
「何期待してるのか知らないけどさ、そんなアザだらけの身体に欲情しないよ」
「は!?」
頭の中を覗かれたのではないかと焦る内心を隠してナビス子が五条を睨むと、彼は「やれやれ」といった様子でため息を吐いた。
ここの食事はやはり最高だ、とナビス子は思った。身体が痛むことを除けば…だったが、それでも宿の雰囲気もいいし最後の夜はゆっくり過ごしたい。
室内から内湯の露天につながるところに腰掛けて、宵闇の中で落とした照明の灯りにユラユラと揺れる水面と上りたつ湯気を眺めた。
不意にギシリと音がして近くに五条が着た事に気づく。誰かと話していた電話は終わったようだ。
「何してるの?」
「月が綺麗だな、と」
「変わらないでしょ」
風情の分かんない男だなと思いながら「何かこのお宿の雰囲気とマッチしてて素敵じゃないですか」と口を尖らせた。
内湯を囲う壁に沿って植えられた木々の隙間にあるライトが、薄暗がりの中にそれらをぼんやりと浮かび上がらせている。
「気に入ってくれたならよかった」
そう言って五条がナビス子の隣に腰を下ろす。
「次はどんなところがいい?」
「次があるんですか?!」
驚いて五条を見ると、唇の端を吊り上げた五条の指がナビス子の首のチェーンを引っ掛けた。
「勾玉が悪用されないように守らなければならないのは僕じゃなくて君自身。呪力の底上げは必須でしょ。強い呪霊を使えるレベルにならない術式の意味がないしね」
「それは…その通りなんですけど」
「ま、僕が一人で出張の時しか連れて来れないんだけどねー」
「同行しないで済むよう、心を入れ替えて日頃から精進します」
「素直じゃないな」
ナビス子の首元を離れた五条の指が今度は顎に添えられて、五条が上半身を乗り出した。
「ダメ」
ナビス子の手が二人の顔を間仕切る。
「また?」
「口の中が切れてて痛いんです」
「さっき普通にご飯食べてたよね」
「ご飯は我慢できます」
「僕とのキスは我慢できない?」
コクンと頷くと、ニヤリと笑った五条が二人の顔を隔てるその手を掴んだ。
「素直じゃないところもカワイイね」
「は?」
ゆっくりと、優しく触れられるキスの破壊力。
そこに愛があると錯覚してしまいそうだ。
「トキメいちゃった?」
顔を離した五条が、鼻のぶつかりそうな距離でニヤリと笑う。
「ときめいてません!」
「顔赤くなってんじゃん」
「なってません!」
こうやってペースに巻き込まれてしまうのが悔しくてならない。
五条の肩を押しやって身体を離そうとすると、彼は大袈裟に身体を逸らした後に、「よいしょ」と長い足を広げて、その間にナビス子を挟み込んだ。
「ちょっ…」
そこから抜け出そうとして身体を捩ると、今日痛めていた二の腕をぶつけて思わず「いたっ」と声をあげた。
「暴れるから。あちこち痛いんなら大人しくしてなさい」
そう言った五条の腕が、傷に触れないようにやんわりとナビス子の身体を包み込んだ。
いつも無遠慮でデリカシーがないくせに、こんな気遣いができるんだ、と思いながら、優しい体温に癒されるような不思議な感覚を覚えた。
「離れて」
「少しだけ。ナビス子と二人でゆっくりできるの、なかなかないじゃん」
そんな科白、彼にとってはただの軽口と変わらないのだろうけれど。
「耳赤いよ」
「……っ、…っ」
何か言い返そうとしたけど言葉が見つけられない。そんなナビス子の様子を見て五条がククッと喉を鳴らした。
本気で誰かを愛する気など更々ない男に振り回されている事が悔しいとナビス子は思う。
____所謂遊ばれてるってやつ?
ナビス子は意を決して、自身の膝に引っ掛かけるように乗せられた五条の手に自分のそれを合わせた。ゴツゴツした男の手だ。
五条が少し驚いたような表情を浮かべる。
ナビス子はそのまま自分の指と五条のそれを絡める。
何故こんなにドキドキするのか分からない。
抱き合うよりずっと、このザラリとした手のひらを合わせる感触の方が生々しい。
確かめるように、親指の腹で五条のそれをなぞった。
「なんか、エロいね」
「……」
なるほどそういう事なのか、とナビス子が内心で納得すると、五条がするりとその手を解いた。
「やば」
「え?」とナビス子が振り返るより先に、五条が立ち上がる。彼の白髪が宵闇色に映えて綺麗だと思った。