歩いて帰ろう
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覚悟が出来てしまえばいくらか気分が楽になった。
体育館から人気がなくなった頃、いつものようにあたし達は顔を合わせる。
昨日の今日だから少しはテレがあるかと思いきや神くんからそれは微塵も感じられない。
こーゆー性格は試合の時に有利だと思う。
だけどあんまり神くんがいつも通りだから、もしかしたら昨日の事は夢だったんじゃないかとさえ思えて来た。
願望故の妄想?
だったら末期だ、かなりヤバイ。
「どうしたの?」
チャリを押しながら神くんがあたしを覗き見た。
「ムツカシイ顔して」
チャンスは自分で…と言う言葉が頭を過ぎる。
「あのね神く…」
「テストが心配?とか?」
そーいや中間テストの物理難しかったよな、平均点もかなり低かったし…と神くん。
「たしかに物理も気になる所なんだけど…」
こないだ人に言えないような点数を取ったあたしだが、今は物理より気になる事がある。
急がなくっちゃ駅はもうすぐ。
だけどなんて言ったらいいんだろ。
また今度でもいいかな…と攻め気が弱気に変わる。
あぁこんなんだからあたしはダメなんだな。
監督にも攻め気を忘れるなって耳にタコが出来る位言われてるじゃない。
進路を塞ぐように飛び出したあたしに驚いて神くんが足を止めた。
「あたしと付き合ってください!」
段取りも何もかもすっとばしてしまった。
訳の分からない女だ、あたし。
かなりイタイ。
ほら見なよ。神くんの顔。
全部開いちゃってる。
「……え?」
眉毛が八の字になった神くんが困ったような顔をした。
ほらごらん。
誰だってビビるっつーの。
「あのね、あき…仙道君は何でもないの。同じ中学だっただけなの。」
神くんは益々眉尻を下げた。
「同じ中学って…」
「ホント、神奈川に進学したのは偶然で、あたし寮を出るまで会ったこともなかったの。…同郷だからつい応援しちゃっただけで…」
彼もあたしと同じように親元離れて頑張ってるから応援に熱が入りすぎちゃっただけなの、とあたしは精一杯の言い訳をした。
「…そうなの?」
「だってあたしは神くんが好きなんだもの」
言った、言っちゃった。
臆病なあたしは神くんが口を開く前に慌てて言葉を繋いだ。
「神くんが部活大切なの分かってる。あたしもバレー頑張りたいし…付き合うったって限界あるのはよく分かってる。あたし、そんなに沢山望むつもりないから…」
言いながら、そんなんじゃ神くんの今までの彼女と一緒じゃんって事に気付いた。
理解してるって、皆言ってくれるんだよ…と言ってた神くんを思い出す。
だけど、せっかくならこうやって二人で居る時間を大切にしたいなって、そう思うから。
好きな以上は少しでも神くんの特別になりたいから。
「…放課後限定の彼女ってアリかな?」
ハァ…?と神くん。
呆れてる、絶対変なヤツだと思われてる。
「だってだってね、最初からそのつもりならお互い期待しすぎないから結構続くと思わない?実質今と変わらないんだし、週末婚っていう言葉もあるし…」
うわぁ墓穴?
自分で何を言ってるのか分からなくなってきた。
「いや、やっぱナシ!意味分かんないよね!忘れて忘れて!」
神くんは少し首を傾げた。
「みょう寺さんって、ホントに面白いね」
褒められてないっ。
「…高校生活最後の彼女になるといいな」
神くんがポツリと零した言葉に驚いてあたしは彼を見た。
すると彼は飛び切りの笑顔を見せて言ったのだ。
「よろしくお願いします」
今度はあたしの顔が全部開く番。
「え?それは…?」
ニッコリ笑う神くんに、ジワリと喜びが込み上げて来る。
ウワーイ!
飛び上がりたくてジタバタするあたしを置いて神くんが歩き出した。
「ほら、行くよ」
慌ててそれを追い掛けるあたしはすごく幸せ。
「待って」
そう言ったあたしを振り返って神くんが手を差し出した。
これって…あれだよね?
少し戸惑いながらその手に触れようとしたら、ギュッと神くんの手があたしのそれを握った。
どこか今までとは違う手の温もりにあたしは顔まで温められる。
こんな最高なことってある?
