Chocolate Lily
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術師は能力が高ければ高いほど何かと勘が働くようになるが、それとは少し違う予感めいた不安を覚えるようになったのは愛娘の懐妊が分かった頃と時を同じくしていた。
昨今そう多くはない自宅での出産は、由緒ある呪術師の家では寧ろ当たり前の事で、大仕事を終えたばかりの娘に労いの言葉をかけ、猿のような顔で泣いている孫娘がどうか猿から脱却しますようにと心の中で唱える一方で、胸から離れないそれが杞憂であるようにと願いつつ、赤子のシワシワと赤い細指を慎重に解くとそこに握られていた石を見て息を呑んだ。
_____何年か前に産まれた六眼の子が、この世の理を壊すのかもしれない
少し年季の入った校舎には無駄に多くの部屋があった。生徒の数は驚くほど少ないにもかかわらず、だ。
使われていない小さな教室の真ん中には並べられた2つの長机と、それを取り囲むように木製の椅子が置かれていて、そのひとつに座っていた五条が、今し方目を通していた資料から顔をあげた。背中を預けていた背もたれがギシリと音を立てる。
彼は持っていた資料をぞんざいに長机に置いた。先刻まで目を通していた次年度入学予定者の名簿は、随分と空白が多い。
人材不足は相変わらずだ。
術師を目指すための学校である呪術高専は、その特異性から自ら志願する者は多くなかった。
当たり前のように進学してくるのは、その筋の家の者が殆どで、一般家庭に生まれた呪力の強い者をスカウトして来なければ、呪術師不足を補うことは出来ない。そもそも呪術師の家庭に生まれたからといって、それだけで等しく才を与えられて生まれてくるわけではなかった。
五条は首を捻って窓の外に目をやると、広い敷地に植えられた背の高い木をぼんやりと眺めた。
その昔、御三家に次ぐと謳われ呪術界ではそこそこ名の知れた家門があったのだそうだ。
群れる事を好まず、力を競う事もせず、封建的な呪術師の世界を憂いて距離を置いた…とは建前で、保守派の連中と派手に喧嘩をして他県 に追いやられたと聞く。真偽は不明だが。
「山﨑家、だったかな」
誰に尋ねるでもなくひとりごちる。
五条にとってそれは大して興味のない話だった。しかし古くから続く呪術師の家系であるにもかかわらず、その家の者が呪術高専に入学したという話は一向に耳に入ってこず、今何をしているかの情報もない。
もしかしたら呪力を持たないだけなのかもしれないが、そうでなければ代々の術式を持つ者がそこら辺で力を持て余しているのを放置するのは惜しい、とふと思い至った。
しかも保守派と因縁があるとくれば尚更都合がいい。勿論イカれてる可能性も否めないが。
「よし、有給取ろ」
五条は組んでいた長い足を放り出すと、天井に向かってそう宣言した。
通学路から死角になった場所でブロック塀に体を預けながら腕組みをした五条は、下校中の生徒たちを観察していた。
少し先の電柱にネットリと絡みついた低級の呪霊が身体を伸び縮みさせて、時折通り過ぎる生徒の目前にまで顔を近づけていたが、生徒たちは皆それを素通りしていく。
しばらく観察していたが、それらしい人どころか呪霊が見えているような者さえ見つける事はできず、これ以上は時間の無駄かと塀から体を起こしてポケットに手を突っ込んだ。
2人並んだ女子生徒が他の生徒達と同じようにに呪霊の前を素通りしてゆくのを視界の隅に捉えて、ふと五条は動きを止めた。
「……」
少し感じた違和感の正体が分からないままその2人の後ろ姿を目で追う。
ロングヘアとボブの二人連れだ。
その時、反対方面から制服を着崩した男子生徒の集団が道幅いっぱいに広がりながら歩いて来るのが目に映る。
