歩いて帰ろう
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ファーストキスはいつ?と聞かれたのならば、"それは中2の冬休み" と答えるだろう。
あなたにとっては思春期の探求心だった。
だけどあたしは違う。
その時からあたしの経験は止まったまま。
歩いて帰ろう
神様はいると思う。
部活も頑張りたい、だけど恋もしたい。
そんな欲張りなあたしに降ってきた突然の告白劇は同じバレー部の田中くんから。
「今度の試合に勝てたら言おうと思ってた」なんて感激、コクる相手間違ってないよね?夢じゃないよね?と色んな意味で内心バクバクのあたし。
あたしごときの女が誰かの心を捕らえることができたなんて奇跡だと舞い上がる。
奇特な彼にはいくら感謝しても足りないくらい。なんてイイ人なの。
「それで…みょう寺はその…好きなヤツとかいるのか
その言葉で一気に現実に引き戻された。
そうかあたしは…
答えを出さなくてはいけないんだ。
自主練を終えてバスケ部のフロアに行ったら、ちょうど神くんも片付けをしていた。
クラスの違うあたしたちは普段廊下でお互いの姿を見ても喋ったりすることはない。
こんな機会がなければあたし達は絶対関わることなんてなかったはずだ。
これを運命と感じてしまっていいのかなぁ
好きになってもいいのかな
「バレー部どう?イケそう?」
「う~ん、どうかなぁ」
だけど神くんがあたしに親切なのは、きっとあたしが「恋愛よりも部活重視」の女だと思っているからだと思う。
実際神くんには「恋愛に興味ない」とも言ったし。
「同じスポーツやってても選手のカラーって違うね。昨日の…えっと湘北?だっけ?あたし見たよ」
「なんだ、バスケも見に来てたの?」と神くんは少し驚いたような顔をした。
「会わなかったね」
神くんの言葉に「キヨタくんには会ったけど…」と言いながら、昨日キヨタが言ってた事を思い出した。
「他校にも神くんのファンがいるんだね」
神くんが眉尻を少し下げた。
「信長に何を聞いたの?」
「内緒」と意味深な笑いをするあたしに神くんは続けた。
「ファンっていうより本人はオマジナイかなんかのつもりだと思うけど。シュートが沢山入るように握手してくれって。」
いや、それをファンっていうんだよ。
「神くんなら他校の生徒にも告白されてそう」
冗談っぽく言ったあたしの言葉に神くんは苦笑いする。
「俺、そんな言う程モテないけど…」
「またまたぁ~」
よく言うよコノヤロウ。
「じゃあさ、高校に入ってから何人にコクられたのよ?ねぇねぇ」
からかうように神くんの腕をつつくけど結構真面目に興味がある。
「みょう寺さんはないの?」
「あたしは…っ」
思わず目が泳いだ。
「ほら、自分だってあるんでしょ」
「だってあたしは高校生活二年目にして今日初めて…」
思わず零れた言葉にハッとして口をつぐんだ。
「今日…?」
「いやいや…さぁ先生、今日もご指導お願いしますよ」
話題を変える手段を知らないあたしは無理矢理話題を打ち切ろうとした。
しかし神くんもそれ以上追求して来なかった。
あたしが神くんの「恋愛対象」ではないにしろ、もうちょっと興味持ってくれてもいいような気がするあたしはやっぱり欲張りなんだろう。
トレーニングを終えて帰り支度をするあたしに神くんの声が聞こえた。
「…さっきの話だけど…」
「ん?」
どれだ?足がつった時どうするかって話の事かな?
「誰かに告白されたの?」
自分で分かるほど動揺した。
「いや~ぁ…」
神くんから視線を逸らすように首を傾げながら靴を履き替える。
なんとなくマズイかも…
あたしが告白されて浮かれているなんて知ったら、神くんは何て思うだろう。
目下の目標はレギュラー復帰のはず。
そのつもりであたしの為に時間を割いてくれている神くんに対して、これは裏切りみたいなものだ。
だけどノーとも言えない。
「ふぅん」
神くんの反応が怖かった。
「いやまだ返事してないんだけど…」
「どうして?」
その問いに、あたしは小さな声で呟いた。
「神くんに悪くて…」
「え!?」
驚く神くんに、あたしは慌てて言葉を付け加えた。
「いや、だから神くんはこうしてあたしのレギュラー復帰の為に時間を割いてくれてるじゃん。そんなときに、ね?」
「あぁ、そうゆうこと」
そうゆうこと…って。
「じゃあなんですぐに断らなかったの?」
そんな簡単に…
「だってその気持ちは凄く嬉しいから……なんてゆぅのかな…」
実際断るのが勿体ないなんて思ってたりして。
「フーン」
チラリと神くんを盗み見たが、その表情からは彼が何を考えているのかサッパリ分からない。
「でも断るんでしょ?」
そう言われたらハイと答えるしかないような気がする。
「う……ん」
煮え切らないあたしに神くんが一言。
「そいつと付き合うなら、もう俺はこれに付き合わないから」
「え!?」
「だって彼氏に付き合ってもらえばいいじゃん」
確かに神くんの言う通だけど…
だけどそれは嫌だ。
だってせっかく神くんと仲良くなれたのに…この時間がなければあたしは神くんに近づけないのに…。
その時気付いた。
もしかしたらあたしは
「……断る」
神くんの事が…
「だから…」
好きなのかもしれない。
「だからこれからも…」
俯くあたしの肩を神くんが叩いた。
「そうこなくちゃ」
そう言って笑う神くんに、その時衝動的に「好き」と言えたなら、どんなによかっただろう。
もしかしたら、玉砕覚悟でも言うべきだったのかもしれない。