あたしは今、世界中で一番幸せな人間だって真面目に思ってしまった。
しかしこうなった以上、あたしにはやらなくてはならないことがあった。
さぁ、週も半ば。
そろそろアイツが来る頃だ。
「飯食わせて」
ホラ来た。
あたしがドアを開けるとグッタリした様子の彰クンが壁に片手をついてうなだれていた。
ソッコー断ってやろうと思ったんだけど少し気になって「どうしたの?」と聞いてみる。
「もぉ…もいっちゃん勘弁して…」
もいっちゃんとは彰クンとこの監督らしい。
予選落ちしたのが悔しかったのだろう、やたら元気にシゴキまわすのはうちの監督と同じだ。
思わず「分かるよ語り合おうか」と言いそうになったのをグッと抑えた。
「悪いけど彰クン…」
「あたしは彰クンにご飯を作ってあげられない人になりました」と言うと彰クンは「えー」と情けない顔をした。
「どして?」
「彼氏出来たの」
ちょっと反応を期待したけれど、彰クンは「そりゃおめでと」と少しも引っ掛からない様子。
そりゃそうよね、カッワイい彼女が居るんだから、とちょっとおもしろくないあたし。
でもあたしだって一応だけどカッコイイ彼氏居るんだもん。
「だからあたしの部屋には立ち入り禁止」
「じゃ俺の部屋で作って」
アホウだ。
「出来る訳無いでしょ」
「へー」と彰クンは唇の端を吊り上げた。
「お前、変な所で古風なんだな」
…何ですと…?
「俺、まだ男として意識されてんだ」
オイ…
「じゃなくって」
こないだのキスを思い出して少し頬が引き攣るのを覚えたあたしは思わずムキになった。
「こーゆーのは気持ちの問題でしょ!?彰クンとは友達だけど、あたしは彼氏に後ろめたい事はしたくないの!」
彰クンはあたしをジッと見下ろした後に「オッケー分かった」とあっさりと納得してニコッと笑った。
案外期ハズレ…って何を期待したのよ、あたし。
「じゃ玉子一個チョーダイ」
そう言ってあたしの冷蔵庫から玉子をひとつ奪うと「彼氏と上手くやれよ」と踵を返した。
その大きな背中を見送りながらあたしは少し胸がキュッとなる。
終わったんだ。
これで彰クンとの事は全部終わったんだ。
だからあたしは新しい恋にきちんと向き合おう。
そう思った。
体育館から人気がなくなった頃、いつものようにあたし達は顔を合わせる。
昨日の今日だから少しはテレがあるかと思いきや神くんからそれは微塵も感じられない。
こーゆー性格は試合の時に有利だと思う。
だけどあんまり神くんがいつも通りだから、もしかしたら昨日の事は夢だったんじゃないかとさえ思えて来た。
願望故の妄想?
だったら末期だ、かなりヤバイ。
「どうしたの?」
チャリを押しながら神くんがあたしを覗き見た。
「ムツカシイ顔して」
チャンスは自分で…と言う言葉が頭を過ぎる。
「あのね神く…」
「テストが心配?とか?」
そーいや中間テストの物理難しかったよな、平均点もかなり低かったし…と神くん。
「たしかに物理も気になる所なんだけど…」
こないだ人に言えないような点数を取ったあたしだが、今は物理より気になる事がある。
急がなくっちゃ駅はもうすぐ。
だけどなんて言ったらいいんだろ。
また今度でもいいかな…と攻め気が弱気に変わる。
あぁこんなんだからあたしはダメなんだな。
監督にも攻め気を忘れるなって耳にタコが出来る位言われてるじゃない。
進路を塞ぐように飛び出したあたしに驚いて神くんが足を止めた。
「あたしと付き合ってください!」
段取りも何もかもすっとばしてしまった。
訳の分からない女だ、あたし。
かなりイタイ。
ほら見なよ。神くんの顔。
全部開いちゃってる。
「……え?」
眉毛が八の字になった神くんが困ったような顔をした。
ほらごらん。
誰だってビビるっつーの。
「あのね、あき…仙道君は何でもないの。同じ中学だっただけなの。」
神くんは益々眉尻を下げた。
「同じ中学って…」
「ホント、神奈川に進学したのは偶然で、あたし寮を出るまで会ったこともなかったの。…同郷だからつい応援しちゃっただけで…」
彼もあたしと同じように親元離れて頑張ってるから応援に熱が入りすぎちゃっただけなの、とあたしは精一杯の言い訳をした。
「…そうなの?」
「だってあたしは神くんが好きなんだもの」
言った、言っちゃった。
臆病なあたしは神くんが口を開く前に慌てて言葉を繋いだ。
「神くんが部活大切なの分かってる。あたしもバレー頑張りたいし…付き合うったって限界あるのはよく分かってる。あたし、そんなに沢山望むつもりないから…」
言いながら、そんなんじゃ神くんの今までの彼女と一緒じゃんって事に気付いた。
理解してるって、皆言ってくれるんだよ…と言ってた神くんを思い出す。
だけど、せっかくならこうやって二人で居る時間を大切にしたいなって、そう思うから。
好きな以上は少しでも神くんの特別になりたいから。
「…放課後限定の彼女ってアリかな?」
ハァ…?と神くん。
呆れてる、絶対変なヤツだと思われてる。
「だってだってね、最初からそのつもりならお互い期待しすぎないから結構続くと思わない?実質今と変わらないんだし、週末婚っていう言葉もあるし…」
うわぁ墓穴?
