歩いて帰ろう
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名ばかりのデートだったけれど、部活の疲れなんて一気に吹き飛ぶくらい楽しかった。
欲を言えばジャージじゃなくて私服で歩きたかったな。
明日の部活は午後から。
明後日から合宿というスケジュールはバスケ部もバレー部も同じだったので、帰りにレンタルビデオを借りてあたしの部屋で見ることになった。
だけどそんなのは理由付け。
すぐいい雰囲気になっちゃったら拒めるはずがない。
「去年の合宿であたし3キロ痩せたの。一週間で3キロだよ。死ぬかと思った」
「あんまりキツくて途中で自分が何してるかわかんなくなるんだよね。真面目に逃げようかと思った」
神くんとの会話は楽しい。
競技は違えどお互い共感できるところが多々あるから。
「合宿にはマネージャーも行くんだよね?」
「そりゃあね」
ふーんと知らん顔をしてみせたのだけれど、神くんはあたしの鼻をつまんで笑った。
「何?何考えてんの?」
「別に?広島に行く前に顔くらいは見れたらいいな…じゃあ次のデートはお盆が終わるまでお預けだね」
出来るだけ明るい声を出した。
「次会う時は痩せてるから、多分」
「今のままでいいのに」と神くんは笑う。
「いーや、痩せて目茶苦茶可愛くなりたい」
「えー?」
「だから浮気しないでね」と本気の台詞を冗談っぽく流した。
「逆に俺が心配なんだけど」
「え?何が?」
「田中だったかな、バレー部の」
ドキッと心臓が跳ねた。
「なんで…?」
驚くあたしの顔を神くんは楽しそうに覗き込んで笑う。
「俺の情報網を甘く見るな」
サチコだな…
「俺が広島に行ってて会えない間も毎日顔合わせるんだろ?」
「や、ホント田中くんはナイから。ただの友達だし」
「それはなま恵がそう思ってるだけで相手が何を考えてるかなんか本人しか分からないじゃん」
いやだけどね、と反論しようとしたあたしの言葉を神くんが遮った。
「あと、仙道とか?」
あたしの頭の中は田中くんの名前が出た時以上に動揺した。
「なんであ…仙道…?」
「んーなんとなく」
「田中くん以上に有り得ない」
「だといいけど」と神くんは言うけれど、だってそれは本当の事だもの。
なんで神くんはそんな事を言うのだろう。
だってあたしは、神くんの前で彰クンの話なんて一度だってしたことないのに。
「なま恵」
名前を呼ばれるのと同時にあたしの体が長い腕に絡めとられた。
「もう一回しよ」
「えー」
「いいじゃん、会えない間の充電」と唇を重ねられたらアッという間に押し倒されたけれど実は満更でもナイ。
それは初めての時より苦痛が薄れてきたからかもしれない。
いつからか、くすぐったいだけだった愛撫に下腹部が疼いたり、突かれる痛みの中に今まで知らなかった何かを感じるようになっていた。
束の間の楽しい時間は直ぐに過ぎて、時計の針が10時になる前に神くんは帰ってしまった。
朝まで一緒に居てほしいと思うけれど、彼は自宅生だもの仕方がない。
明日部活の時に少し顔を見れたら、それからはしばらくお別れだね。
歩いて帰ろう
目茶苦茶体がキツイ。
合宿一日目は神くんと電話で少し話したけれど、それからは短いメールを送るだけになった。
はっきり言って余裕ない。
あたしも、多分神くんも。
「あー痛」
練習後に痛むようになった膝が、最近は集中力が途切れた時にも疼くようになっていて、ジャンプをするのに躊躇しそうになるけどそんなわけにはいかない。
だって明日の練習試合に出してもらえる事になったんだもの。
これは電話やメールではなく、神くんに直接会って報告しようと次に会える日が尚更待ち遠しくなった。
地獄の合宿から帰った次の日の練習は午後からだった。
久しぶりに体育館に響くバスケットボールの音を聞いた。
練習が終わったら神くんに会いに行こう。
