歩いて帰ろう
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だからと言ってあたし達の日常が大きく変わることはなかった。
あたしは休み時間を今まで通り女友達と過ごしたし、神くんがあたし会いに教室に来る事もなかった。
ただ、学校から駅までの道程に手を繋いで帰るようになったのが大きな変化だった。
だけどたったそれだけの事で、あたしの中の「好き」って気持ちはドンドン大きくなってしまったのだ。
歩いて帰ろう
部活の途中の休憩に顔を洗いに出たあたしは楽しそうな男子の声に惹かれてそこを覗いてみた。
どうやら休憩中らしい男バスが水分補給のついでに雑談をしているようだ。
不意に頭の上に重力を感じて振り向くと神くんがあたしの頭に手を乗せていた。
このちょっとした仕種にもあたしの胸は嫌になるくらいドキドキしてしまう。
「みょう寺さんも乗る?」
何の事?と尋ねるあたしに神くんが楽しそうな顔をした。
「ジュース賭けてんの。信長の…」
「ダーッ!!神さん!部外者に余計な事言わないで下さいよッ」
横から慌ててキヨタが止めに入る。
その焦りっぷりが面白くてあたしはわざと「何?教えて」と神くんに聞いてみた。
さりげなくTシャツの裾を引っ張って。
「駄目っ絶対駄目ッス神さん!」
物凄く知られたくない事のようだ。
「え~?どーしよーかなぁ」
こーゆー時の神くんはとても楽しそうだ。
「実は今度のテストのね、信長の赤点の数賭けてんだよ」
そうあたしに耳打ちすると、神くんはサッとバスケ部のフロアに入っていってしまった。
「じ…っそりゃないっすよぉ!」
哀れな声を出しながらその後姿を目で追っていたキヨタがキッとあたしを睨んだ。
「こないだは油断したんだ。今度は失敗しねぇ」
哀れキヨタ、しかし残念ながらあたしにはその気持ちがよく分かる。
「意外とね、部活と勉強の両立って難しいんだよね」
こないだのテストで物理が赤点だったあたし。
救いがあるとすれば物理の平均点そのものが赤点ギリギリだった事だ。
少し驚いた顔をしたキヨタはあたしの顔をマジッと見て「よく見たらアンタも頭悪そうな顔してんな」と言った。
カッチーン
「あんたに言われたかないわよ!あたしは2個も3個も赤点取った事ないからねっ!?」
「ふーん…じゃあ1個ならあるんだ…」
ヒィと飛び上がって声の主を見上げた。
「…神、くん」
そこには無表情の神くんが立っている。
誰か、嘘だと言ってーッ!
「信長、いつまで喋ってんだよ」
神くんはキヨタにそう言って再びフロアへ戻って行った。
ヤバイ…
さっきまで目茶苦茶暑かった体に夏の生温い風が染み渡った。
絶対呆れられた!
もうフラれちゃうかもッ!
ハヤッ!
呆然とするあたしの肩をキヨタが楽しそうに叩いた。
「じゃあな、赤点女。アンタも頑張れよ」
…キヨタ許すまじ。
「で、何が赤点だったの?」
駐輪場に向かいながら神くんが言った言葉にあたしは肩を竦めた。
どうやら忘れてなかったらしい。
「神くんも難しかったって言ってたよね?」
神くんは首を傾けた。
「ぶ…物理…」
「あぁ物理」
「赤点の人結構多かったんだよ」と必死で言い訳する。
「あたし理数系が苦手なの」
「苦手でも赤点は痛いよな。進学する気ないの?」
「えー…」
そうか、2年になったら進路も視野に入れないといけないもんな。
「明日で部活最終だからさ」
「うん?」
明後日からはテスト前期間でどの部活も休みになる。
「よかったら勉強教えてあげようか」
えっ?
「いいの?」
「体力があれば帰る前に部室でさ。ちょっとくらいなら教えられるよ」
物理赤点取っといてよかった~なんて馬鹿な事を考えてしまう。
神くんとお勉強なら部活の後だって全然平気。
少しでも長く神くんと居れるなら何だっていいの。
「だって頭の悪い彼女ヤだもん」
「む…」
それ、ヘコむなぁ…
有頂天だったあたしは一気にしょぼくれてうなだれてしまった。
そんなあたしの指に神くんのそれが絡まる。
ドキリとした。
あたし、まだ嫌われてないよね?
