歩いて帰ろう
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散々迷って神奈川の高校への進学を決めたのは願書の締め切りギリギリになってからだった。
両親は反対したけれど、強い学校でバレーがしたいって説得した。
でも本当の理由は違うところにあった。
隣の住人から離れたかったのだ。
できればもうあいつの顔を見たくなかった。学校でも、家の周りでも。
あいつの家の前でウロウロしているファンと思しき女の子達にも苛立ちを覚えていた。
それは無事に希望校への進学を決め、慌ただしい春休みを過ごしていた時の事だった。
「お隣りも神奈川の高校へ行くんだって」
……は?
今、なんつった?
「あんたは寮に入るって言うけどさ、お隣りは学生用のマンション借りるんだって。」
母さんは嬉しそうに喋り続ける。
「あんたも寮に入って人間関係に気を使うより、一緒のマンション借りたら?」
意味が解らない。
じゃああたし、都内の高校に進学してもよかったんじゃん。
「あの子意外としっかりしてるし、やっぱり知ってる男の子が近くに居たらお母さんも安心だわ。女子寮より安心かもしれないわよ、そうしなさいよ。」
「嫌」
あたしは素っ気なく答えてテーブルの上の煎餅に手を伸ばす。
「いいじゃない、同じスポーツマン同士、色々支えになってくれるわよ。」
煩いな、と内心毒づきながら、でも神奈川つったって広いんだし…と思い直してみる。あいつに会う事はないはずだ、と。
「たまには母さんの言う事にも耳を貸しなさいよ。昔はあんなに仲良かったのに。」
「煩いな、もう」
昔は昔はって迷惑なんですけど。
あたしだって成長してんだからいつまでもお隣りの男の子と仲良しって訳にいかないわよ。
「ねぇ、あんた達なんで…」
「無理だって!」
母さんの言葉を遮ったのは刺々しいあたしの声。
「自宅から通えない子は一年生の間は絶対寮に入らなくっちゃいけないって言ってたでしょ!?」
母さんはようやく納得したようで、それでもしばらくブツブツ文句を言っていた。
それは、一年程前の話。
歩いて帰ろう
海南大附属高校女子バレーボール部。
あたしの所属する部。
中学校から始めたバレーボールを高校でも続けたくて、どうせなら強い学校でプレーがしたくてスポーツが有名なこの高校に入った。
あたしなりに一生懸命頑張った。
有名校のハードルは高かったけど頑張ればいつか結果は出るって。
けれどそんなに甘いもんじゃない。
体格的に恵まれていないあたし。
才能もないのかも。
2年生になってやっとベンチ入りを果たしたけれど、試合に出れたのは数えるほど。
どんどん追い付いてくる下級生に押し潰されそうな毎日。
だってあの子、スポーツ推薦で入ったんだから上手くて当たり前だよね。そのために海南にいるんだもの。
1年でレギュラーを取った後輩のコをそう言う人もいる。
成績が残せなかったら詐欺だよ。
表面上は仲間だって笑っているくせに、そんなチームメイトの嫉妬の色を垣間見た時、今まで溜まっていたものが一気に噴き出した。
寮で同室になった一年のコ(ウチの寮は一年と二年が相部屋になる)も何となく苦手だし、
辞めちゃおうかな…部活…。
そんな訳で最近のあたしは部活に力が入らなくなっていた。
その日も憂鬱な気持ちを払拭できないまま、それでもノロノロと体育館へと向かう。
体育館の入り口を潜ろうとした時だった。
突然背中に突き飛ばされるような鈍い痛みと力を感じ、前のめりに倒れそうになる。
「いってぇ~」
バランスを立て直して振り返ると、ボサボサの頭をした男があたしの後ろで尻餅をついているのが目に入った。
どうやら走って来てぶつかったようだ。
あんたどこに目ぇつけてんの?
あたしが迷惑そうな視線を送ると、猿みたいな顔をしているソイツは何事もなかったように再び走り出す。
「なんか言う事あるでしょっ!?」
思わずその後ろ姿に怒鳴ると、ソイツはあたしを振り返って「ノロノロ歩いてんじゃねぇ!」と怒鳴り返してきたのだ。
カッチーン
あれはバスケ部だ。
なんて礼儀知らず
腹立つぅ~
だいたいあたしはバスケ部の男って嫌い。
女の子にキャアキャア言われてるバスケの上手い男、大っ嫌い。
別に実家の隣の奴の事を言ってる訳じゃない。
とにかく嫌い。
ま、今の男はモテ顔じゃなかったけど、スポーツマンのくせに礼儀知らずなんてサイテー。
確かにウチの男子バスケ部は強いのかもしれない。それでも技術云々の前に教えることがあるはずだ。
あたしはいつも部活でそうするように片方の足首を掴んで踵をお尻に近づけるように引っ張った。
ちょっとした時に気になる膝の痛み。
これもやる気を削いでいる原因のひとつかも知れないと思う。
今度会ったら絶対文句言ってやるんだから。
その日あたしの男バス嫌いに拍車が掛かった。
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両親は反対したけれど、強い学校でバレーがしたいって説得した。
でも本当の理由は違うところにあった。
隣の住人から離れたかったのだ。
できればもうあいつの顔を見たくなかった。学校でも、家の周りでも。
あいつの家の前でウロウロしているファンと思しき女の子達にも苛立ちを覚えていた。
それは無事に希望校への進学を決め、慌ただしい春休みを過ごしていた時の事だった。
「お隣りも神奈川の高校へ行くんだって」
……は?
