歩いて帰ろう
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「ジャンクな夕飯ご馳走様」
「揚げ物は簡単で豪華に見えるの。何か問題でも?」
「いーや、ナルホドご馳走だったなぁと思って」
そう言いながらも綺麗に平らげてくれるんだから憎めないヤツ。
「んもう、全然元気じゃない。心配して損した」
「心配?俺を?」
彰クンは首を傾げた。
「いーの、こっちの話だから」
「…あぁ、そーゆー事」
彰クンがテーブルに両肘をついてあたしの顔をしげしげと眺めた。
「神に聞いたの?今日の試合結果」
あたしは口を尖らせた。
「…見に行ったのよ」
「あぁ海南の試合を見るついでか」
「陵南の試合を見に行ったの!」
「お、そりゃどーも」
彰クンは片手に顎を乗せて笑った。
「ホントだからね!午前中はウチのチームも試合だったんだから」と言ったけれど彰クンは唇の端を僅かに吊り上げるだけ。
「で、俺が落ち込んでると思ったのか。優しいんだな」
あたしは答えに困った。同情とかそんなつもりはないから。
「そんなんじゃないけどさ…えーっとアイスあるけど食べる?」
「神とつきあってんの?」
待っていた返事とは別物の話題に驚いて、あたしは大げさに肩を震わせた。
「あたしアイス食べるかって聞いたんだけど…」
ってかどうして今更思い出したようにそんな話題。
「…つきあってるように見えた?」
少し期待しながらそう聞いてみる。
「見えなくもなかったけど、その割にはお前、色気ねぇなぁと思って」
「今何と?」
聞き捨てならぬ言葉だったぞ?
「男のいる女といない女ってなんか雰囲気が違うんだよ、ワカル?」
「わかんない」
「フェロモンが違う。お前、足は太いし色気はねぇし、何で神が一緒にいるのか…」
「足の太さと色気は関係ないでしょっ!」
あたしの太腿が太いのはバレーを頑張ってる証なのよと憤慨するあたしを見て彰クンは楽しそうに笑った。
「だからアイス食うのはよせって」
「すんごいムカつくんだけど」
あんまり悔しいから言ってやった。
「もしかしたら神くんと付き合ってたりして」
彰クンが驚いたように目を丸くした。
「マジで?」
「さーね、けど優しいんだ彼」
ザマミロ。
何さ自分だけ青春を謳歌してるような顔して。
「あたしにだって色々あるもん」
「じゃ、神に直接聞いてみるか」
「え!?マジで!?」
あたしは飛び上がった。
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え!?そんなツテあんの!?
「うんマジで」
「嘘っ!止めて!嘘だからっ!」
やだやだ神くんにそんな話されたらあたし死んじゃう。
「嘘?」
「うん嘘、あたし見栄を張りました!ゴメンナサイ!」
あたしがガバリと床に頭を擦りつけると彰クンの笑う声が聞こえた。
「俺も嘘。神の携帯なんて知らねーし、多分選抜までもう会わねーし」
やられたーっ!
