歩いて帰ろう
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もしかしたら日曜日の今日も来てくれるんじゃないかとの若干の期待は簡単に崩れそうな予感がした。
昨日の様子だと神くんは多分今日の午前中も学校に行ってるはずだと馬鹿なあたしも学校に足を運んだ。
そうだ世界史の資料をロッカーに入れっぱなしだったとかどうでもいい理由をつけて。
体育館に足を運んでみたら微かに聞こえるボールの音に期待が確信に変わる。
一人黙々とシュート練習をする神くんの邪魔をしたくなくて声をかけずに帰ろうと思った。
その姿を見れただけでヨシとしようなんていじましいんだろう。
しかし次の瞬間、ボールを拾おうと振り返った神くんがあたしの姿に気付いて怯んだ。
「うわっびっくりした!」
「うわっごめん!」
お互いがお互いに驚く。
「真面目に心臓止まるかと思った…」と胸に手をあてる神くんに「忘れ物取りに来たら音が聞こえて…」と必死の言い訳をする。
その後の神くんの言葉を期待したのだけれど「あぁそうなんだ」と彼はボールを拾って再びゴールと向き合った。
素人目に見ても綺麗なシュートだと思う。
相手にしてくれそうもないので淡い期待を捨てて帰ろうとした時だった。
.
「コラみょう寺お前何やってんだ」
やってきたのは英語の白水。
「いやチョット忘れ物…」
苦笑いするあたしにゲンコツをくれる素振りを見せてから中に声をかける。
「神、そろそろ帰れ」
そして「ついでだからお前も片付け手伝え」とあたしの肩を押すから「え~?なんでですかぁ?」とブーたれるフリでホワイトウォーター(白水)にナイスと心からの拍手を送る。
「馬鹿だなぁ。寄り道なんかするからだよ」と眉尻を下げる神くんに「だよね」と話をあわせながら、本当は狙ってたなんて言えない。
追い出されるように体育館を出たあたし達はいつもよりずっと日が高い中並んで歩いた。
だけど今日は…
何故か手を繋いでくれない。
なんか悪いことしたかな…と次第に不安になる。
狙ったように学校に来て体育館に寄ったりしたからウザいって思われた?
だけど色々思いを巡らせるあたしに気付いた神くんが、いつものような優しい眼差しで「どうかした?」って言ってくれるから、それはあたしの思い過ごしなんだろう。
恋っていうのは時々人をとても臆病にすると思う。
あたしは何も言わずに開いた手を少々遠慮がちな角度で突き出してみた。
あたしの精一杯の意思表示に神くんはクスリと笑った。
「え~?今日は日曜日だよ?」
ポカンとするあたし。
「放課後限定とか言ってたじゃん」と言う神くんに「あぁそーゆー事」と納得しながら断られた事に胸の奥がズキってなった。
これで昨日の事も理解出来ると自分の中に言い聞かせるフリで胸の痛みを紛らわす。
「納得しちゃったのか」と呟く声はあたしの耳には届かない。
「みょう寺さん最強」
「え?何が?」
「信長も感心してたよ」
はぁ…と何に感心されたのか考えてみるけれどわからない。
ってかあたしにはそんな事より神くんの律義さに落胆していた。
そんな風に境界線作られたらやっぱり寂しい。
「でも何だかちょっと寂しいね」と本音を笑顔でごまかせば「俺もそう思う」って…え?
驚いて見上げた視線の先で笑う神くんが絡めてきた指先をギュウと握り返したら、あたしは嬉しくて笑ってしまった。
「神くん意地悪」
そう?と見せる笑顔にさえトキメイてしまっている事を彼は知ってるんだろうか。
「だけどさ…」
神くんが苦笑した。
「そしたら我慢出来なくなりそう」
「何を?」
「何をって…」
言い澱む神くんにあたしが少し首を傾けて「神くんは我慢強いと思うよ」と言うと彼は目を見開いて「どうして?」と聞いた。
「だって海南の男子バスケ部はスッゴイ我慢強くないと続かないって聞いた事あるもん」
「………。」
あれ、黙っちゃった。
「…みょう寺さんってあれだよね…」
何かを言いかけた神くんは諦めたように大きくため息をつく。
「ま、そこがかわいいんだけどね」
そんな事言われ馴れてないあたしは、途端に自分の顔が耳まで熱くなるのが分かった。
「も、じん…」
恥ずかしくて俯いたあたしの手を神くんが軽く引っ張ったから、それにつられて顔をあげたあたしの唇にほんの一瞬、神くんのそれが触れた。
心臓が体ごと跳ね上がる。
「フェイント」
そう言って唇の端を吊り上げた神くんが悪戯っぽく笑った。
放心状態。
あたしどうしよう。
「あ、やっぱり許可を取るべきだったのかな?」
だけどね…と彼は笑う。
「男ってのは澄ました顔の下でいつだってチャンスを狙ってるんだよ」
その声はほてる頬を両手で押さえてボゥっとするあたしの頭には入って来なかった。
「警告したからね」
「え?」
警告と言う言葉に反応したあたしだけれど隣の神くんは涼しい顔。
「え、なになに?もう一回」
「二回も言わないよ」
「わ、やっぱり意地悪」
言いながらあたしは、初めて自分から神くんと手を繋いだ。
ちょっとドキドキしたけれど、神くんはさも当然の事のように繋いでくれるからあたしすごく嬉しかったんだ。
この人、あたしの彼氏だからね!って叫びたいくらい。