「ヘコんだ?」
ニッコリ笑う神くんの笑顔にあたしは真っ直ぐ視線を合わせられない。
「うん、ヘコんだ。頭悪いと神くんに嫌われちゃう」
そしたら神くんは何も言わずに絡まった指先に力を込めた。
あぁたったこれだけの事で、あたしの心臓は爆発しそうなくらい熱くなる。
「そんな事くらいで嫌いにならないよ」
その言葉はあたしの胸をキュンと締め付けて…
大好きと言いかけた言葉は恥ずかしくて飲み込んだ。
次の日は言われた通り自主トレの後に居残り。
バスケ部の部室はそれなりに綺麗に整頓されていたが、男子特有の汗の匂いが鼻についた。
それに慣れてきた頃、テーブルに肩肘をついていた神くんが大きなため息をつく。
「…根本的に理解できてないよね」
あぁ穴があったら入りたい…
クルリとシャーペンを指先で回して、神くんが参考書をつつく。
「それはね…」
神くんが辛抱強く一から説明してくれるから、絶対理解しなくっちゃとあたしは必死になった。
それこそ部室という密室に二人で入った時の甘い期待なんかは綺麗に消え去ってしまっていた。
「タイムアップ」
神くんの声にあたしはペンをポトリと落とす。
「ま、まだ肝心な…」
慌てて教科書をめくり神くんに突き付ける。
「ここっ!チンプンカンプンなの」
「これ以上遅くなれないよ。8時には学校が閉まるんだから」
そう言われたら諦めざるを得なくてあたしは渋々と教科書を片付け出す。
二人でいると、どうしてこんなにも時間の経つのが早いのだろう。
「電気消すよ」
「ハーイ」
あたしが鞄を持つと部室が暗転した。
途端にあたしはドキドキし始める。
密室、暗がり、二人きり…
期待すんなってほうがムリ。
動きを止めたあたしに入口に立つ神くんの声が聞こえる。
「見える?」
「う、うん…」
慌てて動こうとしたら机の角に強かにふとももを打ち付けてしまった。
大きな物音とあたしの呻き声に再び部室に電気がつく。
「大丈夫?」
近づいて来た神くんがあたしを覗き込んだ。
「いた…た…」
死ぬる。
「おっちょこちょいだなぁ」
その声に反応して上げた視線の先にあたしを覗き込む神くんの顔があった。
え?距離近くない?
そしたら麻酔が効いてきたみたいに足の痛みがぼんやりしてきて、代わりに心臓が早打つ。
もしかして…
ところが神くんは「歩ける?」とあたしに確認するとポカンと口をあけるあたしの手を引き部室の鍵を閉める。
「さ、急がないと」
「………」
あたしは脱力感に似た何かを感じながら引きずられるようにして体育館を後にした。
.
あたしは休み時間を今まで通り女友達と過ごしたし、神くんがあたし会いに教室に来る事もなかった。
ただ、学校から駅までの道程に手を繋いで帰るようになったのが大きな変化だった。
だけどたったそれだけの事で、あたしの中の「好き」って気持ちはドンドン大きくなってしまったのだ。
歩いて帰ろう
部活の途中の休憩に顔を洗いに出たあたしは楽しそうな男子の声に惹かれてそこを覗いてみた。
どうやら休憩中らしい男バスが水分補給のついでに雑談をしているようだ。
不意に頭の上に重力を感じて振り向くと神くんがあたしの頭に手を乗せていた。
このちょっとした仕種にもあたしの胸は嫌になるくらいドキドキしてしまう。
「みょう寺さんも乗る?」
何の事?と尋ねるあたしに神くんが楽しそうな顔をした。
「ジュース賭けてんの。信長の…」
「ダーッ!!神さん!部外者に余計な事言わないで下さいよッ」
横から慌ててキヨタが止めに入る。
その焦りっぷりが面白くてあたしはわざと「何?教えて」と神くんに聞いてみた。
さりげなくTシャツの裾を引っ張って。
「駄目っ絶対駄目ッス神さん!」
物凄く知られたくない事のようだ。
「え~?どーしよーかなぁ」
こーゆー時の神くんはとても楽しそうだ。
「実は今度のテストのね、信長の赤点の数賭けてんだよ」
そうあたしに耳打ちすると、神くんはサッとバスケ部のフロアに入っていってしまった。
「じ…っそりゃないっすよぉ!」
哀れな声を出しながらその後姿を目で追っていたキヨタがキッとあたしを睨んだ。
「こないだは油断したんだ。今度は失敗しねぇ」
哀れキヨタ、しかし残念ながらあたしにはその気持ちがよく分かる。
「意外とね、部活と勉強の両立って難しいんだよね」
こないだのテストで物理が赤点だったあたし。
救いがあるとすれば物理の平均点そのものが赤点ギリギリだった事だ。
少し驚いた顔をしたキヨタはあたしの顔をマジッと見て「よく見たらアンタも頭悪そうな顔してんな」と言った。
カッチーン
「あんたに言われたかないわよ!あたしは2個も3個も赤点取った事ないからねっ!?」
「ふーん…じゃあ1個ならあるんだ…」
ヒィと飛び上がって声の主を見上げた。
「…神、くん」
そこには無表情の神くんが立っている。
誰か、嘘だと言ってーッ!
