歩いて帰ろう
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その日、体育館のフロアから出ようとしたあたしに神くんが言った。
「今日はしてくれないの?」
そう言って手を出されたからあたしは「あぁ…」と少し戸惑う。
明日は試合の日だ。
実は彰クンにも負けてほしくないな、なんて思ってたりして。
だってバスケの為に親元を離れるってそれは、彼のバスケに対する情熱が並々ならぬものだからだってあたしは思うんだ。
だから彰クンの学校にも頑張って欲しい。
「どうかした?」
「ん?ううん」
あたしは慌てて神くんの手を取った。
何回やっても、女の子のそれとは違う大きな手にドキドキしてしまう。
「シュートが沢山入りますように」
そして手を三回振ると神くんはニッコリ笑った。
「サッチーが見に行くって言ってたから一緒に来てくれるんでしょ?」
「うん、終わったらソッコー駆け付けるから」
心なしか神くんが嬉しそうな顔をした。
「今度勝ったら決まりなんだ」って言うから今度の試合も自信があるんだろうな。
「ウチは今度負けたら決まりだよ」
あたしは両手を上げてお手上げの仕草をしてみせた。
「あぁそっか…こないだの俺のオマジナイは効かなかったみたいだから…」
あぁ首絞めたやつ。
「今日はちゃんとやってもいい?」
あたしは驚いて神くんの顔を見上げた。
「え?」
ちゃんとって、何?
「なんてね」
神くんが微笑んだその時、体育館の廊下をバタバタと走る音が聞こえてあたし達は思わず戸口を振り返った。
「あれ?神さん、まだ居たんスか?」
ゲッ、キヨタ…
「うわっ!お前何で居んの!?」
ヤツはあたしの顔を見て大袈裟に驚く。
ま、確かにあり得ない組み合わせではあるけど、お前こそ何で居るんだよ。
「え?神さん、まさか…」
キヨタが「エーっ!」と叫ぶ。
「違うよ」
神くんが困ったように笑った。
「彼女は俺になんて興味ないんだ」
え~その言い方語弊があると思うんだけど。
興味ないのは神くんでしょ。
だけどこれは上手く線引きしたつもりなのかもしれない。
どんなに親しくなれたって、所詮あたし達はただの友達なんだ、って。
分かってたけどチクリと胸が痛んだ。
やっぱり彰クンが心配するような事にはならない。
「ですよね!んな訳ないっすよね。この俺としたことが…」
あーヨカッタと心から安心したご様子のキヨタ。
苛々マックス、殺すリスト最上位確定、っと。
「だけど神さん、女子と二人きりで居ると変な噂が立ちますよ。俺、こないだ神さんのファンの女に聞かれたんスから。神さんが背の高い女の子と二人で帰ってるのを見たけど彼女なのかって。」
そして「まさかお前じゃねーだろーな」とあたしを睨む。
キヨタには悪いけど、それは間違いなくあたしだと思う。
「そうなの?じゃ、面倒だから彼女だって言っといて」
あたしとキヨタはほぼ同時に声をあげた。
「何でそんなに適当なんスかー!?」
「そーよ!濡れ衣で神くんのファンの嫉妬を買うのはゴメンよー!」
そこで「ん?何でアンタが?」と首を傾げたキヨタとバッチリ目が合った。
「え、じゃあ噂を本当にしちゃう?」
神くんの言葉にあたしは驚いて息を飲んだ。
「ね、みょう寺さん」
あたしが目を丸くして神くんを見ると彼は普通に笑顔を返してくる。
ナニソレ?
え?それって、あたしと付き合ってもいいよって、暗にそう言ってるんだよね?
「神さん!冗談でもそれは有り得ねーッ!」
ダアアとキヨタが頭を掻きむしるから、あたしも甘い言葉から現実に引き戻された。
よく考えたらこの状況、真面目な告白のシュチュエーションからは程遠い。
男女の垣根もなくなったスポーツマン同士が他愛もない冗談を言っている、ただそれだけの事なんだ。
「もー神くん、そーゆー冗談やめてよ~!あたし反応に困っちゃうじゃんっ」
もう、すぐそうやってからかうんだから。
人の気も知らないで。
キヨタが激しく頷いていた。
今日は気が合うぞルーキー。
歩いて帰ろう
また負けました、ウチのチーム。
今年はIHを逃した上に4位止まりかもしれないとチームの雰囲気も暗い。次のゲームには何とか勝って3位入賞したいところ。
試合後の暗いチームを抜け出して、あたしとサチコは急いでバスケの試合会場に向かった。
ちょっと良心は痛むけど、でもこの試合はどうしても見たいんだもの。
試合会場は人で一杯だった。
どうやら立見になりそうだ。
あたし達は見やすい場所を探して、始まったばかりの試合に目を向けた。
やっぱユニフォームを着ているといつもと雰囲気が違ってカッコイイ、なんてニヤケてみたりなんかして。
…キヨタがスタメンである事にムカついてみたりして。
試合は陵南リードで前半を終了した。
彰クンのプレイを見るのは3年ぶりになるけれど、3年も経つと随分とプレースタイルが変わるもんなんだと思った。
昔はガンガンシュートを決めに行くタイプだったから何だか物足りない。
それはあたしがバスケを理解できてないからなんだろうけど。
「あ~!頑張れよバスケ部!バスケ部まで負けたら今日眠れなーい!」
隣のサチコが嘆く。
ごもっとも。
後半が始まってからも陵南の優勢が続いた。
キヨタのダンクが決まるまでは。
それには流石のあたしもサチコも驚いてしまった。
おいおい一年だろ?