試合に出して貰えた事とか会えない間に話したかったことは沢山ある。
…マネ子も気になるし。
練習が終わると逸る気持ちを抑えてバスケ部のフロアへ行った。
まだ残って自主練をしている部員がチラホラ見受けられたので、一旦戻って自分も自主練をしてからまた来ようと考えて踵を返した。
「あ」
そこでバッタリ男バスマネ子に会う。
彼女はニコリと笑った。
「バレー部も合宿だったんでしょう?お疲れ様でした」
「あぁ、どうも」と気のない返事を返せば彼女はまだ喋り足りない様子。
「あたし、初めて合宿に参加させてもらったんですけど大変でした。でも最終日の親睦会がとても楽しかったんですよ。普段は見れない皆の違う一面が見れたって言うか…」
あぁそう。
「彼女サンは、あんな神さんも知ってるんですよね?」
「はぁ!?」
思わず刺々しい声が出た。
あんな神くんってどんなんだよ、と聞き返したかったけれど、そんなあからさまな挑発に乗るなんてあたしのプライドが許さない。
「それに神さんってホント優しいですよね。あたし、またドキドキしちゃいました」
この子、吊しあげていいかな。
「ま、誰にでも優しいからね、彼は」
「そうですか?そんな事ないって本人は言ってましたよ」
あぁそうですか、確かにあたしも言われた事ありますよ。
爪が食い込む程手をにぎりしめて、けれど顔には笑顔を貼付けた。
「じゃ、後で合宿の話を聞かせてもらおうかな」
「神くんに!」とそこを強調して逃げるようにその場を離れた。
分かってる。
あんな事言うのはきっと何もなかった証拠だ。
だけど胸中穏やかでいられないのは仕方ないじゃない。
「痩せた?」
「分かる?」
「いや全然」
一週間振りだけれど、神くんと顔を合わせるのは少しテレ臭かった。
「あ、神さん、あたしパス出ししますよ」
そんなあたし達の空間にズカズカ入りこんでくる俗に言うKY女。
神くんはチラリとあたしに視線をくれてからマネ子に向き合う。
「せっかくだけど今日はもういいよ。あと少しで終わるし、ミキちゃんも疲れてるだろ?」
ミキ、ちゃん、だぁ?
イラっとした。
その前に神くんがあたしの顔色を伺うように一瞬寄越した視線も釈然としない。
「そうですか?あたしは大丈夫ですけど、神さんこそ無理し過ぎないで下さいね。インターハイで勝つために欠かせない大切な選手なんですから」
それに対して神くんが笑顔で応えるとマネ子も微笑み返し「じゃあお先に失礼します!お疲れ様でした」とあたし達に背を向けた。
何だ?その笑顔で通じ合ってる的な雰囲気は。
はっきり言って無茶苦茶ムカつく。
マネ子も、神くんも。
ついに貼付けていた笑顔も抑えていた感情も剥がれ落ち、ムッとした表情を隠せなくなった。
だけどそんなあたしの心情を無視するかのように、体育館には再びバスケットボールの重たい音が響き出す。
くそぅ
苛々が隠せない。
だけどさ、久しぶりに会うんだからさ、と神くんのシュート練習が終わるまでには何とか持ち直すことに成功した。
「よかったじゃん。頑張った甲斐があったね」
早速レギュラー復帰の報告をしたら神くんは自分の事のように喜んでくれた。
「思えばあれが俺達の始まりだったんだよな」
あぁそうだったなぁと、そんなに遠くない過去を振り返る。
「バレーやっててよかった」
「今更?」と神くんは苦笑いするけれど、多分バレーをしてなければこの高校に来る事も神くんに近づくことさえ出来なかったんだ。
「ねぇねぇ」
あたしは神くんの腕に自分のそれを絡めながら聞いた。
「神くんがあたしの自主トレに付き合ってくれるのはあたしがレギュラー復帰するまでの約束だったじゃない?もしもまだ付き合ってなかったら、あたし達どうなってたんだろうね?」
神くんはニコリと笑った。
「それでもきっとなんかの理由をつけてなま恵の側に居ると思う」
そんな言葉だけで、さっきまでの怒りも嫉妬も綺麗に流せてしまうんだからあたしは単純な女だ。