自分で何を言ってるのか分からなくなってきた。
「いや、やっぱナシ!意味分かんないよね!忘れて忘れて!」
神くんは少し首を傾げた。
「みょう寺さんって、ホントに面白いね」
褒められてないっ。
「…高校生活最後の彼女になるといいな」
神くんがポツリと零した言葉に驚いてあたしは彼を見た。
すると彼は飛び切りの笑顔を見せて言ったのだ。
「よろしくお願いします」
今度はあたしの顔が全部開く番。
「え?それは…?」
ニッコリ笑う神くんに、ジワリと喜びが込み上げて来る。
ウワーイ!
飛び上がりたくてジタバタするあたしを置いて神くんが歩き出した。
「ほら、行くよ」
慌ててそれを追い掛けるあたしはすごく幸せ。
「待って」
そう言ったあたしを振り返って神くんが手を差し出した。
これって…あれだよね?
少し戸惑いながらその手に触れようとしたら、ギュッと神くんの手があたしのそれを握った。
どこか今までとは違う手の温もりにあたしは顔まで温められる。
こんな最高なことってある?
あたしは今、世界中で一番幸せな人間だって真面目に思ってしまった。
しかしこうなった以上、あたしにはやらなくてはならないことがあった。
さぁ、週も半ば。
そろそろアイツが来る頃だ。
「飯食わせて」
ホラ来た。
あたしがドアを開けるとグッタリした様子の彰クンが壁に片手をついてうなだれていた。
ソッコー断ってやろうと思ったんだけど少し気になって「どうしたの?」と聞いてみる。
「もぉ…もいっちゃん勘弁して…」
もいっちゃんとは彰クンとこの監督らしい。
予選落ちしたのが悔しかったのだろう、やたら元気にシゴキまわすのはうちの監督と同じだ。
思わず「分かるよ語り合おうか」と言いそうになったのをグッと抑えた。
「悪いけど彰クン…」
「あたしは彰クンにご飯を作ってあげられない人になりました」と言うと彰クンは「えー」と情けない顔をした。
「どして?」
「彼氏出来たの」
ちょっと反応を期待したけれど、彰クンは「そりゃおめでと」と少しも引っ掛からない様子。
そりゃそうよね、カッワイい彼女が居るんだから、とちょっとおもしろくないあたし。
でもあたしだって一応だけどカッコイイ彼氏居るんだもん。
「だからあたしの部屋には立ち入り禁止」
「じゃ俺の部屋で作って」
アホウだ。
「出来る訳無いでしょ」
「へー」と彰クンは唇の端を吊り上げた。
「お前、変な所で古風なんだな」
…何ですと…?
「俺、まだ男として意識されてんだ」
オイ…
「じゃなくって」
こないだのキスを思い出して少し頬が引き攣るのを覚えたあたしは思わずムキになった。
「こーゆーのは気持ちの問題でしょ!?彰クンとは友達だけど、あたしは彼氏に後ろめたい事はしたくないの!」
彰クンはあたしをジッと見下ろした後に「オッケー分かった」とあっさりと納得してニコッと笑った。
案外期ハズレ…って何を期待したのよ、あたし。
「じゃ玉子一個チョーダイ」
そう言ってあたしの冷蔵庫から玉子をひとつ奪うと「彼氏と上手くやれよ」と踵を返した。
その大きな背中を見送りながらあたしは少し胸がキュッとなる。
終わったんだ。
これで彰クンとの事は全部終わったんだ。
だからあたしは新しい恋にきちんと向き合おう。
そう思った。