歩いて帰ろう
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昼休みの出来事に大いに興味を持ったサチコは部活が始まる前の僅かな時間、あたしにへばり付いて何とか面白い話しを聞き出そうと粘っていた。
「アンタも随分と分かりやすいけどさ、あのキヨタ…」
くくっと笑いを零す。
「アイツもなかなか分かりやすい男だよね」
楽しそうだねーあんた、と口には出さないけどそう思いながらサチコを見遣る。
「勘繰りすぎだよ」
「いーやアタシの勘は外れない」
彼女はこのテの話になるとホントに生き生きする。
「んなわけないじゃん。キヨタだよ?犬猿の仲だよ」
「いや、だって神くんも言ってたし」
ドキッとしてサチコを見たら彼女はあたしを指差して笑い転げた。
ムカつくーマジで。
ムカつくけどその名前を出されると気になってしょうがないんだから、やっぱりサチコのほうが一枚上手なんだろう。
「じ、神くんは何て?」
「気になる?」
「勿体ぶらないでよ」
「正直に洗いざらい話したら教えてやらないこともないなぁ~」
クッソーと思いながらだけど本当に話すようなことは何もないんだから仕方ない。
「マジでって。何もないんだって。ただ最近昼ご飯をよく食べたりしてただけで…」
.
「やっぱりそれって狙ってるよね!?狙われてるよねっ!?」と嬉々とした表情で食いついてくるサチコを強く否定する。
「それはたまたま学食で会う事が多いからで!キヨタに限って有り得ないから!」
「そうかな~」
サチコが納得いかない様子で腕を組んだ。
「神くんは否定しなかったんだけどなぁ」
それにあたしは何と答えれば?
頭の中が酸素不足になりそうだったあたしはそれに対する気持ちの折り合いをつけたくて、そしてごくたまにだったけど纏わり付くキヨタが面倒な時に凄く適当なあしらい方をしてた神くんを思い出したのだ。
「だけど神くん、時々ものすごく適当になるし…そうそう特にノブには…」
いつになくいい加減な神くんにさえキヨタはいつも真剣だったと思わず笑みが零れる。
「うわっ笑ってるし。なんだ神くんだけじゃなくてアンタも意外と吹っ切れてんじゃん」
「え?」
あたしの笑みを勘違いしたサチコは続けた。
「ま、そんなもんかもねー。もう一ヶ月以上経ったんだし、新しい恋なんていくらでも転がってるもの。」
そりゃあたし達はとっくに終わったんだから、これ以上何かを期待するのは間違っているのだけれど。
「元カノが後輩と付き合っても神くんは全然気にならない感じだったし。」
自分に都合よく繋げようとした思いはプツプツと途切れるばかりで、あぁそうだ、あの場所に踏み止まっているのはあたしだけで、とっくに神くんは歩き出しているのに、それを教えたキヨタの言葉にさえあたしは気付かぬ振りをしたのだ。
重く沈んでゆく心が脈打つ。
とうとう行き場を無くしたあたしの心を拾ってくれる人がいるというのなら、
…こんな時、過去の恋を思い出すのはいけないことなの?
だけどそこにだって、もうあたしの場所はない。
これがどれだけ一人よがりの思い上がった気持ちであるか分かっているけれど、あの時、彰くんの手を取っていたらどうなっていたのだろうと考えるだけなら許してほしい。
「さてさて明日は試合だ、練習頑張るかな~」
サチコに背中を叩かれてあたしはノロリと歩き出した。
明日は試合だけど、少し軽めに流すとか早めに切り上げるとかいう選択肢など監督にはなかったようでタップリ、ミッチリ、ガックリ。
だけど生徒のほうは練習が終わるとサッと引き上げ始める。
こんな日くらいはあたしも早く帰ろうか、いや継続は力なり、やっぱり少し自主練しようか等と考えていたら、いつも最後まで自主練しているあたしに一年が当たり前のように部室の鍵を渡しに来るから結局帰りづらくなって一人居残った。
さてそろそろいいかなと殆ど自主練もしないままいつもより早い時間に部室に向かう。
「先輩!」
背後からここに居るはずもない聞き慣れた声が聞き慣れない単語を発した。
うん、これはあたしを呼んでるわけじゃないと勝手に解釈して、振り返りもせずそそくさと部室に走り込もうとしたあたしを追いかけてくる人の気配に思わず振り向く。
「うぁっ」
突っ込んできそうな勢いのキヨタに驚いて、あたしは開いた部室のドアにしこたま肘をぶつけた。
「ちょ…アンタ!いちいち驚かさないでよ!」
肘を摩りながらキヨタを睨みあげると彼は大きく深呼吸した。
意思の強そうな目があたしを捕らえて離さないから胸がざわついて馬鹿みたいにドキドキし始める。
キヨタの広い肩に再び力が入ったその時。
「好きです!俺と付き合ってください!」
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