「もう!マジでムカつく!」
あたしは座ったまま片足を伸ばして彰クンにケリを入れてやった。
「変な虫がつかないように見張ってんの、おばさんに頼まれてるから」
「嘘っ」
はっはっはと彰クンが笑う。
「何よ!感じ悪っ!」
あたしは頬を膨らませた。
「同級なんだから子供扱いしないでよね!親が恐くて恋愛できるかっつーの、大体あたしは彰クンの妹でも何でもないんだからあたしが誰と付き合おうと彰クンには関係ないでしょっ」
「………」
急に彰クンが黙ってしまったから、あたしは背けていた視線をゆっくり彰クンに戻した。
「妹にキスする趣味ねーんだけどな」
そう言って僅かに唇の端をあげ、ドキリとするような視線を寄越す。
その視線に飲み込まれそうになったあたしは声を絞り出しそれを振り払っった。
「はっ?何?」
「忘れちまった?」
彰クンは少し寂しそうに笑う。
グルンと回った頭の中にあの日の記憶が再び蘇ろうとしていたからあたしは慌ててそれを打ち消した。
「訳わかんない」
ホントは分かってたけれど分からないフリをした。
昔の恋を思い出したらきっと彰クンの顔が見れなくなってしまう。
彰クンは独り言のように「…ここ2日ばかり最高にツイてねぇな…」と苦笑いした。
「勝負は時の運…か」
あたしはよくわかんなかったけれど「そう言うよね」と相槌を打った。
てっきりバスケの話だと思った。
いや実際そうだったんだと思う。
「なま恵」
「ん?」
同時に引かれた腕に体ごと捕われる。
「充電」
そう言って彰クンはギュウとあたしを抱きしめた。
「あき…」
突然の出来事に頭が真っ白になって、「5分だけ…」と言われたらその腕を振りほどく事なんて出来なくて…。
今、あたしはきっと彼女の代わりなんだと思った。
彰クンが今日一緒に居たかったのはやっぱり彼女だったんだ。
彰クンを甘えさせてあげたかったのかどさくさに紛れて彼女のフリをしてみたかったのかは分からないけれど、あたしはフリーズした体の力を少し抜いて彰クンの肩に自分の頬を預けてみた。
戸惑いがちに両手を彰クンの背中にまわす。
ドキドキを通り越してなんか凄く安心すると言うか幸せと言うか…
あぁいいなぁ…
皆、彼氏欲しがるわけだよ。
「…お前ってよくわかんねぇ…」
ポツリと零れた彰クンの言葉に驚いて顔をあげた。
「あんときゃあんなに拒絶したくせに」
至近距離で見た彰クンの顔は笑ってなくて
「なんで今日は拒否らねーんだよ」
そう言って微かに眉間に皺をよせるからあたしはポカンと口を開けた。
「は…?」
「ハ?、じゃねーだろ」
「はぁ……」
マジで何が何だかサッパリ分からない。
「忘れたとは言わせねぇ」
「あ、胸…?」
あたしは数週間前の朝の出来事をようやく思い出して「あれはね…」と正論で捩伏せようとしたのだけれど。
「あん時お前は俺を突き飛ばして「馬鹿」だの「サイテー」だの散々暴言を吐いた揚句居留守使ったくせに」
あたしの頭の中が物凄い勢いで記憶を辿り寄せた。
あの、冬休みの記憶を。
え?え?突き飛ばして…暴言を吐いて…?あたしが…?
「だってあれは…」
そうだ、思い出した。
あの時あたしはびっくりしてパニックになって飛んで逃げて…そして慌てて家まで追いかけて来た彰クンに合わせる顔がなくて居留守を…
使った!
「………」
あたしは呆然と彰クンを見詰めた。
そうだ、それを彰クンがフラれたと捉えたって不自然な事ではなくて、それなら冬休みが終わってすぐに違う女の子と付き合い出したって不義理ではない。
学校がない冬休みという期間はあたし達に微妙な距離を作るのに十分だった。
じゃああたしは…
自分のしたことを綺麗に忘れて、彰クンを悪者にすることで臆病な自分を正当化しようとしてたんだ。
「それなら一生俺の前で隙なんて見せるなよ。背中に手ぇ回されたりしたらその気になるだろ」
「…ごめっ」
あたしは急いで彰クンから身を退こうとしたけれど、彰クンの手があたしを離してはくれなくて。
「遅い」
そう言って重ねられた唇に体が震えた。
真っ白。
頭の中が…
今何が起こっているのか分からない程真っ白になった。
一瞬離れた唇が再び押し付けられてもあたしは抵抗出来なくて…それは何が何だかわからなくなっていたからなのか、それとも今更ながらの後悔の念があの日を取り戻そうとしていたからなのだろうか。
終わった恋だと、そう思っていたのに。
オレやった…(管理人心の呟き)
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