「信長、いつまで喋ってんだよ」
神くんはキヨタにそう言って再びフロアへ戻って行った。
ヤバイ…
さっきまで目茶苦茶暑かった体に夏の生温い風が染み渡った。
絶対呆れられた!
もうフラれちゃうかもッ!
ハヤッ!
呆然とするあたしの肩をキヨタが楽しそうに叩いた。
「じゃあな、赤点女。アンタも頑張れよ」
…キヨタ許すまじ。
「で、何が赤点だったの?」
駐輪場に向かいながら神くんが言った言葉にあたしは肩を竦めた。
どうやら忘れてなかったらしい。
「神くんも難しかったって言ってたよね?」
神くんは首を傾けた。
「ぶ…物理…」
「あぁ物理」
「赤点の人結構多かったんだよ」と必死で言い訳する。
「あたし理数系が苦手なの」
「苦手でも赤点は痛いよな。進学する気ないの?」
「えー…」
そうか、2年になったら進路も視野に入れないといけないもんな。
「明日で部活最終だからさ」
「うん?」
明後日からはテスト前期間でどの部活も休みになる。
「よかったら勉強教えてあげようか」
えっ?
「いいの?」
「体力があれば帰る前に部室でさ。ちょっとくらいなら教えられるよ」
物理赤点取っといてよかった~なんて馬鹿な事を考えてしまう。
神くんとお勉強なら部活の後だって全然平気。
少しでも長く神くんと居れるなら何だっていいの。
「だって頭の悪い彼女ヤだもん」
「む…」
それ、ヘコむなぁ…
有頂天だったあたしは一気にしょぼくれてうなだれてしまった。
そんなあたしの指に神くんのそれが絡まる。
ドキリとした。
あたし、まだ嫌われてないよね?
「ヘコんだ?」
ニッコリ笑う神くんの笑顔にあたしは真っ直ぐ視線を合わせられない。
「うん、ヘコんだ。頭悪いと神くんに嫌われちゃう」
そしたら神くんは何も言わずに絡まった指先に力を込めた。
あぁたったこれだけの事で、あたしの心臓は爆発しそうなくらい熱くなる。
「そんな事くらいで嫌いにならないよ」
その言葉はあたしの胸をキュンと締め付けて…
大好きと言いかけた言葉は恥ずかしくて飲み込んだ。
次の日は言われた通り自主トレの後に居残り。
バスケ部の部室はそれなりに綺麗に整頓されていたが、男子特有の汗の匂いが鼻についた。
それに慣れてきた頃、テーブルに肩肘をついていた神くんが大きなため息をつく。
「…根本的に理解できてないよね」
あぁ穴があったら入りたい…
クルリとシャーペンを指先で回して、神くんが参考書をつつく。
「それはね…」
神くんが辛抱強く一から説明してくれるから、絶対理解しなくっちゃとあたしは必死になった。
それこそ部室という密室に二人で入った時の甘い期待なんかは綺麗に消え去ってしまっていた。
「タイムアップ」
神くんの声にあたしはペンをポトリと落とす。
「ま、まだ肝心な…」
慌てて教科書をめくり神くんに突き付ける。
「ここっ!チンプンカンプンなの」
「これ以上遅くなれないよ。8時には学校が閉まるんだから」
そう言われたら諦めざるを得なくてあたしは渋々と教科書を片付け出す。
二人でいると、どうしてこんなにも時間の経つのが早いのだろう。
「電気消すよ」
「ハーイ」
あたしが鞄を持つと部室が暗転した。
途端にあたしはドキドキし始める。
密室、暗がり、二人きり…
期待すんなってほうがムリ。
動きを止めたあたしに入口に立つ神くんの声が聞こえる。
「見える?」
「う、うん…」
慌てて動こうとしたら机の角に強かにふとももを打ち付けてしまった。
大きな物音とあたしの呻き声に再び部室に電気がつく。
「大丈夫?」
近づいて来た神くんがあたしを覗き込んだ。
「いた…た…」
死ぬる。
「おっちょこちょいだなぁ」
その声に反応して上げた視線の先にあたしを覗き込む神くんの顔があった。
え?距離近くない?
そしたら麻酔が効いてきたみたいに足の痛みがぼんやりしてきて、代わりに心臓が早打つ。
もしかして…
ところが神くんは「歩ける?」とあたしに確認するとポカンと口をあけるあたしの手を引き部室の鍵を閉める。
「さ、急がないと」
「………」
あたしは脱力感に似た何かを感じながら引きずられるようにして体育館を後にした。
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