歩いて帰ろう
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『ただの幼なじみだって仙道くんは…』
だからあたしもその気持ちに応えようと努力した。
いつか彰クンに彼女が出来ても笑って友達でいよう。
それを壊したのは彰クンだった。
あの冬の日があたしのファーストキス。
驚いて恥ずかしくてあたしはどんな顔で接していいのかわからずに悩んでいたのに……
じゃあ、あれは何だったの…?
歩いて帰ろう
本日の試合、ウチのチームは快勝。
バスケ部も試合だったようだけど、時間が重なって見にいけなかった。
だけど自主練はやっておきたくて試合後に体育館へと足を運んだ。
今朝から取れない胸のもやもやをすっきりさせる方法が他に見つからなかったせいもあるかもしれない。
だって、寝ぼけていたとは言え無意識にあの行動。
つまりあれは普段そうやっているということで…
つまりは一人暮らしの彰クンの家に彼女が泊まりに来たりしてたりして、そしたらそうゆうことをシているとゆうことで。
胸の奥に感じる鈍い痛みともつかぬ何かは、嫉妬とか失望とかの入り交じったなんとも言えないものだった。
何だかすっごい嫌な気分。
彰クンはもう、あたしの知っている彰クンではないんだ。
そして沸々と怒りが沸いて来る。
何だ高校生のくせに。
不純異性交遊だ。
もっとプラトニックにいけよ。
つったって今や高校生がエッチしてたって珍しい事じゃない。
寧ろそのうちあたしの方が珍獣になりかねない。
ああ見えてサチコだって…。
いや、いいんだあたしは。
「部活こそがあたしの青春なんだから!」
スパイクのステップで跳び上がると、誰もいない体育館にはあたしが渾身の力で踏み込んだ音がやたら大きく響いた。
「スゲー、床抜けそう」
振り返ると入り口には神くんが立っている。
「試合の日でも自主練を忘れてないなんて偉い」
いつもタイミング悪いよな、この人。
絶対今の聞かれた。
「部活こそが青春?」
くくくっと笑う。
「さすが感心感心」
ムッとして口を尖らせると「いやマジで」と付け加えたが絶対嘘だ。
「みょう寺さんは鉄のパンツ履いてるんだろうね、きっと」
あたしは首を傾げた。
「鉄って…どんなパンツよ?」
今度こそ神くんは声をあげて笑い出したからあたしは意味も分からず恥ずかしくなった。
「あたし変な事言った?」
「いやいや全然!」
神くんは笑いながらあたしを見た。
「みょう寺さんってバレーばっかりやってきたんだろうな」
「え…?」
なんだかショックだった。
あたしってそんな風に見える?
垢抜けてないって事?
「他の子が色恋沙汰に夢中な時も、バレー一筋だったんだろうね」
「あー…」
思わず唸ってしまった。
中学時代に傷ついたあたしはもう恋なんてしないと頑なに思っていた時期があったかもしれない。
「鉄じゃないけど昨日パンツ盗まれた」
「え!?」
どうやら神くんはあたしが一人暮らししてるなんて事も知らなかったようで…そう言えばそんな話題になった事がない。
「そっか、部活から帰って家の事をやってたら自由な時間なんて全然ないんだろうね」
「そーなのよぅ。夜更かしなんてしたら体がもたないし」
神くんが「エライ」と言ってあたしの頭をくしゃりと撫でた。何だかラッキー。
そして「そうだ」と携帯を取り出す。
「俺の番号教えとくから困った時にかけてきなよ。少しは役に立てると思うから」
あたしは顔が曲がるほど驚いてしまった。
「いいの!?」
ってか番号教えてくれるの!?
.「ん、みょう寺さんのも教えて」
カミサマ~!
災い転じて福と成す。あたしは今日、世界で1番幸せな女だ。
結局神くんだって試合の後だっていうのに律儀にあたしの筋トレにも付き合ってくれた。
「決勝リーグは見に行きたいな。」
「バスケより自分のチームの応援に精を出しなよ」
ま、ごもっともなんですけど。
番号を教えてくれたにもかかわらず、相変わらず取り付く島のない人だ。
「神くんはあたしを部活一筋って言うけど、実際あたしなんかより神くんの方が部活の鬼だと思うな」
神くんは「そうかな?」と首を傾げた。
「だって今しか出来ないことってあるじゃん。バスケなんていつまでも続けられないだろ?せいぜい大学までかな」
「だけどさ…」
あたしは少し躊躇ってそれを言葉にしてみた。
「高校生の時にしか出来ない恋愛もあるんじゃないかな?」
神くんは大きな目を殊更見開いてあたしを見た。
「青春を部活に捧げてるみょう寺さんもそんな風に思うことがあるんだ?」
「あたしは結構乙女なんだよ。」と言ったら神くんは笑った。
「付き合っとけばよかったって思ってる?」
あたしは驚いて神くん見た。
「こないだ、告白されたヤツ…」
あぁ…
「あれはいいの。別に後悔してないから。」
「そ?じゃあ好きな人がいるとか?」
ギクっ…
「あたり?」
神くんはニッコリと笑って「意外」と付け加えた。
やっぱりこの人にとって、あたしは恋愛対象にはなりえないのだろう。
あたしは思い切って聞いてみた。
「神くんはさ…何で彼女をつくらないの?」
「彼女に悪いから」
サラリと彼が言った言葉の意味が解らなくてあたしはもう一度聞き返した。
「俺、俺の為に貴重な時間をつぶして欲しくないから、部活が終わるまで待っててもらったりするの嫌なんだよね。そしたらテスト期間中しか一緒に帰れないし、休みの日だってなかなか会えないし…悪いじゃん。理解してるって皆言ってくれるんだよ。だけど本心は隠せないから、だんだん上手くいかなくなっちゃうんだよね。相手も辛い、だけど俺も辛い。」
「あ~…」
いろんなことにすごく真っ直ぐな神くんに、あたしはかける言葉が見つからなかった。
「神くんのそういうとこ好きかも」
あたしが友情のフリで言った言葉を、彼はまっすぐ友情と受け取って「ありがと」と笑った。
だからあたしは少し切なくなった。
「俺も、みょう寺さんみたいに頑張ってる人好きだよ」
……えっ?
少しアンニュイになっていたあたしは突然のその台詞に我が耳を疑った。
エエエッ?
多分飛び出さんばかりに見開かれているであろう目で神くんを見れば彼は前を向いてどこかを見ている。
その台詞に、その横顔に、切なさ一転、胸がズッキュンと鳴った。
「あと信長とか。負けず嫌いなとこがイイな」
飛び上がったあたしの心臓はすぐに撃沈…
「神くんの中のあたしは、キヨタと同カテゴリーですか…」
「ん?」
あたしは、もう浮上できないかもってくらいの痛手を負った。
「…分かりやすいなぁ」
神くんが笑ったような気がした。
「え?」
あたしが神くんを見ると彼は「何でもない」と言って何時もの涼しい顔で前を向いた。