どこにでも輩はいるもんだなと五条が内心思っていると、その中の1人がロングヘアの女子生徒にぶつかった。
「きゃっ!」
「いってぇな!ブス!」
暴言を浴びせながら彼女らをひと睨みしたあと、男子生徒が再び前を向いて歩き出すと、すぐそばの電柱に絡まっていた呪霊が待ってましたとばかりにその頭に飛び移った。
_____ま、自業自得といえばそれまでだな
あの程度の呪霊なら大して問題ない
そんな事を思った五条は、その時ボブヘアの子の視線が男子生徒に取り憑いた呪霊を確かに捉えた事に気づいた。
彼女は指を動かそうとしてやめる。
「あれ、1組の人だよね」
「そう、イキってるから相手にしないほうがいいよ」
そう言って男子生徒を一瞥したロングヘアの女子生徒が前を向いた。
その隣で尚も男子生徒に取り憑いた呪霊を見ていたボブヘアの女子生徒は、諦めたのか視線を戻そうとして五条の存在に気づいた。
一瞬動きを止めた彼女は、しかしそのまま前を向いて歩き出す。
「………」
五条は2人の後を追って背後から声をかけた。
「ねぇ、ちょっといいかな」
振り向いたロングヘアの子は、五条を見て「えっ」と声をあげた。
「もしかして芸能人?モデル?」
両手で口を押さえながら大きな独り言を呟く。
「道を教えて欲しいんだけど」
「私でよければ」
前のめりになりながらそう答えた女子生徒の腕をボブの子が掴んで制止する。
「急いでるんで。すみません」
そしてペコリと頭を下げると「行くよ」と言って友人の腕を引いた。
促されるまま歩き出した女子生徒は、それでも後ろ髪を引かれるようでチラチラと五条を振り返る。
「え、でも困ってるみたいだよ」
「なんかあの人挙動がヤバいって」
「そんな事ないよ。超イケメンじゃん。イケメンは正義だよ」
「さっきジッとこっち見てたんだよ」
「ナンパじゃない?」
「世の中物騒なんだから。こうやって犯罪に巻き込まれるんだから」
丸聞こえなんだがなぁと思いながら五条は、目元を隠す真っ黒なサングラスに黒の上下という出立である事を棚に上げて、不審者扱いされた事を不満に思った。
昨今そう多くはない自宅での出産は、由緒ある呪術師の家では寧ろ当たり前の事で、大仕事を終えたばかりの娘に労いの言葉をかけ、猿のような顔で泣いている孫娘がどうか猿から脱却しますようにと心の中で唱える一方で、胸から離れないそれが杞憂であるようにと願いつつ、赤子のシワシワと赤い細指を慎重に解くとそこに握られていた石を見て息を呑んだ。
_____何年か前に産まれた六眼の子が、この世の理を壊すのかもしれない
少し年季の入った校舎には無駄に多くの部屋があった。生徒の数は驚くほど少ないにもかかわらず、だ。
使われていない小さな教室の真ん中には並べられた2つの長机と、それを取り囲むように木製の椅子が置かれていて、そのひとつに座っていた五条が、今し方目を通していた資料から顔をあげた。背中を預けていた背もたれがギシリと音を立てる。
彼は持っていた資料をぞんざいに長机に置いた。先刻まで目を通していた次年度入学予定者の名簿は、随分と空白が多い。
人材不足は相変わらずだ。
術師を目指すための学校である呪術高専は、その特異性から自ら志願する者は多くなかった。
当たり前のように進学してくるのは、その筋の家の者が殆どで、一般家庭に生まれた呪力の強い者をスカウトして来なければ、呪術師不足を補うことは出来ない。そもそも呪術師の家庭に生まれたからといって、それだけで等しく才を与えられて生まれてくるわけではなかった。
五条は首を捻って窓の外に目をやると、広い敷地に植えられた背の高い木をぼんやりと眺めた。
その昔、御三家に次ぐと謳われ呪術界ではそこそこ名の知れた家門があったのだそうだ。
群れる事を好まず、力を競う事もせず、封建的な呪術師の世界を憂いて距離を置いた…とは建前で、保守派の連中と派手に喧嘩をして
