第1章
夢小説設定
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地下街の夜は、相変わらず汚く、騒がしく、そして冷たい。
その中で、リヴァイは 特に目的もなく、いつものように裏通りを歩いていた。
地下に太陽はない。
だからこそ、人々は自分だけの光を求める。
だが、そんなものを手にできる奴はほんの一握りで、大抵の人間は 闇に飲まれて終わる。
――なのに、だ。
細い路地を曲がった瞬間、
リヴァイの目に、妙に場違いな光景 が飛び込んできた。
またミカだった。
目の前の壁に背を凭れさせた幼い子供に、
彼女は膝をつき、 目線を合わせながら静かに話しかけていた。
「ごめんね。怖かったでしょう?」
ミカの声は、静かで、優しかった。
リヴァイは、眉をひそめた。
こんな場所で何をしてやがる。
地下で情を持つのは、ただの愚か者だ。
「……」
そう思いながらも、なぜか足が止まる。
視線を少しだけ動かして、ミカの様子を観察する。
子供は、ひどく震えていた。
顔も体も汚れていて、髪も伸びっぱなし。
よく見れば、足には大きな傷があり、そこから膿みが出ているのが見えた。
もしこのまま放置しておいたら、脚を失うことも考えられる様子だった。
「……大丈夫よ。もう怖くないわ」
ミカは懐から小さな布を取り出し、傷を優しく拭った。
「ちょっとだけ痛いけど、すぐ終わるからね」
リヴァイは、無意識に苛立ちを募らせていた。
「……関係ねぇな」
そう思い、背を向けようとした。
だが、その瞬間――
「お姉ちゃん……どうして助けてくれるの?」
子供が、震える声で問いかけた。
ミカは、ほんの少しだけ表情を曇らせた。
だが、すぐに優しく微笑む。
「だって、あなたが泣いていたから」
リヴァイは、その言葉に足を止めた。
「……おい」
リヴァイは 無意識に声をかけていた。
ミカが驚いたように振り返る。
「あら、リヴァイ」
「何してやがる」
ミカは、子供を庇うように抱き上げて、静かに答えた。
「この子が、困っていたから」
「……お前、本気でそんなこと言ってんのか?」
ミカは、少しだけ 不思議そうな顔をした。
「本気じゃなかったら、こんなことしないわ」
リヴァイは、ふっと 鼻を鳴らす。
「……バカじゃねぇのか」
ミカは微笑んだ。
「そうね。よく言われるわ」
リヴァイは 何かを言いかけたが、やめた。
それから数日、リヴァイはなんとなくミカの家の前を通り、目で追うようになった。
子供たちに食事を分け、傷の手当てをし、
夜には見回りのように地下の通りを歩いている。
輩に絡まれそうな子供がいれば、すぐに駆け寄って声をかける。
そしてこれも意外な発見だが、ミカは戦闘技術にも優れていた。ミカの行動が気に食わず武力行使に出ようとする輩を、華奢な身体が関節技に持ち込み、幾度となく倒していた。
最初は「偽善」かと思っていた。
だが、どうもそうではないらしい。
ミカは、自分が損をすることも厭わずに動いていた。
「……気に食わねぇな」
リヴァイは、ぽつりと呟いた。
なぜか、ミカの行動が 引っかかって仕方なかった。
ある夜、リヴァイはミカが一人でベランダで佇んでいるのを見つけた。
子供たちが眠った後、
彼女は壁に背を凭れさせてぼんやりと空を見上げていた。
リヴァイは、無言で近づいた。
「……」
ミカは、彼の気配に気付くと、少しだけ微笑み、わざわざ外に出てきた。
「また、会ったわね」
「お前、無理してんじゃねぇのか」
リヴァイは単刀直入に言った。
ミカは、ほんの少し 驚いたように目を瞬かせた。
「……どうして、そう思うの?」
「お前、ガキどもに食い物を渡してる時、
自分の分を減らしてるだろ」
ミカは、ふっと笑う。
「気のせいよ」
「嘘つけ」
リヴァイは、じっとミカを見据えた。
「お前、どうせまともに寝てもいねぇんだろ」
ミカは、一瞬 言葉を詰まらせた。
そして、小さく笑う。
「……やっぱり、あなたって優しいのね」
「違ぇよ」
リヴァイは 目を逸らした。
だが、気付けば 彼女を放っておけなくなっていた。