歩いて帰ろう
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それからというもの、あたしの恋愛に対する依存度が急激にアップした。
今までバレーやら他の事で上手い具合に分散されていたそれが全て神くんに注がれるようになったわけで。
もしこの恋まで上手くいかなくなったら…という脅迫めいた何かに後押しされているようにも感じた。
今なら神くんと今まで付き合ってきたコの気持ちが分かるような気がする。
どうしてそんなにバスケばっかりなのと、今までならそこが好きだと思えた事にさえ疑問を感じる。
もっと、あたしとの時間を作ってよと思ってしまう。
あたしは今まで昼休みに一緒に昼食を取っていたクラスメイトから離れて無理矢理神くんと昼食を取るようになった。
それが終われば残り時間は体育館に行ってしまう彼の後を追いかけて体育館の隅で昼休みを過ごす。
別に何が楽しいわけでもないんだけどそうせずにいられないのはあたしの気持ちに余裕がない証拠なんだ。
時折覗きにくるマネ子に今まで以上の嫉妬を感じた。
神くんはきちんと断ったって言ってたけれど、人の気持ちがどれだけあやふやなものかをあたしは知っている。
彼女が居たって関係ない子達が神くんに熱い視線を送る様子も今までなら流せたのにやたら気になって、ちょっとカワイイ子が混じっていると堪らなく嫌な気持ちになる。
そんなんだからマネ子がまだ神くんを狙ってるんじゃないかという猜疑心も消せない。
っていうか、今まで通りに二人が接する様子があたしの心を穏やかにさせてはくれないのだ。
マネージャーだから神くんが彼女を邪険に出来ないのは分かる…分かるけど、それってマネ子から言わせたら特権で、あたしから言わせたら職権乱用だと思う。
その日も見ているばかりの部活を終えて、それからボーっと神くんのシュート練習が終わるのを待っていた。
それぞれの自主練を終えた生徒が一人二人と姿を消せば、結局最後まで残っているのは神くんとマネ子と、部外者らしくフロアの外で座って待つあたしだけになる。
部員がいなくなったところでソロソロ姿を現したあたしに気付いた神くんが「もう少しかかるけど?」と言った。
その言葉に「先に帰ったら?」との意味合いが含まれているんじゃないだろうかと思い始めたら終わりだとあたしは笑顔を貼付た。
「待ってるよ」
そして『早く帰れよ』とばかりにマネ子に視線をやると、彼女はあたしとは目を合わせずに神くんに話し掛ける。
「じゃあ鍵は置いときますからあとは宜しくお願いします」
「お疲れ」と返す神くんに彼女は何を思ったかわざわざその傍まで歩み寄って心配そうな表情を見せた。
視線の先を辿れば彼の中指に施されたテーピングに気付く。
「指は大丈夫ですか?痛みませんか?」
「あぁうん、大丈夫だよ」と答える神くんに彼女は飛び切りの笑顔を見せた。
あーあの目、アナタに恋してますオーラプンプンなんだけどって思うのはあたしが気にしすぎなのか。
もしかしたら当人に気持ちを知られてしまった事で彼女の中の遠慮がなくなったのかもしれないな、なんて考え出したらキリがない。
「怪我には気をつけてくださいよ神さん」
労るような笑顔でそのヒトコト、あたしの足の事を知って言ってるのなら嫌味以外の何物でもない。
マネ子が姿を消してからもしばらくシュート練習をしていた神くんがようやくボールを集めだしたのであたしもそれを手伝う。
「何?突き指?」
どうしても指に視線がいくのはもちろん神くんを心配しているからだけど、多分あの子に処置をしてもらったんだろう事が気に入らなくて。
出来ればそれを解いてあたしがもう一回テーピングし直してやりたいとさえ思うあたしは自分が凄く小さな人間になってゆくのを感じる。
けれどあたしにはその気持ちをどうすることも出来なくて、それどころか意地悪な自分を正当化しようとさえしてしまうんだ。
だってホラ…
まだ居残っているマネ子の視線に気付いたらあたしの意地悪な気持ちはどんどん膨らんでいく。
「神くん」
動きを止めた神くんの前に立ち、テーピングされたその手を両手で包み込むように持ち上げてみせた。
あなたは理由がなければ触れる事が出来ない神くんの手に、あたしはこんなに簡単に触れる事ができるのよ、と。
「ホントに気をつけてね」と言いながらねだる視線で見つめれば、優しい彼が律義にそれに応えてくれるとあたしは知っていて。
軽く唇が触れると扉の向こうを走り去る人の影に気付いた神くんが再びあたしに視線を落とす。
「知ってたの?」
気まずくて視線を逸らすあたしに困ったような苦笑いを浮かべる神くんが「そこまでしなくていいのに」と零した言葉があたしを否定しているように思えた。
「気が済んだ?」
胸の奥が重くなったのは、今のあたしが神くんにはどんな人間に映ったのだろうと思ったから。
「あのコがいるなんて知らなかったもん」
そんな言い訳にもならない事を言ってしまう自分が嫌だ。
こんなあたしはあたしじゃないと思いたいけれど紛れも無くあたしのもう一つの顔で、全てが上手くいっていれば現れることなどなかったものなんだ。
怪我をして以来ずっと付き纏う不安が払拭出来ない弱いあたしはどうしても嫌な子になってしまう。
けれどそれを打ち消したくて神くんの背中に腕をまわしてしがみついたあたしの後頭部に手が添えられたら、それだけであたしの心は少し軽くなった。
神くんに嫌われるような子にはなりたくないと思っていたのに。
「好き」
「うん」
求めすぎたらすれ違う事に気付いていたのに。
つづく.
マネ子をギャフンと言わせて欲しいとの意見を沢山戴いてましたので…(笑)
.
.