そこから海南の怒涛の追い上げが始まりサチコは大はしゃぎ。
「いやー!神くんサイコー!」
シュートを決めた神くんがビッと片手をあげたら会場が沸くのと一緒にあたしの胸も沸点に達する。
あたし達はハイタッチをして喜び合ったけれど、あたしの応援はここで終わってしまった。
陵南の選手が退場になって彰クンのチームが不利になってしまうと、あたしはどうしても海南を応援出来なくて…。
終盤に見せた彰クンと牧さんの点の取り合いでは、会場の皆がそうだったようにあたしも握りしめた掌に汗をかくほど夢中になった。
.そして確かに、あたしは彰クンに心を奪われていたのだ。
中学生の頃のように、あたしの目は彰クンを追いかけ、あたしの心は彰クンに時めいていた。
いつの間にか隣のサチコから落胆の声を漏らす度に小さくガッツポーズをし、サチコが歓喜の声を上げるとため息を漏らしている自分。
そして試合終了の笛が鳴るギリギリに彰クンと牧さんが見せたプレーで会場がワッと沸いた時、周りの声に合わせてあたしも叫んでいた。
陵南の7番の名前を。
その時のサチコの顔と言ったら…。
試合は延長になったけれど、勝ったのは海南だった。
「コラ、非校民!だぁれの応援してんのっ!?センドー?ま、確かにあれは男前だったけど。」
あたしはサチコに怒られながら、その足で学校へ向かった。
体育館では何人かのバレー部員が自主練をしていたから、やはり今日の試合が堪えたのだろうと思う。
あたしとサチコもそれを見たら参加せずにはいられない。
明日も試合だから、皆は5時前に練習を切り上げた。
「今日はしてくれないの?」
そう言って手を出されたからあたしは「あぁ…」と少し戸惑う。
明日は試合の日だ。
実は彰クンにも負けてほしくないな、なんて思ってたりして。
だってバスケの為に親元を離れるってそれは、彼のバスケに対する情熱が並々ならぬものだからだってあたしは思うんだ。
だから彰クンの学校にも頑張って欲しい。
「どうかした?」
「ん?ううん」
あたしは慌てて神くんの手を取った。
何回やっても、女の子のそれとは違う大きな手にドキドキしてしまう。
「シュートが沢山入りますように」
そして手を三回振ると神くんはニッコリ笑った。
「サッチーが見に行くって言ってたから一緒に来てくれるんでしょ?」
「うん、終わったらソッコー駆け付けるから」
心なしか神くんが嬉しそうな顔をした。
「今度勝ったら決まりなんだ」って言うから今度の試合も自信があるんだろうな。
「ウチは今度負けたら決まりだよ」
あたしは両手を上げてお手上げの仕草をしてみせた。
「あぁそっか…こないだの俺のオマジナイは効かなかったみたいだから…」
あぁ首絞めたやつ。
「今日はちゃんとやってもいい?」
あたしは驚いて神くんの顔を見上げた。
「え?」
ちゃんとって、何?
