第1章
夢小説設定
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あれからミカは頻繁にリヴァイの家に顔を出していた。
茶葉が湯の中でゆっくりと開いていく。
立ちのぼる香りは 深く、穏やかで、どこか懐かしい。
ミカは、湯呑みをそっと両手で包み込んだ。
地下の闇に溶けるような静けさ。
時折、遠くから響く喧騒さえ、今はまるで別世界のように感じる。
「……」
リヴァイも、無言のままゆっくりと茶を口に運んでいた。
ミカは、目の前の男をちらりと盗み見る。
こうして彼と向かい合う時間が、
なぜだか心を落ち着かせてくれる。
リヴァイが無駄なことをしないのは知っている。
それなのに、何度訪ねても追い返すことなく、
こうして茶を淹れ、見送ってくれる。
――どうしてかしら。
ミカは、ゆっくりと湯呑みを口に運んだ。
「行くぞ」
そう言って、リヴァイは 静かに立ち上がる。
ミカは 微笑みながら頷いた。
特に約束を交わしたわけではない。
けれど、リヴァイは いつもこうして送ってくれる。
「あなた、毎回送らなくてもいいのよ?」
「……余計なこと考えんな」
ミカは、ふっと 笑みを漏らす。
彼のそういう不器用な優しさが、
少しだけ愛おしいと思った。
リヴァイの歩幅に合わせながら、静かな夜道を並んで歩く。
地下の路地は暗く、道端には影が揺れる。
けれど、不思議と怖さはなかった。
隣にいるこの男の存在が、妙に安心感を与えてくれるからかもしれない。
こんなふうに過ごす夜が、あとどれくらい続くのだろう。
ミカは、ふとそんなことを考える。
この時間が当たり前になってしまったら、
いずれ、それが 失われるときが怖くなるのかもしれない。
でも――
「……何考えてやがる」
リヴァイの低い声が、静寂を破った。
ミカは、はっと顔を上げる。
「え?」
「さっきから妙に静かだ」
鋭い目が、じっとこちらを見ていた。
ミカは、思わず 小さく笑う。
「ちょっと、考え事をしていただけよ」
「くだらねぇこと考えてんじゃねぇのか」
「……さぁ?」
言葉を濁しながら、リヴァイの横顔を盗み見る。
相変わらず無表情のままだけれど、
その目はどこか こちらを気にかけているように見えた。
ミカは、ふと 心の奥が小さく疼くのを感じた。
やがて、ミカの家の前に辿り着く。
リヴァイは、そこで足を止め、
いつものように短く「行け」とだけ言った。
「……ありがとう」
ミカは 微笑んで家の扉を開ける。
けれど、その場を離れる前に、
もう一度 リヴァイの背中を振り返った。
闇に溶けるような黒いシルエット。
けれど、その存在だけは 強くそこにあると感じた。
「……」
心の奥が、また小さく疼いた。
この夜が、いつか終わってしまうのなら――
そのとき、自分は どう感じるのだろう。
そんなことを考えながら、
ミカは 静かに扉を閉じた。