だけどインターハイに行く前には激励と共にもう一度さりげなく、欝陶しくない程度に釘を挿しておこうと思う。
欲を言えばジャージじゃなくて私服で歩きたかったな。
明日の部活は午後から。
明後日から合宿というスケジュールはバスケ部もバレー部も同じだったので、帰りにレンタルビデオを借りてあたしの部屋で見ることになった。
だけどそんなのは理由付け。
すぐいい雰囲気になっちゃったら拒めるはずがない。
「去年の合宿であたし3キロ痩せたの。一週間で3キロだよ。死ぬかと思った」
「あんまりキツくて途中で自分が何してるかわかんなくなるんだよね。真面目に逃げようかと思った」
神くんとの会話は楽しい。
競技は違えどお互い共感できるところが多々あるから。
「合宿にはマネージャーも行くんだよね?」
「そりゃあね」
ふーんと知らん顔をしてみせたのだけれど、神くんはあたしの鼻をつまんで笑った。
「何?何考えてんの?」
「別に?広島に行く前に顔くらいは見れたらいいな…じゃあ次のデートはお盆が終わるまでお預けだね」
出来るだけ明るい声を出した。
「次会う時は痩せてるから、多分」
「今のままでいいのに」と神くんは笑う。
「いーや、痩せて目茶苦茶可愛くなりたい」
「えー?」
「だから浮気しないでね」と本気の台詞を冗談っぽく流した。
「逆に俺が心配なんだけど」
「え?何が?」
「田中だったかな、バレー部の」
ドキッと心臓が跳ねた。
「なんで…?」
驚くあたしの顔を神くんは楽しそうに覗き込んで笑う。
「俺の情報網を甘く見るな」
サチコだな…
「俺が広島に行ってて会えない間も毎日顔合わせるんだろ?」
「や、ホント田中くんはナイから。ただの友達だし」
「それはなま恵がそう思ってるだけで相手が何を考えてるかなんか本人しか分からないじゃん」
いやだけどね、と反論しようとしたあたしの言葉を神くんが遮った。
「あと、仙道とか?」
あたしの頭の中は田中くんの名前が出た時以上に動揺した。
「なんであ…仙道…?」
「んーなんとなく」
「田中くん以上に有り得ない」
「だといいけど」と神くんは言うけれど、だってそれは本当の事だもの。
なんで神くんはそんな事を言うのだろう。
だってあたしは、神くんの前で彰クンの話なんて一度だってしたことないのに。
「なま恵」
名前を呼ばれるのと同時にあたしの体が長い腕に絡めとられた。
「もう一回しよ」
「えー」
「いいじゃん、会えない間の充電」と唇を重ねられたらアッという間に押し倒されたけれど実は満更でもナイ。
それは初めての時より苦痛が薄れてきたからかもしれない。
いつからか、くすぐったいだけだった愛撫に下腹部が疼いたり、突かれる痛みの中に今まで知らなかった何かを感じるようになっていた。
束の間の楽しい時間は直ぐに過ぎて、時計の針が10時になる前に神くんは帰ってしまった。
朝まで一緒に居てほしいと思うけれど、彼は自宅生だもの仕方がない。
明日部活の時に少し顔を見れたら、それからはしばらくお別れだね。
歩いて帰ろう
目茶苦茶体がキツイ。
合宿一日目は神くんと電話で少し話したけれど、それからは短いメールを送るだけになった。
はっきり言って余裕ない。
あたしも、多分神くんも。
「あー痛」
練習後に痛むようになった膝が、最近は集中力が途切れた時にも疼くようになっていて、ジャンプをするのに躊躇しそうになるけどそんなわけにはいかない。
だって明日の練習試合に出してもらえる事になったんだもの。
これは電話やメールではなく、神くんに直接会って報告しようと次に会える日が尚更待ち遠しくなった。
地獄の合宿から帰った次の日の練習は午後からだった。
久しぶりに体育館に響くバスケットボールの音を聞いた。
練習が終わったら神くんに会いに行こう。
試合に出して貰えた事とか会えない間に話したかったことは沢山ある。
…マネ子も気になるし。
練習が終わると逸る気持ちを抑えてバスケ部のフロアへ行った。