今、なんつった?
「あんたは寮に入るって言うけどさ、お隣りは学生用のマンション借りるんだって。」
母さんは嬉しそうに喋り続ける。
「あんたも寮に入って人間関係に気を使うより、一緒のマンション借りたら?」
意味が解らない。
じゃああたし、都内の高校に進学してもよかったんじゃん。
「あの子意外としっかりしてるし、やっぱり知ってる男の子が近くに居たらお母さんも安心だわ。女子寮より安心かもしれないわよ、そうしなさいよ。」
「嫌」
あたしは素っ気なく答えてテーブルの上の煎餅に手を伸ばす。
「いいじゃない、同じスポーツマン同士、色々支えになってくれるわよ。」
煩いな、と内心毒づきながら、でも神奈川つったって広いんだし…と思い直してみる。あいつに会う事はないはずだ、と。
「たまには母さんの言う事にも耳を貸しなさいよ。昔はあんなに仲良かったのに。」
「煩いな、もう」
昔は昔はって迷惑なんですけど。
あたしだって成長してんだからいつまでもお隣りの男の子と仲良しって訳にいかないわよ。
「ねぇ、あんた達なんで…」
「無理だって!」
母さんの言葉を遮ったのは刺々しいあたしの声。
「自宅から通えない子は一年生の間は絶対寮に入らなくっちゃいけないって言ってたでしょ!?」
母さんはようやく納得したようで、それでもしばらくブツブツ文句を言っていた。
それは、一年程前の話。
歩いて帰ろう
海南大附属高校女子バレーボール部。
あたしの所属する部。
中学校から始めたバレーボールを高校でも続けたくて、どうせなら強い学校でプレーがしたくてスポーツが有名なこの高校に入った。
あたしなりに一生懸命頑張った。
有名校のハードルは高かったけど頑張ればいつか結果は出るって。
けれどそんなに甘いもんじゃない。
体格的に恵まれていないあたし。
才能もないのかも。
2年生になってやっとベンチ入りを果たしたけれど、試合に出れたのは数えるほど。
どんどん追い付いてくる下級生に押し潰されそうな毎日。
だってあの子、スポーツ推薦で入ったんだから上手くて当たり前だよね。そのために海南にいるんだもの。
1年でレギュラーを取った後輩のコをそう言う人もいる。
成績が残せなかったら詐欺だよ。
表面上は仲間だって笑っているくせに、そんなチームメイトの嫉妬の色を垣間見た時、今まで溜まっていたものが一気に噴き出した。
寮で同室になった一年のコ(ウチの寮は一年と二年が相部屋になる)も何となく苦手だし、
辞めちゃおうかな…部活…。
そんな訳で最近のあたしは部活に力が入らなくなっていた。
その日も憂鬱な気持ちを払拭できないまま、それでもノロノロと体育館へと向かう。
体育館の入り口を潜ろうとした時だった。
突然背中に突き飛ばされるような鈍い痛みと力を感じ、前のめりに倒れそうになる。
「いってぇ~」
バランスを立て直して振り返ると、ボサボサの頭をした男があたしの後ろで尻餅をついているのが目に入った。
どうやら走って来てぶつかったようだ。
あんたどこに目ぇつけてんの?
あたしが迷惑そうな視線を送ると、猿みたいな顔をしているソイツは何事もなかったように再び走り出す。
「なんか言う事あるでしょっ!?」
思わずその後ろ姿に怒鳴ると、ソイツはあたしを振り返って「ノロノロ歩いてんじゃねぇ!」と怒鳴り返してきたのだ。
カッチーン
あれはバスケ部だ。
なんて礼儀知らず
腹立つぅ~
だいたいあたしはバスケ部の男って嫌い。
女の子にキャアキャア言われてるバスケの上手い男、大っ嫌い。
別に実家の隣の奴の事を言ってる訳じゃない。
とにかく嫌い。
ま、今の男はモテ顔じゃなかったけど、スポーツマンのくせに礼儀知らずなんてサイテー。
確かにウチの男子バスケ部は強いのかもしれない。それでも技術云々の前に教えることがあるはずだ。
あたしはいつも部活でそうするように片方の足首を掴んで踵をお尻に近づけるように引っ張った。
ちょっとした時に気になる膝の痛み。
これもやる気を削いでいる原因のひとつかも知れないと思う。
今度会ったら絶対文句言ってやるんだから。
その日あたしの男バス嫌いに拍車が掛かった。
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