歩いて帰ろう
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一体あの告白は何だったんだろう。
付き合ってとかいう話じゃなかったし、それどころかナシって言われちゃったし、あたしの気持ちさえ聞かれなかった。
聞く必要もなかったのだろう。
だけどどうせなら、あたしにもイエス、ノーを言うチャンスが欲しかった。
歩いて帰ろう
あたしはどんな顔をして神くんに会えばいいのか分からずに悶々とした一日を過ごした。
極力サチコのクラスには近づかないようにした。
だけどHRが終わればいつもの部活に向かわなくてはならない。
あたしは平気な顔をして神くんと接する事が出来るのだろうか。
「居たッ!裏切り者ッ」
すっかり聞き慣れたその声は振り向かずとも誰かわかった。
ので、無視して体育館への道を急いだ。
「待て、このミーハー女。この俺がとっておきの情報を教えてやると言うのに」
あたしは足を止めてキヨタを振り返った。
「うっさいなもう!アンタのネタなんて期待してないのよ」
キヨタが腕を組んでニヤリと笑った。
「神さんの次は仙道か?図々しい程面食いだな」
「そりゃどうも。面食いだからアンタは圏外よ、安心してちょーだい」
その言葉がカンに障ったらしいキヨタが何やら喚き出した。
ストレス解消にもってこいの面白いヤツ。
「残念だったな裏切り者、仙道にはメチャメチャ可愛いい彼女が居るんだぜ。アンタなんか足元にも及ばないくらいスッッゲェ可愛いい彼女が。万が一にもアンタに可能性はない!」
そんなの2回も3回も聞きたくないのに余計な事を。
ザマミロと大口開けて笑う顔が憎ったらしいったらない。
コノヤロウこれ以上傷口に塩を塗るヤツにはお仕置きだ。
「……」
あたしが神妙な顔で俯くと、異変に気付いたキヨタが馬鹿笑いをやめる。
「…それ、ホント…?」
目指せ女優。
あたしは最高に哀れな顔でキヨタを見た。
ヤツはびっくりしてグッと口を真一文字に結ぶ。
「…彼女…いるの?そんなに可愛いい彼女、いるんだ…?」
「いや、あ、ま、確かに居るのはいるんだけど…」
焦れ焦れ。
「ウソ…っあたしマジ泣きしそう」と目を伏せたらキヨタが慌て出した。
こいつウケる。
「…あ、だけど、こう…この角度で見た顔は…なんとなく仙道の彼女に似てなく…もない…ッス」
.ヤツなりに精一杯の慰めを言ったつもりなのだろう。
いきなり敬語になってるし、こーゆーとこは憎めない。
「いーよ、そんな慰め…」
「いや嘘じゃねぇし。アンタそんなに悪い顔じゃねぇし…まぁ…仙道は無理だけど…え~、カワイイ方なんじゃね?」
おぉそこまで言ってくれるか、多少引っ掛かるところはあったが。
「カワイイ…?」
「う、ウン」
すっかり気分をよくしたあたしは顔をあげてニッと笑った。
「仕方ないな、ジュース奢ったげよっか」
キヨタは驚いた後にムスッとふて腐れた顔をした。
「…キタネェ」
「オホホ…カワイイんだからいーじゃん」
「あんなの嘘に決まってんだろ!」
憤慨するキヨタにまぁまぁとジュースを買ってやる。
「あのねキヨ」
「あ?」
「これはあたしの友達の話なんだけど…」と前置きして、あたしは誰にも相談出来なかった事を聞いてみた。
「好きな人にね、好きって言うタイミングを逃したらどうしたらいいんだろ?告白されらしいんだけど付き合ってとも言われなかったんだって。彼は彼女に他に好きな人が居るって思ってるみたいで。じゃあなんで告白なんてしたんだろうね?」
.
「そりゃ男のケジメみたいなもんなんじゃねぇの?」とキヨタは言った。
「ズルズル行くのが嫌だったんだろ?ダメもとで告ってスッキリしたら次に進めるじゃん」
「え?次にって…」
「新しい恋が出来るじゃんってコト」
それは神くんが他の誰かを好きになっちゃうって事?
「だけど彼は部活が忙しいって…」
キリッとした眉毛のキヨタが真面目な顔であたしを見た。
「そんなの言い訳じゃねぇか。もしくは自分が悪者になりたくないから伏線張ってんだよ。それって恋愛する気があるかないかの問題じゃねぇの?告ってきたってことは少なからずそーゆー気があったんだよ」
あたし感心してしまった。
コイツ変な所で大人だ。
「…師匠」
「誰が師匠だ」
キヨタは眉を吊り上げた。
「だいたいな、タイミング云々っつーのは自分で作るもんなの!逃したらまた作りゃいいんだよ。チャンスは自分で作るもんだろ?アンタ、バレーの試合でチャンスが来るのをジッと待ってプレーしてんのかよ」
つってその友達に言っとけ、とヤツは息巻いた。
「アンタ男らしいね」と感心するあたしに「なんつったって間違いなく俺は男だからな」と意味の分からない解答。
「面白いヤツ」と言ったら拗ねたような顔をした。
「それとアンタ」
「ん?」
「俺の名前を略すなら『キヨ』じゃなくて『ノブ』だ。まったく恐ろしいほどセンスがねぇな」
アンタにセンス云々言われたかないわよ!と怒鳴り出したあたしの隣でキヨタが時計を見た。
「やべっ!部活遅れんぞオイ」
あたし達は慌てて体育館に走り込んだ。
だけど今日、キヨタのお陰であたしはひとつの決心が出来た。
今逃げたら中学の時の二の舞になる。
あたしもケジメをつけよう。
別に付き合うって事にならなくてもいいじゃない。
バレーだってそう。
あたしが今できる精一杯の事をやらなくっちゃ駄目なんだって、そう思ったんだ。