「山﨑家、だったかな」
誰に尋ねるでもなくひとりごちる。
五条にとってそれは大して興味のない話だった。しかし古くから続く呪術師の家系であるにもかかわらず、その家の者が呪術高専に入学したという話は一向に耳に入ってこず、今何をしているかの情報もない。
もしかしたら呪力を持たないだけなのかもしれないが、そうでなければ代々の術式を持つ者がそこら辺で力を持て余しているのを放置するのは惜しい、とふと思い至った。
しかも保守派と因縁があるとくれば尚更都合がいい。勿論イカれてる可能性も否めないが。
「よし、有給取ろ」
五条は組んでいた長い足を放り出すと、天井に向かってそう宣言した。
通学路から死角になった場所でブロック塀に体を預けながら腕組みをした五条は、下校中の生徒たちを観察していた。
少し先の電柱にネットリと絡みついた低級の呪霊が身体を伸び縮みさせて、時折通り過ぎる生徒の目前にまで顔を近づけていたが、生徒たちは皆それを素通りしていく。
しばらく観察していたが、それらしい人どころか呪霊が見えているような者さえ見つける事はできず、これ以上は時間の無駄かと塀から体を起こしてポケットに手を突っ込んだ。
2人並んだ女子生徒が他の生徒達と同じようにに呪霊の前を素通りしてゆくのを視界の隅に捉えて、ふと五条は動きを止めた。
「……」
少し感じた違和感の正体が分からないままその2人の後ろ姿を目で追う。
ロングヘアとボブの二人連れだ。
その時、反対方面から制服を着崩した男子生徒の集団が道幅いっぱいに広がりながら歩いて来るのが目に映る。
どこにでも輩はいるもんだなと五条が内心思っていると、その中の1人がロングヘアの女子生徒にぶつかった。
「きゃっ!」
「いってぇな!ブス!」
暴言を浴びせながら彼女らをひと睨みしたあと、男子生徒が再び前を向いて歩き出すと、すぐそばの電柱に絡まっていた呪霊が待ってましたとばかりにその頭に飛び移った。
_____ま、自業自得といえばそれまでだな
あの程度の呪霊なら大して問題ない
そんな事を思った五条は、その時ボブヘアの子の視線が男子生徒に取り憑いた呪霊を確かに捉えた事に気づいた。
彼女は指を動かそうとしてやめる。
「あれ、1組の人だよね」
「そう、イキってるから相手にしないほうがいいよ」
そう言って男子生徒を一瞥したロングヘアの女子生徒が前を向いた。
その隣で尚も男子生徒に取り憑いた呪霊を見ていたボブヘアの女子生徒は、諦めたのか視線を戻そうとして五条の存在に気づいた。
一瞬動きを止めた彼女は、しかしそのまま前を向いて歩き出す。
「………」
五条は2人の後を追って背後から声をかけた。
「ねぇ、ちょっといいかな」
振り向いたロングヘアの子は、五条を見て「えっ」と声をあげた。
「もしかして芸能人?モデル?」
両手で口を押さえながら大きな独り言を呟く。
「道を教えて欲しいんだけど」
「私でよければ」
前のめりになりながらそう答えた女子生徒の腕をボブの子が掴んで制止する。
「急いでるんで。すみません」
そしてペコリと頭を下げると「行くよ」と言って友人の腕を引いた。
促されるまま歩き出した女子生徒は、それでも後ろ髪を引かれるようでチラチラと五条を振り返る。
「え、でも困ってるみたいだよ」
「なんかあの人挙動がヤバいって」
「そんな事ないよ。超イケメンじゃん。イケメンは正義だよ」
「さっきジッとこっち見てたんだよ」
「ナンパじゃない?」
「世の中物騒なんだから。こうやって犯罪に巻き込まれるんだから」
丸聞こえなんだがなぁと思いながら五条は、目元を隠す真っ黒なサングラスに黒の上下という出立である事を棚に上げて、不審者扱いされた事を不満に思った。
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