「なんてね」
神くんが微笑んだその時、体育館の廊下をバタバタと走る音が聞こえてあたし達は思わず戸口を振り返った。
「あれ?神さん、まだ居たんスか?」
ゲッ、キヨタ…
「うわっ!お前何で居んの!?」
ヤツはあたしの顔を見て大袈裟に驚く。
ま、確かにあり得ない組み合わせではあるけど、お前こそ何で居るんだよ。
「え?神さん、まさか…」
キヨタが「エーっ!」と叫ぶ。
「違うよ」
神くんが困ったように笑った。
「彼女は俺になんて興味ないんだ」
え~その言い方語弊があると思うんだけど。
興味ないのは神くんでしょ。
だけどこれは上手く線引きしたつもりなのかもしれない。
どんなに親しくなれたって、所詮あたし達はただの友達なんだ、って。
分かってたけどチクリと胸が痛んだ。
やっぱり彰クンが心配するような事にはならない。
「ですよね!んな訳ないっすよね。この俺としたことが…」
あーヨカッタと心から安心したご様子のキヨタ。
苛々マックス、殺すリスト最上位確定、っと。
「だけど神さん、女子と二人きりで居ると変な噂が立ちますよ。俺、こないだ神さんのファンの女に聞かれたんスから。神さんが背の高い女の子と二人で帰ってるのを見たけど彼女なのかって。」
そして「まさかお前じゃねーだろーな」とあたしを睨む。
キヨタには悪いけど、それは間違いなくあたしだと思う。
「そうなの?じゃ、面倒だから彼女だって言っといて」
あたしとキヨタはほぼ同時に声をあげた。
「何でそんなに適当なんスかー!?」
「そーよ!濡れ衣で神くんのファンの嫉妬を買うのはゴメンよー!」
そこで「ん?何でアンタが?」と首を傾げたキヨタとバッチリ目が合った。
「え、じゃあ噂を本当にしちゃう?」
神くんの言葉にあたしは驚いて息を飲んだ。
「ね、みょう寺さん」
あたしが目を丸くして神くんを見ると彼は普通に笑顔を返してくる。
ナニソレ?
え?それって、あたしと付き合ってもいいよって、暗にそう言ってるんだよね?
「神さん!冗談でもそれは有り得ねーッ!」
ダアアとキヨタが頭を掻きむしるから、あたしも甘い言葉から現実に引き戻された。
よく考えたらこの状況、真面目な告白のシュチュエーションからは程遠い。
男女の垣根もなくなったスポーツマン同士が他愛もない冗談を言っている、ただそれだけの事なんだ。
「もー神くん、そーゆー冗談やめてよ~!あたし反応に困っちゃうじゃんっ」
もう、すぐそうやってからかうんだから。
人の気も知らないで。
キヨタが激しく頷いていた。
今日は気が合うぞルーキー。
歩いて帰ろう
また負けました、ウチのチーム。
今年はIHを逃した上に4位止まりかもしれないとチームの雰囲気も暗い。次のゲームには何とか勝って3位入賞したいところ。
試合後の暗いチームを抜け出して、あたしとサチコは急いでバスケの試合会場に向かった。
ちょっと良心は痛むけど、でもこの試合はどうしても見たいんだもの。
試合会場は人で一杯だった。
どうやら立見になりそうだ。
あたし達は見やすい場所を探して、始まったばかりの試合に目を向けた。
やっぱユニフォームを着ているといつもと雰囲気が違ってカッコイイ、なんてニヤケてみたりなんかして。
…キヨタがスタメンである事にムカついてみたりして。
試合は陵南リードで前半を終了した。
彰クンのプレイを見るのは3年ぶりになるけれど、3年も経つと随分とプレースタイルが変わるもんなんだと思った。
昔はガンガンシュートを決めに行くタイプだったから何だか物足りない。
それはあたしがバスケを理解できてないからなんだろうけど。
「あ~!頑張れよバスケ部!バスケ部まで負けたら今日眠れなーい!」
隣のサチコが嘆く。
ごもっとも。
後半が始まってからも陵南の優勢が続いた。
キヨタのダンクが決まるまでは。
それには流石のあたしもサチコも驚いてしまった。
おいおい一年だろ?
そこから海南の怒涛の追い上げが始まりサチコは大はしゃぎ。
「いやー!神くんサイコー!」
シュートを決めた神くんがビッと片手をあげたら会場が沸くのと一緒にあたしの胸も沸点に達する。
あたし達はハイタッチをして喜び合ったけれど、あたしの応援はここで終わってしまった。
陵南の選手が退場になって彰クンのチームが不利になってしまうと、あたしはどうしても海南を応援出来なくて…。
終盤に見せた彰クンと牧さんの点の取り合いでは、会場の皆がそうだったようにあたしも握りしめた掌に汗をかくほど夢中になった。
.そして確かに、あたしは彰クンに心を奪われていたのだ。
中学生の頃のように、あたしの目は彰クンを追いかけ、あたしの心は彰クンに時めいていた。
いつの間にか隣のサチコから落胆の声を漏らす度に小さくガッツポーズをし、サチコが歓喜の声を上げるとため息を漏らしている自分。
そして試合終了の笛が鳴るギリギリに彰クンと牧さんが見せたプレーで会場がワッと沸いた時、周りの声に合わせてあたしも叫んでいた。
陵南の7番の名前を。
その時のサチコの顔と言ったら…。
試合は延長になったけれど、勝ったのは海南だった。
「コラ、非校民!だぁれの応援してんのっ!?センドー?ま、確かにあれは男前だったけど。」
あたしはサチコに怒られながら、その足で学校へ向かった。
体育館では何人かのバレー部員が自主練をしていたから、やはり今日の試合が堪えたのだろうと思う。
あたしとサチコもそれを見たら参加せずにはいられない。
明日も試合だから、皆は5時前に練習を切り上げた。