歩いて帰ろう
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だって知らなかったんだから仕方ないじゃんか
その時初めて、堕ちていたことに気付いたんだから
歩いて帰ろう
「ね、もしかしてあんた達ヤッちゃった?」
サチコの言葉にあたしは心臓ごと飛び上がった。
「な、なんで?」
「なぁーんとなく。さっきあんた達が話してるの見てたら今までと雰囲気が違う気がした。いつの間にか神くんがあんたの事を名前で呼んでるし」
すごい…と素直に感心するあたしはサチコに無理矢理白状させられたのだけれど。
「誰にも言わないでね?」
縋り付くあたしに「はいはい」と笑いながら彼女は適当な返事を返し「あ、忘れ物した。先に行ってて」と踵を返す。
サチコが鋭いのかあたしが鈍いのか…と首を傾げながら歩いていたら体育館の入り口でキヨタに会った。
「あ、ノブ」
ありがとう、アンタのお陰であたし達ラブラブなんだ。
だけど本人はものすごく不機嫌な様子。
「どうしたの?」と聞いてもイマイチ歯切れがよくない。
「…何で神さんなんスか?」
「え?」
ってか何で今更敬語?
「だから!俺あの後の部活で神さんにすっげぇイビリ倒されたんだよっ」
あ、戻った。
「ごめんね、あたし神くんにすごく愛されてるみたい」
馬鹿か!と罵声が飛ぶはずだったのだけれど、キヨタはフイと顔を逸らせて館内へ入っていってしまった。
ありゃ、これはイヨイヨ臍を曲げたな。
ジュースで直るだろうか。
学食ぐらい奢るべきか。
その時「みょう寺先輩」と呼ばれて振り返った。
立っていたのは男バスマネ子。
ちょっとアンタになれなれしく呼ばれたくないんだけど、と思いながらあたしは勝者だ大人になれ。
「なに?」
彼女はまっすぐにあたしを見据えて言った。
「関係ありませんから」
「は?」
「あたし、彼女とかそういうの関係ないと思ってます。」
何をいってるんだコイツ。
「彼女が居るなら、彼女より好きになってもらうまでです」
負けませんから、と堂々の宣戦布告をしてあたしに一礼すると、キヨタの後を追うように館内へと走っていった。
彼女より好きになってもらう、だぁ!?
ここ最近で間違いなく最もムカついた台詞だった。
あたしの原動力は怒りだったのか。
自分でも「っしゃ」と声が出るほど今日はよくスパイクが決まる。
さぁあたしをドンドン使いなさい。
バレーボールが男バスマネ子の顔に見える。
絶妙のタイミングで上がったトスに合わせて飛び上がり渾身の力で腕を振り下ろすと、ボールを叩く衝撃と共に肩にビリッと電流が走った。
「ったぁ!つった!」
思わず肩を押さえて膝をつく。
憎きマネを重ねるとボールまであたしに刃向かうか。
「大丈夫?」と駆け寄るチームメイトに「大丈夫大丈夫」と笑顔で返した。
ぐるりと肩をまわしたのだけどたいしたことはなさそう。
「力みすぎちゃった」と苦笑いすると休憩の号令がかかった。
「すごいねなま恵、恐ろしくて拾えないんだけど」
お陰で目茶苦茶おこられたんだけど、と少し遅れて顔を洗いに来たサチコが口を尖らせた。
「これはなんだね?愛のパワーかね?」
だったら県予選の前に付き合えばよかったのにと言うサチコに「怒りのパワー」と反論した。
「え?早速喧嘩?」
「いや実はね…」
あたしはタオルで口元を覆いながらサチコにムカつく男バスマネ子の話しをして聞かせる。
「舐めクサられてるな、それは」
憤慨するあたしを前にしながら人事だと完全に楽しんでいる様子のサチコが言った。
「でしょ!?彼女なんて関係ないなんて倫理に反するよね!?彼女を立てろ!そのための彼女だっつーの!」
「ってかあんたになら勝てそうって事なんじゃない?」
思わずムっとする。
「それ、あたしに失礼だよね」
サチコは「嘘嘘」と笑いながらあたしの肩を叩いた。
「神くんを信じなさいって。これがサッカー部の斎藤なら二股かけるだろうけど神くんなら大丈夫でしょ」
…慰めになってない。
「他に好きな子が出来たってフラれたら元も子もないじゃん」と口を尖らせると「あぁ、それねぇ…」とサチコが不穏な声色を出す。
「夏休みが最大の危機だね、大丈夫?」
「何が?」と目を丸くしたらサチコは意地悪な笑みを浮かべた。
「夏休みと言えば一日中部活、イコール、マネ子との接点も増えるし?夏合宿?あの子かわいいし?軽い気持ちで一夜のアバンチュール?その後にIHで再びひとつ屋根の下?あぁ一夜のつもりだったのに…若い二人は止まりませんよ?」
有り得なくはない、とマイナス思考に陥るあたしに「テクを磨いて彼をメロメロにしてあげなさ~い」と笑いながら体育館に向かうサチコの後ろ姿を睨んでやった。
くそっ下ネタ女王め。
「あー、あたしバスケ部のマネージャーになればよかった」
半分本気、半分冗談のつもりで言ったその言葉に「なにそれ」と神くんが呆れた。
「悪いけどなま恵じゃウチのマネージャーにはなれないよ」
あぁそうですかと口を尖らせる。
それほど優秀って事よね、あのマネージャーが。
なんか面白くないとふて腐れたい気持ちを抑えて続けた。
「だって明後日から夏休みだから、あんまり会えなくなっちゃうでしょ?」
普通逆なのにね、と不安を紛らわすように笑うと「ウチの夏休みは異常に忙しいからなぁ」と否定しない神くんが恨めしい。
「夏休み入ってすぐ合宿だろ、その後はインターハイで広島…あ、盆は一応部活休みだけど」
「盆は帰ってこいって、親が…」
あぁそうか、と彼も落胆した様子。
「ほんと会えないね」
そうなんだよ。
事件が起こるとしたらこーゆー時なんだよ!と声を大にして言いたい。
意外と落とし穴は近くにあるものなんだ。
だから残された時間で、少しでも神くんとの距離を縮めておきたいと思う。
「あのさ、明日学校早く終わるじゃん?部活も早く終わる…でしょ?」
「そうだね、6時には終わるかな」
神くんがニッコリ笑ってあたしを見た。
「デートしようか。ってたいしたデートは出来ないと思うけど」
どうしてかなぁ
どうして神くんは、あたしが言いたいことを分かってくれるのかなぁ
「デートしたい!今度はラーメン屋じゃなくって」
キャアとはしゃぐあたしに神くんが眉尻を下げた。
「どこか行きたいところある?」
「美味しいオムライスの店があるの!で、近くにスポーツ用品店があるから、ついでにちょっと寄ってみようよ」
「オッケ、じゃ決まり」
ほぅらごらん男バスマネ子。
あたし達にはあんたが付け入る隙なんてないんだからね。
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