まだ残って自主練をしている部員がチラホラ見受けられたので、一旦戻って自分も自主練をしてからまた来ようと考えて踵を返した。
「あ」
そこでバッタリ男バスマネ子に会う。
彼女はニコリと笑った。
「バレー部も合宿だったんでしょう?お疲れ様でした」
「あぁ、どうも」と気のない返事を返せば彼女はまだ喋り足りない様子。
「あたし、初めて合宿に参加させてもらったんですけど大変でした。でも最終日の親睦会がとても楽しかったんですよ。普段は見れない皆の違う一面が見れたって言うか…」
あぁそう。
「彼女サンは、あんな神さんも知ってるんですよね?」
「はぁ!?」
思わず刺々しい声が出た。
あんな神くんってどんなんだよ、と聞き返したかったけれど、そんなあからさまな挑発に乗るなんてあたしのプライドが許さない。
「それに神さんってホント優しいですよね。あたし、またドキドキしちゃいました」
この子、吊しあげていいかな。
「ま、誰にでも優しいからね、彼は」
「そうですか?そんな事ないって本人は言ってましたよ」
あぁそうですか、確かにあたしも言われた事ありますよ。
爪が食い込む程手をにぎりしめて、けれど顔には笑顔を貼付けた。
「じゃ、後で合宿の話を聞かせてもらおうかな」
「神くんに!」とそこを強調して逃げるようにその場を離れた。
分かってる。
あんな事言うのはきっと何もなかった証拠だ。
だけど胸中穏やかでいられないのは仕方ないじゃない。
「痩せた?」
「分かる?」
「いや全然」
一週間振りだけれど、神くんと顔を合わせるのは少しテレ臭かった。
「あ、神さん、あたしパス出ししますよ」
そんなあたし達の空間にズカズカ入りこんでくる俗に言うKY女。
神くんはチラリとあたしに視線をくれてからマネ子に向き合う。
「せっかくだけど今日はもういいよ。あと少しで終わるし、ミキちゃんも疲れてるだろ?」
ミキ、ちゃん、だぁ?
イラっとした。
その前に神くんがあたしの顔色を伺うように一瞬寄越した視線も釈然としない。
「そうですか?あたしは大丈夫ですけど、神さんこそ無理し過ぎないで下さいね。インターハイで勝つために欠かせない大切な選手なんですから」
それに対して神くんが笑顔で応えるとマネ子も微笑み返し「じゃあお先に失礼します!お疲れ様でした」とあたし達に背を向けた。
何だ?その笑顔で通じ合ってる的な雰囲気は。
はっきり言って無茶苦茶ムカつく。
マネ子も、神くんも。
ついに貼付けていた笑顔も抑えていた感情も剥がれ落ち、ムッとした表情を隠せなくなった。
だけどそんなあたしの心情を無視するかのように、体育館には再びバスケットボールの重たい音が響き出す。
くそぅ
苛々が隠せない。
だけどさ、久しぶりに会うんだからさ、と神くんのシュート練習が終わるまでには何とか持ち直すことに成功した。
「よかったじゃん。頑張った甲斐があったね」
早速レギュラー復帰の報告をしたら神くんは自分の事のように喜んでくれた。
「思えばあれが俺達の始まりだったんだよな」
あぁそうだったなぁと、そんなに遠くない過去を振り返る。
「バレーやっててよかった」
「今更?」と神くんは苦笑いするけれど、多分バレーをしてなければこの高校に来る事も神くんに近づくことさえ出来なかったんだ。
「ねぇねぇ」
あたしは神くんの腕に自分のそれを絡めながら聞いた。
「神くんがあたしの自主トレに付き合ってくれるのはあたしがレギュラー復帰するまでの約束だったじゃない?もしもまだ付き合ってなかったら、あたし達どうなってたんだろうね?」
神くんはニコリと笑った。
「それでもきっとなんかの理由をつけてなま恵の側に居ると思う」
そんな言葉だけで、さっきまでの怒りも嫉妬も綺麗に流せてしまうんだからあたしは単純な女だ。
だけどインターハイに行く前には激励と共にもう一度さりげなく、欝陶しくない程度に釘を挿しておこうと思う。