歩いて帰ろう
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帰ってからもさっきの神くんの態度が気になって仕方がなかった。
もし何か悪いことをしていたのなら早く謝ったほうがいいと電話をする決意を固める。
神くんから電話番号は教えてもらっていたけれど実際かけるのはこれが初めて。
電話って言うのは相手の表情がみえないからすごく怖いんだけど、神くんは一緒に居ても何を考えているのか分かりづらいから条件は変わらない。
ディスプレイに浮かぶ文字をしばらく見つめてから覚悟を決めてエイと発信ボタンを押す。
うわ~どうしよう
すんごいドキドキするんだけど。
『はい?』
「あ、あたし、みょう寺です」
『どうしたの?』
初めて聞く電話越しの声に頭の中に白く靄がかかる。
「あの…今日、帰り際…ちょっと気になって」
『何が?』
ええええー
何がって、何がって…
「あの、あたしの思い過ごしならいいんだけど、何か神くんを怒らせちゃったかなって…」
『俺?何で?別に怒ってないけど』
うわ~あたし何で電話なんかしたんだろうと後悔し始める。
「あ、あ、じゃあいいの。あたしの気のせいだね。ごめんね変な電話しちゃって。明日頑張って」
.あたしは恥ずかしくなって慌てて電話を切ろうとした。
『みょう寺さん』
「はい?」
あたしは離しかけた携帯をもう一度耳に押し当てた。
『みょう寺さんって面白いね。』
あーそう…?
歩いて帰ろう
女子バレーの試合はフルセットの末ウチのチームが負けた。
勝てない相手ではなかっただけに遠のくIH。
今年もベスト4止まりか。
明日の練習はやたらしごきまわされるだろうと憂鬱な気持ちで日課となった体育館へ向かった。
「負けたんだって?」
いつものように自主練の後合流した神くんの第一声はそれだった。
いつも通り、変わった様子はないからそれを見て安心した。
「そうなのよ悔しー!バスケ部はどうだった?」
神くんはニッコリ笑ってブイサインをする。
聞くまでもないか。
だけどあたしが「おおー」と言ってハイタッチのポーズをとると神くんもそれに応えてくれた。
「接戦だったんだけどね。オマジナイが効いたみたいだよ、すごくシュートが決まった。」
それは間違いなく神くんの毎日の努力の成果なのだけれど、そう言ってもらえるのは嬉しい。
「じゃあ次の試合の時もやってあげる」
次の試合が彰クンの学校だって知っていたら、あたしは多分こんなことは言わなかったんじゃないかと思う。
自主練を終えたあたしは、体育館の出入口で片足を上げて靴を履こうとしてバランスを崩しそうになった。
神くんが手を出してくれたけど「大丈夫」と言って扉に手をつく。
「みょう寺さんってさ、隙だらけなようで隙がないよね。」
「はい?」
突然言われた言葉にあたしは目を丸くした。
「それ、計算?」
「計算?あたしが?どこが?」
あたしなんか狡い事してる?
「ま、そんなタイプじゃないか…」
そう言って神くんは眉尻を下げた。
「え~?あたし、どーゆータイプ?」
神くんはそれには答えずに「さぁ行くよ」とあたしを促したから、また何となくうやむやになってしまった。
週の中頃になると彰クンがフラリとやって来る。
先週は水曜日、今日は木曜日。
週の中盤って色々ダレてきちゃうから彰クンの気持ちは分からないでもない。
来るなら週末の方が時間に余裕があるから有り難いんだけど、週末を選ばないのは彼女の為なんだろう。
いいなぁ。
「今日飯食わせて」
彰クンは部活帰りにあたしの部屋の扉を叩きそう言い残して自分の部屋に帰っていく。
そしてしばらくしてからシャワーや着替えを済ませてもう一度ウチにやってくるシステム。
一気に沢山の食材を食べれるメニューが好きなあたしのレパートリーは少なく、たいしたものは作れないんだけれど彰クンは綺麗に平らげてくれる。
これが彼氏だったらポイントは高い。
「明後日の試合、海南と」
「えっ?そうなの?」
お皿を下げながらあたしは驚いて彰クンを振り返った。
「うわっマジで見に行きたいんだけど何時から?」
「んー、第二試合だから正午から」
「ラッキー!」
あたしはガッツポーズした。こちとら試合は午前中だ。
「応援に行こうっと」
彰クンが「どっちの?」って聞くから「あたしは海南の生徒だよ」と答えた。
「残念、愛校心強いんだな」
「もちろん」
その時は確かにそのつもりだったんだけど。
「そう言えばこないだね、あたしって隙だらけのようで隙がないねって言われたの。どーゆー意味か分かる?」
彰クンがいつになく真面目な顔であたしを見たからちょっとドギマギしてしまった。
「…なによ」
「それ、男に言われたの?」
「え?あぁ…まぁ…ウン…」
何で分かったんだろ。
「そーゆー事言うヤツには気をつけろよ」
あたし、びっくりしてしまった。
「何で?」
彰クンは手に持っていたコップをテーブルに置いて少し呆れたように息をついた。
「お前さぁ、変なとこで抜けてるんだよ。ほんとアブネーな」
だから下着盗まれるんだよなんて言われたら返す言葉がないけど、神くんは彰クンが思ってるような人じゃないと思う。
なんつったってバスケ一筋だし。
なんつったってあたしはキヨタと同格だし。
「お前、簡単に部屋に人を入れたりすんなよ」
また保護者みたいなこと言って、と少し拗ねた顔を作る。
「じゃ、彰クン出てって」
シッシッと追い払う仕種をしたら「いーの、俺は」と笑う。
あぁその笑顔ヤバイんだってば。
そんな「特別」って雰囲気出すのは狡いよ。
性懲りもなくキュンキュンしてしまう。
だってあたし達、こうやってたらまるで恋人同士みたいじゃない。
ホント、自分勝手なんだから。
だからあたしは、いつまで経っても彰クンから卒業出来ないんだよ。
「今度あたしの前で笑ったらこの部屋への立ち入りを禁止だからね」
「何だそりゃ」
彰クンが呆れたように口をあけた。