第1章
夢小説設定
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地下で生きるなら、「頼れる場所」を持つことは、生存のための手段のひとつだ。
だが、そんなものを持てるのは よほど運がいい奴だけ。子供となれば尚更だ。
ミカは、ポケットに入れたままの 小さな紙片 をそっと指でなぞった。
数日前、リヴァイが無言で渡してきたものだ。
『何かあったら、ここへ来い』
それだけ書かれた、彼の住処を示すメモ。
「……本当に、不器用よね」
ミカは 小さく微笑む。
メモを渡されたとき、リヴァイは 目を逸らしながら、特に何の説明もなかった。
「礼を言うべき?」と冗談交じりに言ったら、「チッ、うるせぇ」と返されたっけ。
それからしばらくは、別に訪ねる理由なんてなかった。
けれど、今日は たまたま良いきっかけができた。
数年前に送り出した子供から、地上の茶葉が届いたのだ。
「……せっかくだし、持っていこうかしら」
ミカは 歩き出す。
緊急事態ではないけれど――
リヴァイに、この茶葉を分けるくらいは、許される気がした。
コン、コン――
子供たちを寝かしつけ、リヴァイの住処へ向かったミカ。
リヴァイは寝てはいないだろうかと思いながらも、控えめなノックの音を響かせた。
「あの、リヴァイ。いる?」
少し間をおいて、内部から 足音が近づく気配。
ドアが、ガッと勢いよく開かれる。
「……何があった」
リヴァイの 低く鋭い声。
当然だろう。
彼にとって、ミカがここを訪ねてくる理由は 「何かあった時」しかないはずだった。
だが――
「こんばんは、リヴァイ」
ミカはふっと微笑んでいた。
まるで何事もないかのように、穏やかな表情で立っている。
リヴァイは、一瞬 言葉を失った。
「……は?」
「お茶をいただいたの。地上の子から」
そう言って、小さな袋を差し出す。
リヴァイは、じっとそれを見下ろし、
次にミカの顔を見た。
「……お前、この為だけに来たのか?」
「そうだけど」
ミカは、少しだけ困ったように笑う。
「緊急事態じゃないと、来ちゃいけないの?」
リヴァイは安堵したのと同時に、少しの苛立ちを見せた。
「……チッ」
目を逸らし、ドアを開ける。
「……入れよ」
ミカは少し驚いたように瞬きをした。
「……いいの?」
「外で話されるのも面倒だ」
そう言って、リヴァイはぶっきらぼうに扉を開けたまま背を向ける。
ミカは、一瞬迷ったように彼を見たが、
ゆっくりと 中へ足を踏み入れた。
室内は、驚くほど 整然としていた。
無駄なものはほとんどなく、床には 塵ひとつ落ちていない。
家具も最低限で、すべてが 機能的に配置されている。
ミカは 軽く感心したように言った。
「……綺麗ね」
「お前のとことは違うからな」
リヴァイは ソファに座りながら無表情で言う。
ミカは小さく笑う。
「確かに、子供がいるとこんなに綺麗にはならないわね」
「ガキどもが暴れ回ってんだろ」
「まぁね。でも、それも賑やかでいいものよ」
リヴァイは何も言わなかった。
ミカは紙袋から茶葉の袋を取り出し、
リヴァイの前に置く。
「はい、これ」
リヴァイは、それをじっと見つめる。
「……地上のガキが?」
「そうよ」
ミカは微笑む。
「数年前に送り出した子。
貴族の家で働いてるらしいわ。
手紙と一緒に、これを送ってくれたの」
リヴァイは、袋を指で軽く押しながら、
ふっと息を吐いた。
「……で、わざわざ俺に持ってきたってか」
「せっかくだからね。貴族の間でしか出回らない相当希少な茶葉だと聞いているから、私ひとりで飲んだって勿体ないし。……それに子供たちにはまだ早いと思うし」
ミカは軽く肩をすくめながら、言い訳のように言葉を並べた。
「……ほう。俺に茶でも淹れろってか」
「……あなたが飲まないなら、私が飲むだけ」
ミカは普段の凛々しい顔つきから想像も出来ない、少し幼い、不貞腐れたような顔をした。
リヴァイは、一瞬 黙って彼女を見た。
そして、短く息を吐く。
「……くだらねぇ」
そう言いながら、急須を取り出す。
小さな鍋に水を注ぎ、火にかける。
茶葉を急須に入れ、湯をそそぐと、
ふわりと 心地よい香りが広がった。
「ほら、飲め」
リヴァイは、湯呑みをミカの前に置く。
「……ありがとう。なんか無理言って淹れさせちゃったね」
「今になって遠慮してんじゃねぇよ。早く飲め」
ミカは そっと湯呑みを口元へ運んだ。
「……美味しい」
リヴァイは 視線を落としながら、僅かに目を細める。
――地下の闇の中で、こんな静かな時間を過ごすなんてな。
そんなことを思いながら、
彼も椅子に掛け、ゆっくりと茶を含んだ。